卵子提供など特定生殖補助医療法案提出
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松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵
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特定の生殖補助医療の適正な実施を確保するための制度などについて定める特定生殖補助医療法案が5日、参議院に提出された。医師は卵子提供などの特定生殖補助医療ができることとされ、さらにそれによって出生した子が自らの出自を知ることができるための制度の創設などが定められている。わが国の特定生殖補助医療の進展にとって大きな一歩となる法と言える。
◾️卵子提供など3種の生殖補助医療を法定
特定生殖補助医療法案は参議院に提出され、まず、同院で審議が行われる。関係者によれば、内閣委員会(和田政宗委員長)に付託される見通しという。予算審議が難航しているため審議の開始は見通せない状況であるが、予算成立後に始まるものと思われる。
同法案の要綱案は2024年6月5日に生殖補助医療の在り方を考える議員連盟(野田聖子会長)によってまとめられ、発表された。今回、提出された法案では、医学的に夫の精子又は妻の卵子により妻が子を懐胎することができない夫婦に限って医師が可能な三種類の特定生殖補助医療を同法案3条に規定している(特定生殖補助医療に関する法律案)。
3条1号が非配偶者間人工授精(AID=Artificial Insemination by Donor’s semen)、2号は1号の体外受精・胚移植(IVF-ET=In Vitro Fertilization and Embryo Transfer)であり、3号が卵子提供である。
このうちAIDは夫が無精子症などで自然妊娠ができない場合に、ドナーから精子を提供してもらう形で行われてきていた。1948年(昭和23)から行われており(讀賣新聞オンライン・【独自】精子の提供者不足が深刻化…「出自知る権利意識」高まり、ためらう人が増加)、特に慶應義塾大学病院がこの方法における権威として知られている。
ところが、精子ドナーの確保が難しくなり、現在はAID初診の新規予約の受付を中止している(慶應義塾大学医学部 産婦人科学教室・非配偶者間人工授精 (AID) について)。これはAIDで生まれた子が出自を知る権利を求める動きが広がる中、病院側がドナー情報の開示可能性を示唆したことで、ドナーの確保が困難になったという事情がある。
そうしたことで出自を知る権利を守りつつ、AIDを法律で規定して、関係する人々の法益を保護しようというのがこの法案の1つの目標である。
◾️注目は卵子提供による懐胎
特に注目したいのが3号の卵子提供。条文案では「夫の精子と妻以外の女性から提供された卵子による体外受精並びに当該体外受精により生じた当該精子及び当該卵子に由来する胚の妻に対する体外受精胚移植」とされている。
この方法は以前は日本産科婦人科学会の会告により禁止されていた。その後、日本生殖補助医療標準化機関(JISART)が卵子提供による非配偶者間体外受精について厚労省、日本産科婦人科学会、日本学術会議に実施承認を申請、3つの機関がいずれも申請について審議しなかったことから、2008年に実施した(JISART・JISART精子又は卵子の提供による体外受精実施までの経緯)。現状では「(日本産科婦人科)学会では禁止も許容もせず、国の考え方に従う立場であるという」状況になっている(医事法講義第2版 米村滋人 日本評論社 p260 脚注122)。
このように卵子提供による体外受精、胚移植は禁止も許容もされていない状況のため、日本でも行うことはできるが、その多くは海外に流れているのが実情。卵子提供を受けるために海外へ渡るケースでは台湾が多いとされる。(MBS NEWS・【不妊治療】なぜ?30代夫婦が『卵子提供』受けるため台湾へ「海外は不安…でも自分で出産できる希望が持てた」日本では治療困難な理由が)。
この卵子提供が法によって医師が実施できることが定められたら、従来、海外に出ていっていた夫婦が国内で卵子提供によって出産することが可能になるだけでなく、経済的な理由等で海外に行ってまで実施できなかった夫婦も利用可能になる場合が考えられ、それなりの需要があるものと思われる。卵子提供で出産した場合、母親と出生児との間に生物学的な血縁関係はないが、法的には親子となる。
◾️代理懐胎は将来の課題
この法案に関しては、代理懐胎については定めていない。タレントの向井亜紀さんが米国で、フリーアナウンサーの丸岡いずみさんがロシアでそれぞれ代理懐胎による出産を経て、我が子を手にしているが、それも国内では実施ができないからである。
今回の法案では代理懐胎が盛り込まれるのではないかという可能性も取り沙汰されていたが、結局は卵子提供までとなった。その点を前述の生殖補助医療の在り方を考える議員連盟の古川俊治副会長(参院自民党)は当サイトが2024年6月に行った取材で以下のように答えている。
「この法案には3年後(実際に提出された法案では5年後)に見直す条項がついています。必要があって、状況を見て、代理出産が必要だということであれば、そう考えるかもしれません。一番最初はみんなが合意できるところで法律をつくろう、それで状況に応じて変えていくということは考えています。まずは法律を作らないことには制度はできません。確かにここに来るまでに『代理出産もいいんじゃないの』という意見もありましたが、なかなかまとまりませんでした。それなら一番小さく作っていこう、そこから広げていこうということで一致できました。」(参照・代理出産より子宮移植 生殖補助医療の行方(後))。
まずは皆が賛成できるところから始めるというのがこの法案の特徴と言っていい。議員立法だけに審議に入れば成立は確実と思われるが、どのような議論が行われるか、注目が集まる。