森喜朗氏の一歩は小さいが「台日大大的進一步」
葛西 健二🇯🇵 @台北 Taipei🇹🇼
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7月30日に死去した李登輝元総統を追悼するため、森喜朗元首相を団長とする弔問団が8月9日台北を訪れました。同日、米国からはアザー厚生長官が訪台、台湾にとって熱い1日となりました。
■森元首相の蔡英文総統表敬訪問をネットでライブ中継
2001年、李登輝氏は総統退任後医療を受けるため訪日を希望、当時首相であった森喜朗氏は河野洋平外相の反対を顧みず李登輝氏へのビザ発給を決めました。また森喜朗氏は首相退任後ラグビーW杯の招致活動で何度か台湾を訪れており、台湾でも知名度があります。
台湾メディアは「日本の政界要人」である森喜朗氏らが海外から派遣された最初の弔問団であるとして大いに注目、各メディアが日本からの弔問団来台をトップニュースで報道しました。大手新聞社は専門家の分析を紹介しつつ、「自民党最高層級」の森喜朗元首相弔問は台湾との親密さの証左であり、両国の関係は「能不能公開的差距而已 ((その親密さを)公言できるかできないかの違いしかない)」としつつ、今回の「喪禮外交 (弔問外交)」が「考驗北京戰略定力 (北京の外交戦略力を試す)」機会である、と森喜朗氏の李登輝氏弔問の重要性を指摘しています(中国時報 2020年8月10日付 社説)。
各テレビ放送局は8月9日午後の弔問団松山空港到着と台北迎賓館での献花を生中継、また中華民国総統府は弔問に先立つ蔡総統への表敬訪問をインターネットでライブ中継しました。
蔡総統との会談中、森氏は「日本の政治家は皆李登輝氏を尊敬してきた」と述べ、安倍晋三首相からの伝言として李登輝氏への感謝の意を伝えました。蔡総統は謝意を示すと共に、「李登輝氏が総統退任後も日本と台湾の友好関係向上に力を注いできたことで、近年両国間の好感度がさらに増している」とし、「『台日友好』繼續深化 (「日台友好」は引き続き深まる)」と、日本と台湾の結びつきが更に強まることを強調しました。また新型コロナウイルスの影響でオリンピックが延期になったことを遺憾としつつ、「来年には問題なく開催されるよう台湾も全力で支援する」と語りました(中華民国総統府 youtubeチャンネル)。
■「日本の友と台湾人の友情は永遠に続くだろう」
今回の弔問に関して、各メディアは森喜朗元首相が腎臓透析を受けながらの訪台であることに触れていました。高齢で闘病の身での訪台、蔡総統との会見時に見せた誠実さ、そして献花の際に見せた故人を偲ぶ姿を目にし、弔辞から伝わる人としての誠意や気持ちを感じ取った台湾の人々は深く感動し、また李登輝元総統の功績を再認識しています。ネットには数え切れないほどのコメントが寄せられています(以下その中から。主に Yahoo奇摩、Facebook のコメント欄から抜粋)。
感謝帶來日本首相及人民關心台灣的心情,直接面對面告知台灣總統,台日友好 (日本の首相及び国民の台湾に対する気持ちを台湾総統へ直接伝えてくださりありがとうございます。台日友好)
如此真情流露勝於千言萬語或政府公報 (真情の流露は千言万語や政府の広報にも勝る)
日本前首相重情重義 (元首相は義理人情に厚い人だ)
森喜朗前首相小小一小步,台日大大的進一步 (森喜朗元首相の小さな一歩は台日関係の大きな一歩である)
前首相抱著洗腎的病體也要親自前來弔唁,顯見李前總統在日本人心目中的重要地位 (元首相は腎臓透析を行いながらの身体で自ら弔いに来た、これは李元総統が日本人の心の中で重要な存在であることの表れだ)
真的很感動,高齡老人,又有病在身,加上疫情嚴重。李總統的貢獻獲讚賞 (本当に感動した、高齢で病の身、加えてウイルス禍。李総統の貢献が称賛を得たのだ)
