吟雲 愛芽世…難読名スポーツ選手への思い

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松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

青山学院大学大学院法務研究科卒業。1985年から2014年まで日刊スポーツ新聞社に勤務。退職後にフリーランスのジャーナリストとして活動を開始。

 12月9日付けの朝刊運動面を読んでいると、多くのスポーツ選手の名前にルビが振ってあった。特に10代の選手は”ルビだらけ”と言っていい状態。人と異なる名前があっても、それは個性と言えなくもないが、他者に認識されにくい命名はいかがなものかと思われる。

◾️新聞1ページにルビ12人

難読の選手名が増えた(背景は9日付け産經新聞運動面)

 9日付けの産經新聞の運動面の記事をいくつか紹介する。選手名の後ろの( )内の赤文字は、紙面で振られていたルビを示している。

★男子の注目は史上最年少優勝が懸かる13歳の小野寺吟雲(ぎんう)。これまでも…(13歳の「魔法使い」小野寺 最年少Vへ「自分に勝つ」)

★男子は昨季種目別王者の平野流佳(るか)(太成学院大)が88・25点で日本勢最高の2位に入った。…北京冬季五輪金メダルの平野歩夢(あゆむ)が9位、平野海祝(かいしゅう)(ともにTOKIOインカラミ)が10位だった。(男子HP平野流2位)

★上薗恋奈(れな)(LYS)が初出場で3位に入り、中井亜美(TOKIOインカラミ)は5位だった。(フィギュアGPファイナル 島田 日本勢初連覇 ジュニア女子)

★日本代表の宮部姉妹が直接対決した一戦は姉の藍梨を擁するVリーグ2部の姫路が、妹の愛芽世(あめぜ)が主将を務める全日本大学選手権2位の東海大を3-0で下した。(駿台学園高 大学生破る)

 ルビがなければ、どれだけの人が正確に名前を読めたであろうか。この日の産經新聞の運動面1枚の中にルビ入りで紹介された選手はプロを含めて12人(下表参照)。わずか新聞1ページに12人の名前がルビ入りされている事実には元新聞記者としては驚かされる。

◾️改正戸籍法で氏名に振り仮名

 そもそも名前には個人を特定する役割もある。多くの人に読めないのであれば特定のための記号として十分に機能していないと言える。かつてキャスターの山岸舞彩氏がテレビに登場した際に「舞彩」で「まい」と読むと知り、衝撃を受けた。

 「舞」は「舞う」などのように「ま」と読むことがあるのでいいとして、「彩(さい、あや、いろど(る))」を「い」とする読み方を小学校・中学校で教わった記憶がない。個人的には美しく好感度の高い漢字2文字を用いてイメージとしての名前を形成し、従来存在しない漢字の読み方を当てはめたと感じられ、強い違和感を覚えた。

 極めて個人的な感想であるが、事実を客観的に伝えるはずのテレビで、名前の読み方に合理性のないと感じられる人が出ていることに対する拒絶反応のようなものがあった。そのため、山岸氏がテレビに出てくると名前のテロップが出る前にチャンネルを変えるようになった。

 中央競馬にも難読の関係者がいる。亀田温心騎手で、名前は「はーと」と読む。ウイキペディアによると、母親が「温かい心を持った人になってほしい」との思いから命名したとされている。

 難読の名前が悪いとは言わないが、実際に読めない名前を付けられると、社会生活を営む上で苦労することは少なくない。そのため、2024年6月1日施行となる改正戸籍法では、戸籍の記載事項に氏名の読み方が加えられることになった。

【改正戸籍法】

13条 戸籍には、本籍の外、戸籍内の各人について、左の事項を記載しなければならない。

一 氏名

二 氏名の振り仮名(氏に用いられる文字の読み方を示す文字(以下「氏の振り仮名」という。)及び名に用いられる文字の読み方を示す文字(以下「名の振り仮名」という。)をいう。以下同じ。)

