毎日新聞が富山から撤退 Xデー間近か

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松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

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青山学院大学大学院法務研究科卒業。1985年から2014年まで日刊スポーツ新聞社に勤務。退職後にフリーランスのジャーナリストとして活動を開始。
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 毎日新聞が17日、富山県内での配送9月末で休止すると発表した。輸送費など経費の増大に加え、県内での発行部数の減少などが理由とされている。長年、業績が低迷し、部数減も著しいとされる三大紙の一角のXデーは間近に迫っていると言えそうである。

◾️富山県内の販売部数840部

写真はイメージ

 毎日の富山からの撤退は同紙の富山県版で報じられ、17日午後には各メディアで一斉に取り上げられた。同紙の配送休止は全国の都道府県では初めてという。大阪の印刷工場で刷った新聞を輸送し県内の販売店に届け、そこから各家庭や店頭に届けられているが、コストが増す中、部数が減少傾向にあり休止に至ったとされる。ただし、県内での取材体制は維持していくという(NHK・毎日新聞 富山県内での配送を9月末で休止へ 全国初)。

 同紙の営業総本部ポータルサイトには、全国の配布エリアと販売部数が公表されている。それによると朝刊は177万8971部、富山県の販売部数は840部と1000部を切っている。都道府県別で見ると沖縄県の219部に次ぐ少なさである。

 同紙の統合版(事実上の朝刊のみ)は1か月4000円、1部残らず売れても月336万円の売り上げにとどまる。とはいえ336万円が全て毎日新聞社の収入になるわけではなく、新聞販売店が40%ほど取ると言われている。また、新聞の原価は材料費や人件費など合わせて販売価格の50~60%とされており、その計算でいけば毎日新聞社に入る金額は1部につき最大で1か月400円となる。そうなると富山県内での売り上げ(4000円×840部)から原価と販売店取り分を抜いた毎日新聞社の取り分は1か月で33万6000円にとどまる。

 この33万6000円の中から輸送の経費を捻出することになる。大阪の印刷工場から出たトラック(大型車)が石川県に配送し、その後富山県に至るまでの高速道路の料金は金沢東インターと富山インター間として往復3600円(NEXCO中日本・高速道路簡易料金表)。走行距離は往復で107km程度で、大型トラックの平均的な燃費とされる1リットルあたり4kmとすれば、25リットルは消費することになる。1リットル160円として4000円であるから、少なくとも輸送の経費としては1日7600円程度はかかり、それが30日として22万8000円。毎日新聞社に入る金額は10万8000円である。

 これはあくまでも富山県内で840部が1か月、1部残らず売れた場合の計算。押し紙やコンビニでの売り残りなどから500部200万円程度の売り上げしかなかったら机上の計算では赤字となる。

◾️富山支局の記者はどうなる?

 全国紙を称する毎日新聞が1つでも空白県ができることは、耐え難い屈辱であろう。赤字でも出し続けて全国紙の誇りを守りたいと願っていると想像するが、背に腹はかえられぬ事態と思われる。

 ちなみに富山県の人口は99万9476人、総世帯数は41万689世帯(富山県・富山県の人口と世帯 富山県人口移動調査結果(推計人口)ー令和6年4月1日現在ー)。100万人が住む富山県にたったの840部しか届けられないのであるから、言論機関としての県内への影響力は皆無と言って差し支えない。

 可哀想なのは富山支局の記者。今後はたとえば県庁や県警に「毎日新聞です」と取材に行っても「聞いたことのない新聞だなぁ」と言われかねない。そこで話を聞けても「全国版に載らないようなネタだから毎日さんは聞いても意味ないよ」と嫌味の一つも聞かされるであろう。そう考えると、富山での取材体制は維持するとしているが、いつまでもできる保証はなく、いずれは隣県の支局から事件があったときだけ出向くという形にするのではないか。

 そのような環境で働きたいと願う記者などいるはずもなく、若い記者の退職は加速されると思われる。それでなくても毎日新聞は2021年1月に資本金を41億5000万円から1億円にする減資が決定された(週刊現代・毎日新聞社、資本金「41億→1億円」で中小企業に…現場記者が漏らした不安)。中小企業になって税制上のメリットを得る目的とみられ、対外的な信用を落としてでもそうしなければならない経営状態であることは全ての社員が認識しているに違いない。

 それに加えて今回の富山県での配送中止である。これがドミノ倒しのように他県に波及していくことは容易に想像がつく。大阪工場から富山県に配送する場合、福井県、石川県の順に配っていくのは間違いない。ところがこの2県の販売部数は富山県の840部と大差なく、前出の営業総本部ポータルサイトで見ると福井1324部、石川1202部である。

 先ほどの1部あたりの毎日新聞社の取り分(1か月400円)から計算すると、福井が52万9600円、石川が48万800円。繰り返すが1部残らず売れた場合の計算であり、実際はそれをかなり下回ることが予想される。福井、石川もいつまで配送できるか、先行きは不透明である。

◾️Xデーは遠くない?

コンビニで新聞を買う人も少なくなった…

 筆者が日刊スポーツ新聞社に在籍していた頃、新聞労連に所属している各新聞社のボーナスの回答が一覧表で回ってきた。日刊スポーツで組合員平均で100万円を超えていた時期、毎日新聞は40万円にも届かない金額であったように記憶している。

 当時は毎日の子会社であったスポーツニッポンも優良企業であった時期で親会社の毎日新聞のボーナス額を相当上回っていた。「あまり高くなると毎日の社員が僻むから、俺たちの金額は抑えられているんだ」と知り合いのスポニチ社員は不満を漏らしていたものである。

 20世紀の時代から毎日新聞の経営状況は低空飛行を続けており、ここにきていよいよXデーが近くなってきたように感じられる。各メディアが大々的に報じたのは、その日が確実に近づいていることを意識しているからと思われる。

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