道新記者を逮捕 鳥潟容疑者「許可なく入った」

The following two tabs change content below.
松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

青山学院大学大学院法務研究科卒業。1985年から2014年まで日刊スポーツ新聞社に勤務。退職後にフリーランスのジャーナリストとして活動を開始。

 北海道新聞旭川支社の鳥潟かれん容疑者(22)が22日、建造物侵入容疑で逮捕された。旭川医大の構内で取材中に同学の職員に発見され、現行犯逮捕されたというもの。同紙の記者教育が適切に行われていたのか疑問が生じる事案、さらに関係者からは逮捕を批判する声が起きており、日本のメディアの思い上がりを感じさせる展開となっている。

■北海道新聞は実名報道 鳥潟かれん容疑者22歳

写真はイメージ(道新本社がある札幌市)

 北海道新聞は6月23日付け紙面で「旭川東署は22日、建造物侵入の疑いで、北海道新聞旭川支社報道部記者鳥潟かれん容疑者(22)を現行犯逮捕した。」と伝えた。同容疑者は調べに対し「会議がどこで行われているか調べるため、許可なく入ったと供述しているという」と逮捕後の様子も伝えている(旭医大で取材中 本紙記者を逮捕)。

 報道を総合すると、同容疑者は22日午後4時半頃、旭川医大の看護学科棟に侵入し、大学職員に発見され逮捕された。同大では学長の解任を審査する学長選考会議が開催されており、午後3時50分ころ、報道各社に新型コロナウイルスの感染防止措置として午後6時頃まで部外者の立ち入りを原則として禁止することを伝えていた。

 警察発表では鳥潟容疑者は会議室付近の廊下にいたという(参照:毎日新聞「北海道新聞記者 旭川医科大構内への建造物侵入容疑で逮捕」、北海道ニュースUHB「『学長の解任問題』取材中に”女性記者”逮捕…非公開の選考会議 会議室付近で大学職員発見し取り押さえる」)。

 午後3時50分に立ち入り禁止を各社に伝えており、現場に取材に行っていることを把握しているであろう道新からはその旨が伝えられているはず。立ち入り禁止の場所に許可なく入り、おそらく取材目的であった会議室の近くに侵入したというのであるから悪質である。職員による私人の現行犯逮捕(刑事訴訟法213 条)、司法警察職員への引き渡し(同214条)という手順を踏んだもので、逮捕の手続きは合法と思われる。

■建造物侵入罪の「正当な理由なく」

 建造物侵入罪(刑法130条)の構成要件は、①正当な理由なく、②他人の看守する建造物等に、③侵入する(管理権者の意思に反して立ち入る)こと、である。②、③は問題なく、争われるとすると①であろう。

 この点「正当な理由なく」は「違法阻却事由のないことをいう。…正当な理由とは、刑事訴訟法に基づく捜索、押収、検証のための立ち入り、正当な争議行為等である」(刑法各論第6版 西田典之 p101 弘文堂)、「『違法に』という意味であり(最判昭23・5・20集2-5-489参照)、広く行われる住居等に入る行為の中で特に正当な理由のないものだけが本罪を構成することを注意的に規定したものと解されている。」(条解刑法第2版 前田雅英ほか p358 弘文堂)などと説明されており、取材活動がこれに含まれるとは到底考えられない。

 また、外務省秘密電文漏洩事件の最高裁決定(昭和53年5月31日)は、以下の判断を示している。「取材の手段・方法が贈賄、脅迫、強要等の一般の刑罰法令に触れる行為を伴う場合は勿論…正当な取材活動の範囲を逸脱し違法性を帯びる」。

 こうして考えると、逮捕は当然で、鳥潟容疑者の遵法精神の欠如は信じ難いレベル。北海道新聞は基本的な取材方法を教える前に記者を現場に出しているとしたら、こちらも信じ難い話である。

■朝日・毎日記者は刑法の条文を読んでください

写真はイメージ

 もっと信じ難いは、この件で「取材の自由」や「表現の自由」を掲げて擁護するメディア関係者が目につくことである。主なものを示す。

(Ⅰ)朝日新聞中村建太記者「独断だろうが上司からの指示だろうが、取材として立ち入ったのだから犯意がないのは明白なはず。こんな逮捕を許してたら、『夜回りもストーカー規制法違反だ』とか言われかねないのではと心配してしまう。病院と道警はここまで踏み込んだのだから説明を尽くし、道新はしっかりとこの記者を守ってほしい」

