台湾版Go To Eat 独身日本人男性にも恩恵
葛西 健二🇯🇵 @台北 Taipei🇹🇼
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新型コロナウイルスの封じ込めに一定の成果を挙げている台湾では、ダメージを受けた経済の活性化を図るため、7月1日から「振興三倍券」の予約発行を開始しました。日本ではGo To Eatキャンペーンを利用した「無限くら寿司」や「トリキ錬金術」が話題になっています。台湾の三倍券はそうした”裏技”はありませんが、かなりお得なのは間違いありません。ただし、台湾人と結婚していない在留外国人は対象外となっていたことが問題になりました。
■1000億円以上の資金が消費市場に流入
振興”三倍”券は1000元(約3600円)で3000元(約1万800円)分、使えるクーポン券を取得できる、まさに価格の”3倍”の価値があるチケットです。使用可能期限は2020年7月15日から2020年12月31日まで。
購入予約受け付けは7月1日から始まり、1週間余りで全人口の半数近い1000万人が購入と、台湾の人々から高い関心で受け入れられました。1000万人が3600円を支払えば360億円。これにプラスして720億円分の消費が生まれるため、合計1080億円が小売市場に流入することになります。”コロナ冷え”した経済へのテコ入れ策として期待されています。
購入資格は中華民国国籍を持つ国民と、在留資格(居留証)を持つ外国籍配偶者です。10月29日現在購入者は2289万人、購入資格保持者の実に96.1%が購入を完了しています。
消費拡大策として導入された振興三倍券は、台湾の経済活性化に貢献しているようです。しかし購入資格を持たない外国籍の人たちからは、疑問の声が挙がりました。
■予約殺到の振興三倍券 初日に170万人
振興三倍券は、紙とデジタルの2種類。紙の振興券は額面200元(約720円)と500元(約1800円)の二種類で合計3000元です。クーポン券予約は「振興三倍券」の公式ウェブサイト、コンビニエンスストア、郵便局にて行われました。このうち公式ウェブサイトでは初日に予約が殺到、当日の予約者数は170万人に達する人気でした。
コンビニエンスストアでは、各店内備え付けの情報端末器にICチップ付きの健康保険カードを挿入し予約操作を行います。健康保険カードを利用した予約システムは本年2月から施行されたコンビニエンスストアの端末機器を使用した「国民マスク購入システム」を活かしたもので、より解りやすくなったインターフェイスと迅速な処理により、スムーズな予約ができました。
公式ウェブサイトとコンビニエンスストアは8月に予約受付終了、現在は郵便局のみ販売を行っています。郵便局の貯金カウンターへ1000元を持って行くと直接3000元分の紙の振興券を受け取ることができます(經濟日報2020年8月5日)。
■振興券使用対応サービスで売上増加
小売業界では振興三倍券の使用に割引サービスなどをつけ、売り上げの増加に努めています。コンビニエンスストアの振興券対象キャンペーンでは指定期間中に紙の振興券3000元を額面4000元相当の特別カード(使用期限2020年12月31日)と交換、このカードでは店内での買い物や公共料金支払いも可能、実質「四倍券」ということで人気を集めました。百貨店では購入時の振興券使用で1割から3割の割引、中には振興券3000元使用で3000元分のギフトカードプレゼントといった大判振る舞いの百貨店もありました(食尚玩家2020年7月17日)。
それ以外の店舗や施設でもサービスはあります。目についたところを列挙します。
★大手スーパー:振興券1000元以上使用で提携する飲食店やホテル、フィットネスクラブでの使用が可能になるクーポン券をプレゼント
★ドラッグストア:振興券使用で全商品15%割引。
★ガソリンスタンド:500元以上の給油での振興券使用で台湾各地の指定ホテル半額優待。
★飲食店:振興券を対象とした割引サービス
★大手ホテル:振興券3000元と宿泊補助(国内旅行対象の補助Go toトラベルのようなもの)1000元の4000元で、部屋が無料、さらに次回の宿泊1000元割引。
(好康情報誌2020年7月7日、14日、30日、三立新聞網2020年7月6日から)
お得な「三倍券」と割引キャンペーンによって台湾の人々の消費意欲は高まりました。経済部の統計では、小売業界8月の売り上げは先月比12.6%増減、中でも百貨店は約14%の増加となりました(放新聞2020年8月25日)。
その他の業種でもコロナウイルス禍の衝撃が大きかった2020年上半期と比べ業績は着実に上昇しています。経済部は、12月31日の期限までに約1000億元(約3600億円)のビジネスチャンスが生み出されるとの見方を示しています(數位時代2020年10月29日)。
■外国籍のビザ所有者からの声と政府の対応
今回の振興券購入資格保持者の条件は、中華民国国籍を持つ国民と、在留資格(居留証)を持つ外国籍配偶者です。外国籍で在留資格(居留証)を持つ者であっても、中華民国国籍の配偶者がいない場合は購入できません。台湾で働き台湾の人々と同じく税金を納めている居留証取得済みの外国人の中にはこのことに疑問を持つ人も少なからずいました。
特に「永久居留証(連続居留年数が5年以上の外国人が取得できる永久居留権)」を有する外国籍の人々は合点がいかないようで、在台歴15年で永久居留証保持者のドイツ国籍の独身の友人は、昨年末に台湾の女性と結婚した同じ職場のアメリカ人が振興券を購入できたことに納得がいかないようで、会う度に本気半分冗談半分に「税金返せ」と愚痴っていました。
また長年台湾に住み永久居留証を有し、少なくない額の税金を納めている複数の日本籍の友人からも同様に「納得いかない」との声が挙がっていました。そのうちの一人、Aさんは在台15年、独身を貫いてきた日本人男性ですが、郵便局の窓口で資格条件が「配偶者」であることを知りショックを受け、後日沈んだ声で「結婚しようかな」とつぶやいていました。
■10月30日 購入資格拡大を発表
この購入資格に関しては振興券策発表直後から指摘されており、台湾の欧州在台商務協会理事長は6月12日に「外国人も台湾国民と同じく働き税金を納めているのだから同様の待遇を受けられるようにするべき」と発言しています(經濟日報 2020年6月20日)。また東南アジア出身の人たちからも外国籍労働者の貢献を過小評価しているといった声が挙がっていたようです。
私も「台湾国内の消費促進目的であるなら、国内にいる者は全て対象にならないのか」と疑問に感じていました。「対象を配偶者に限定したのは購入資格を判断する際にわかりやすいからか」と考えていました。
10月30日経済部は、振興券の購入資格者に「永久居留証を有する外国籍の者」を加えることを発表しました。これが外国籍の人々の声に対応したものかどうかは分かりませんが、独身外国人にはありがたいことなのはまちがいありません。台湾には約1万人の永久居留証外国籍者がいます(中央通訊社 2020年10月30日)。全人口から見れば僅かな人数ですが、少なからず経済の刺激につながるはずです。
何より、台湾に長年居留している台灣化(タイワナイズされた長期台湾在住者を指す言葉。好意的に使われます)した外国人にとって少しでも台湾経済に貢献できるのは喜ばしいことではないでしょうか。
これによって、Aさんは「三倍券がほしいから、結婚してください」と台湾女性にプロポーズして張り倒されることはなくなったわけです。日台友好万歳(笑)。