「日台友情」女子高生マーチングバンド台湾魅了
葛西 健二🇯🇵 @台北 Taipei🇹🇼
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橘高校(安田文彦校長、京都市伏見区)の吹奏楽部が2022年10月10日、中華民国建国記念日「雙十國慶節」に総統府前で行われる祝賀式典に出演しました。力強い演奏と華麗な演技を披露、台湾の人々を魅了、旋風を巻き起こしました。
■「橘色惡魔」圧巻パフォーマンス
京都橘高校吹奏楽部は2021年全日本マーチングコンテストで金賞を受賞しており、マーチングバンドの名門として知られています。オレンジ色のコスチュームが特徴で「オレンジの悪魔」の愛称で多くのファンに愛される存在です。
元々東日本大震災10周年にあたる2021年の中華民国建国記念日祝賀式典に際し、日本からの特別ゲストとしての訪台が計画されていたのですが、折しも台湾国内での新型コロナウイルス感染拡大のため渡航ができず、今年になり一年越しの訪台が実現しました。
また、今回は今年で創立50年を迎えた日本の対台湾窓口機関である日本台湾交流協会がサポート。同協会は「台日友情50周年」として昨年末のクリスマス音楽会を初めとして8月には中華民国総統府傍の大通りにて「日台フルーツ夏祭り」を開催するなど、設立50年を記念するイベントを催してきました。京都橘高校吹奏楽部も、この一環として雙十國慶節の祝賀式典に招かれたのです。
国慶式典のために海外のグループが100人規模で訪台し、パフォーマンスを披露するのは初めて。さらに台湾では新型コロナウイルス対策のため入国後に一定期間の隔離措置が採られていますが、同校の入国に際しては隔離期間が免除されるなど、台湾当局から特別待遇で迎えられました。
■再生回数210万回超の注目度
台湾を代表するホテルである圓山大飯店での演奏、国家最高レベルのコンサートホール國家音樂廳での台湾トップ交響楽団「NSO國家交響樂團」との演奏、地元高校との交流などを台湾のメディアは積極的に報じ、世間の注目も大きく高まりました(台視新聞2022年10月6日、鏡新聞2022年10月9日など)。総統府見学では、サプライズで蔡英文総統が登場、女子高生からは悲鳴に近いような感動の声が上がりました。
そして10月10日、オレンジ色の衣装に身を包んだ橘高校吹奏楽部員達による祝賀式典での圧巻のパフォーマンスです。軍隊のように一糸乱れぬ行進、その行進が人間がぶつからないように交差し、時にダンスのように体を動かしながら「sing sing sing」「愛の讃歌」などを演奏。式典では蔡英文総統も立ち上がって笑顔で手を振りました。楽器には「日台友情」と大書されたメッセージで友好ムードを盛り上げます。その様子を伝える公式動画の再生回数は、10月30日現在で210万回を超えています(中華文化總會)。
高い演奏技術は相当な練習を積んだことを思わせ、さらに女子高生らの笑顔が台湾人の心を鷲掴みにしたと言っていいでしょう。
台湾では9月29日に、京都橘高校吹奏楽部で顧問を務めた田中宏幸氏の指導法を紹介した『オレンジの悪魔は教えずに育てる』(ダイヤモンド社)の中国語版が発売され、同氏の教育理念や指導法が話題となっていました。このタイミングで当吹奏楽部の祝賀式典参加となったことから、台湾メディアでは「橘色惡魔 (オレンジの悪魔)」(橘高校吹奏楽部の異名)の訪台が連日報道されました。
橘高校吹奏楽部の訪台に合わせ、日本の高校の授業時間や放課後の活動も話題となっています。台湾の学校は朝の8時から授業が始まり、一日の授業が終わるのは午後5時、放課後多くの学生は夜遅くまで塾通いが当たり前となっています。台湾のネットでは、日本の学校は午後3時には授業終了、その後の時間をクラブ活動や課外学習に充てることができるなど、台湾と比べて学生の自由時間が多いことを指摘する声が出ました。
このような自由時間を用い「可以學到很多做人做事的方法 (多くの物事が学べる)」とし、「讀書才是成功的唯一途徑 (勉強のみが将来の成功への道)」とする、学力偏重の台湾の教育に対する不満の声や、日本の学校での放課後のクラブ活動は「已形成一種校園文化 (学校文化を形成し)」、保護者や教師も「鼓勵學生『玩社團』(学生がクラブ活動を楽しむことを奨励している)」として、「希望橘高校的表演可以給臺灣社會帶來一些改變 (橘高校のパフォーマンスが台湾社会に改変をもたらしてくれないかな)」といった希望の声も挙がっています(臺灣青年民主協會 Facebookページ)。
■日本との繋がり強化を重視
橘高校吹奏楽部が演奏を披露した中華民国の建国記念日祝賀式典では、中華民国総統による演説が行われます。例年演説では総統による対中政策が語られることで知られています(参考:「蔡英文総統37対4『台湾・台湾・台湾!』」)。
2022年8月、ナンシー・ペロシ米下院議長が台湾を訪問、これを受け中国は台湾周辺で大規模軍事演習を行い、台湾海峡情勢の緊張感が増しています。
総統府前の広場で行われる中華民国(台湾)の建国記念祝賀式典、このような政治的に重要な舞台で隣国の高校生が「日台友情」のメッセージを掲げながらパフォーマンスを披露するというのは、台湾の人々からすれば「君たちは1人ではない」という強いメッセージをもらった気分なのかもしれません。
橘高校の生徒たちも台湾の大歓迎には大変感動したようで、同校のコーチから台湾の窓口となった日本人へ送られたメッセージには、「帰りの飛行機で帰りたくないと泣いている生徒」がいたことを伝えるものがありました。これが「很多學生在回程飛機上都哭著說不想走」(Yahoo! 股市・橘色惡魔來台6天「愛上台灣」 回程飛機上「哭著說不想走」)と伝えられ、さらに台湾の人々の琴線に触れたようです。
オレンジの悪魔たちの連日の報道を眺めていると、台湾の人々の日本との関係強化を願う気持ちや、日本重視の姿勢を感じました。