(Ⅱ)毎日新聞Toshiki Miyazaki記者「逮捕はやり過ぎではないか。取材自体は公益性のある行為なわけで、これは「正当が(ママ)理由がないのに」という建造物侵入罪の構成要件を満たさないのでは?…」

(Ⅲ)朝日新聞南彰記者「『立派な犯罪行為だ』という言説がとびかっていますが、被害者は誰のなのでしょうか?…その結果、社会で暮らす私たちひとりひとりの目と耳をふさがれ、判断材料を奪われていく。その被害の方が深刻です。」

(Ⅰ)朝日新聞の中村記者のいう犯意とは故意のことであろう。故意とは「構成要件事実の認識」(刑法総論初版 齋野彦弥 p184 新世社)である。つまり、①正当な理由なく、②他人の看守する建造物等に、③侵入することの認識であるから、鳥潟容疑者が伝えられるように「許可なく入った」認識があるなら、故意は十分に認められる。

(Ⅱ)毎日新聞のMiyazaki記者は、取材目的であれば、正当な理由になると思っているようである。こちらも「正当な理由なく」は「違法阻却事由のないことをいう」という部分ぐらいは確認してからツイートすればいいと思うのだが。

(Ⅲ)朝日新聞の南彰記者は「被害者は誰のなのでしょうか?」には驚かされる。被害者は管理権者である旭川医大であるのは明白。建造物侵入罪の保護法益は「建造物に対する事実上の支配・管理権すなわち、誰を立ち入らせるかの自由」(刑法各論第6版 西田典之 p97 弘文堂)とされている。看護学科棟で新型コロナウイルスの感染拡大防止のために立ち入りを禁止するのは医大として当然のこと。管理権を無視し、感染拡大の危険を招く行為が同大にどれだけ被害を与えたかが理解できないのなら、記者をやる資格などない。

■「記者の前に社会人」の教育をすべき

 鳥潟容疑者も、上記3人の記者も、新聞記者が何か特権を持っていると勘違いをしているように思える。新聞記者には、国会議員の不逮捕特権のような特別な保護が与えられているわけではない。

 僕が新聞社に在籍している頃からその類の記者は少なくなかったが、記者とて社会の中で生きていく以上、決められたルールは守らなければならない。社会通念に沿って、権力を批判をすることが多い仕事、通常の人より遵法精神は強く意識すべき。

 鳥潟容疑者は22歳、新卒採用なら、入社直後に少なくとも前歴がついてしまったことになる。若者の将来のためにも道新は「記者は特別な職業ではない」「記者の前に社会人」ということをしっかりと教え、最低限、外務省秘密電文漏洩事件の最高裁決定ぐらいは読ませるぐらいの記者教育をすべきであろう。日本のメディアの現在地を示すような、情けない事件と言うしかない。

    "道新記者を逮捕 鳥潟容疑者「許可なく入った」"に9件のコメントがあります

    1. 月の桂 より:

      〉立ち入り禁止の場所に許可なく入り、おそらく取材目的であった会議室の近くに侵入したというのであるから悪質である。

      会議室の場所がわからず、探していたなんて話、誰が信じますか?
      今、注目の旭川医科大学ですから、この記者はスクープ目的で侵入したのでしょう。
      記者どころか、社会人失格ですよ。

      〉職員による私人の現行犯逮捕(刑事訴訟法213 条)、司法警察職員への引き渡し(同214条)という手順を踏んだもので、逮捕の手続きは合法と思われる。

      現行犯逮捕は当然です。
      謝罪で済むようなことではない。
      職員の方、よくやってくれました!!
      逮捕を批判し、この記者を擁護する人間の頭の中を見てみたいです。きっと空っぽだね。

      昨日、別記事の女性記者について怒りのコメントをしましたが、タイムリーというか何というか…また、女かよ!!という気分です。
      取材の為なら何をしても許されると思っているのでしょうか。
      呆れますし、本当に本当に情けないです。

    2. 野崎 より:

      松田隆氏、見事なり!

