渋谷署に聴いたクルド人問題…偏向報道やめろ

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松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

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青山学院大学大学院法務研究科卒業。1985年から2014年まで日刊スポーツ新聞社に勤務。退職後にフリーランスのジャーナリストとして活動を開始。
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 渋谷区の路上でクルド人が渋谷署の警察官2人に抑え込まれるなどしてけがをした事件をめぐって5月30日、抗議のデモが行われた。しかし、公開されているビデオを見ると警察官の有形力行使のシーンから始まり、そこに至る過程が全く不明。職務質問でも有形力の行使は認められる場合はあり、適正な職務執行であった可能性は否定できない。渋谷署に電話で聴いた。

■クルド人男性を警察官2名が押さえ込む

警視庁渋谷署(撮影・松田隆)

 毎日新聞電子版が5月30日に公開した記事「『警官に押さえ込まれけが』 警視庁渋谷署前で200人が抗議デモ クルド人訴えに共鳴」によると、5月22日午後3時半頃、クルド人男性は乗用車を運転中、パトカーから停止するように命じられた。男性が歯科医に向かうために拒否し、その後、警察官2人は「車を降りた男性の両腕をつかみ、首を押さえつけて、地面に引き倒すなどし、首や脚、脇腹にけが」をさせたという。

 「『何もしてない』『さわらないで』『話を聞いて』と訴える男性に、警官が『なめんなよ』と声を上げ、地面に座らせ、首に腕をかける様子が収められていた。」と同紙電子版は報じている。

 さらに、警察官が有形力を行使している動画を、毎日新聞が「クルド人男性提供」の動画として公開している。結局、クルド人男性は解放されたが、それに対して抗議のデモが5月30日に行われたのである。

■職務質問でも有形力の行使は可能

 問題は警察官の行為が適正な職務執行かどうかである。クルド人男性も、記事を書いた毎日新聞の記者も、警察官の職務質問では一切の有形力の行使が認められないと考えているのかもしれない。この問題をツイッターで早くから扱っているジャーナリストの樫田秀樹氏も、おそらく刑事訴訟法や警察官職務執行法について、それほど知識がないのであろう。

 職務質問は警察官職務執行法2条1項に規定されている。

「警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者…を停止させて質問することができる。」

 大前提として、停止させるにあたっては有形力を行使できる場合がある。過去の判例を見ると、例えば職務質問中に隙を見て逃げ出した者を追いかけ、ひきとめるためその腕に手を掛けた行為を適法な有形力の行使と認めている(最高裁決定昭和29年7月15日)。

 また、酒気帯びの疑いのある者が自動車を発進させようとしていたため、運転席の窓から手を入れてエンジンキーを回転してスイッチを切った行為を適法としている(最高裁決定昭和53年9月22日)。さらに、覚醒剤使用の疑いがある者が運転する自動車のエンジンキーを引き抜いて取り上げた行為も適法であるとされた(最高裁決定平成6年9月16日)。

 おそらく、一般の人が考える以上に職務質問をするために停止させる際の有形力の行使は認められているのである。もちろん、無制約に有形力の行使が認められるわけではなく、「必要性、緊急性、これによって害される個人の法益と保護されるべき公共の利益との権衡などを考慮し、具体的状況のもとで相当と認められる限度において許容されると解される」(堀籠幸男・最判解刑事篇昭和53年度412頁)のである。

■具体的状況がない情報発信に意味はない

video mainichi jp画面から

 本件においては警察官の有形力の行使が「具体的な状況のもとで相当と認められる限度なのかどうか」が全く分からない。毎日新聞の記事を見ると、男性は所持品の検査を求められるなどしたが、「治療を受けている歯科に向かう途中だったため拒否。その後、警官2人が車を降りた男性の両腕をつかみ、首を押さえつけて、地面に引き倒すなどし…」とあり、具体的状況を判断するための部分がすっぽりと欠落しているのである。

