道新記者逮捕で「論座」大学教授の無知

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松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

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青山学院大学大学院法務研究科卒業。1985年から2014年まで日刊スポーツ新聞社に勤務。退職後にフリーランスのジャーナリストとして活動を開始。
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 北海道新聞旭川支社の鳥潟かれん容疑者(22)が建造物侵入容疑で6月22日に逮捕された件で、東京都市大学の高田昌幸教授が論座で6月29日から解説記事の連載を開始した。単純な刑法犯の案件が報道の自由で免責され得ると考えているようで、しかも現行犯逮捕した旭川医大の対応の是非を検討するなど、理解に苦しむ内容になっている。

■元道新記者の東京都市大教授

写真はイメージ

 問題の記事は論座で公開された記事「市民の知る権利に応えてこその『報道の自由』――『記者逮捕』を考える」というもので、上・中・下の3回連載。最終回の<下>は7月1日公開予定とされている。

 執筆しているのは東京都市大学メディア情報学部教授で、ジャーナリストの高田昌幸氏。報道の自由と制約(記者の逮捕)という観点からの記事である。

 6月29日に公開された<>では、主に逮捕された鳥潟かれん容疑者の実名報道をすべきか北海道新聞内でも揉めたという事情を明かしている(ただし、同記事は実名報道をしていない)。また、実行犯の鳥潟容疑者は会社の指示で取材に出向き、「行きたくない」と言っていたという情報も紹介している。

 このあたりは高田教授が北海道新聞の記者、管理職であったことから得られた情報であり、それなりに価値のある記事と言えるかもしれない。

 なお、鳥潟容疑者は6月24日に釈放されているが、在宅で捜査を続けるとされている。

■現行犯逮捕の要件を知らない大学教授

 問題は6月30日に公開された<>である。ここで鳥潟容疑者の逮捕について、以下のように論じている。

 …今回は、記者が大学内で誰何(すいか)された際、身分を明かさず、逃げようとしたとされる点も見逃せない。なぜなら、上からの指示があったとはいえ、「身分が不明」「逃走の恐れあり」で逮捕の要件を満たしていたと思われるからだ。

 まず、鳥潟容疑者は建造物侵入罪(刑法130条)で現行犯逮捕(刑事訴訟法213条)されたものである。他の記事でも書いたが、現行犯逮捕の要件は「『犯罪と犯人の明白性』と『犯罪の現行性・時間的接着性の明白性』」(新・コンメンタール刑事訴訟法第2版 後藤昭・白取祐司 p514 日本評論社)である。本件は正当な理由なく建造物に侵入している、まさにその状態であったから犯罪の現行性は疑うべくもない。問題なく現行犯逮捕の要件を満たしている。

 高田教授が挙げている「身分が不明」「逃走の恐れあり」という、逃亡や身元不明が問題になるのは通常逮捕(刑事訴訟法199条)であるから、本件とは全く関係がない(以上、参照:道新 鳥潟かれん容疑者逮捕に女性団体抗議)。

 さらに「記者が大学内で誰何(すいか)された際…逃げようとした」ことを見逃せないとするが、この部分は法的には罪を行い終わって間もないと認められる者を現行犯人とみなす場合の規定「誰何されて逃走しようとするとき」(同212条2項4号)の1つ。いわゆる準現行犯の規定である。上記のように鳥潟容疑者は犯罪の現行性が明らかな現行犯人として逮捕されているのであるから、準現行犯の規定は全く関係がない。

 同号にあたるとされた例としては以下のような事例がある。「犯罪の発生後直ちに現場に急行した警察官が、引き続き犯人を捜索の上、犯行後4、50分を経過したころ、現場から約1100mの場所で犯人と思われる者を発見したので、懐中電灯で照らし、同人に向かって警笛を鳴らしたのに対し、相手方がこれによって警察官と知って逃走しようとしたとき(最決昭42・9・13集21-7-904)」(条解刑事訴訟法第4版 松尾浩也ほか p408 弘文堂)。

 まさに準現行犯人の逮捕であり、現行犯逮捕された鳥潟容疑者との違いは明らかであろう。

■鳥潟容疑者の行為は正当業務行為か

東京都市大(同大HPから)

 さらに高田教授は取材の自由について、以下のように書いている。

 北海道新聞社からは今回の事件について、記者の取材が建造物侵入容疑を上回る公益性、公共性を有していたとの説明はない。仮に同社が「公益性が上回っている」と判断しているのであれば、それをきちんと世に問い、場合によっては公判になっても主張し続ける覚悟が要るだろう。

