毎日新聞オフレコ破り 違法取材の系譜
松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵
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荒井勝喜首相秘書官が差別的な発言が原因で更迭されたのは、毎日新聞の”オフレコ”破りであった。同紙は荒井秘書官が更迭された2月4日の夜にオフレコ取材で得た情報を記事化した経緯を説明する記事を公開した。取材対象を騙し討ちして報道するのは毎日新聞の伝統と言ってもよい。
■オフレコの合意を一方的に破棄
荒井秘書官は2月3日夜にLGBTQなど性的少数者や同性婚のあり方を巡り、取材する記者団に「僕だって見るのも嫌だ。隣に住んでいるのもちょっと嫌だ」と発言した。
2月1日の衆院予算委で岸田総理が同性婚の合法化について「社会が変わっていく問題だ」と語ったことについて聞かれると、荒井秘書官は「社会に与える影響が大きい。マイナスだ。秘書官室もみんな反対する」「人権や価値観は尊重するが、同性婚を認めたら国を捨てる人が出てくる」などと発言したとされる(以上、毎日新聞電子版・首相秘書官、性的少数者や同性婚巡り差別発言、2023年2月6日閲覧)。
これはオフレコ取材でのものであり、それを毎日新聞が一方的に約束を破って公開したもの。同紙では2月4日にその経緯を紙面とサイトで紹介した。それによると、取材は録音や録画をせず、発言内容を実名で報じないオフレコが前提であり、平日はほぼ定例化していたという。その中で前述の発言があり、首相官邸キャップから東京本社政治部に報告がされた。
本社編集編成局で協議がなされ、「荒井氏の発言は同性婚制度の賛否にとどまらず、性的少数者を傷つける差別的な内容であり、岸田政権の中枢で政策立案に関わる首相秘書官がこうした人権意識を持っていることは重大な問題だと判断」するに至った。しかし、実名報道すると、オフレコの取り決めを破ることになるため、「荒井氏に実名で報道する旨を事前に伝えたうえで、3日午後11時前に記事をニュースサイトに掲載した」というものである(毎日新聞電子版・オフレコ取材報道の経緯 性的少数者傷つける発言「重大な問題」、2023年2月6日閲覧)。
■どこの世界でもあるオフレコ取材
この毎日新聞の判断には2つの大きな問題点がある。
(1)オフレコの約束を一方的に反故にしたこと
(2)秘書官の内心の問題を、一方的に断罪していること
オフレコ取材はどのような業界でも行われていると思われる。話したことを全て記事にされるのであれば何を報じられるか分からず、取材対象としては必然的に公の場で公式のコメントしかできなくなる。そうならないようにオフレコ取材が実施されることになる。取材者は正しく伝えられる、取材対象は正しく伝えてもらえるということで両者はwin-winの関係になる。そのために「オフレコ」という約束もしくは契約を交わし、取材対象は本音を語り、メディアは正面から聞いても答えてもらえない話を聞けるというメリットを享受するのである。
僕自身、競馬やサッカーの取材で「記事にしなければ言うけど…」というのは数多く経験した。たとえば、某有名騎手が調教師になってから銃刀法や違法薬物関連の法規に違反して逮捕、起訴された際にはJRA(日本中央競馬会)の審判部などを取材したが「オフレコで…」ということで貴重な情報を聞けた。
そこでJRAの事件に対する基本的な考えを分かっていただけに、公式発表や会見でのJRAの真意を容易に理解することができた。その者が競馬関与停止15年という異例の長期の処分となったことを単独スクープできたのも、オフレコ取材の成果の1つと言っていい。
オフレコ取材は媒体と取材対象の信頼関係の上に成り立つもので、報道の質を高めるのに役立ち、それは結果的に読者や視聴者、ひいては国民のためになる。ところが、毎日新聞は成立した合意を守れない、守らない媒体であった。秘書官に「オフレコで喋れば毎日新聞は実名で報じない」と誤信させ、決定的な言質を取ったら約束を反故にして実名で報じた。(いざとなったら実名で報じる)という思いを隠してオフレコ取材を持ちかけ、ここぞという時に実名報道する気でいたと言われても仕方がないし、実際、そうであったと思われる。
