日刊スポーツの歴史に残る社長解任劇(3)三浦氏がハマった首切りパターン

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松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

青山学院大学大学院法務研究科卒業。1985年から2014年まで日刊スポーツ新聞社に勤務。退職後にフリーランスのジャーナリストとして活動を開始。

 2011年6月28日、日刊スポーツ新聞社の三浦基裕社長が事実上解任された定時株主総会から遡ること9か月、2010年9月6日(月)、僕は三浦氏と直接、話す機会を得た。この時にその後の解任に繋がる予兆を僕なりに感じたので紹介しよう。

■定例の「社長を囲む会」に参加

三浦氏は首切りパターンに嵌ったのか

 2009年に日刊スポーツ新聞社の社長に就任した三浦氏は末端の社員の声を聞きたいという趣旨から「社長を囲む会」を1か月に1回程度の頻度で定期的に開催していた。これは社員の中で希望者数人が社長室を訪れて話をするというもの。特に話題は指定されておらず、自由な議論をすることになっていた。川田員之会長の「会長を囲む会」も同時に開催されていた。

 僕はこの「社長を囲む会」に参加希望を出し9月6日に本社7階の社長室に行くことになった。別に三浦氏と話がしたいわけではない。当時、僕は青山学院大学大学院に在籍中で、卒業間近であったその時期、勉強に専念したいという理由から半年ほど休職する希望を持っていた。しかし、過去に日刊スポーツにそのような理由で休職した者はいない。僕の直属の部長も「何とかしてやりたいが、オレがどうこうできる問題じゃない」と言って頭を抱えてしまう状況であった。そこで僕が「社長を囲む会に出て、直接、社長に聞いてみましょうか?」と提案し、部長も「是非、そうしてくれ」というので参加することになったのである。

■川田会長を嘲(あざけ)る発言に唖然

 参加者は僕を入れて4、5人であったように記憶している。社長と直接1時間から2時間話を出来るのであるから、僕以外の参加者は張り切っているように見えた。別に悪いことではない。サラリーマンなら当然であろう。妙な色気のない僕はひたすら聞き役で一言も発せず、会の終盤、話が途切れた時に休職の話を持ち出した。社長はその時、前向きな回答をしたので嬉しかったが、僕がこの日、喋ったのはその時だけである。

 会はビールも出され、2時間ほどで終了。参加者で後片付けをして部屋を出る前に、三浦社長は参加者に向かって、こう切り出した。

三浦お前ら、会長を囲む会にも出てやれよ。俺の方にばかり人が集まって、川田さんの方が全然参加者がいないんだよ。それで川田さんが妬んでさ。大変なんだよ、これでも。

 社長のジョークだと思ったのか参加者はドッと笑った。僕以外は。参加者の一人が「会長は何か話しにくそうで」と言うと、「いや、そんなことないから。冗談抜きで頼むよ、参加希望出しておいてくれよ」と笑いながら言った。参加者は「分かりました」などと言って会はお開きになった。

■日刊スポーツ社長は”雇われマダム”?

 帰りの電車の中で僕は三浦氏の最後の言葉が頭から離れなかった。僕は会社法はあまり得意ではなかったが、支配株主と取締役の関係がどのようなものかぐらいはロー・スクールにいる人間ならすぐに分かる。川田会長は株式の過半数を持っているのだから、三浦氏をいつでも解任できる(会社法339条1項)のである。

 オーナーの川田員之氏との関係で見れば、社長は雇われマダムのようなもので、川田氏の機嫌を損ねればすぐにクビを切られる立場。それを三浦氏は自分は川田氏と同格であるとでも感じているのか、「会長を囲む会にも出てやれ」と見下ろす発言をしたのである。

 (三浦氏は自分の置かれている立場が分かっているのだろうか)と不思議に思えたし、おそらく社長という立場に就いて自分自身を客観的に見られなくなっているに違いないと僕には思えた。過去に日刊スポーツでは多くのプロパーが取締役、時には代表取締役になったが、その末路は悲惨な例が少なくない。解任されて追放された者もいれば、追放は免れたが相談役という名目で報酬は3分の1程度にされた例もあった。彼らに概ね共通するのは、(自分は偉くなったんだ)と思うのか、人を人と思わなくなるような振る舞い、言動をしがちなことである。

 自分の置かれた立場を理解できない人間に会社の経営を任せるのは危険である。判断力の乏しい人間に重要な判断を任せれば、会社が傾きかねない。プロパーの取締役が切られるのは、オーナーサイドの会社の防衛手段という側面があるのだと思う。

 (三浦さんも、クビを切られるパターンに嵌ってきている)

 僕は電車に揺られながらそんなことを思っていた。それが9か月後に現実のものになるとまでは予想できなかったが。(第4回に続く)

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