 このため、「すべての方が戸籍法の改正が施行されてから1年以内に、本籍地のある市区町村へ読み仮名の申請が求められます。」(freee・バックオフィスのトレンド情報をまとめて解説! 戸籍に読み仮名が必須に!改正の背景や目的、ポイントを解説 監修・松浦絢子弁護士)ことになる。届出がない場合には現在、住民基本台帳などに記載されている読み仮名が戸籍に記載される。

 振り仮名については一定の基準が設けられ、文字の読み方として一般に認められているものでなければならず、また、漢字の意味と反対の振り仮名、漢字の意味や読み方から連想できない振り仮名は許容されなくなるという。この点については法務省から通達が出されるとのこと。(freee・バックオフィスのトレンド情報をまとめて解説! 戸籍法改正のポイント)。

 そうなると、今回、振り仮名がついていた選手の読み方は、問題なさそうではある。

◾️悪魔ちゃん事件と田中陽子選手

9日付け産經新聞運動面から

 そもそも子供の命名権は実質的に親にあり、子供は親の決定に従うしかない。しかし、奇矯な名前などで子供が苦労する可能性があり、命名権の濫用は認められないという下級審での審判が出ている。一時、話題になった我が子に「悪魔」と命名しようとした親が提起した裁判であり、司法は以下のように判断している。

 「名は…極めて社会的な働きをしており、公共の福祉にも係わるものである。従って、社会通念に照らして明白に不適当な名や一般の常識から著しく逸脱したと思われる名は、戸籍法上使用を許されない場合がある。…本件命名(筆者註・『悪魔』と命名しようとしたこと)がX(命名しようとした父親)の意図とは逆に、苛めの対象となり、ひいては事件本人の社会不適応を引き起こす可能性も十分ありうるというべきである。…即ち、本件『悪魔』の命名は、本件出生子の立場から見れば、命名権の濫用であって、…例外的に名としてその行使を許されない場合、といわざるを得ない。」(東京家裁八王子支部平成6年1月31日審判)

田中陽子選手(同選手インスタグラムから)

 今回の12人の選手、また、亀田温心騎手や山岸舞彩氏の親が命名権の濫用をしたという気は全くないが、個性を追求することと社会通念に沿った命名にすることのバランスを考えていただきたいと思う。

 今から11年前の2012年、女子サッカーU20代表に田中陽子選手が選出された。11年前もあまりなじみのない名前が多かったが、昭和の時代には何人いたか分からないぐらい多数いたと思われる「田中陽子」という名前に、個人的に惹かれた。彼女はなでしこジャパンにも選出されるほどの優れたサッカー選手であるが、それに加えてシンプルで美しい名前が気に入り、ずっと応援している。

 昭和の時代からめぐりめぐって、クラシカルな名前が強烈な個性を放つこともあるということをこれから親になる人には知っていただきたい。

    "吟雲 愛芽世…難読名スポーツ選手への思い"に4件のコメントがあります

    1. 野崎 より:

      日本人の変化、劣化といってよいその現れなのでしょうね、、

      私なども文章作法、改行、句読点等の使い方らか言葉の選択などなっていませんが、それを自覚していることが少なくとも~~、、つまり自らを省みるに他者を劣化などと言えないのですが以下。

      記事の問題は親があえて他との差別化やある種の価値観からの名付けというより言葉に対する劣化なのだと感じます。
      これは感性、感覚の問題であり客観評価はできないのでそう感じるとしか言えませんが、

      若い人に見られる誤読、誤用、ら抜き言葉等は間違いを指摘できますけれど、
      肉じる、ではなく肉じゅう、だよ、鼻汁みたいできたならしく感じないかい?
      そうなんですかぁ、で終わり、一じる一菜といってた親父もいた、つまりこの世代からの影響、、
      言葉の伝承が途絶え、それに何らかの要素が加わっての劣化、
      これらの名付けを異様と感じない感性が生まれた、それでの現象、、それを劣化と考えます。

      ヨウツベで大正末期から昭和初期の小説朗読をよく聞きましたがその時代の女性の言葉の何たる、明確に性差がわかるも麗しく今は完全に途絶えた言葉使い、そういうことなのだと、時の流れ時代の変化は、それとこの劣化現象は異なる感を覚えます。

