朝日社説に歴史改竄級ミス トランプ氏銃撃で

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松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

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青山学院大学大学院法務研究科卒業。1985年から2014年まで日刊スポーツ新聞社に勤務。退職後にフリーランスのジャーナリストとして活動を開始。
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 トランプ前大統領の銃撃事件に関し、朝日新聞の社説に信じ難いレベルのミスがあった。J・F・ケネディ大統領の弟が射殺された事件を大統領選の演説直後の事件とする歴史改竄レベルの間違い。社説は新聞の心臓と言ってもいい部分で、凋落の一途を辿る紙面の劣化を象徴するかのようなミスと言える。

◾️ロバート・ケネディ暗殺事件

朝日新聞東京本社(撮影・松田隆)

 問題の社説はトランプ前大統領が銃撃された事件について論じた15日付け。事件そのものに被害者のトランプ前大統領の責任も重いとする、到底、社会で受け入れられない内容であるが、その点は後述する。注目すべきは以下の部分。

「米国では政治家を狙った事件がたびたび起きてきた。ケネディ大統領が暗殺された1960年代には、弟の上院議員もまた、大統領選の演説直後に射殺されている。」(朝日新聞DIGITAL・(社説)トランプ氏銃撃 政治暴力の連鎖を断て)。

 ジョン・F・ケネディ大統領が射殺された1963年11月22日からおよそ5年後の1968年6月5日に弟のロバート・F・ケネディ氏が銃撃されている(翌6日に死亡)。社説がその点に触れているのは言うまでもない。

 問題は赤の太字部分である。ロバート・ケネディ氏が射殺されたのは、大統領選の演説直後ではない。カリフォルニア州の民主党予備選での勝利の後、滞在先のロサンゼルスのアンバサダーホテルで演説し、キッチンを通行中にパレスチナからの移民の男に銃撃されている(HISTORY TODAY・The Assassination of Robert Kennedy、WBZ Archives・The Assassination of Robert F. Kennedy ほか)。

 ロバート・ケネディ氏は当時、民主党の指名をめぐって副大統領のヒューバート・ハンフリー氏と争っており、カリフォルニア州での勝利から最終的に民主党の指名を受けるはずと考える者は多いが、とにかく、銃撃された時点では大統領選の本選には進んでおらず、民主党の大統領候補の1人に過ぎなかった。

◾️予備選は大統領選にあらず

 米国の大統領選挙は各州での党員集会と予備選挙からスタートして、事実上、民主と共和の二大政党の指名候補が本選(一般投票)を争うというのが簡単な仕組みである。この一般投票は大統領本人ではなく「大統領選挙人」を選ぶもので、選ばれた大統領選挙人による選挙人投票を経て正式に次期大統領が決定するというプロセスを経る。

 朝日新聞としては党員集会や予備選から大統領選挙が始まっているから、ロバート・ケネディ氏は予備選の勝利演説の後に射殺されたとしても、広い意味での大統領選に含まれるとしたという言い訳をするのかもしれないが、それは通用しない。

 最近の朝日新聞の報道を見ても、予備選については大統領選とはしていない。

「11月の米大統領選に向けて1月に始まった共和党の候補者選びは、トランプ前大統領が圧倒的な強さをみせ…」(朝日新聞DIGITAL・【予備選 各州の結果】トランプ氏、共和党の大統領候補指名が確実に

「今年11月の米大統領選をめぐり、共和党の全国大会でトランプ前大統領が党の大統領候補に正式に指名されました。」(朝日新聞DIGITAL・【そもそも解説】トランプ氏が大統領候補に正式指名 今後どうなる

 このように11月の本選(一般投票)を「米大統領選」と表現しており、予備選などは大統領選には含めていない。2008年には以下の記事を掲載して、予備選ははっきりと「選挙ではないと」と明言している。

「選挙の仕組みは複雑だ。大まかにいうと;

(1)全米各州での党員集会と予備選挙
(2)2大政党である民主、共和両党の全国大会
(3)「大統領選挙人」を選ぶための一般投票
(4)選ばれた「大統領選挙人」による選挙人投票

という手続きを経る。(1)と(2)の段階は、民主、共和両党がそれぞれ、だれを指名するのかを決める党内手続きの期間。公式の「選挙」ではない

(以上、朝日新聞DIGITAL・ポスト・ブッシュの選択 ‘08米大統領選挙・米大統領選のしくみ

◾️せめてWikipediaを見ていれば

 こうしてみると、社説がロバート・ケネディ暗殺に関して「大統領選の演説直後に射殺されている」としたのは、単純な思い違い、ミスと考えていい。メディアは日々、多数の記事を社会に発信しているだけに事実関係の間違いが出るのは仕方がない部分はあるが、さすがに社説でこのようなミスは許されない。個人が書いたにせよ、二重三重のチェックはされているはずで、紙面に出すまで誰も気付かないとは信じ難いチェックの緩さである。

 ロバート・ケネディ暗殺に触れるなら、まず、書き手がウィキペディアで調べてみればいい。ウィキは間違いが少なくないが、自分の書いたものとウィキが異なっている場合、信頼できるソースにあたり、どちらが正しいかを判断すればこのような小学生レベルのミスは発生しないはず。

 ウィキは信頼できないから一切見ないというのも結構ではあるが、それなら別の媒体で事実関係をチェックすべきで、それをしなかったからこのような恥ずかしいミスを世間に晒す結果になったことを真剣に考えたほうがいい。

 TBSの番組でフリーアナウンサーの膳場貴子氏がトランプ氏銃撃事件に関しての失言で炎上したばかりであるが、それとは別の種類のお粗末な論評である。

◾️痴漢被害の女性に「ミニスカ着用が悪い」?

膳場貴子氏(TBS画面から)

 当該社説では銃撃されたトランプ前大統領について「前回大統領選の結果を認めず、憎悪をあおってきたトランプ氏の責任もまた重いと言わざるをえない。根拠のない陰謀論を語り、『報復』を示唆する言動が国民の分裂を深めたことを自省すべきだろう。」と断じている。

 これも信じられない主張で、民主国家において、どのような理由があるにせよ、政治家を銃撃し殺害しようとする行為に正当性が認められるはずがない。違法な行為を行った実行犯こそが批判され、責任を負うべきであり、被害者を有責とする理由などない。

 朝日新聞の社説の主張に従えば、通勤通学途中に痴漢の被害に遭った女性に「挑発的なミニスカートを着用して満員電車に乗った女性の責任もまた重いと言わざるをえない」とするようなものであろう。

 当該社説はネットではかなり批判を集めているが、それも当然。内容もお粗末であるが、それ以前に事実関係を書く部分に致命的な誤りがあり、一体、こんな社説に誰が納得するというのか。

 朝日新聞の発行部数は一時は800万部を超えていたが、現在は400万部を切ると言われている。新聞の心臓とも言える社説がこの体たらくでは、それも宜なるかな、である。

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