京アニ被害者”実名晒せ” 江川紹子氏の無知と暴論
松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵
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京都アニメーション放火殺人事件の裁判員裁判が9月5日、始まった。被害者19人が匿名とされたことにジャーナリストの江川紹子氏は「異常事態」とする。理不尽な犯罪の被害者になった人々と遺された家族をさらに苦しめる実名での審理を望んでいるのか。江川氏の無知とそれに基づく暴論と言うしかなく、少しは法律を勉強してから発言することを望む。
◼️匿名審理は性犯罪だけではない
京アニ事件の犠牲者36人のうち19人が匿名で審理されることが決まり、証拠調べで検察官は実名と匿名を織り交ぜながら36人の年齢と死因を読み上げた。刑事裁判の匿名審理は刑事訴訟法290条の2に規定されている。
被害者側が検察官に申し出て、検察官が意見を付して裁判所に通知し、裁判所がその可否を決定するシステムになっている(刑事訴訟法、以下断りのない限り同法、290条の2第1項から第3項)。
今回の匿名での審理はこれによって行われたものであるが、江川氏は、これに噛み付いたのである。朝日新聞の取材に答えて以下のように述べている。
① 36人の被害者のうち19人もの人を匿名にしたのは異常事態。
② 刑事訴訟法は匿名で審理を認めているが、それは性犯罪の事件を想定したもの。
③ 今回の被害者は、アニメーターとして名前を出して仕事をしており、警察の段階で名前が発表されているのに、法廷で匿名にするのはおかしな話。
④ 裁判では被告人の生命を奪う可能性があり、そのような重い、公的な手続きが、事実の一部があいまいにされたままなされることはあってはならない。
(以上、朝日新聞DIGITAL・京アニ事件、私たちは何ができる 江川紹子さんが考える「公開法廷」)
江川氏は290条の2の趣旨や、他の条文との関係を正確に把握していないのではないか。同条は被害者等の保護を図るための規定である。その趣旨は「特に性犯罪に係る事件について、公判手続において被害者がどこの誰であるかが明らかにされ、被害者等の名誉やプライバシーが著しく害されることを防止するため、公開の法廷で性犯罪等の被害者の氏名等を秘匿することができるようにしたものである」(新・コンメンタール刑事訴訟法第2版 後藤昭・白取祐司 日本評論社 p681)と説明される。
実際、匿名審理ができる事件については同条1項1号で性犯罪を中心に挙げられているが、それだけに限定しているわけではない。同3号では「…被害者特定事項が公開の法廷で明らかにされることにより被害者等の名誉又は社会生活の平穏が著しく害されるおそれがあると認められる事件」では公開の法廷で被害者特定事項を明らかにしない旨の決定を裁判所はできるのである。
そう考えると、①はメインストリームの性犯罪の事件ではないという点ではレアケースであるのかもしれないが、法に則った事態であるから「異常」事態と表現するのは不適切と思われる。
②については、290条の2は性犯罪のみを対象にした条文ではなく、遍く被害者の人権を守るための条文であることは同項3号から明らかであり、匿名審理を「性犯罪事件を想定したもの」と断ずるのは明らかに誤りである。
◼️遺族には守るべき法益はないとでも?