 記事には「…拒否、その後、警官2人が」とあるが、拒否と、その後の間の部分の状況説明こそがこの事件が警察官の適正な職務執行かどうかを判断する部分。それを伝えずに記事にするとは記者も記者なら、その原稿を通すデスクもどれだけ無知なのかと思う。

 例えば、男性を路上に膝をつかせた行為はビデオで見る限り、クルド人男性が「手を離せ」と言っており、手を離したら逃亡しようとしていることが感じられるから、逃亡の意図を感じた警察官が座らせることに違法性はないと判断するのが通常の思考であろう。

 要は具体的状況で相当と認められる限度かどうか、そこがポイントである。その点をクルド人男性も毎日新聞記者も、ジャーナリストの樫田秀樹氏も全く理解できていないように思える。有形力行使のシーンだけ流し、違法であるかのような報道をするのであれば、もはや報道機関の資格などない。政治的プロパガンダと記事は厳格に分けなければならない。

■渋谷署「一般論、通常では考えられません」

 以上の点を渋谷署に電話で聴いてみた。警務係の方が対応してくれた。

松田:今、問題になっている渋谷署の2人の警察官の行為について、なぜ、そのような行為に至ったのか、そのあたりの事情は新聞にも出ていませんし、渋谷署でもコメントを発表していないようです。もし、渋谷署で適正な職務執行、職権の行使であるという判断をされているのであれば、その点を聞かせてください。

渋谷署:現在、捜査中でして、今すぐお答えすることはできません。そういうお話があったということは記録に残します。

松田:一般論として、渋谷署の署員が職務質問を行うために停止させる行為をする時は、十分に違法性を帯びないように注意した上で、有形力の行使をしていますか。

渋谷署:それはもちろん、当然です。

松田:過去の判例で認められた範囲を大きく超えて有形力を行使することは考えられますか。

渋谷署:一般論、通常では考えられません。

 毎日新聞も、ジャーナリストの樫田秀樹氏も、せめてこれぐらい取材してから記事を書くべきである。

    "渋谷署に聴いたクルド人問題…偏向報道やめろ"に6件のコメントがあります

    1. MR.CB より:

      》》ジャーナリスト松田様

      「切り取って煽る」、「曖昧な法的根拠(知識)」…。毎日に限らず多くのメディアの、パターン化された報道精神でしょう。権力に立ち向かう正義の執行者、の妄想に取り憑かれた姿と断じても過言ではないと思います。
      ショッキングな映像を示すことで、都合の良い
      事実を作り上げて煽り拡散させる手法が板についています。2月頃のトイレットペーパーなど稚拙なデマ情報が思い出されます。

      新型コロナによる社会不安で、世界中の多くの人々が大きなストレスを溜め込んでいる中、メディアの役割とは何なのか?…。むしろ問われているのは、私たち一人ひとりの方ではないのでしょうか。ネットを含む、多くの情報の渦の中で私たちは生きています。利便性と危険性が混在するハードな社会を、これから先も生きて行かざるを得ません。残念ながら、メディアに客観的な真実を期待することは叶いません。
      以前にも書きましたが、情報を得て個々が冷静に判断すること。私たちが判断基準をしっかりと持つことが求められているように感じます。悪書を遠ざけ善書に交わってこそ、人は成長することと同じです。

      昨日の夜20時ちょうど、日本中で花火が一斉に打ち上げられたニュースを見ました。混乱を避けるために、概ね事前の予告はせずに時間も5分間だけ。若手の花火職人さん百数十名で企画されたそうです。一連のコロナ禍で全国の花火大会は、8月まではほぼ中止になったとのこと。どの花火会社も売り上げが8〜9割減って経営が非常に厳しい。それでも、みんなに喜んでもらえるのならと思い立ったそうです。

      このニュースをどのような気持ちで、メディアの関係者たちは伝えたのか?
      大きな影響力を持つ側が、自粛疲れと今後の不安で大きな重圧を感じている国民に、何ができるのか、何をすべきかを問うてみたい気持ちです。