この手法はエストッペル(禁反言)のようなもの。これは「自らの言動によってある事実の存在を相手(荒井秘書官)に信じさせた者(毎日新聞)は、相手がそれを信じて自己の法律関係を変更した場合、その者に対して当該事実の不存在を主張できないとする原則」(民法 Ⅰ 第4版 総則・物権総論 内田貴 東京大学出版会 p187)と説明される(文中の()内は筆者)。つまり、「これオフレコね」という毎日新聞に乗せられて、つい喋りすぎてしまった秘書官に対し、毎日新聞はもはや「ここはやっぱりオフレコなしね」とは言えないということである。
エストッペルはもともと英米法の原則であるが、日本の民法にも例えば109条の表見代理などで活かされていると言われる。こうした行為で荒井氏を失職に追い込んだのであるから、毎日新聞の編集担当に是非、次の2点を聞きたい。
①今後もオフレコ取材を持ちかけますか
②オフレコ取材をした後で実名報道をする可能性はありますか
もし、②がノーなら、「今回は報じたのになぜ、以後は報じないのか、その理由を示せ」と聞きたいし、イエスなら、取材対象は2度と毎日新聞のオフレコ取材には応じない方がいい。
毎日新聞はオフレコ取材という極めて有効な情報収集手段を、一時の快楽(スクープ)のために放棄したと言っていい。約束を守らない点で記者として、法人として論外であり、有効な手段を1回の記事のために放棄する編集トップの判断もお粗末としか言いようがない。
■荒井秘書官の内心を裁く毎日新聞
(2)の荒井秘書官の内心の問題にも触れておこう。毎日新聞がオフレコ破りをした理由が「岸田政権の中枢で政策立案に関わる首相秘書官がこうした人権意識を持っていることは重大な問題だと判断」したからと説明する。つまり、荒井秘書官の思想・良心が良くないから、実名で報じて罰してやる、というわけである。
これも信じ難い。そもそも個人の内心は完全に自由であり、どんな思想を持とうが他者からあれこれ言われる筋合いはない。
【憲法19条】
思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。
憲法が保障する数ある権利の中で、100%保障されるのが内心の自由である。政府関係者であっても保障の対象であり、秘書官がどのような思想・信条をもって奉職しても、他者が文句を言える筋合いではない。仮に秘書官が総理と異なる思想・信条を有していて、それに反して仕事をするのは嫌だと思えば職を辞するのみ。自分の考えは考えとして持っていても、総理が目指す方向に向かって最大限の努力をするのが秘書官の務め。それは多くのサラリーマン、公務員なら経験したことがあるかもしれないし、その時は意に反しても、職務であれば当然のこととして行う者がほとんどであろう。
荒井秘書官は「総理の目指す政策の実現に向けて精一杯頑張る。でも、自分の考えは総理とは違うんだよね」というのは、それはそれで本音であろうし、国民の側も、そういうことはあり得ると思っているはず。それを毎日新聞はオフレコで聞き出して、「お前の考え方が悪い。やめろ」とばかりに報じたのである。一体、個人の権利を、憲法の人権保障をメディアとしてどう考えているのか、理解に苦しむ。
■実際にあった取材という名の犯罪
こうした毎日新聞の常識のなさは今に始まったことではない。いわゆる1971年(昭和46)の外務省機密電文漏洩事件では、同社の西山太吉記者が国家公務員法違反で懲役4月執行猶予1年の有罪判決を受け、確定している。
この事件は西山太吉が、外務省の既婚の女性事務官と不適切な性的関係を結び(酒に酔わせていかがわしい場所に連れ込んだとされる)、その上で外務省の秘密電文を提供させ、記事にしたという事件である。この卑劣な取材方法に最高裁は厳しい判断を示した。
「…取材の手段・方法が贈賄、脅迫、強要等の一般の刑罰法令に触れる行為を伴う場合は勿論、その手段・方法が一般の刑罰法令に触れないものであっても、…法秩序全体の精神に照らし社会観念上是認することのできない態様のものである場合にも、正当な取材活動の範囲を逸脱し違法性を帯びる。」(最高裁昭和53年5月31日決定)