      理路整然と一刀両断! それは、己のジャーナリストとして在り方を明確に認識してある、その矜持の現われでもある。

      うら若き(正確なお年は不明)かつ知的、品位ある女性に、我らが松田さん!と言われる所以である。

      ジャーナリスト、新聞記者等が何か社会的に特別な存在であるかのような思い、それは受けてである読者にもある、、、

      脈絡はないのですが広義に同じ要素が働いた事件として。

      故佐藤栄作主張、退陣記者会見
      毎日新聞、西山記者による西山事件が思い浮かびます、古いですが、世代的に~
      (西山事件に関しては鳥越俊太郎氏が特別番組において、全面擁護の論理が記者の特別性を踏まえたものであった。)

      しかし自分たちは特別な存在との思いは連綿として今現在へも続いてあり、
      それは、国民の代表と、その職業、自らを称した望月記者に見て取れる、、

      そして今般の事件により、それはさらに明確に露呈した。

      記事より、法と秩序 を主張したトランプ氏が思い浮かびました。

      風雲児が快刀乱麻を断つのごとくファシストの野望を粉砕する、、そんな妄想があり、
      それをトランプ氏に見ておりました、、

      ご返信は不要です。

    3. 名無しの子 より:

      最近のマスコミ業界のレベル低下は、目に余るものがありますね。
      でも、「権力の監視役」とか言われますが、現実的に、すでに最も権力を持っているのが、マスコミなのではないでしょうか。現に今回の件でも、容疑者が逮捕はされましたが、それを堂々と公に擁護する面々。恥ずかしくないのでしょうか。
      「マスコミの監視役」という機関も必要ですね。
      松田さん、とても大変でしょうが、ぜひこの令和電子瓦版に、その役割を果たしていただきたいと思います。いつも、心から信頼し、応援しておりますよ。
      返信は、大丈夫です。

    4.   より:

      誤解を恐れずに言うならば、左翼志向をもっている方は遵法精神が薄いのではないかと思うことがあります
      根本が「こんな法律は間違っている」から始まるので、間違っているのだから守らなくてよい、としつつ批判しているように見えます
      だから一般的に見ている人に「批判しながら自分はちゃんとしてないじゃないか」と説得力に欠けると判断されてしまうのではないでしょうか

    5. もりもとよしあき より:

      法律を批判する事は法律を守らなくて良い事にはならない、
      仕事でなんだこんなの意味ないよなと文句を言ってもだからと言ってオーダーをやらなくていい事にはならないきっちりやるのがよい職人です。
      マスコミ業界も同じではないでしょうか
      こんなので姉歯を批判してるんでしょうか?
      若者が法違反で逮捕されるとか上司も管理責任で逮捕されて当然ではないでしょうか?
      乱文失礼いたします

    6. 高山椎菜 より:

      こんばんは。報道の自由というのは法律を無視して傍若無人な行動をしてもよいということではありません。また新聞記者というのは特権階級ではなく、新聞社に雇用されている一労働者にすぎないのです。そのことをわきまえてもらわないと困ります。

      そうだ、これから旭川医大はひらがな書きのお願いのファックスを報道各社に流してはどうでしょうか?(皮肉)

    7. なななし より:

      新卒の新聞記者が単独で不法侵入するということは
      当人がよっぽど無鉄砲か、上司の指示のどちらかと思いますが如何でしょう?
      どちらにしても新聞社の責任ですが。

    8. 通りすがり より:

      新卒(と思われる)だが既に成人済みの社会人が、上からの指示かどうかは不明だがこのような違法行為に安易に及ぶことへの驚きもさることながら、同業者から無理筋な擁護の声が出ているのが信じられない。
      これを擁護するのだから大体どこの社の者かは大体察しが付くと思っていれば、案の定朝日に毎日。「記者」という職業に就く者ががあたかも特権階級保持者であるかのような物言い。
      心底呆れ果てるとしか言いようがない。
      以前共同通信記者が取材を拒否した一般家庭の家屋の門扉を蹴って逃げたことがあったが、社会人としてとか言う以前に人としてどうかと思うし、親は一体どういう教育をしてきたのか甚だ疑問。
      また、犯意はないので逮捕は行き過ぎ、などという論調が主な言い分のようだが、他の記事によれば鳥潟容疑者はあろうことか会議室の外側から会議の音声を録音していたとのこと。
      建造物侵入だけでなく盗聴も加わる。盗聴自体は犯罪にならない事例もあるようだが、旭川医大は是非とも民事上の損害賠償を求めるなど、厳正な処置を取って頂きたい。

    9. 匿名 より:

      ここで反省するどころか擁護する新聞社や新聞記者たちは、「不逮捕特権」を持っているとでも言いたいのであろうか?このケースの場合、少なくとも大学側が「No!」と言っているにもかかわらず、それを無視して大学構内に入れば警察に通報されて当たり前。日本国内で活動するのであれば、日本の法律を守りましょう!

    コメントを残す

    メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です