分娩費用保険適用化案に産婦人科医会など反発

The following two tabs change content below.
松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

青山学院大学大学院法務研究科卒業。1985年から2014年まで日刊スポーツ新聞社に勤務。退職後にフリーランスのジャーナリストとして活動を開始。
松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

最新記事 by 松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵 (全て見る)

 厚生労働省が4日の社会保障審議会の医療保険部会で、分娩費用の保険適用化案を提示、これに対し、日本産婦人科医会(石渡勇会長)などが強く反発した。審議会前日に提案内容が報じられるなど、厚労省によるリークが疑われるという事情も反発を強める要因となっている。審議会では提案に対する強い拒否が示された。

◾️現金給付から現物給付(保険適用)を提案

写真はイメージ

 4日午前9時30分に始まった審議会で、厚労省の佐藤保険課長が「医療保険制度における出産に対する支援の強化について」議論すべき点の説明が行われた。その中で「御議論いただきたい点(1)」の中で以下の部分が示された。

  • ○前回、出産に対する給付体系の見直しについて様々なご議論をいただいた中で、

・現行の出産育児一時金に代えて現物給付化するべき

・給付水準は全国一律とし、データに基づき検証・見直しを行う仕組みとすべき

 という点については、多くの委員から同旨の意見があり、方向性としては概ね一致しているのではないか(厚労省第206回社会保障審議会医療保険部会資料1・医療保険制度における出産に対する支援の強化について p5)

 現在の分娩費用に対しては、出産育児一時金(50万円)という現””給付で行われているものを、現””給付化、すなわち保険適用化すべきということは、多くの委員の意見から方向性は一致している、というのである。

 この部分が「厚生労働省は4日の社会保障審議会(厚労相の諮問機関)の医療保険部会で、出産にかかる費用の無償化に向け、分娩費用に公的医療保険を適用し、全国一律の公定価格を定める案を提示した。」(讀賣新聞オンライン・出産無償化へ「分娩費用」を全額公的保険で、全国一律の「公定価格」定める案提示…実施は27年度以降の見通し)という形で一斉にメディアで報じられた。

 これまで日本産婦人科医会、日本産科婦人科学会では分娩費用の保険適用化には反対の立場を明確にしていた。前回11月20日に行われた審議会で石渡会長は「拙速に分娩費用の保険化、無償化の制度を変更することによって、改善はおろか、さらなる悪化が起これば、一気に周産期医療供給体制は崩壊」しかねないことを理由に、「2030年度まで…少なくとも令和8年度を目処にするのではなくて、分娩費用等無償化、あるいは保険化の議論については延期してはいかがか」と保険化の議論そのものを延期するように求めた(参照・分娩費用の保険化議論 2030年度まで延期を提案)。

 また、日本産科婦人科学会の亀井良政常任理事は「施設の人員体制、地域間の格差も考慮して、議論を進めていただきたいと思います。拙速な結論を出すことがないようにお願いします」としていたが、厚労省からの提案は上記のように「現行の出産育児一時金に代えて現物給付化」「給付水準は全国一律」というものであった。

◾️再度の議論の延期を求める

 こうした状況で、この日の審議会で石渡会長は「一次機関(産科医院・助産院・診療所等、低リスク妊婦を主に担当する医療機関)の分娩からの撤退が続く中、拙速に、分娩費用の保険化・無償化による制度に変更することにより、 改善はおろか、さらなる悪化が起これば、一気に周産期医療供給体制は崩壊してお産難民の多い地方は一気に(少子化が)加速し、地方そのものが消滅してしまいます。 こういう制度の実施については慎重に議論をしていく必要があると思いますし、見直しと延期を強く求めるものであります」と前回同様の主張を行った。

 その上で「2030 年までの医療 DX完全実装および地域医療構想確立まで、少なくとも令和8年度を目処にするのではなく、分娩費用等無償化保険化議論については結論を出すのを延期してはいかがでしょうか。十分な議論がないなか、実施時期が性急で十分な検証がなされていません。また、財源確保の見通しも不明瞭です」と再度、保険化等の議論の延期を求めた。

 さらに、「 一次施設であっても手厚い人員体制を敷いているところや、 ハイリスク妊婦等の積極的な対応を行う施設などでは、他施設より高く評価されるような仕組みを、ぜひ導入いただきたいと思います。…具体的にどのような体制・役割を評価していくかは、現場の実態に即した検討が必要であると思います」と、保険課長が提案する「全国一律の給付水準」に反発した。

◾️「甚だしい不快感、不信感」

 続いて意見を述べた日本産科婦人科学会の亀井常任理事は、この日の厚労省からの提案内容が事前に一部メディアに報道されたこと、厚労省によるリークが疑われることについて「甚だしい不快感、不信感を持っております」と話した。

 それに続けて「今回の『出産に対する支援強化』の内容につきましては、未だ何も我々学会としては同意していないということを最初に明言しておきたいと思います。もう一度申し上げますが同意はしてございません」と、厚労省サイドを牽制した。

 「標準的な分娩の経過」を定義することは難しいとする前回の発言に厚労省が同意したことを感謝しつつも「個々の分娩の内容に着目することなく『何とかして経腟分娩できるようにしてあげよう』という我々の普段の努力に対する配慮があまりあるように思えません。内容が分からないから一律、しかも、包括的に基本的な価格設定をしてしまうという厚生労働省の論理は極めて乱暴で、到底受け入れることは難しいものだと思います」とした上で、「このような論理が通ることがあれば、我々産科医療の現場では『分娩進行の管理など、働いていても大して評価されないかもしれない。だったら早々に帝王切開をしてしまおうじゃないか』といった意見も出てくるかと危惧しております。これが妊産婦さんにとって有益なこととは、私には思えません」と強い口調で話した。

◾️来年の通常国会に法案提出は可能か

亀井常任理事(2024年12月撮影・松田隆)

 今回、一部報道が審議会の内容を事前に報じたのは、厚労省から情報が漏れたと考えられる。「妊娠・出産・産後における妊産婦等の支援策等に関する検討会」が続いていた2024年8月13日には讀賣新聞が「医療機関に支払われる診療報酬を原則として「50万円以内」とする方向で検討に入った」と報じ、日本産婦人科医会などが態度を硬化させた(讀賣新聞オンライン・出産診療報酬「50万円以内」、妊婦は自己負担ゼロ・現行一時金との差額支給も…政府検討)。

 今回も同様のリークと考えられる事態であり、しかも、日本産婦人科医会などの求めに十分に応えていないこともあり、反発を強めているものと思われる。

 今回、審議会の前日3日になされた報道では「早ければ来年の通常国会に関連法案を提出する方針で、詳細な制度設計を詰め、実施は2027年度以降となる見通し」とされていた(讀賣新聞オンライン・出産無償化へ、分娩費用は全額保険案…出産後の「お祝い膳」やエステなどは原則自己負担に)。

 この日の産婦人科医サイドの反応からすると、そう簡単にはいかないとみられる。

(SNS関連投稿⇨

    コメントを残す

    メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です