朝日出身者のファクトチェック 誤読+無知

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松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

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青山学院大学大学院法務研究科卒業。1985年から2014年まで日刊スポーツ新聞社に勤務。退職後にフリーランスのジャーナリストとして活動を開始。
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 朝日新聞出身者が中心になって設立された「日本ファクトチェックセンター(JFC)」の検証にミスが含まれていることが明らかになった。5日に公開された検証記事では、痴漢とされた場合に身分証明証を見せれば現行犯逮捕は無効という趣旨のツイッターの投稿の真偽を判断。投稿の趣旨そのものを理解せず、刑事訴訟法など法や法の適用に関する知識がないまま、投稿者の主張していない事実を誤りと判定する信じ難い検証を行っている。

■痴漢冤罪関連の投稿をチェック

法律を学ぶ以前の問題か?

 JFCが5日に公開した記事(以下、本件記事)はツイッターへの投稿を対象にファクトチェックをしたものでの以下の投稿(以下、本件投稿)を俎上にあげた。

痴漢ですって言われたら身分証名(筆者註・「証明」の誤りと思われる)証を見せて「私は身分を明かしました。現行犯逮捕は無効です。これ以上不当に私を拘束するなら監禁罪であなたを訴えます」と言えばいいらしいです。

そうすればあとは向こうが「痴漢をされた」という証拠を出さない限り警察は動かないそうです

(一目置かれる雑学・8月29日投稿

 これに対して、検証をした金子祥子氏は以下のように展開した。

(1)投稿者(一目置かれる雑学氏)は刑事訴訟法217条から住所・氏名を明らかにすれば現行犯逮捕ができないと解釈しているように読める。

(2)エジソン法律事務所の大達一賢弁護士が、住所が定まっていても逃亡しないとは限らず、身分証の住所と居住している場所は多いという事情などから「『現行犯逮捕が無効になる』ということにはならない」と解説。

(3)さらに同弁護士はツイートが想定していると思われる有形力の行使による一時的な身柄拘束は適用罪名が異なり、監禁罪ではなく逮捕罪もしくは暴行罪と考えられるとする。

(4)逮捕が事後的に不当だったとしても、逮捕が正当なものだと誤認していた場合は正当行為(刑法35条)で犯罪の故意がなかったとされる可能性が高いと考えるとする。

 以上の流れから、金子氏は、<「痴漢容疑をかけられた際に身分証明書を見せれば現行犯逮捕は無効」「『監禁罪で訴える』と言えばいい」という言説は、誤りと判定した。>とまとめた。(以上、JFC・ファクトチェック: 痴漢と言われても身分証を見せれば現行犯逮捕されない、ことはない から)

■JFCこそがフェイクニュース

 まず、本件投稿の趣旨を確認する。一目置かれる雑学氏は痴漢に間違われた場合には、このように「言えばいいらしいです。」とし、そうすれば相手が証拠を出さない限り「警察は動かないそうです」と指摘した。トラブル発生時の対処法を伝えているのは明らかで、それによって法的な手続きがどのように変わるかという点の摘示はない(そのように聞こえる言葉を発するといいらしい、というものに過ぎない)。

 本件投稿の指摘した部分を分かりやすく表現すれば「そういう時は『現行犯逮捕は無効』と言えば、本当に無効になるかどうかはともかく、無用なトラブル回避につながるかもしれません」というものであろう。その発言のファクトチェックであれば、検証すべきは「『現行犯逮捕は無効』と言った時に、トラブルが回避できる」という点の真偽。

 それを、あたかも投稿者が法的観点から現行犯逮捕は無効となると断定したかのように俎上にあげ、あげくに「誤り」と判定している。言っていないことを勝手に言ったかのように扱い「誤り」と判定して記事を公開することは、JFCこそがフェイクニュースを流していると言っても差し支えない。

■痴漢で刑訴217条が問題になるのか

 誤った解釈を前提にして書かれた記事だけに、その内容を検討することにそれほどの意味はないが、念の為、上記の(1)について触れておこう。

(1)「ツイートはこの条文(筆者註・刑事訴訟法217条)を『住所・氏名を明らかにすれば現行犯逮捕はできない』と解釈しているように読める。」との部分が本件投稿の趣旨を正確に理解していないことが明らかなのは前述したとおり。

 確かに刑事訴訟法217条には「犯人の住居若しくは氏名が明らかでない場合又は犯人が逃亡するおそれがある場合に限り、」という文言が入っているが、同条は軽微事件(基本的に30万円以下の罰金、拘留又は科料に当たる罪、刑法等以外の罪は当分の間2万円以下)の場合の現行犯逮捕に定めたものに過ぎない。

 一般に「痴漢」や「痴漢行為」と呼ばれる行為は、その態様によって適用される法令は異なり、ほとんどの場合、迷惑防止条例か刑法のいずれかが適用される。たとえば着衣の上から触るなどの行為では迷惑防止条例違反とされているようである。東京都の迷惑防止条例ではそのような行為(5条1項1号)への罰則は6月以下の懲役又は50万円以下の罰金(8条2号)で、217条の対象とはならない。また、下着の中に手を差し入れて直接性器などに触る行為は強制わいせつ罪(刑法176条)が適用され、その場合はもちろん217条の対象外である。

