Netflixに吹き飛ばされた日テレ WBCで見えた現在地
松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵
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ワールドベースボールクラシック(WBC)2026は日本のメディアのあり方を決定的に変える大会となった。有料動画サービスNetflixが独占配信権を獲得し、地上波でも衛星放送でも、テレビでの中継は一切行われない。重要なスポーツ大会は日本のテレビ局にとってもはや高嶺の花となり、メディアの王としての地位をネットに譲る象徴的な出来事となった。
◾️CM1本1913万円で売れる?
今回のWBCは、およそ150億円でNetflixが独占配信権を獲得したと各種媒体で報じられている。前回大会の約30億円からおよそ5倍という高騰である。日本テレビは当初、放送を予定していたとされるが、150億円という金額ではとてもではないが採算が合わない。
テレビ中継があるとすれば、日本戦だけと考えられるため、そうなると1次ラウンドの4試合と、準々決勝ラウンドの3試合。日本が幸運にも決勝まで勝ち進んでも合計で7試合しかない。日本が絡む7戦だけの放映権を売ってくれという交渉であれば、150億円ということはないと思われるが、主催者であるWBCインクとしては、7戦だけ買う媒体より、全47戦まとめて買ってくれる方を優先的に選ぶのは当然。
仮に日本テレビが150億円で買ったとし、その金額を放送時のCMでカバーすることになる。イニングの合間に2分のCMを挟んで18分。試合前後に5分ずつ枠を確保して合計28分。これが7試合あるとして196分となる。その場合、15秒のCMを784本挿入することができる。150億円を784本で割ると、15秒のCM1本で1913万円という価格設定となり、この金額以下だと赤字になる。
キー局のCMの相場はゴールデンタイムで100万円から高くても400万円程度とされる。いかに視聴率が稼げると言っても1913万円を784本も集めるのは至難の業。しかも、これが日本が決勝まで行ければという話である。さすがに1次ラウンドで消えることは考えにくいが、準々決勝ではベネズエラかドミニカ共和国が相手となる可能性があり、負けても不思議はない。
これに中継のためのコストがかかる。NetflixがWBCインクに150億円のオファーをした段階で日本テレビは圏外に去ったと言えるのではないか。
◾️下請け会社となった日本テレビ
こうしてNetflixが全試合の放映権を獲得したが、同社には野球中継のノウハウがない。そのため、日本テレビが制作を請け負うことになった。これまでキー局は番組制作を制作会社に下請けに出していたが、今度は巨大資本のNetflixの下請けとして番組制作を任されるという屈辱的な地位に置かれたのである。
「もちろん、自らが中継制作をして放送したいという気持ちは強くありますので、今後これでいいということは一切ありません」「下請けのように見えるかもしれませんけれども、WBC、少なくとも日本中が注目する野球の試合の中継制作を担当するわけですから、これはプライドを持って臨む仕事だと思っています。自ら進んで仕事をさせていただきます」(デイリースポーツ電子版・日テレ社長、ネトフリから中継制作受託のWBC「下請けのように見えるかもしれませんが」「プライド持って臨む」)と同社の福田博之社長は記者会見で語ったが、その内容から、まさに日本のテレビ局がグローバル巨大資本には抗し得ないことを宣言したに等しい。
そもそも日本テレビとNetflixでは企業規模に大きな差がある。日本テレビホールディングス株式会社の2025年3月期の営業利益は549億1700万円(同社決算短信から)であるのに対して、Netflixの2025年の営業利益は133億2700万ドル(約2兆0657億円=1ドルを155円で計算)であるから、およそ37倍となる(同社決算概略から)。
巨額に膨れ上がったコンテンツの放映権・配信権の争いにおいて最初から勝負にならないのは明らかで、厳しい言い方になるが、日本テレビはNetflixの下請け会社として、長年NPBの中継を続けて培ったノウハウを活用できるのを光栄と思った方がいい。彼我の資本の違いを見れば、今後も同様のことは続くと思われる。WBCの人気が続く限り、日本のテレビが放映権を獲得する可能性は低いままであろう。
◾️メディアの寡占体制が崩れた
Netflixは日本のテレビ局に対して、獲得した配信権を最大限に利用している。7日のTBSの「情報7daysニュースキャスター」で、安住紳一郎アナが、試合終了から30分ぐらいして映像の配信を受け、それを3分以内に編集して伝えられる事情を明らかにした(デイリースポーツ電子版・「Nキャス」安住アナ、TV放送できないWBC裏事情→試合30分後に映像もらえる→編集して1番組3分以内と説明 三谷幸喜氏「めんどくせ!」に苦笑)。
Netflixにすれば、日本のテレビ局に義理立てする必要などなく、自社の配信に影響を与えないように、試合終了までは映像を使用させない措置を取っている。これが契約の世界の現実。「日本人は大谷選手の活躍を見たがってるから」「ネットに縁がない人のために、映像を見せてあげたいから」と情に訴えても、グローバル巨大資本は「それなら、ウチと契約してください」と答えるだけである。
これまで五輪などの映像付きの放送はテレビ局しか扱える企業がなかった。そのため、放映権をあまりに高額に設定すると、その国では放送がされなくなる可能性があり、実際の価値に見合わない金額で主催者(IOC等)が契約をしていた側面があったものと思われる。
それがNetflix、DAZN、Amazonプライムなどの登場によりテレビによる寡占状況が崩れ、主催者はテレビ以外の選択肢を持てるようになった。配信権、放映権を価値に見合っていると思える金額に設定し、「嫌なら放送しなくていいよ」と言える立場になったのである。
テレビは長くメディアの王として君臨してきた。しかし、グローバルなプラットフォームの巨大資本の前にはなす術もなく、王座から転落してしまった。見たい番組を見るためにはモニターの前にいなければならないという制約の多いデバイスは、スマホでいつでもどこでも見られるデバイスを相手に分が悪い。
昨今の若い層のテレビ離れを加味すれば、テレビはもはやセカンドレートの媒体という位置付けであることを認識すべきである。







