目を覚ませ安田純平氏 旅券訴訟は”無理筋”

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松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

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青山学院大学大学院法務研究科卒業。1985年から2014年まで日刊スポーツ新聞社に勤務。退職後にフリーランスのジャーナリストとして活動を開始。
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 ジャーナリストの安田純平氏が国を相手にパスポートの発給を求める訴訟を東京地裁に提起した件で、3月2日の弁護士ドットコムは安田氏のインタビューを掲載した。発給しないことを「独裁国家のやっていることだ」と強く批判しているが、普通に考えればこの訴訟は無理筋。求める憲法判断はなされない可能性が強く、仮になされても棄却される”無理筋訴訟”と思われる。

■弁護士ドットコムがインタビュー記事を公開

安田純平氏とされる男性(YouTube ANN News CH画面から)

 今回、公開された記事は「パスポート発給されなくて当たり前?安田純平さんが違憲訴訟を起こした『本当の理由』」。

 安田氏は2015年にトルコからシリアに密入国し、シリアで武装勢力に拘束された。2016年5月には「助けてください これが最後のチャンスです 安田純平」と書かれた紙を持つ画像が公開された。2018年10月に解放され帰国したが、拘束期間中にパスポートを奪われたため、2019年1月に再発行を申請したが、同年7月に外務省は解放時にトルコから5年間の入国禁止措置を受けたことなどを理由に「入国が認められないため、発給制限の対象となる」と通知されたという。以上がこれまで報じられた内容である。

 安田氏が訴訟で求めている点は、ジャーナリストの志葉玲氏によると、以下の通り(訴訟費用については割愛)。

(1)パスポート発給拒否の処分を取り消せ

(2)(主位的)パスポートを発給せよ

(3)(予備的)渡航先からトルコを除くパスポートを発給せよ

 安田氏のインタビューによると、外務大臣が発給を拒否した理由は、安田氏が旅券法13条1項1号の「渡航先に施行されている法規によりその国に入ることを認められない者」であるからなどとされている。

 これに対して、安田氏はトルコが入国禁止にした事実は伝えられていないとしている。仮に入国禁止措置があったにせよ、旅券法13条1項1号は、自由に海外旅行ができることを保障したと解される憲法22条2項に反し違憲であるという主張をしている。

■行政事件訴訟法3条6項2号の申請型義務付け訴訟

 訴状を見ていないので断定はできないが、安田氏の起こした訴訟は行政事件訴訟法3条6項2号の「申請型義務付け訴訟」であり、主位的請求は同37条の3第1項2号の「拒否処分型」、予備的請求は同1号の「不作為型」と思われる。

 この申請型義務付け訴訟は本案勝訴要件が定められている(同条5項)。条文は長いので割愛するが、本件に当てはめると勝訴要件は以下のようになる。

(1)パスポートの発給拒否処分の取り消しの申請に理由があること、

(2)パスポートを発給しないことが裁量権の逸脱・濫用と認められること(主位的)

または、

(3)求める行政処分(トルコを除外したパスポート発給)をすべきであることが明らかであること(予備的)

 勝訴するためには(1)+(2)、それがだめなら(1)+(3)が認められなければならない。まずは(1)が認められなければならないが、外務大臣が発給しないことの理由で虚偽を申し述べるなど考えにくく、トルコの入国禁止が事実であることが確認できた時点で処分の取り消しの申請に理由はないと判断されるであろう。裁判はここで終わりになるのではないか。仮に憲法判断がされても過去の判例から一蹴されるであろう。それは後述する。

■トルコがダメでも処分理由の追加・差し替え

 万が一、外務大臣がトルコの入国禁止の事実が証明できない場合でも処分理由の追加もしくは差し替えをしてくることが予想される。安田氏を旅券法13条1項7号の「著しく、かつ、直接に日本国の利益又は公安を害する行為を行うおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者」とするのである。可能性は低いが、仮に外務大臣が虚偽を言っていたとしても、理由を追加してくると思われる。