日本朋友的友情與台灣人的友情 必將永存,感謝您們的情誼 (日本の友と台湾人の友情は永遠に続くだろう、その真心に感謝します)
■8月9日は台湾の歴史に刻まれるか
日本の弔問団の動向をライブ中継も交えて大きく扱っていた各マスコミですが、同じ日、さらに大きなニュースを報じることになりました。夕刻、弔問団の離台とタイミングを合わせるかのように、米国のアザー厚生長官らを乗せた政府専用機が台北松山空港に降り立ちました。
今回の訪問目的は医療や衛生分野での交流強化で、翌10日には台湾と医療や衛生の協力に向けた覚書を締結しました。各放送局は日本からの弔問団のレポートに引き続きライブ中継を交え厚生長官訪台をトップニュースで報道。日米という台湾にとっての最重要関係国からの相次ぐ政界要人の訪問、特にアザー厚生長官は1979年の米台国交断絶以後、最高位の政府関係者の訪台であり、台湾の各ニュースチャンネルは夜遅くまで熱気を帯びた報道を続けました。
例えば台視ニュースは森喜朗元首相を「日本政要」、アザー厚生長官を断交以来の「最高層級」と表現。翌日の新聞も一面トップで大きく伝えました。中国時報 2020年8月10日付は蔡総統と森元首相の会見の写真を大きく掲載、その横にアザー厚生長官がタラップを降りてくる姿を添え、「日美政要相継訪台 (日米政治重要関係者相次いで訪台)」の見出しを掲げ、「難解的台海情勢,都將產生敏感連鎖效應 (難解な台湾海峡情勢に敏感な連鎖反応を引き起こすだろう)」と、両国政府関係者訪台の重要性を指摘しています。
また蘋果日報2020年8月10日付の1面は、台北松山空港で離陸準備をする日本の弔問団搭乗の飛行機と、入れ替わるように着陸したアメリカの政府専用機がすれ違うショットを掲載、「感動の涙が止まらない。各関係者の努力に感謝」「次はエアフォースワンとのショットを」等ネットに寄せられた感動の声を紹介しました。
■ネットも熱気「前代未聞の出来事だ」
このような過剰にも見える反応は、日本の方にはわかりにくいかもしれません。それには当然理由があり、台湾(中華民国)を承認する国家が現在、世界に15か国しかないことが影響しています。もちろん、それは北京政府による圧力の結果です。しかも、その15か国は世界的には小国と言われる国ばかりです。外国の要人が訪れることはあまりなく、世界的に孤立しているのが台湾の状況と言えます。その状況で日米の要人が訪れたのですから、台湾にとっては極めて大きな意味をもちます。
ネットでは日米の政府要人が同日に台湾を訪れたことに多くのコメントが寄せられています(主に Yahoo奇摩、Facebook のコメント欄から抜粋)。
一天兩國來訪!前所未有的事情 (一日で二国が訪れた!前代未聞の出来事だ)
と興奮の声や
都是台灣歷史的一刻,也都是台灣人的驕傲 (どちらも台湾の歴史的な瞬間、台湾人の誇りだ)
感動的一刻。台灣可以走到今天的地步 (感動の瞬間。台湾はここまで歩んでこられたのだ)
終於感受到「勇敢自信、世界同行」的真諦與志氣! ( 「勇気と自信、世界は共にある」の本質と精神をついに感じることができた!)
と、国際社会での台湾の地位・重要性を再認識、喜ぶす声やこれまでの歩みに感慨深い声、また
重大的外交突破 希望台灣越來越好 希望有生之年可以看見「台灣」的護照 (重大な外交突破 台湾がもっと良くなりますように 生きている間に「台湾」のパスポートを見ることができますように(筆者注:現在台湾で発給されるのは「中華民国」のパスポート)
と、今回の訪問を契機に台湾の国際的地位向上と「台湾」の名で自身の国を持つ事への希望を吐露する声もありました。
このように8月9日は台湾にとって意義深い1日となりました。将来、2020年8月9日は台湾歴史の中で重要な日であったとして語られていくかもしれません。