中共の環境外交攻勢に警戒をー国を売る「愚か者」

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石井 孝明🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

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経済・環境ジャーナリスト。慶應義塾大学経済学部卒、時事通信社記者、経済誌フィナンシャルジャパン副編集長、アゴラ研究所の運営するエネルギー問題のサイトGEPRの編集担当を経て、ジャーナリストとエネルギー・経済問題を中心に執筆活動を行う。著書に「京都議定書は実現できるのかーC O2規制社会のゆくえ」(平凡社)、「気分のエコでは救えない」(日刊工業新聞社)など。
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「最後に利益を得る者が犯人」か?

「中国共産党政権が、騒ぎの結果として利益を得る」

 最近、日本政府や企業を攻撃する大騒ぎの後で、結果を見るとこんな風に感じることが増えていないだろうか。

 東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長・元首相が2月12日、女性蔑視発言をしたとされ、批判を受けて辞任に追い込まれた。後任は14日時点で決まらない。コロナ禍で先行きが見通せない東京オリンピックが、さらに不透明になった。もちろん森氏の女性蔑視と取られかねない発言は批判されて当然だろうが、ここまでの混乱が必要だったのだろうか。

 これも中国の共産党政権(以下、中国、そして中国人と分けるために中共という)の利益になる。東京オリンピックが潰れ、2022年に開催予定の北京冬季オリンピックが成功すれば、後者の存在がより重くなり中共の国威が発揚できる。そしてコロナからの回復をPRできる。日本が失敗すれば、潰れたメンツと損害賠償問題がのしかかる。中共がアジアの覇権獲得を目指すときに、最大の敵は日本だ。

 私が専門とする安全保障とエネルギーの分野でもおかしなことが多い。日本攻撃の騒動と結果を要約してみよう。

▶︎安倍首相への批判と病気辞職

→中共のアジア侵略、南シナ海での動きの活発化。

▶︎沖縄の反基地運動

→辺野古の米軍基地建設の遅れ。この間に南シナ海を中国が占拠し、要塞化。日米同盟の妨害。

▶︎反原発運動

→日本の原子力産業の10年の低迷。その間の中国の原子力産業の急成長。

▶︎再生可能エネルギーの振興

→中国資本による日本での大規模発電。中国製太陽光パネルの販売拡大。

▶︎コロナ対策での中国の防疫体制への賛美

→この感染症が中国の武漢で発生し、中共の隠蔽と対応の遅れで世界に拡散した事実を強調しない。

▶︎日本の核燃料のエネルギーサイクルを、プルトニウムが貯まると批判。また核禁止条約を日本が加入しないことの批判。

→中共がこの問題で日本を国連で批判。しかし賛成する日本のNPOは中共の核兵器を批判しない。

▶︎日本の環境政策批判。その中の原子力、石炭火力や石油化学コンビナート輸出への批判(日本は世界最高の技術水準を持つにもかかわらず)

→中共が一帯一路政策とアジアインフラ投資銀行(AIIB)の融資を連動させ、インフラ、原子力発電所の輸出を推進。

 私は陰謀論に加担するつもりもないし、中共が全てをコントロールしているとも思えないが、どれも不気味で不思議な動きだ。推理小説では「最後に利益を得る者が犯人だ」という法則があるとされる。一連の反日運動は、最後に中共が利益を得ている。

こうした反日活動を推進する政治運動を探ったことがある。外国人の関係する組織に突き当たることもあるが、そこから先の資金の流れや指揮命令系統はなかなか見えない。

 そして環境問題でも不気味な動きがある。中国が国際環境NPOと協力し、環境外交で存在感を増しているのだ。

350億円、中国系機関が西側団体を支援

「紅と緑―中国の役立つ愚か者」(GEPW)の表紙から

 中共は、人権侵害、国内外縁部のウイグルやモンゴル族など少数民族への弾圧、対外侵略行為など、危険な行動を繰り返し、平和への脅威であるという世界の共通認識ができつつある。それにもかかわらず、見て見ぬふりをしている人たちがいる。日本では反政府活動家らが中共に親近感を寄せるが、世界では環境運動家が目立つ。

 トランプ前米大統領は中共を人権問題で批判した。一方、同大統領は温暖化抑制の国際的取り決めであるパリ協定を2017年に脱退を表明した。中共はその頃から、「環境」を外交で強調し始めた。もともと、毛沢東の統治時代から、第三世界諸国との関係は強かったが、環境と経済援助を絡めて、外交で存在感をましている。中共がしたたかなのは、負担が自国に加わりそうになると「中国は発展途上国」と主張し、ルール作りや新技術共有になると「中国は責任を果たす」と立場を使い分ける。

