ウクライナ戦争 レオパルト2は戦況変えるか

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石井 孝明🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

経済・環境ジャーナリスト。慶應義塾大学経済学部卒、時事通信社記者、経済誌フィナンシャルジャパン副編集長、アゴラ研究所の運営するエネルギー問題のサイトGEPRの編集担当を経て、ジャーナリストとエネルギー・経済問題を中心に執筆活動を行う。著書に「京都議定書は実現できるのかーC O2規制社会のゆくえ」(平凡社)、「気分のエコでは救えない」(日刊工業新聞社)など。

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 ウクライナへの西側の戦車供与が、国際的に話題になった。ドイツのショルツ政権が、ドイツ戦車レオパルト2の供与を1月末に決定。ウクライナにとっては大きな戦力強化につながるかもしれないが、私は即座に効果が出るとは思わない。今後の展開を予測してみよう(原稿執筆時の1月下旬時点)。(元記事は2月2日公開、&ENERGY・「ウクライナ戦争、西側戦車提供の効果はあるのか?」)

◆独戦車レオパルト2が話題、本当の効果は

レオパルト2(独TV局ZDF画面から)

 現時点のウクライナ戦争は、ウ軍が押し気味に南部で緩やかに前進する一方で、東部の2014年からの分離独立地域の近くでロシア軍が限定的に攻撃をしている。真冬だがウクライナでは暖冬で気候は予想より影響していないという。戦線は膠着気味で、だからこそ打撃戦力の中心になる戦車をウクライナは欲したのだろう。

 その後の報道を見ると、西側諸国は大規模な支援を行わなかった。ドイツが送るレオパルト2はわずか14両だ。レオパルト戦車は1980年代から運用され、各国に輸出されている。どの国も武器を輸出する場合に、自国軍のものよりは品質を落とす。レオパルトも海外にあるものは性能が劣るし、装備のリニューアルもしていない。そうした古いタイプのものが、ポーランドとスペイン、フィンランドなどからウクライナに送られるようだ。

 他のヨーロッパ諸国からのものを加えて、引き渡されるレオパルト2は確定分が40両程度らしい。時期も明確ではない。英国は主力戦車チャレンジャーを送ることは決定したが、数と時期は不明(1月31日のCNNは夏前に14両到着予定と報道=英国の主力戦車、夏前にウクライナ到着の見通し 英国防相)。米国のバイデン政権も主力戦車エイブラムス31両を送るとしているが時期は不明だ(2月26日のCNNは米国のウォーマス陸軍長官は引き渡しに1年以上要する可能性があると言及した=米主力戦車のウクライナ到着、1年以上先の可能性 陸軍長官)。

 私の推定だが、送られる戦車の合計は2023年中に80両ぐらいで車種はさまざまであろう。これは戦車1個連隊(各国で規模は違うが日本の陸上自衛隊の場合で)弱、ウォーゲームに例えれば、盤面の駒1個分の1戦術単位程度の規模に過ぎない。

 この戦車の数では、局地的優勢は確保できても、戦況を変えられるかは疑問だ。ゼレンスキー大統領は、「戦車300両を希望」と言っていたが、がっかりしているだろう。戦車は高額でなかなか他国に提供できない。加えて、数百両単位でウクライナに戦車を供給したら、ロシアが怒り、関係悪化が決定的になるために、各国はためらったのだろう。

◆訓練に時間 即時投入は困難

 ロシア軍は性能上は世界最高クラスと喧伝されている最新型戦車T14を持っている。しかしIT部品などを西側に依存しているためか、大規模にウクライナ戦争に投入していないようだ。ロシア軍主力のT90は性能面で、レオパルト2、エイブラムス、チャレンジャーに劣るとされており、ロシア軍の戦車の損害は増えるだろう。

 戦車兵の訓練も大変そうだ。英フィナンシャルタイムス(FT)は1月28日に「春季攻勢に向けて戦車はウクライナを奮い立たせられるのか」(Will tanks set up Ukraine for a spring offensive?)という記事を出した。それによるとロシア戦車T90より一世代遅れたT72を使っていたウクライナの戦車兵にとって、最新型のレオパルト2は「1950年代の車に乗っていた人が、今のポルシェに乗るようなもの」という。ただ、FTは春には間に合わないが、ロシア軍には脅威になるとしている。

 またFTの記事には、今のウクライナ戦争では、ハイテク武器装備の歩兵が活躍しており、戦車より動きが早い兵員輸送車を提供し、歩兵を活動させた方が、攻勢作戦で効果があるかもしれないとの軍事評論家のコメントが出ていた。

 五月雨式に集まる西側戦車は、集中して打撃に使える状況にはならない。ただし数は少なくても、ウクライナ軍を強化する。日本の防衛省は、ロシアはこの戦争で3000両の戦車を無くし、旧型を含めて4000~5000両まで使用できる戦車が減ったと資料で出していた。この損害がさらに増えるだろう。

 一方でロシア軍では、昨年秋に招集した30万人の予備役兵が、この冬になって訓練を終え順次前線に到着しつつあると言う。ロシア軍は強化されつつある。

◆春先に激突か、しかし決め手なし

港区麻布台のロシア大使館(撮影・松田隆)

 第二次世界大戦の独ソ戦では、ウクライナは3月から4月は全土で雪解けの泥濘期に陥り、戦線は膠着した。同じことが21世紀のウクライナでも繰り返されそうだ。昨年の同時期に、ロシア軍の動きは鈍く、ウクライナ軍の散兵が、その進撃を阻止した。

 その後の春5月ごろから「決戦」を両軍は試みるだろうが、決定力が両軍になく、決め手のないまま膠着した状況が続く可能性が高い。ウ軍が西側戦車を少量でも投入できるのは、早くてその春先の攻勢だろうか。

 ただ、数が少なすぎる。日本人の大半は侵略を受けたウクライナの勝利を願っているだろう。しかし、悲しいことだが、戦争の終わりはまだ見えない。

※元記事は石井孝明氏のサイト「&ENERGY」で2月2日に公開された「ウクライナ戦争、西側戦車提供の効果はあるのか?」 タイトルをはじめ、一部表現を改めた部分があります。

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