田村憲久元厚労相”無理筋”発言に関係者落胆

松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

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地域で安心して分娩ができる医療施設の存続を目指す議員連盟(田村憲久会長)が8日、政府が4つの施策を推進すべきとする決議を可決した。決議の中には日本産婦人科医会などが反対する分娩費用の保険適用化に関するものも含まれていたが、元厚労相でもある田村会長は質疑応答の中で明確に保険適用化に反対の意思を示さず、参加した同医会関係者を落胆させた。
◾️閣議決定に「何かしらやっておかないと」
8日午前に衆議院第二議員会館で行われた同議連の会合には日本産婦人科医会(以下、日産婦)の石渡勇会長ら同医会の幹部に、厚労省からも医政局や保険局の課長クラスが出席し、それぞれがヒアリングを受けて、その後、質疑応答となった。
以下、会合の内容については全て参加者からの情報による。まずヒアリングでは石渡会長が保険適用化が少子化対策とはならないとして現行の自由診療を守ることの重要性を強調した上で、①骨太の方針の中に地域の産科医療施設の安全安心な施設の確保を明記、②産科医療施設への支援、③妊産婦の費用の軽減、出産育児一時金の上乗せ、保険財源以外からの妊産婦への支援の3点を求めた。
少子高齢化による分娩数の減少などで全国の産科医療機関が厳しい経営環境に置かれており、議連の名称である「地域で安心して分娩ができる医療施設の存続」のための支援が必要であるとした。
ところが、厚労省の職員はヒアリングに対して、保険適用化は2026年度を目途に導入すると閣議決定されており(2023年12月22日、こども未来戦略)、何かしらやっておかないと閣議決定に反することになると回答。
議連の田村会長は現在は出産育児一時金は上げにくいが、保険適用化なら少子化対策になるために予算が取りやすい、その結果、物価上昇で経営が苦しくなった分のカバーもできるといった、保険適用化に前向きとも取れる発言を行った。その上で、その前提として産科医療機関が継続して運営していくものであり、そうしたことから今後も慎重に検討を進めたいという趣旨を明らかにした。
◾️保険適用化は丁寧に議論を深化
この日の決議で保険適用化に関わる部分は以下のようなものであった。
出産費用の保険適用の検討に当たっては、地域の周産期医療体制の確保と妊産婦の経済的負担の軽減の両立が図られるよう、産科医療機関等の経営実態等にも十分配慮しつつ、引き続き、幅広い関係者の意見を聴きながら、丁寧に議論を深化させること。その際、政策医療として体制整備を維持する為の別の仕組みの検討を視野に入れること。
この文言はこれまでの保険適用化の導入の可否について議論を深化させようというものであり、議論を深化させた結果、導入に踏み切るという決定がなされる可能性は否定できない。その上で議連の田村会長の発言を合わせると、保険適用化へと向かうように取れる。
そもそも日産婦としては、ここまで9回行われた妊娠・出産・産後における妊産婦等の支援策等に関する検討会において、分娩費用の保険適用化が行われれば、多くの診療所、病院が分娩の取り扱いをやめることになり、地域の周産期医療体制が崩壊する危機となると警鐘を鳴らしていた。第8回(3月19日開催)では「厳しい経営環境の中で保険適用がなされた場合、785の医療機関(産科診療所と病院)のうち486の機関が『分娩取扱いを止める』または『制度内容により中止を考える』とアンケートに対して回答した」ことを明らかにしている(参照・保険適用化どこまでも平行線 次回注目の調査結果)。
田村会長は保険適用化の前提は産科医療機関が継続して運営していくとするが、その前提が成立しないと、日産婦ではこれまで何度も説明してきている。
◾️田村憲久氏と日産婦の縁
地域で安心して分娩ができる医療施設の存続を目指す議員連盟は、2021年5月20日に発足した。当時の日産婦・木下勝之会長(現名誉会長)が同会の顧問である武見敬三参議院議員に相談したのがきっかけになった。
誕生した議連は「地域で安心して分娩できる環境の整備に向けた提言」をまとめたが、その中には木下会長の強い要望で「地域の産科医療施設の存続が可能となる施策を着実に策定する」という一文が盛り込まれた。その提言を渡した相手が、皮肉にも当時の田村憲久厚労相である(m3.com・「分娩施設の存続を目指す議員連盟」発足のわけ – 木下勝之・日本産婦人科医会会長に聞く◆Vol.2)。
ところが、この日は議連のトップとなっていた田村会長が「地域の産科医療施設の存続が不可能になりかねない施策を着実に策定する」に等しい発言を行ったことになる。
なぜ、田村会長がこのような発言をしたのかは不明であるが、同会長は旧岸田派に属しており、岸田内閣の下での閣議決定を覆すことはできないと考えたのかもしれない。夏の参院選後の政局を睨む岸田前首相の思惑を受けた可能性も全くないとは言い切れない。
この日の会合には木下名誉会長も出席しており、閣議決定は軽々にすべきものではなかったと批判し、柔軟に考える必要性を訴えた。
武見参議院議員も出席し、閣議決定の重みに理解を示しながらも、保険適用化については議論を継続してやっていくべきとして、何とかその場を収めようとしていたようである。
◾️混乱をさらに深める発言
妊娠・出産・産後における妊産婦等の支援策等に関する検討会では今春にとりまとめをするとしており、その後は社会保障審議会医療保険部会等において、さらに検討を行う予定とされている。
一時は導入先送りが確実と思われたが、ここに来て混沌とした情勢になっている。議連の田村会長の発言はその混乱をさらに深めるものとなりかねない。