 このような処分理由の追加・差し替えは過去にも認められており(最高裁判決平成11年11月19日など)、本件でも認められると考える。

 本件と同様の事案として「帆足計事件判決」(最高裁判決昭和33年9月10日)が有名。1952年に左派社会党の衆院議員帆足計氏が、ソ連への渡航のためパスポートの発給申請したが外務大臣に拒否されたことに対して損害賠償請求した裁判の判決である。

 判決は、外国へ一時旅行する自由は憲法22条2項が保障していることを示しつつも、「外国旅行の自由といえども無制限のままに許されるものではなく、公共の福祉のために合理的な制限に服するものと解すべきである」として、帆足計議員の請求を棄却した。

 この時に最高裁は旅券法13条1項7号(当時は5号)は公共の福祉のために合理的な制限を定めたものと判断している。その考えからしても、安田純平氏の勝訴の可能性は低い。

 予備的請求についても、仮にトルコを除外する旅券を発給しても、他国を経由してシリアに入る可能性等が考えられることから、発給は認められないのは当然であろう。

■国民の多数の判断に法的裏付け「いい加減、目を覚ませ」

 これに対して安田氏は、前述のように旅券法13条1項1号が法令違憲(法律自体が憲法に違反する)と主張する。これは外務大臣が処分理由として旅券法13条1項7号を追加してきた場合には7号での発給拒否処分が認められるため、1号の合憲性を論ずるまでもないという憲法判断には至らずに棄却されるものと思われる。

 もちろん「念の為」として憲法判断をする可能性はないとは言えない。しかし、合憲の判断が下されるであろう。なぜなら、前出の帆足計事件判決から1号の規定も「公共の福祉のための合理的な制限」と判断されるのは間違いないからである。このように安田純平氏の訴訟は行政法から見ても、憲法から見ても、ほとんど勝ち目がない。

 弁護士ドットコムで公開された記事に対するコメント欄を見ると「あれだけ国に迷惑をかけた人間に発給する必要などない」「また、何かやらかす気だろう」という趣旨のものが多い。それはまさに旅券法13条1項7号の考えに基づいて発給を認めるべきではないとしていることとイコールで結ばれる。つまり、多くの国民が安田氏の主張を「ふざけるな」と感じていることには、法的な裏付けがあるということである。

 安田氏はその点を重く考えなくてはいけない。身勝手なジャーナリストの言い分など誰も聞いてくれないことが分からないのか、不思議に思う。安田氏よ、いい加減、目を覚ましたらどうか。

2 thoughts on “目を覚ませ安田純平氏 旅券訴訟は”無理筋”

  1. アバター 月の桂 より:

    安田純平さん… 前回は、自分の不注意から拉致されるに至ったとか…。猛省してるかと思いきや、駄々っ子みたいな裁判してたんですね。

    危険な場所に行って、取材してくれる人がいるからこそ、私達は他国の状況を知ることが出来るわけで、そういう危険な取材は、不安定な立場のフリージャーナリストが請け負っていることも承知しています。
    熱意や使命感だけで出来る仕事ではなく、敬意は表しますが、取材しに行って、逆に自分が取材される側になるんでは、単なるお騒がせな人でしかありません。安田氏は、それを繰り返しているようですし。

    この人を英雄視する人の感性は、理解出来ませんね。

    1. 松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵 松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵 より:

      >>月の桂様

       コメントをありがとうございます。

       安田純平氏もジャーナリストを名乗るなら、まず、公共の福祉と自らの取材の自由との兼ね合いから考えてほしいものです。取材の自由は全てに優先すると思っているのではないでしょうか。そう考えているから、自分の自由が認められないと「日本は独裁国家と同じ」などと言い出すのだと思います。

      >>この人を英雄視する人の感性は、理解出来ませんね。

       こういう人たち確実に存在します。志葉玲氏もその一人のようで、彼の安田純平氏の裁判を論じた文章は「法律を知らない人が書くと、こうなるんだな」という、いい見本になるものでした。思い込みだけで文章を書くのはやめてほしいです。その類の人が、安田純平氏の周囲には多いように感じます。

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