 この点は、正当業務行為として違法性が阻却される可能性を論じているようである。刑法35条は「法令又は正当な業務による行為は、罰しない」と規定しており、鳥潟容疑者の取材行為が正当な業務による行為の可能性を考えているのであろう。

 この問題に関する判断は外務省秘密電文漏洩事件の最高裁判決で明確に示されている。本件を論ずるのであれば、この最高裁判決を避けて通ることはできない。重要な部分を示そう。

「その手段・方法が法秩序全体の精神に照らし相当なものとして社会観念上是認されるものである限りは、実質的に違法性を欠き正当な業務行為というべきである。…取材の手段・方法が…一般の刑罰法令に触れる行為を伴う場合は勿論、…一般の刑罰法令に触れないものであっても…法秩序全体の精神に照らし社会観念上是認することのできない態様のものである場合にも、正当な取材活動の範囲を逸脱し違法性を帯びるものといわなければならない。」

 取材の手段・方法が一般の刑罰法令に触れる行為は違法性を帯びると明言しているのであるから、鳥潟容疑者の行為が違法性阻却されることなどあり得ないことは、法学部の1年生が考えても分かる話である。

■旭川医大の対応の何が問題なのか

 高田教授は旭川医大の対応についても疑問を呈している。鳥潟容疑者を見つけた時に「職員は、壁耳(筆者註:壁に耳を当てて中の様子を聞いている)状態の人物を見れば、『記者ではないか』と想像できたのではないか。そうであれば、『午後6時から取材対応する。今は外に出てください』と申し渡し、退去を求めれば済んだ話かもしれない。」としている。

 これも理解に苦しむ。もし、旭川医大が一切取材に応じないという態度であれば、他に取材方法がないため、仕方なくそのような行為に及んだということも理解してくれる人はいるかもしれない。

 それを、後から取材対応すると言っているのに、わざわざ法を犯して情報収集をする必要がどこにあるのか。後から分かることであるから、法を犯す必要もないのに、あえて法を犯すという遵法精神が著しく欠如した者に対してこそ断固たる措置を取るのは当然である。

■外務省秘密電文漏洩事件の判決は必ず読もう

 道新が旭川医大に関する取材が遅れをとっていた事情や、新聞社の体育会的体質に触れているが、それらに触れるなとは言わないが、それ以前に社会における報道機関の役割という部分を明確にすべきであろう。

 そして、高田教授がメディア情報学部に籍を置くのであれば、最低限、外務省秘密電文漏洩事件の最高裁判決には目を通すべき。事案の判断の基準はそこにある。そこに触れない段階でこの連載は読むべき価値がないと感じられる。

 一番大事な部分に触れないまま、周辺の事情をあれこれ掘り起こして高田教授と論座編集部は何がしたいのか。さまざまな意味で残念としか言いようがない記事である。

2 thoughts on “道新記者逮捕で「論座」大学教授の無知

  1. アバター 月の桂 より:

    現行犯逮捕と通常逮捕の違いは、一市民である私でも知っていること。
    この高田なる教授は、名ばかり教授というお立場なのでしょうね。

    旭川医大に、歪んだ正義感を持つ人間からの嫌がらせが無いことを祈ります。

  2. アバター 名無しの子 より:

    前に、伊藤詩織裁判の時、森というカメラマンが、裁判中に、確かカメラ付きのメガネをしていました。それって、違反ですよね。それをかの有名な望月記者が、ドキュメンタリー映画か何かで、わざわざ披露していました。「本当は、やっちゃいけないことなんだけどね」とかなんとか言って。
    ものすごく驚きました。やっちゃいけないこととわかりながら堂々とやり、しかも、映画で披露するなんて。報道人とは、なんと常識のない人の集まりなのかと。
    今回の事件も、同じですよね。ただ思うに、もしもこの事件を起こしたのが、森カメラマンや望月記者のような大物だったら、このような扱いになっていたのかなぁということです。
    森カメラマンや望月記者のやっていることも、お叱りを受けて然るべきなのに、それを描いたドキュメンタリーは、堂々と公表できています。おかしいなあと思います。つまりは、肩書の問題かと。
    今回の大学教授の記事も、たとえばもしも、新聞配達の人が言ったとしても(くれぐれも言っておきますが、新聞配達の人を下に見ているわけではありません)、記事にはなりません。大学教授の言葉だから、記事になるのだと思います。それならば、その肩書に恥じないよう、しっかりと勉強した上で、記事を書いてほしい。その肩書だけに、騙される人もいるのだから。
    普段「報道しない自由」だとか言って、偏向報道ばかり続けている新聞社が、今更「市民の知る権利」だの「報道の自由」だのと言ったところで、しらじらしく感じてしまうのは、私だけでしょうか。

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