 中共は、確かに環境やエネルギーの新技術の導入や研究に積極的だ。国内の大気汚染問題やエネルギー安全保障のために、再生可能エネルギーの導入を積極的に行なっている。しかし化石燃料中心のエネルギーシステムの転換は遅い。農村部などでは、暖房や厨房用の火力は石炭が中心。産業界のエネルギー効率の悪さもなかなか改善していない。そうした事実を無視して、中共を賛美する人たちがいる。

 英国の気候変動シンクタンクのGEPWが2020年12月に「紅と緑―中国の役立つ愚か者」(The Red and Green-China’s Useful Idiots

という報告書を出した。欧米政府を批判する過激な環境NPOと中国の協力関係を報告したものだ。

 これらの団体は、最上級の賛辞を使って、中共の環境政策を称賛しつづけている。

▶︎グリーンピース

「持続可能性を優先したことは、世界における中国の遺産を確固としたものにするであろう」(2017年5月、気候変動ニュースレターで)

▶︎世界自然保護基金(WWF)

「習主席が発表した新たな目標は、世界の温暖化対策を一層強化することについての、中国の揺るぎない支持と断固とした措置を反映している」(2020年9月、人民日報の取材に寄せたコメント)

環境活動家のグレタ・トゥーンベリさん(The Babylon Beeより)

▶︎天然資源保護評議会(NRDC)のバーバラ・フィナモア氏

『中国は地球を救うか』(2020年)との本を発刊し中共の環境対策を賞賛。

▶︎最近話題の環境活動家グレタ・トゥーンベリさん

中共の環境問題も人権問題も批判しない。(「地球少女グレタさんは、なぜ中国に怒らないのか」)

 上記の団体に中共から資金提供が行われているとは、この報告には書いていない。しかし米国を中心とした西側のNPOやシンクタンクへの資金提供の動きが記されている。「中国エネルギー基金」は、米サンフランシスコを拠点に欧米で活動している。そこの寄付総額は、これまで3億3000万ドル(350億円、期間は同報告に記載されず)の巨額で、米国の有力シンクタンクやNPOに、10億円規模の寄付と研究支援を提供しているという。

 外交面で、諸外国から非難を浴び続けている中国にとって、声の大きい、環境運動家が、賞賛を惜しまないことは、貴重な外交的得点になっている。だからこそ、中国は欧米のNPO、環境運動家を喜んで支援している。

「使える愚か者」の行動に警戒を

 中共の影響、資金の流れは、日本では影は見えるものの明確に確認されていない。しかし、日本にある程度の中共の政治工作資金が流れ、工作が行われていることは、ほぼ確実であろう。

 中共から、直接、間接に、支援を受けてお金をもらう人は黙っている。そのために、こうした問題はどの国でもなかなか表に出づらく、記者個人ではスラップ訴訟などで威嚇されるので調査ができない。さらに日本では、米国のような公的機関の情報開示義務が少なくたどれない。また毎日新聞が中国の人民日報の広告記事を出すなど、既存メディアも中国と親密な関係を作っている。その全貌は分かりづらい。

 だからこそ国益を損じる外国の謀略への警戒を、私たち普通の市民が警戒しなければならない。今後、環境・エネルギー・原子力問題で、中共が外交攻勢を日本に仕掛けてくるだろう。それに賛同して日本政府を攻撃し、中共の利益を導く人たちが増えるはずだ。

 特に環境問題は、世論が受け入れやすい問題だ。外交交渉では「リンケージ」という、複数の議題を混ぜて合意をする交渉手法がある。したたかな中共が環境をテコに、日本の官民からさまざまな譲歩を引き出すことは十分あり得る。

 ちなみに前述の報告書の「使える愚か者(Useful Idiot)」とは、ロシア革命を成功させた共産主義者レーニンの言葉だ。「自国を売り、ソ連に利益を与え、結局自分が損をする売国奴の外国人」や、「共産主義者では無いのに、本人も無自覚の内にコントロールされて共産主義者の役に立ってしまう外国人」のことを「使える愚か者」と言った。

 共産主義の独裁者であるスターリンや毛沢東の伝記を読むと、彼らはレーニンと同じような発言をしていた。いつの時代にも共産主義には同調する愚かな人がいるが、それを共産主義者はしたたかに利用する。共産主義がダメなこと21世紀に明らかなのに、いまだにそれを信じてか、共感するのか、協力する「愚か者」がいるのは不思議だ。

 日本でも中共の環境対策、さらに中共をやたらと持ち上げる人や情報がある。日本の国益のために、そうしたものを発する「使える愚か者」を警戒し、行動できなくさせたい。

(筆者注・この文章はキヤノングローバル戦略研究所の杉山大志研究主幹「環境運動家は中国共産党の「使える愚か者(useful idiots)」なのか」を参考にした。感謝を申し上げたい)

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