③にも言及しておくが、そもそも京アニ事件が発生した後も、被害者の発表について京都府警は当初、遺族の了承が得られた10人分のみ発表していた。残る人の身元を公表を求め、在洛新聞放送編集責任者会議が同府警に申し入れを行っている(参照・京アニ事件被害者の身元情報不要を求めるメディア)。
結局、同府警では発表したが、江川氏の③の言い分を見る限り、既に実名が発表されているから、遺族には守るべき法益などないと言いたいようで、あまりに遺族感情を無視した言い分に思える。
また、アニメーターとして名前を出す仕事をしていたと語っているが、仕事をした証として出される誇りある氏名の公表と、決して胸を張れることではない犯罪被害に遭ったこと、落命したこと、遺族に様々な影響が及ぶことが心配される被害者としての氏名の公表は全く別次元の話である。それを「あなたは有名人だから名前が出ても仕方ないでしょ」と言うとは、一体、被害者や遺族の人権をどのように考えているのか。
④もおかしい。死刑になるかもしれない裁判で、被害者の氏名という事実の一部があいまいにされるのはよくないということらしいが、匿名審理は一切氏名を明らかにしないということではない。
「氏名等の秘匿といっても、公開の法廷で傍聴人に聴かれないようにするということであって、被告人・弁護人に対して秘匿することを意味するものではない」(前出の新・コンメンタール刑事訴訟法第2版 p681)。
また、今年5月に成立した改正刑訴法(未施行)では、容疑者に示す逮捕状や被告に送られる起訴状は、被害者の個人情報の記載を省いた抄本でできるようになった。ここまで法は被害者保護を徹底しているのである。
◼️江川氏は刑訴法を100回読め
朝日新聞の取材に対し、江川氏は裁判の法的な意義を語りつつ、別に「社会的意義」があるとしている。裁判を通じて「この事件を防ぐことはできなかったのかというヒントを、私たちは探したい。」としている。
刑訴法も調べずに取材に応じているであろう者が、再発防止のヒントを裁判から得られると思っていること自体、滑稽でしかない。そもそも部外者の都合に合わせて、遺族が氏名を公開される不利益を甘受しなければならない理由などない。
そして、江川氏は傍聴席が35席しかなかったことについても異論を挟む。「憲法82条が求める『裁判は公開の法廷で』というのは、単にドアが開いていればいいというわけではない。できるだけ多くの人が審理を見られることが重要なのに、今回の傍聴席は88席のうち、一般の人が傍聴できるのは35席だけ。少なすぎる。」(前出の朝日新聞DIGITAL記事から)とする。
憲法82条【裁判の公開】
①裁判の対審及び判決は、公開法廷でこれを行ふ。
この裁判の公開についてはレペタ事件の最高裁判決がある。「(82条1項)の趣旨は、裁判を一般に公開して裁判が公正に行われることを制度として保障し、ひいては裁判に対する国民の信頼を確保しようとすることにある。…右規定は、各人が裁判所に対して傍聴することを権利として要求できることまでを認めたものでない…」(最大判平成元年3月8日)
裁判の公開の原則は裁判が公正に行われるための制度保障であり、傍聴人の多寡など問題にならず、そもそも公正な裁判の実現に多数の傍聴人が必要なわけではない。それを何の権利があって「傍聴席を増やせ」などと言っているのか。ビデオリンクにして他の法廷で傍聴できるようにすればよかったなどと言っているが、そこに被害者や遺族への思いは感じられない。
こうした加害者の人権にばかりフォーカスし、被害者やその遺族への思いを踏み躙るのは、江川氏ばかりではない。ジャーナリストはそんなに偉いのか。国民の知る権利に応えるために報道という職に携わっている我々は社会観念上是認できる方法で取材すべきことは、外務省秘密電文漏洩事件の最高裁判決も判示するところである。
ここで刑事訴訟法の第1条を示そう。
刑事訴訟法1条【この法律の目的】
この法律は、刑事事件につき、公共の福祉の維持と個人の基本的人権の保障とを全うしつつ、事案の真相を明らかにし、刑罰法令を適正且つ迅速に適用実現することを目的とする。
江川氏は、せめて、この条文を暗記するまで読んでから取材に応じてはいかがか。
>今回の被害者は、アニメーターとして名前を出して仕事をしており、警察の段階で名前が発表されている
のであれば、逆に今の裁判の段階で何故そんなに騒ぐ必要があるのか不思議w
あちら側の自称ジャーナリスト様はどうしてこう頭がおかしい人間ばっかりなんだろう。
オウムテロ事件で必死に売名していた頃はまだそこまで人としてぶれていなかった印象だが、近年は酷いですね。
この手の連中は往々にして朱に交わればなんとやら、ということなんだろうけど。
二言目には人権がどうだの、権利や「〇〇の自由」を守れだのといった類の文言を軽々しく発する人間に限って、己と相容れぬ相手の人権や権利・自由は簡単に踏みにじってのけるのは吐き気がする。
> 仕事をした証として出される誇りある氏名の公表と、決して胸を張れることではない犯罪被害に遭ったこと、落命したこと、遺族に様々な影響が及ぶことが心配される被害者としての氏名の公表は全く別次元の話である。
この文章に心を打たれ、胸が熱くなりました。
被害者の無念とご遺族のお気持ちを代弁してくれているように感じます。江川氏にも読んで頂きたいです。
この一ヶ月、更新無いのは筆者の体調悪化ですかね?
気になります
>>通りすがり様
ご心配をおかけして申し訳ございません。近日中に新記事公開の予定です。
引き続きよろしくお願いいたします。