地球少女グレタさんは、なぜ中国に怒らないのか?

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石井 孝明🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

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経済・環境ジャーナリスト。慶應義塾大学経済学部卒、時事通信社記者、経済誌フィナンシャルジャパン副編集長、アゴラ研究所の運営するエネルギー問題のサイトGEPRの編集担当を経て、ジャーナリストとエネルギー・経済問題を中心に執筆活動を行う。著書に「京都議定書は実現できるのかーC O2規制社会のゆくえ」(平凡社)、「気分のエコでは救えない」(日刊工業新聞社)など。
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ー「責難は成事にあらず」、正しい温暖化対策を考えるー

1・「誰が言った」ではなく「何を言った」で検証を

グレタ・トゥーンベリ(自身のフェイスブックから)

 地球環境問題で、グレタ・トゥーンベリさんというスウェーデンの17歳の少女がヒロインになっている。彼女は2018年から自国の国会前に、学校を休んで温暖化問題への対応を求めて座り込んだ。なぜか彼女は祭り上げられ、さまざまなキャンペーンの先頭に立ち、欧米の主要メディアに登場し、2019年に米国のニューヨークの国連気候変動サミットで、各国の首脳を前にスピーチを行った。

 グレタさんは抗議活動以外に、何かを成し遂げたわけではない。そして、その発言や行動を見ると不可解なことばかりだ。彼女は大西洋をヨットで横断し、さまざまなキャンペーンに寄付をするなど、活動のための潤沢な資金を使っている。その出所は不明だ。そして米国に今年5月に起こった暴動で、トランプ大統領がテロ行為をしたと主張している極左集団アンティーファ(Antifa)のロゴマーク入りのシャツを着ている写真がある。

 さらに彼女の主張の内容もおかしな点が多い。彼女の国連気候変動サミットでの演説を見てみよう。(N H K:グレタさん演説全文「裏切るなら許さない」涙の訴え

 要約すると、内容は活動家が使ういつもの論法だ。

【問題の単純化】複雑な気候変動問題を、強い規制で解決できると主張している。

【敵を作り、自分を正義の立場に置く】「あなたたちを許さない」と大人たちを叱責している。トランプ米大統領と米国の産業界には特に厳しい。

【実現性の低い極端な政策を主張する】温暖化防止対策で「解決策や計画は全くありません」と批判し、2017年に結ばれた対策「パリ合意」を無視した。そして、その主張はアンチビジネスだ。

【事実ではなく感情に訴える】気候変動により「地球が滅びる」「大量絶滅が始まった」としている。また彼女の発言はいずれも非常に感情的だ。スウェーデン人の彼女にとって英語は母語ではないはずなのに、演説では珍しい英語の罵倒語が散りばめられている。

【具体策、実行プロセスなし。政治家頼み】主張には、実行までの具体性がない。そして実現は政治家頼みだ。

2・グレタ式アプローチで失敗した気候変動の枠組みづくり

 実は気候変動をめぐる1980年代からの国際規制では、グレタさんが望むようなアプローチはすでに行われた。そしてすでに失敗している。

 1997年に決まった京都議定書では、各国が温室効果ガスの削減数値目標を作って、ギリギリ締め上げようという国際体制を作ろうとした。律義に削減努力をしたのは、滑稽なことに日本ぐらいだ。各国の間で不公平という不満が膨らみ、米国が脱退するなど履行する国も少なく、私が予想した通り(2004年刊行の拙著『京都議定書は実現できるのか』参照)、2009年の温暖化をめぐるコペンハーゲン会議でその仕組みの継続は断念された。

 温室効果ガスの中心である二酸化炭素の排出は、化石燃料の使用、つまりエネルギーの使用にほぼ比例する。豊かな生活を送る国ほどエネルギー多消費になる。人間が欲望を追求するほど経済は回り、二酸化炭素は排出される。排出は、企業活動や個人の欲望の実現行為と密接に結びつく。そうした行為を、国際的な取り決めや政治家の号令だけで制約できるわけがない。グレタさんのようなアプローチは問題を必ずこじらせる。

 そして、グレタさんの示す事実関係も間違っている。国連の「気候変動枠組み条約政府間パネル」(IPCC)という科学者のネットワークが五次にわたる報告を出している。そこでは温暖化をめぐる各国の主要研究を概観しているが、「地球が滅びる」「大量絶滅」というようなセンセーショナルな研究は、主流の意見ではない。(I P C C第五次報告政策決定者向け要約

(表1)世界各国の温室効果ガスの排出状況(全国温暖化防止活動推進センター資料集より)

 そして温室効果ガスの最大排出国は中国だ。石炭の大量使用と工業生産、先進国に比べて緩い環境規制のせいだ。もちろんこれは中国に生産拠点を移転させた日本や欧米諸国の産業界、そして安い製品を求めた世界の消費者の責任でもある。