      1. 松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵 松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵 より:

        >>MR.CB様

         コメントをありがとうございます。

        >>権力に立ち向かう正義の執行者、の妄想

         これ、多数のメディア関係者が陥っている病気のようなものでしょうね(例:東京新聞望月衣塑子記者)。

         メディアの情報を100%信じてはいけないというのは本当にその通りで、ネットの情報の波から真実を探し出すことも、今の時代を生きる人には求められていると思います。

         毎日新聞は習近平国家主席の訪日でも疑わしいニュースを流したばかりですしね。
        ※返信が遅れて申し訳ございません。

    2. 山口 秀明 より:

      おはようございます。
      このニュースは初めて聴きました。デモも知りませんでした。しかし、メデイアの偏向報道というか、取材をせず動画の一部だけを見せて偏向的な報道をする事はいつもの事です。私達、一般市民は事実を知りたくて報道を観ているのです。いずれ真実が知れる時が来るでしょう。その時にメデイアはどう対応するのか?恐らく、何も言わないか?手の平を返した報道になるのか。私達、視聴者は監視して観たいと思います。

      1. 松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵 松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵 より:

        >>山口 秀明様

         このニュース、その後の情報も出ていて、やはりクルド人は際どい行為をしていたようです。

         毎日新聞、本当に恥ずかしい新聞だと思います。こうした報道をした後、どうなるか。まさに国民が監視して、メディアをただしていかないといけないと思います。あまりに無責任なメディアはマーケットから退場させるぐらいでないといけないと思っています。

        ※返信が遅れて申し訳ございませんでした。

    3. 報道しない自由 より:

      「六四天安門」の日を前に、突如として世界で巻き起こった反差別デモ。
      世界中ほぼ全ての先進国で不幸な奴隷制度の歴史があるのは事実。だが今、奴隷制度が現存してる国はないはず…ただ一国を除いては。
      黒人奴隷の歴史がほぼない(戦国時代に例外あり)日本では、「クルド人差別」に置き換えられてのプロパガンダの動きがあったわけですが、流石にあからさま過ぎたのか盛り上がりは欠いたようですね。だが日本では元々ほとんど「六四」の動きを報じることがなく、情けない限りです。
      チベットウイグルでは現在進行形で差別弾圧が横行し、それこそ異民族による奴隷以下の扱いを今この瞬間にも受けている人々が存在するわけです。中国共産党は「六四天安門」という書き込みに最も神経を尖らせていると言います。抗議運動が最も盛り上がるはずの日、日本ではクルド人差別デモの動きはほぼ不発に終わりましたが、世界中ではなぜか黒人差別抗議デモ一色となり、「六四」の報道はほとんど行われずじまいとなりました。

      ほとんど報道されませんが、アメリカでは破壊活動を扇動する連中を捕まえたら中国国旗を所持し中国語を話していたと言う情報も現地からはありました。彼らは孔子や孟子の教えを現代世界でも忠実に実行しているのでしょう。

      中国発の謎のウイルスはアジア人は全体的に死亡率が極めて低い。欧米では大量死。そしてウイルス禍が残る中「六四」の日に巻き起こるデモで煽られる政情不安。感染者もまた増えることは必至でしょう。とてつもない出来事が今世界を席巻していると感じます。

      https://twitter.com/mizuirokataomoi/status/1267599762536017920
      https://twitter.com/y3rrxuylnnyvzzr/status/1267962936036749313

      1. 松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵 松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵 より:

        >>報道しない自由様

         コメントをありがとうございます。
         横田滋さんが亡くなった後、「拉致問題進んでない」と政権批判をするメディアもあるぐらいで、理解に苦しむ報道が少なくありません。

         天安門事件、香港、チベット、ウイグルで中国がやっていることこそが民主主義、民族自決、自由への挑戦であると思います。トランプ大統領は真っ当な言動をしていると感じます。

         天安門に目を塞ぎ、「安倍政権打倒」とやっているメディアは、そのうち国民から見放されると感じています。

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