この時はユルユルの国家公務員法違反のため執行猶予付きの判決で済んだが、今なら特定秘密保護法違反で実刑はほぼ確実の重罪である。
先ほどのエストッペルにせよ、思想・良心の自由への干渉にせよ、毎日新聞が下した判断とその報道は、最高裁が示した「法秩序全体の精神に照らし社会観念上是認することのできない態様のものである場合」に相当するように思う。
既婚女性と性的関係を結んで弱みにつけ込み情報提供させる、禁反言で相手を陥れる。これも毎日新聞の歴史の1ページであることを、多くの国民は認識すべきである。
》》ジャーナリスト松田様
エストッペル(禁反言)について分かりやすく解説して頂きありがとうございます。たしかに取材した記者と言うよりも、オフレコ取材を記事にして世間に知らせる判断をした事実。本社編集編成局、毎日新聞社と言うメディアの在り方を改めて認識した気がします。もちろん毎日にも優秀な記者や真っ当な社員やスタッフも多くいることは分かっています。その様な優れた人材は今こそ、今後の身の振り方を考えてみて頂きたいですね。
旧来メディアの衰退に危機感を感じる経営陣が、支持率が低下する岸田内閣の弱みに乗じて禁じ手を打った様にも感じます。
当然、大局的な信念からではないでしょうから、松田さんの2つの質問にも答えることは出来ないでしょうし、答える気もサラサラないでしょう(笑)。
もしかすると、毎日新聞はこうまでしないと経営がどうにもならない状況に陥っているのかもしれません。東海地区の夕刊を廃止していますし、朝刊部数200万部程度で国内支局、海外支局を維持するのはほぼ無理ではないかと思います。
それで禁断のオフレコ破りという毒饅頭に手を伸ばしてしまった、と。「毒饅頭」で歳がバレそうですが(笑)
多分、毎日新聞という紙の媒体は数年以内には消滅しているのではないかと予想しています。そういう時代と思います。
LGBT理解増進法
毎日新聞はチャンスと見てオフレコを無視したのである。
質問はそのチャンスを作り出すためのものだったのだ。
質問者の主体は不明であるがLGBT理解増進法に差別はゆるされないの文言を入れるか否かで紛糾し成立が停滞している状況を知らぬはずはない。
その目的は何か?以下の状況を作り出すためである。
>朝日新聞デジタル。2023年2月9日 6時50分
>首相秘書官による性的少数者への差別発言を受け、自民党が党内調整の難航を理由>に後ろ向きだった「LGBT理解増進法案」の議論を再開する。
荒井勝喜秘書官はハメられたのである。
毎日新聞は左翼、ファシスト陣営のマスコミである。
ご返信は不要です。
たまたま読みました。松田さんが受けたJRAのオフレコは単独でしょう? 荒井は記者団が集まったところで「オレが言うのはオフレコだからな。分かっているんだろうな」ぐらいの上から目線で皆に縛りをかけて、とうとうと政権の意向と思えるようなことをしゃべったんじゃないでしょうか? その辺りでオフレコの意味合いが違うような気がします。 今回のオフレコの集まりの形、記者クラブなのか?も在り方がいろいろ言われていますけど。
どこかで、誤解があったらお許しを
誤解されていますし、合理性に欠く推論です。考えただけでそれは分かります。
>>上から目線で皆に縛りをかけて、とうとうと政権の意向と思えるようなことをしゃべったんじゃないでしょうか?
報じられているところでは、週に2回、定例のオフレコ会談が設けられており、その中での出来事だったそうです。取材対象が上から目線でオフレコ宣言して報じられたくないことを言うなら、最初から取材に応じなければいい話です。わざわざそんなことをする必要はありません。それは分かりますよね?
そして、どんな事情があるにせよ、オフレコ取材で両者の合意が成立している中で、一方的にそうした一種の契約を解除するのは道義的責任は免れませんし、当然法的根拠もありません。民法の解除の規定を見ればそれは分かるでしょう。オフレコ取材で「とうとう政権の意向と思えるようなことをしゃべった」らどうしてオフレコを破っていいのですか?
全く意味不明のコメントです。