江川紹子氏は法律の素人? せめて刑事訴訟法を読もう

The following two tabs change content below.
松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

青山学院大学大学院法務研究科卒業。1985年から2014年まで日刊スポーツ新聞社に勤務。退職後にフリーランスのジャーナリストとして活動を開始。

 池袋母子死亡交通事故に関して、事故を起こした旧通産省工業技術院の飯塚幸三・元院長(87)がなぜ逮捕されないのか、ネットを中心に疑問の声が上がっている。僕も罪証隠滅の可能性はあるのではないかと不思議に思うが、その点について江川紹子さんが自身の見解を書いていた。

■江川紹子氏が提唱した2つの取材

 江川紹子氏は自身のコラムで、この問題について触れている(参照:被疑者の身柄拘束について、メディアはもっと丁寧な取材・報道を!~池袋母子死亡交通事故などから考える)。

江川紹子さん、しっかりね!

 この内容がちょっとお粗末。おそらく彼女は刑事訴訟法についてあまり知識がないのであろう。早稲田の政経出身らしいので法律はあまり勉強していないのかもしれない。

 まずは彼女の文章を見てみよう。それによると逮捕というのは処罰の先取りではなく、被疑者が逃げたり証拠を隠滅したりして、適正な捜査・立件の妨げになることを防ぐためのものと書いている。それはそれでいい。

 それなのに多くの人が「逮捕しろ」と言うのは、「捜査機関の発表を流すだけで、逮捕を当たり前のように報じ、勾留請求が退けられてもほとんど伝えられない。そんなメディアの報道に日々さらされている人々が、捜査機関による身柄拘束を当たり前のように受け止め、逆に死亡事故で任意捜査になると疑問を持つのも不思議ではない」と、報道のあり方に原因があるとしている。

 こうした状況を改善するためにメディアは今後、身柄拘束について丁寧な報道をすべきと言っている。丁寧な報道をすれば、闇雲に「逮捕しろ」という声は起きないということなのだろう。その報道とは以下のようなものである。

1 被疑者逮捕を取材する時には、その必要性について、必ず捜査機関に問う

2 逮捕を報じた被疑者に関しては、その後勾留請求に裁判所がどう対応したのかフォローし、必要に応じて報じる

 2についてはまあ、いい。問題は1。被疑者逮捕を取材時にその必要性を問うというが、問えば捜査機関は「必要性はある」と答えるに違いない。必要性がないのに逮捕したら違法であるから、「必要はないけど、予防的に逮捕する」などと答えるわけがない。

■逮捕は司法の審査を経ているという大前提

 そして最も大事なことは、逮捕は司法の審査を経ているということである。江川さんは通常逮捕の手続きについて、通り一遍の知識しかないのであろう。

 通常逮捕の場合、捜査機関が逮捕状を請求し、裁判官が逮捕状を発する。請求を受けた裁判官は「被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があると認める」場合に逮捕状を発する(刑事訴訟法199条2項)。相当な理由とは、犯罪の嫌疑を肯定することができる客観的・合理的な根拠があることを意味するが、相当な理由があっても、明らかに逮捕の必要がない場合には令状請求は却下される(同199条2項但し書き、刑事訴訟規則143条の3)。

江川紹子さん、せめて条文ぐらい確認してから会見に出ましょう

 逮捕の必要がない場合とは、まさに逃亡のおそれがなく、かつ、罪証隠滅のおそれがない場合などである。つまり裁判官が逮捕状を発するということは、逃亡や罪証隠滅のおそれがあると判断したことになる。捜査機関ではなく中立の立場にある司法が判断しているわけで、それを知っていれば「メディアは捜査機関に逮捕の必要性を問え」と書くことの無意味さが分かるはず。

 それなのにこんなことを書いているということは、通常逮捕の法的な仕組みをよく理解していないのであろう。どうしても逮捕の必要性を問いたければ、必要性を認めた裁判官に問うべき。彼らは取材には答えないが。

 こうして文章を見てみると、江川さんは通常逮捕の場合、司法の審査を経ているということの認識がないのだと思う。このあたりの理屈は刑事訴訟法の基本書を読めば必ず書いてある。ロースクールの学生が読めば鼻の先で笑ってしまうような、素人レベルの文章だと思う。(参考文献:刑事訴訟法講義 安冨潔 慶應義塾大学出版会)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です