劇場集団感染に沈黙する野田秀樹氏

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松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

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青山学院大学大学院法務研究科卒業。1985年から2014年まで日刊スポーツ新聞社に勤務。退職後にフリーランスのジャーナリストとして活動を開始。
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 新宿シアターモリエール(東京都新宿区)で発生した新型コロナウイルスの集団感染で、イベントの主催会社が7月27日、事実経緯を発表した。感染防止に対して緩すぎる対応に終始した意識の低さには驚かされるが、3月に「公演中止で本当に良いのか」という文書を発表した劇作家・演出家の野田秀樹氏がこの件に沈黙を守っていることに違和感を覚える人は少なくないのではないか。

■新宿の劇場で75名の集団感染

集団感染が発生した新宿(写真は本文とは関係ありません)

 舞台「THE★JINRO-イケメン人狼アイドルは誰だ!!-」は6月30日から7月5日まで上演され、多数の感染者を出した。主催した株式会社ライズコミュニケーションは「事実経緯報告書」と題する報告をHPで公開、そこで陽性確認者は出演者、スタッフ、公演関係者、観覧者で75名(7月24日現在)に及ぶことを明らかにしている。

 報告書を読むと、密閉された空間で多数の人が集う公演、最も強力な感染予防対策が講じられるべきであるのに、かなり緩い対応をしている事が分かる。

①最前列の観覧者にフェイスシールドの着用をお願いしたが、強いクレームを受け、大多数の観覧者が着用しなかった。

②一部の公演で禁止していた出待ちをする観覧者が10名ほどいた。一部の公演では会場外のスタッフの目の届かないところで出演者に近づいた観覧者が数名いた。

 特に信じ難いのは①である。主催者サイドの要請が聞き入れられないのであれば、観覧させない措置をとるのは当然。それを「強いクレーム」を受けて着用せずに観覧させたというのであるから、何のための感染防止策なのか。その時点で、劇場内の人々を危険な状態に晒すことを理解していないと考えざるを得ない。

 その点について同社は「観覧者の方から強いクレームが入り、結果的に、大多数の観覧者が着用されていない状況でありました。そのため、理解を得られるようにさらに説得を行うことや、従っていただけない場合、入場制限又は退場等の措置をとることが考えられます。」と報告書に記載している。「渇して井を穿つ」の類を堂々とHPに記載する神経には驚かされる。

 これについて「一部の心無いファンの責任である」という反対意見も出そうである。しかし、劇場公演に限らず、スポーツ観戦でも他のイベントでも主催者の管理に従わない人間は出るもの。それに対して管理の目的を説明し、従わせる、従わなければ観戦・観覧を認めない厳しい措置をとるのが主催者に課せられた使命である。

 しかも本件では観覧者は100名にも満たない少人数で、ルール違反者の特定とその解消措置をとることは容易にできたはず。それが観覧者からの強いクレームの前にあっさりとルームを曲げてしまうのでは、もはや主催者としての資質の問題と言っていい。

■野田秀樹氏の3月1日の意見書

 3月1日、劇作家・演出家の野田秀樹氏が「公演中止で本当に良いのか」という文書を発表した。ここで野田氏は以下のように述べた。

★一演劇人として劇場公演の継続を望む意見表明をいたします。感染症の専門家と協議して考えられる対策を十全に施し、観客の理解を得ることを前提とした上で、予定される公演は実施されるべきと考えます。

★感染症が撲滅されるべきであることには何の異議申し立てするつもりはありません。けれども劇場閉鎖の悪しき前例をつくってはなりません。

★劇場公演の中止は、考えうる限りの手を尽くした上での、最後の最後の苦渋の決断であるべきです。

 これに対して多くの人が批判を浴びせたのは記憶に新しい。当サイトでも「野田秀樹氏 自助努力なしに『我々だけ認めて』の身勝手な意見書」として厳しく責めたので、ご覧になった方もいると思う。

■人として信用されるようになってほしい

 野田氏は3月1日に「公演は実施されるべき」としたが、実際に実施していたら、今回のような件が起きていたことは十分に想像できる。野田氏の劇団はそのようなことがないのかもしれないが、実際に「THE★JINRO」の主催者のような会社も存在する。

 野田氏は公演の続行を「観客の理解を得ることを前提とした上で、」としていたが、その前提を守れない観客がいて、それを是正できない主催者による劇場公演を誰が認めるというのか。

 3月1日以降、野田氏はこの件で沈黙を守っている。一演劇人としての発言は、都合が悪くなると発言をなかったことにするのであろうか。言論は自由だが責任を伴う。「その後の状況を見ると、私の意見は感染拡大防止の観点から現実性を欠き、選択肢として取り得ないものであった」と言うのが責任ある大人のすべきことであろう。

 野田氏は演劇人としては優れた人なのかもしれない。しかし、それ以前に人としての責任を果たし、社会から信用される人間になってほしいと切に願うものである。

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