大学編入受験生の過去問閲覧に壁

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松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

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青山学院大学大学院法務研究科卒業。1985年から2014年まで日刊スポーツ新聞社に勤務。退職後にフリーランスのジャーナリストとして活動を開始。
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 専修学校などを卒業した資格で大学に編入する制度が徐々に浸透する中、新たな問題が生じている。試験の過去問の閲覧を制限している大学が多く、受験を希望する学生が見られないという問題である。志望校の過去問を入手できず、出題傾向も分からないまま本番に突入しなければならない学生を何とか救済できないものか。

■過去問は受験を決める重要資料

写真はイメージ(文教大学)

 僕は当サイトを運営しながら、専修学校(いわゆる専門学校)で大学編入の手伝いをさせていただいている。以前にも紹介したが、学校教育法が改正され、1999年から専門学校からも大学に編入できる道が開かれた。それまで大学編入(主に3年次から)は短大や高等専門学校から、さらに学士入学もあったが、そこに専門学校が加わったのである。

 この制度自体を知らない方も多いと思う。実際に専門学校から大学編入した人数は、令和2年度で1567人。高専からが2306人、短大からが3746人で、合計で7619人に過ぎない。ちなみに令和2年のセンター試験受験者は52万7072人だから、その市場規模はお分かりいただけると思う(文部科学省 学校基本調査ほか)。

 この小さな市場規模が原因で、さまざまな問題が生じることになる。高校生が受験する大学入試の過去問を仕入れようとすれば、大学入試シリーズ(教学社)、いわゆる”赤本”で数年分の問題を一気に入手できる。しかし、編入試験の場合、1年で8000人にも満たない市場で、各大学の過去問を販売してビジネスとして成り立つわけがない。

 ところが、編入試験では過去問を見ることが受験の際に極めて重要となる。試験は外国語+小論文+面接が主流。小論文の代わりに専門科目を入れてくる大学もあり、その場合、法学部なら大学1、2年で学ぶような基本的な法律の問題を出してくるため、それを専門に勉強している学生でないと合格は難しい。

 各大学の入試要項に受験科目は明示される。専門科目を学んでいない学生(たとえば外国語の専門学校の生徒は法律科目などは学ばない)は、読解力や一般的な社会時事に関する小論文が課される大学を狙っていくことになる。

 この小論文を課す大学でも、過去問を見るといくばくかの専門性を要求されるような問題を出してくる場合もあり、その場合、専門科目の知識がない学生は撃沈ということにもなりかねない。大学としては専門性は求めておらず一般常識の範囲と判断しているのかもしれないが、受験する方としては大問題。そのため過去問は勉強のツールだけでなく、受験するかどうかを決める重要な資料となる。

■編入試験の過去問公開は千差万別

埼玉大学キャンパス

 僕の場合、学生に小論文を教えており、過去問を多く解かせて本番に臨むようにさせている。過去問の入手は極めて重要なタスク。編入試験の現場では各大学がHPで発表するものなどから入手することになる。これが各校千差万別であり、大きな分け方としては、以下のようなものがある。

(1)HPで全文を公開する。

(2)郵送サービスを行なっている。

(3)大学で閲覧をさせる。

 (1)の場合は問題はない。ダウンロードしてくればいい。中には著作権の問題をクリアできず、問題文が全て隠されている場合があるが、それはどの受験生にも同じ条件。出典は明記されているので、専門科目の知識が必要かどうかは窺い知ることはできるし、問題の傾向もつかめる。印象としては、このパターンが最も多いと感じる。

 (2)を行っている大学も少なくない。例を出せば、国立なら山形大学、私学だと日大法学部、同文理学部、神奈川大学、愛知大学など。特に私学などは受験はウエルカムという姿勢なのか、非常に丁寧に対応してくれる場合が多い。

 (3)が問題。事務室で閲覧のみ可能とする大学も存在する。これは主に著作権がクリアできない場合に行われる場合が多い。そのためコピーも不可とする大学もある。大抵の場合、複写は可能。そこまで明言はせずに、持ち出しを認め「こちらからは複写してもいい、とは言えません」と言って、言外に(こちらが知らないうちに勝手にコピーして)という場合もある。

 僕の場合、3月に埼玉大学に出向いて過去問を入手した。都内からだとキャンパスはかなり遠いのだが、行けない距離ではない。他に東京外語大もそのパターンで、私学では法政大学法学部、文教大学などがこのパターンである。

 ちなみに北海道大学法学部は、出願した者が希望した場合に3年分の過去問を交付するという方法を取っている。

■熊本大学の過去問の入手法

 実は本日、国立の熊本大学の過去問を入手しようとしたが、HPを見ると文学部・法学部ともに事務での閲覧に限るとされていた。事前連絡が必要で、平日の8時30分から17時15分までと時間も決まっている。

 これには頭を抱えてしまった。埼玉大学のように首都圏にあれば暇を見て足を伸ばせばいいが、熊本まで過去問を見るために出向くとなると1日がかり。しかも平日だけなので、授業がある学生は見にいくことはできない。

 電話で問い合わせたが郵送などのサービスはやっていないとのこと。「遠隔地の受験生は不利になりますが、そのあたりは考慮していただけないのですか?」と聞いても、「来れば見ることはできますので」との返事。過去問が入手できずに不利益を被るのは学生であり、ここは何とかしてあげたいところ。

■文部科学省に相談

写真はイメージ(明治大学)

 熊本大学との話では埒が明かないため、文部科学省高等教育局大学振興課大学入試室に電話で相談してみた。同室によると、過去問の公表は毎年発表する「大学入学者選抜実施要項」で原則を示しているという。

第13 その他の注意事項

2 入試情報の取り扱い

(1)個別学力検査における試験問題やその解答については,当該入試の実施以降に受験者や次

年度以降の入学志願者が学習上参考にできるようにするため,次のとおり取り扱うものとする。①試験問題については,原則として公表するものとする。

(※)令和4年度大学入学者選抜実施要項 から

 実際の公表の方法は各大学に任せているとのこと。大学によってまちまちであるのは、そうした文科省の方針によるものである。

松田:学生は平日は授業があり、時間的に熊本まで見に行くことはできません。原則として公表ということですが、現実的にはアクセスできる者に差異があり、その点で受験者間に不平等が生まれてしまうのはおかしくありませんか?

文科省:公表は各大学に任せています。

松田:現実にアクセスできない者が出るということで、あまねく人の目に触れさせる公表とは言えないのではないか、ということです。

文科省:実際には見ることはできるわけですから。ただ、そういう声があったということは、承ります。

松田:ぜひとも、改善をお願いします。そして、学生にとっては一生に一度の機会、来年から救済するというのであれば、今年の学生は救済されません。今年の学生も救済の対象にしてほしい、そういう声もあったということでしかるべき方にお伝えいただきたいと思います。

文科省:その点も、そういう声があったということで、承りました。

 グループ内で熊本大学の過去問を保有している学校もあるかもしれず、その方面から手を尽くしてみるが、編入試験というのはそうした難しさがあるということを多くの人に知っていただければと思う。

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