 このように痴漢と呼ばれる犯罪行為で217条が問題となる場面は考えられない。最初から問題にならない条文をピックアップし、「この人はこう考えていたに違いない」と解釈するのは自らの法の無知を曝け出すに等しい。

■もし「痴漢です!」と言われ腕を掴まれたら

 ここで実際にサラリーマンX氏がいきなり痴漢扱いされた場合を考えてみよう。Vさんが電車内で着衣の上から臀部を触られ、後ろにいたX氏の腕を掴み「この人痴漢です」と叫んだとする。それはVさんがX氏を現行犯逮捕したと解釈し得る。VさんがX氏の追及を続けた場合など、それを強く推認する事情となる。

 現行犯逮捕は警察官でもなくても可能(刑事訴訟法213条)。一般人の逮捕を「私人の現行犯逮捕」と呼ぶことが多い。その場合、逮捕者(この場合なら、Vさん)は被逮捕者(X氏)を司法警察職員等に引き渡さなければならず(同214条)、引き渡された司法警察員は、速やかに書類及び証拠物とともに事件を検察官に送致しなければならない(同246条、全件送致)。その上で検察官が起訴、不起訴、起訴の場合は公判請求するか、略式命令請求等をするかを決定する。

写真はイメージ

 これが刑訴法で定められた手続きであるが、全ての事件がそのように処理されるわけではない。Vさんの被害が軽微で、処罰を希望していない、X氏に再犯のおそれがないような事情があれば、微罪処分と呼ばれる全件送致の例外として検察官に送致されない、要は”お咎めなし”の微罪処分とされる場合がある(犯罪捜査規範198条)。

 ところが、引き渡されたX氏が警察でも全く身に覚えがないこと、さらに腕を掴まれた後に女性に対して身分証明証を示し、氏名と連絡先、住所を明かしたこと、逃亡の意思がなかったことを説明したとする。警察で調べたところ、明かした連絡先や住所は真実で、実際に逃亡する意思はないと判断できる状況がそろった場合、警察官はVさんによる誤認逮捕の可能性を考えるであろう。

 X氏が犯行を否認した場合には、被疑者が犯人であることが前提の微罪処分とすることはできない。しかし、VさんがX氏を現行犯逮捕したと認定していれば、刑訴法213条、214条の規定から、事件を検察官に送致しなければならない。冤罪の可能性を感じながらも、全件送致の原則に従い、無実かもしれない人を送検することが正しい行為なのか警察官も葛藤するに違いない。

 その場合、考えられる解決法として、VさんがX氏の腕を掴んだ行為は現行犯逮捕ではなく、単に犯人と信じた人間に抗議し、留め置いた事実行為に過ぎないと解釈する方法がある。その後、警察官に引き渡したのは、警察官がX氏に任意同行を求め、それにX氏が応じたものと解釈し、事情を聞いたのは取り調べではなく、参考人への任意の事情聴取に過ぎないとする。そのような解釈をするためには、まさに、本件投稿にある「現行犯逮捕は無効」(現行犯逮捕はされていない)という解釈が出発点となる。

 警察のそのような事情を考えれば、本件投稿の「『私は身分を明かしました。現行犯逮捕は無効です。これ以上不当に私を拘束するなら監禁罪であなたを訴えます』と言えばいいらしいです。」には、一定の合理性が認められる。

■知識がないままに検証か

藤森かもめ氏(左)と野上英文氏(JFC公式サイトから)

 本件記事は、こうした法律の解釈や事案の処理の仕方などについて全く知識がないままに書き進めているように思える。

 検証した金子氏はJFCのホームページによると早稲田大学政治経済学部の4年生。さすがにここまで書いたことの理屈は理解できると思われる。このような検証記事を書いたことはお粗末としか言いようがないものの、そこは法学部在籍ではないので大目に見るとしても、監修に藤森かもめ氏、野上英文氏が名を連ねているのは見逃せない。

 藤森氏はテレビ番組制作会社で報道に携わり、野上氏は朝日新聞で記者の経験もあるとされており、報道畑出身の2人が、発言者の主旨とファクトチェックの結論に乖離が生じていること、結果として当該記事がフェイクニュースに相当することに気付かなかったとしたら、致命的である。二人とも報道や報道の検証などの職業には向いていないから、早めに転職した方がいいとアドバイスを送っておく。

 同時に、スタートしていきなりこのレベルの記事を出すJFCの存在価値は疑う必要があることは指摘しておこう。

"朝日出身者のファクトチェック 誤読+無知"に1件のコメントがあります。

  1. 通りすがり より:

    元朝日新聞にバイト学生…。当初から危惧されていた通りの低クオリティですね。
    呆れてもう何も言えない。

    Googleはこんなもんに大金をはたき、ドブに捨てたと。
    責任を持ってJFCとやらを取り潰すか、もっとまともなスタッフに総入れ替えするなりしてもらわないと、単なる迷惑組織でしかない。

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