編集局長の無知露わ 道新記者侵入事件で見解

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松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

青山学院大学大学院法務研究科卒業。1985年から2014年まで日刊スポーツ新聞社に勤務。退職後にフリーランスのジャーナリストとして活動を開始。

 旭川医大で昨年6月に建造物侵入罪で逮捕された北海道新聞の20代の記者が3月31日、不起訴処分とされた。同紙では不起訴を伝える記事の中で編集局長が社としての見解を明らかにした。しかし、不起訴の意味を取り違え、最高裁判例も知らないと思える内容で、その無知ぶりを示す結果となった。

■22歳女性記者「許可なく入った」

舞台となった札幌市(提供写真)

 事件は2021年6月22日に発生。翌23日付けの北海道新聞は「旭川東署は22日、建造物侵入の疑いで、北海道新聞旭川支社報道部記者鳥潟かれん容疑者(22)を現行犯逮捕した。」と伝えた。同容疑者は調べに対し「会議がどこで行われているか調べるため、許可なく入ったと供述しているという」と逮捕後の様子も伝えている。(以上、北海道新聞2021年6月23日付・旭医大で取材中 本紙記者を逮捕)

 当時の報道を総合すると、22日午後3時50分ころ、同医大は報道各社に新型コロナウイルスの感染防止措置として午後6時頃まで部外者の立ち入りを原則として禁止することを伝えていたが、記者は立ち入り禁止の要請に従わずに携帯電話で録音するなどしているところを同医大職員に発見され、現行犯逮捕(刑事訴訟法213条)されている。

 逮捕から2日後に釈放され、構内に立ち入るように指示したとされる現在43歳の現場取材責任者とともに在宅で捜査が続けられ、今年3月16日に書類送検された。今回の不起訴の理由は明らかにされていない。

 不起訴を受け、北海道新聞の小林亨編集局長は「北海道新聞の記者2人の刑事責任を問わないという検察の判断は、旭川医大の建物への立ち入りが取材目的だったことも考慮された、と受け止めています。」などと不起訴を伝える記事の中で社としての見解を明らかにした。(以上、北海道新聞どうしん電子版2022年3月31日公開・本紙2記者を不起訴処分 旭川区検)。

■検察官は犯罪の構成要件満たすと判断

写真はイメージ

 編集局長が明かした「本紙の見解」の趣旨は以下の通り。

(1)刑事責任を問わない検察の判断は、建造物への立ち入りが取材目的だったことも考慮されたと受け止めている

(2)旭川医大の現行犯逮捕は過剰な反応で遺憾

(3)取材なら何をしても許されるわけではなく、我々の取り組み方も問われる。

(4)取材の自由は、憲法が保障する表現の自由を守り国民の「知る権利」に奉仕するために行使すべきもの

 この見解は法的な合理性を欠くものであり、メディアの編集の責任者としては無知と呼んでいいレベルと言うしかない。順に見ていこう。

 (1)不起訴の判断は「取材目的だったから」としているということは、これが正当な業務(刑法35条)であり、違法性が阻却されると解釈しているということであろう。違法性が阻却されていれば、犯罪は不成立である。局長は「犯罪が不成立なので、起訴されなかったと解釈している」と言っていると考えられる。

 ところが、同じ記事内に、旭川医大のコメントが掲載されている。

旭川医大(同大サイトから)

 「検察官からは犯罪の構成要件は満たすという説明を受けた。ただ、両名ともに反省し、同じことは繰り返さないとの意を示していたとのことで、検察官にはそれらを踏まえ、適切な判断をしてほしいと伝えた」

 ここで検察官の容疑者2人の行為は、犯罪の構成要件を満たすという判断が明らかにされている。建造物侵入罪(刑法130条後段)の構成要件は、①正当な理由なく、②人の看守する建造物に、③侵入したこと、である。

 犯罪が成立するためには構成要件に該当した上で違法性が必要になるが、編集局長は立ち入りは取材目的であり、正当な業務として違法性が阻却されたから不起訴になったと言いたいのであろう。

 取材が正当な業務として違法性が阻却されるかどうかは、既に最高裁判例がある。いわゆる外務省機密電文漏洩事件で、最高裁は以下のように判示した。

 「取材の手段・方法が贈賄、脅迫、強要等の一般の刑罰法令に触れる行為を伴う場合は勿論、その手段・方法が一般の刑罰法令に触れないものであっても…法秩序全体の精神に照らし社会観念上是認することのできない態様のものである場合にも、正当な取材活動の範囲を逸脱し違法性を帯びる」(最高裁第一小法廷決定昭和53年5月31日)