 中国政府は一貫して、自分たちを発展途上国と主張し、豊かになる権利を求め、国際規制の強化に反対し、先進国からの技術移転と支援を求めている。かなり身勝手な主張だ。

 グレタさんの発言をたどると、中国政府への批判は見当たらない。一方で、トランプ米大統領や、米国の産業界や同国の石油・シェールガス業界への批判は繰り返されている。なぜなのかは分からない。

 中国は各国で自国に有利な世論醸成のためのロビイング、政治活動をしようとしている。温暖化・環境問題でも同じだろう。それがグレタさんに影響しているのかもしれない。

 グレタさんは、経済活動による温室効果ガスの排出を攻撃する。しかし温室効果ガスの削減対策は、省エネ、もしくはコストを払った経済対策を伴う。世界では気候変動の防止策よりも、経済成長を求める人は多い。規制の単純な強化は、豊かに暮らしたいという人々の願いを打ち壊すことにもなりかねない。

3・「責難は成事にあらず」非難ではなく、実現に動こう

 ではどうすればいいのだろうか。私は、社会問題の解決策を考えるとき、「責難は成事にあらず」という言葉を思い出す。小野不由美さんによる東洋風S Fファンタジーシリーズ『十二国記』の短編集『華胥の幽夢』の中に出てくる言葉だ。

『十二国記』の短編集『華胥の幽夢』

 理想に燃えた王が、悪を取り除き政治をしようと試みる。しかし世の中に単純な悪などない。王の善意からの行為に反発が広がって、国が混乱した。王は恥じて次の王に譲るため、「責難は成事にあらず」(せきなんはせいじにあらず)という遺言を書き、消えていくというストーリーだ。

 考えさせられる言葉と思う。5つのポイントに要約した、前述のグレタさんのアプローチは、いずれも「責難」だ。他人を責めてばかりいる。あらゆる環境問題でも、いや社会問題でも、グレタさんのような批判が、必ず存在する。しかし、その非難から、「成事」つまり何かが成し遂げられることはほとんどない。

 私には、グレタさんと逆のことをやったほうが、温暖化が止まり、地球が豊かになるように思える。非難ではなく、協力し事を成すことを考えるのだ。つまり以下のようなことだ。

①問題が複雑であることを認めステークホルダーの間の調整を丁寧に行い、単純な解決策を押し付けない。

②誰かを敵にせず、正邪の区別をせず、みんなが協力できるようにする。

③実現できる効果のある政策を、少しずつ積み重ねる。利で人を誘う。

④感情を排して、事実に基づき行動する。

⑤政治という面倒なプロセスではなく、多くの人が自発的に参加できるようにする。民間の力を使う。

 実は気候変動をめぐる国際体制は、このような方向に切り替わっている。2017年のパリ協定では、各国が「できることを宣言し、その実行を遵守する」という緩やかな形になった。締め付けを行った京都議定書体制が壊れたことへの反省のためだ。

図2:各産業のエネルギー効率(日本経団連資料)

 グレタさんら環境過激派はそれを「不満足だ」という。しかし、私はそうやってできることを、着実に実行するアプローチが、より現実的であると思う。気候変動と温暖化は地球のリスクではあるが、グレタさんらの言うほど深刻な危機ではない。世界には、貧困や今回の新型コロナウイルス騒動のような、解決すべき問題も多いのだ。

 そして日本には、世界を変える環境技術が揃っている。「事を成す」カードをたくさん持つ国なのだ。日本経済の没落が指摘され久しいが、発電・送電、省エネ、効率的な生産技術、自動車の燃費では、まだ日本は最高水準の、技術、ノウハウ、人材を持っている。やや古いが、各産業のエネルギー効率を見ると、いずれも日本は世界のトップを走っている。こうした力を活用し、世界の気候変動問題を解決しながら、日本企業が利益を確保し、日本人が豊かになることは可能だ。

 「責難は成事にあらず」。私たち人類の進むべき道、そして日本の進路を17歳の少女に教えてもらう必要はない。それどころか彼女の主張と反対のことをするべきなのだ。事を成すための宝のような技術は日本の産官学が持っている。

石井孝明 経済・環境ジャーナリスト

"地球少女グレタさんは、なぜ中国に怒らないのか?"に1件のコメントがあります。

  1. 金子 芳幸 より:

    地球が希望しているのは「一神教・牛肉食・小麦食は減らし、多神教・鯨イルカ食・米食を増やす」ことと思います(\(^o^)/)

    以下に詳しく書いています。興味が有れば読んでみてください。

    「鯨イルカ食と牛肉食」

    https://kuhuusa-raiden.hatenablog.com/entry/2019/09/25/150510

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