温暖化政策「正解」は原発稼働 次善策の石炭火力

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石井 孝明🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

経済・環境ジャーナリスト。慶應義塾大学経済学部卒、時事通信社記者、経済誌フィナンシャルジャパン副編集長、アゴラ研究所の運営するエネルギー問題のサイトGEPRの編集担当を経て、ジャーナリストとエネルギー・経済問題を中心に執筆活動を行う。著書に「京都議定書は実現できるのかーC O2規制社会のゆくえ」(平凡社)、「気分のエコでは救えない」(日刊工業新聞社)など。

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石炭火力をとめるなら原発を動かそう

 エネルギー・気候変動政策で、日本の政策、電力、エネルギー産業への批判が厳しい。石炭での発電が3割を占めていること、石炭火力の輸出計画があることに内外の政治団体が騒ぎ、小泉進次郎環境大臣のようなカッコばかりつける政治家が追随し、いつものように朝日新聞などのメディアが支援している。

(図表1)日本の発電のエネルギー源割合(2019年度 経産省資料より)

 経産省も旗色が悪いと見たのか、これまで石炭火力の拡大を促していたのに電力・プラントメーカーを見捨てて、老朽した石炭火力のリプレイス構想を公表するという、ずるい行動をしている。

 この一連の騒ぎは、とても奇妙だ。新型コロナウイルス感染症の流行で、世界経済は当面停滞するだろう。経済活動とエネルギー需要は連動するので、世界の温室効果ガスの増加も、ここ数年一服するはずだ。それなのに、なぜか世界的に過激な環境原理主義者が活発に活動している。日本はエネルギー基本計画(第7次)が2021年をめどに決まる。議論が始まるために、動いているのかもしれない。

 しかし、すでに問題の解答はある。石炭火力をとめるならば、その分を原子力で発電をすればよいのだ。

 原子力発電は核分裂反応で作られた熱を利用するために、化石燃料を燃やさず温室効果ガスである二酸化炭素を発生しない。電力中央研究所による試算では石炭、L N G火力より圧倒的にその発生量は少ない。ライフサイクル(燃料の獲得、廃炉での温室効果ガスの発生)も検討している研究だ(図表2)。そして大量に発電できるから、コストは他の電源より安い。

(図表2)(電力中央研究所資料)(リポート)

 大型化した第四世代原子炉(発電能力140万kW)が1基80%前後の高稼働率で動いた場合に、1年当たり温室効果ガスが日本全体で0.3〜0.4%程度減り、化石燃料で発電する場合より1000億円程度、電力会社の燃料費が減るとされる。同ガスを出さないにしても発電は自然現象次第の太陽光(パネル1枚で同1kW)や風力(大型化しても1台3000kW)と、原子力発電は能力がまったく違う。

 日本の原発は原子力規制委員会によるおかしな規制によって、その多くの稼働が長期間止められている。そのおかしさの告発は、このコラムでは省略する。石炭火力の発電量が増えているのは、原子力発電所が動かないためだ。その政策を変えて原子力発電所を動かせば、日本の温室効果ガスは減り石炭も使わない。

 しかし、気候変動・温暖化問題を騒ぐ人の多くは原子力の活用について語らず、原子力攻撃に熱心だ。合理的な経済性、科学に基づく主張ではなく「なんでも反対」「再生可能エネルギーはすばらしい」という変な思い込みによって認識が歪められ、問題の正しい答えを無視している。

次善策、日本の優れた石炭火力を輸出せよ

日本が世界に誇る石炭火力発電所。常磐共同火力のI G C Cプラント(2017年筆者撮影)

 この指摘に、「原子力発電は、利点だけではなく、さまざまな問題がある」と反論をする人もいるだろう。その通りだ。そこで私はこう返事をしたい。「石炭火力発電もさまざまな問題があるが、利点も多い」と。原発を使わないとするならば、世界のエネルギーをめぐる諸問題を解決する次善策は、日本の優れた石炭火力を世界に広めることだ。

 石炭火力発電は、原料価格の面で他のエネルギー源に比べて安く、また発電所の建設費が低いために、他のエネルギー源よりも発電コストは安くなる。石炭は産出地が世界各国に散らばり、安全保障上、途絶という政治リスクが少ない。可能採掘年数は200年以上と推定され、地球上に豊富にある。利用の持続可能性の高いエネルギー源だ。

 こうしたメリットがあるからこそ石炭は発電に、世界でも、日本でも、使われている。

 石炭火力の問題は、発電の際の二酸化炭素と有害物質の発生だ。世界の大気汚染の主因になっている。しかし、日本企業の石炭火力発電は世界トップクラスのエネルギー効率を持ち、その問題をある程度解決している。

