私人逮捕系YouTuber 逮捕という名の犯罪

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松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

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青山学院大学大学院法務研究科卒業。1985年から2014年まで日刊スポーツ新聞社に勤務。退職後にフリーランスのジャーナリストとして活動を開始。
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 私人逮捕系ユーチューバー「煉獄コロアキ」(本名・杉田一明)が13日、名誉毀損容疑で警視庁に逮捕された。現行犯逮捕は誰に対しても認められているが、その要件にあてはまらない場合には、逆に暴行罪や逮捕罪に問われかねない。筆者が10年ほど前に経験した盗撮の容疑者の私人逮捕の例なども交えて解説する。

◾️動画投稿サイトの私人逮捕系

煉獄コロアキこと杉田一明容疑者(YouTubeの画面から)

 煉獄コロアキこと杉田容疑者の今回の容疑は私人逮捕とは直接関係ないが、日頃からチケット転売人などを相手に私人逮捕をする動画を投稿していた。こうした私人逮捕を売りにするユーチューバーは少なくない。

 鉄道で痴漢をした者を女性の協力を得て現行犯逮捕する動画も人気を博していた。古くはNHK党の元党首の立花孝志氏も私人逮捕を繰り返し動画で投稿している。立花氏がその法的根拠を解説した動画は今でも見ることができるが、刑事訴訟法についてほとんど知識がないまま語っていると思われる内容となっている(立花孝志・選挙運動を妨害した人物を私人逮捕したその後の結果)。

 こうした私人逮捕は、要件に当てはまらない場合には、逮捕をしたと主張する者が逆に刑法犯となる可能性は十分にある。その認識がないまま刑訴法の条文を根拠に他人の自由を侵害できると考え、実行することは、極めて大きなリスクを伴うと考えるべきである。

◾️現行犯人とは何だ?

 逮捕には、原則として裁判所が発付する逮捕令状が必要である。この点は憲法33条に明記されている。権限を有する司法官憲であっても個人の身体の自由を奪う行為は簡単ではない。令状主義の例外が現行犯逮捕である。関係する条文を示す。

【刑事訴訟法】213条

 現行犯人は、何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができる。

 煉獄コロアキこと杉田容疑者や立花孝志氏らの法的根拠はこれだけであろう。それでは現行犯人とは何か。それは212条に明記されている。

【刑事訴訟法】212条

1 現に罪を行い、又は現に罪を行い終つた者を現行犯人とする。

 2項はいわゆる準現行犯人について規定しているもので、現行犯逮捕は当然に準現行犯人も対象となるが、ここではひとまず措くとする。現行犯人とは「現に罪を行い、または罪を行い終わつた者」であるから、現行犯逮捕の要件は「『犯罪と犯人の明白性』と『犯罪の現行性・時間的接着性の明白性』の2つ」(新・コンメンタール刑事訴訟法 第2版 後藤昭 白取祐司 日本評論社 p514)となる。

 そうなると、たとえばチケットの転売を目の前で行っていたとして、それは転売なのか、それとも友人が代わりに入手したものを、その場で受け取っているのかなど外部からは分からない。そのような時に「転売だ」として、私人による現行犯逮捕をした場合には「犯罪の明白性」の要件を欠くことになる。それにもかかわらず身体の自由を奪う行為に及べば暴行罪(刑法208条)や逮捕罪(同220条)に問われかねない。

 また、駅で痴漢を捕まえる動画などではよく見るが、被害者であるとする女性の証言だけで逮捕はできないと考えた方がいい。「被害者の報告以外に、外見上その者が犯罪を行い、あるいは、行った者であることを直接知覚し得る状況がないときには、現行犯人、準現行犯人として逮捕することはできない。」(青森地決昭和48・8・25)という裁判例もある。

 常識的に考えて、被害者が「この人です」と言っただけで、他に誰もその犯罪を目にしていないのに現行犯逮捕される可能性があれば、おそろしくてラッシュ時の電車などとても乗ることはできない。

◾️現行犯逮捕の必要性と方法

 さらに問題なのは、現行犯逮捕の必要性の問題である。この点、現行犯逮捕についてはその必要性に関する規定は存在しない。そのため、必要性は要件とされていないという考えもある。しかし、昨今の裁判例を見ると必要性を求める傾向にある。

 「現行犯逮捕も人の身体の自由を拘束する強制処分であるから、その要件はできる限り厳格に解すべきであって、通常逮捕の場合と同様、逮捕の必要性(逃亡または罪証隠滅のおそれ)がその要件となる。」(大阪高判昭和60・12・18)

 前出の書でも「明らかに逮捕の必要のない場合は、身柄を拘束する実質的根拠に乏しく、現行犯逮捕についても、必要性は要件となっていると解すべきである。」(新・コンメンタール刑事訴訟法 第2版 後藤昭 白取祐司 日本評論社 p519)としている。逃亡または罪証隠滅のおそれがないのに逮捕をした場合には、現行犯逮捕は違法とされても不思議はない。

 最後に逮捕の方法であるが、当然、必要以上の有形力を加えるようなことは認められない。どの程度の方法なら許されるかについては、「現行犯人を逮捕するためにある程度の実力行使は許され、その限度は、逮捕者の身分、犯人の挙動その他具体的状況に応じ社会通念に照らして定まる。逮捕者が私人である場合は、逮捕の職責を有する捜査官に要求される節度は期待できない。」(東京高判昭和37・2・20)という裁判例があり、このあたりが常識的な線であろう。

 私人での逮捕の場合には捜査官ほど厳密に見られないが、それでも基本的に「具体的状況に応じ社会通念に照らして定まる」という基準に沿って判断されるのは間違いなく、一部の動画見られるような、相手が抵抗していないのに地面に押さえつけるなどの方法はこの点に抵触していると言えるのかもしれない。立花氏の主張する過去の私人逮捕と称する行為にも、ユーチューブ等で見る限り、違法と思われる案件はある。

◾️10年ほど前に盗撮犯を捕まえた

写真(渋谷署)はイメージ

 実は筆者も10年ほど前に私人の現行犯逮捕をして、警察官に犯人を引き渡したことがある。駅の階段で女性のスカートの中を携帯電話で盗撮していた男を捕まえたもので、被害を受けた女性とともに被疑者を警察官に引き渡し、その後、警察署に行き事情聴取を受けた。

 被疑者は捕まえられた後にデータを消去したようで、事情聴取の後、担当した刑事さんから「男はデータを消したようですが、それは再現できるので明日以降、捜査を続けます。ただ、データを消されてしまったので、現時点でそちらが私人の現行犯逮捕をして、被逮捕者を引き渡したということは成立していないということでご了解を願います。」と言われた。

 これは私人の現行犯逮捕と認めた時は通常逮捕した時の規定が準用されるため、釈放するか、48時間以内に検察官に送致しなければならないことが関係していたようで(刑事訴訟法203条1項、216条、199条)、捜査を任意に切り替えたのかもしれない。

 このように私人の現行犯逮捕というのは簡単には成立しない。YouTubeで再生数を稼ぐために要件も知らずに私人逮捕という犯罪行為を行なっていると、アカウントが停止されるだけでは済まない処罰を受けることになる。その点はよく考えてから行動すべきであろう。

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