 太字の部分に特にご注目いただきたい。刑罰法令に触れる行為は当然に正当な取材活動の範囲を逸脱し違法であるという判断を示しているのである。構成要件に該当することが検察官が示しているのであれば、当然に取材活動で違法性が阻却されることはない。

 つまり、同医大の「犯罪の構成要件は満たすという…」コメントは、道新の2人の記者は行為の違法性が阻却された上で犯罪不成立での不起訴処分ではないと言っているのである。手続きとしては起訴猶予であるのは間違いなく、同医大が厳罰を求めなかったこと、当人が反省し、再発防止を約束していることなどから、検察官が起訴するコスト等も合わせて総合判断したものと思われる。

 道新の小林亨編集局長は、それが全く理解できていないのは報道人としては致命的。報道に携わる人が必ず読まなければならないこの最高裁決定を読んだことがないものと思われる。本当に読んでいなければ不勉強、読んでいて上記のような見解を示したとしたら、理解力さらに言えば本人の資質の問題であろう。

■旭川医大の現行犯逮捕は適法・適切

写真はイメージ

 (2)については、私人による現行犯逮捕が過剰な反応としているが、同医大にすれば極めて真っ当な判断であり、過剰な反応にはあたらない。現行犯逮捕の要件は「『犯罪と犯人の明白性』と『犯罪の現行性・時間的接着性の明白性』」(新・コンメンタール刑事訴訟法第2版 後藤昭・白取祐司 p514 日本評論社)である。

 本件では犯罪と犯人の明白性は疑う余地はない。また犯罪の現行性は立ち入り禁止の場所に立ち入っていたのであるから、犯罪の現行性も問題ない。現行犯逮捕の要件を完全に満たしている。

 もちろん、逮捕の必要性を問題にする余地はある。「身柄関係が明らかで、逃亡や罪証隠滅のおそれもないような場合は、明らかに逮捕の必要がないとして、現行犯逮捕は許されないと解すべきことはいうまでもない。」(新・コンメンタール刑事訴訟法第2版 後藤昭・白取祐司 p521 日本評論社)とされる。

 しかし、20代女性記者は、所属や名前を言わず逃げようとしたので、同医大では警察を呼んだことが明らかにされている(弁護士ドットコム・「道新記者の逮捕」は適切だったのか? 五十嵐二葉弁護士に聞く)。ということは、「身柄関係が明らかでなく、逃亡のおそれがある」と判断するのは当然で、逮捕の必要性は優に認められる。

 以上から、小林亨編集局長の「現行犯逮捕が過剰な反応」という主張・見解には理由がない。

■道新は信頼など得られない

 (3)については、取材方法が違法であるから、道新の取材方法が問われるており、その方法を見直しが必要なのは言うまでもない。

 (4)は、まさに前述の外務省機密電文漏洩事件の最高裁決定にかかる部分である。取材の自由が国民の知る権利に奉仕するために行使すべきものであるのはその通りであるが、それを言うのであれば、まず、外務省機密電文漏洩事件の最高裁決定を読まなければならない。犯罪による取材方法は認められない、違法性は阻却されないと最高裁の決定が明示しているのであるから、今回、道新が何を間違えたのか、今後どうすればいいのかは、そこに答えが書いてある。

 小林編集局長は最後のまとめとして「今後も読者や社会の皆さまの信頼を得られるように全力で取材し、報道していく所存です。」と書いている。

 上述の内容からすれば、「編集局長がそんな認識なら、永遠に信頼など得られない」と言っておこう。これが地方紙の編集のトップ、新聞が衰退するのも当然というしかない。

"編集局長の無知露わ 道新記者侵入事件で見解"に2件のコメントがあります

  1. 通りすがり より:

    当人は本当に反省していたのやらどうやら。
    編集局長とやらも素直に非を認めて再発防止と社員のコンプラ教育に努めるとだけ言っておけばいいものを、「報道の自由、取材の自由、知る権利が侵害された」という被害者意識でもあるのか余計なことを言ったものですね。
    今後は例えば自称「フリージャーナリスト」が道新の建造物に無断で入ってきても「報道の自由と取材の自由、知る権利」における正当性を認め、現行犯逮捕はおろか警察に通報もできないということになるが、それでもいいんですかね?w

  2. たなか より:

    そもそも、そこまでのことをして得ようとするほどのネタがあるのかね。
    ちょっと待っていれば得られる程度の情報を、あえて不法侵入してまで得ようとした目的は何だったのか。理解に苦しむ。

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