 石炭ガス化複合発電(Integrated coal Gasification Combined Cycle, IGCC)という技術がある。石炭をガス化し、その熱とガスを燃やす熱で二重に発電する技術だ。常磐共同火力(福島県いわき市)で、この技術を使ったプラントが稼働している。

 送電端効率(投入熱量から電気に変換されるエネルギーの割合)を見ると、各国の石炭火力発電の平均は30%台、先進国の石炭火力では40%前後だが、ここは50%前後と効率が良い。将来的にはさらなる効率向上も可能という。既存技術の改良を重ねたJパワーの磯子火力発電所(横浜市)も、同50%前後だ。他の電力会社の発電プラントも、同40%台後半で、日本の石炭火力の発電効率の高さは世界で際立っている。

 どの会社のプラントも高効率のエネルギー利用と排出での脱硫・浄化装置の組み合わせで、石炭の燃焼によって発生する硫黄酸化物、窒素酸化物、煤塵などの有害物質の排出はゼロにはできないが、ほぼ無害化している。

 ただし、どのプラントでも二酸化炭素の排出は大幅には減らない。投入される石炭の質などの条件によるが、日本の石炭火力発電での温室効果ガスの削減量は、世界の平均より最大1割程度の減少にとどまるという。

 日本政府と社会がすべきことは、こうした強みを持つ日本企業の石炭発電技術の輸出を応援し、日本に利益をもたらすようにすることだ。日本の技術によって世界を大気汚染の恐怖から解放し、その対価として利益を得るWin-Win(共栄)の関係が諸外国と作り出せる。それによる温暖化の抑制は難しいにしても、他にメリットが多い以上、推進すべき活動だろう。

「おかしな主張」の背景には?

 ところが、温暖化政策で「原子力の活用」「日本の石炭火力発電の輸出」という正しい政策・企業行動が、日本では採用されない、もしくはできず、多くの人が支持しない。日本の原発や、石炭火力プラント・技術の輸出は東欧、インド、東南アジア向けに行われようとしていた。それなのに、そうした企業活動が奇妙な政治運動によって妨害される。非常に馬鹿馬鹿しい。

 日本の原子力産業、石炭火力産業、プラントメーカーを叩くことで「利益を得る企業、政治集団や人」がいるように思える。

 エネルギー問題では不思議なお金の流れがある。

 反原発を唱える人や環境過激派は組織的に、無限に情報を発信し続けている。例えば、福島原発事故以来、日本で公開された原子力批判・再生可能エネルギー賛美の映画の本数を数えた人がいるが、輸入物を合わせて20作品という。原子力の容認・活用を訴えた映画は輸入1本、日本製1本しか記憶にない。

 あるドイツの反原発、再エネ賛美映画で、最後に延々と再生可能企業の支援への感謝が述べられていた。その監督が来日したときに聞いたところ、「再エネ企業から援助を受けた。公開しているのだから問題はない」と、堂々と答えていた。ところが、日本では資金の出所は隠される。

 今回の温暖化政策の石炭攻撃も不思議だ。批判する人の中には、善意の人もいるだろう。しかし発信者をたどると、大本のところにいるのは「いつもの内外の環境過激派の人たち」だ。日本の政府、電力会社、重電・プラントメーカーを困らせ、評判を落とすことで政治的に金銭的に利益を得る国、団体、政党、企業があるのだ。

 これは私の空想の中の「謀略論」とばかりは言えない。4年前に在京の某国外交官と原子力問題で意見交換をしたことがある。福島原発事故の後で、中国の「一帯一路」構想の中にある中央アジア、また東南アジア諸国で、中国政府関係者が、中国メディアの報道を紹介し、福島事故と原子力技術の危うさを強調した。その後に、中国の原子力企業が売り込みをかけていたことを、その国は確認しているという。中国の原子力産業は、世界トップだった日本の原子力産業を現時点の受注と建設数で追い抜き、急速に力をつけている。

 「急に変な情報が流れる際には、背後に意図を込めてそれを流す人がいることが多い。日本の反原発運動の背景にも、何かがあるように思う。特に中国は、経済活動と国の動きが一体になっている。日本人が警戒しないのは不思議だ」と、その外交官は話していた。日本の原子力反対運動では敵の姿はぼんやり見えるが、石炭火力反対でも背景にいろいろとありそうだ。

 間違った主張に惑わされず、日本企業の足を引っ張るのではなく、世界に役立つサービスや技術を提供する優れた日本企業を応援することが正しい政策であり、社会のあるべき態度なのである。

 それなのに石炭火力発電と温暖化政策で「いつもの人たち」が揃ってずれたことを言っている。合理性とはほど遠い、その人たちの不思議な主張に、この問題が引っ張られそうだ。

 なぜなのだろうか。とても不思議だ。

石井孝明 ジャーナリスト

ツイッター:@ishiitakaaki 

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