      日本語は本当に美しく綺麗で一つの言葉に多面性が有り、それが日本人の言葉の深読み、裏読みが出来る感性を養ってきたのだなと、
      語彙が増えるとIQが上がる説がありますが何となく納得できる、、言霊というように言葉には宇宙がある(日本語)語彙が増えれば潜在意識的に思考が深まる感を覚えます、、

      そして日本語は漢字と相まってその働きがあるのでは、、
      NHKの日曜美術館で書道家の人達を、書道など芸術ではない!と強く否定していた洋画家がいました、書道家の男性は反論できずに、
      この洋画家に才能感性が無いが故理解できないのでしょうね。
      漢字はパターン認識なので書けずとも読める、つまりそれ自体にデザイン性が強くあり外国人などが面白がり漢字をデザインしたTシャツなどを着る。
      髑髏など、骨のがいこつそのもののイメージが浮かんでくる、されこうべ、しゃれこうべ、などという言葉と相まって、魑魅魍魎などいかにも暗闇に潜む得体のしれない化け物を感じさせる字、

      日本語は漢字と相まって意識せずともその関係性において日本人の感性を育てた、、、なぁ~んてホントに思います。
      書で女と漢字で書く、水茎のあとも麗しく又平仮名で、同じ女で感じるものが違う、、そして細く、墨の濃淡、かすれ具合は墨絵にも通じる、カリグラフィーなどには無い書の深み、その感性は日本語そのものに連なる、、

      大和言葉はもう死語となり使われない、雅やかな言葉と評された、、無念、

      ユーミンが大和言葉をあえて使い作り上げた歌がありましたね、思い出せない、彼女なりの差別化、挑戦だたのでしょう、バカ親どもとは異なり正当なるを踏まえ得ての世への挑戦。

      格調高き文語表現も同じく、、
      キリスト教の文語聖書を読むと同じ聖書の言葉でも全く次元が違う、全く別の意味合いとして伝わってくる感があります。
      言葉の持つ力の意味がわかります。

      日本も世界も変わっていくのですね、、
      同じ変化でも狂った感性によっての変化やファシスト共の価値観による変化へは対抗せねばなりません。

      脈絡なくだらだらと失礼しました。
      毎日が日曜日の爺さんの、土曜の夕餉前の時間に、ついです。

      御返信は不要です。

      1. 松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵 松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵 より:

         ユーミンの大和言葉の歌は「春よ、来い」でしょうか。古風な言い回しの歌詞は情緒あふれるものがあると感じます。同じように外来語(主に英語)を使用しない歌としては、爆風スランプの「それから」があります。これを聴いた時は非常に斬新な感じがしました。

        >>親があえて他との差別化やある種の価値観からの名付けというより言葉に対する劣化なのだと感じます。

         これはおっしゃる通りだと思います。その手の名前をつける親のSNSを見たことがありますが、たとえば「舞彩」なら「彩」は「彩り」で「い」がつくから、「い」と読んでいい、という考えでした。まともに話すのも馬鹿馬鹿しくなった記憶があります。正直、そういう方とはもう、根本的に価値観が異なるという印象を持っています。

    2. 小田朱実 より:

      舞彩なら、どんなに頑張っても「まあや」くらいしか読めないですね。

      無理やりこじつけた感でしかない漢字の名前では、本人も周囲も困りますから、法律の規制はもっと早くして欲しかったです。

      別に、読み方が二通りあるのなら、それはそれでいいんです。隆で「たかし」なのか「りゅう」なのか、どちらでも人の名前としておかしくないし、日本語としても普通に読めますから。
      しかし最近では、たかし、と名付けるのに、例えば「隆神心」とか、それぞれの漢字の読み方「たか」「かみ」「しん」の、一音目の音だけを使うのが流行りなのか、このような名付けが多いなと感じます。統計をとったのではないのであくまで私の個人的な印象ですが。

      一音目の音だけ読む漢字が、「明希子」のように名前の中の一文字だけなら、まだわかりますが、全てとなると相当読みにくくなります。
      おそらく松田さんがテレビを見て感じられた違和感はこのような事ではないでしょうか?

      1. 松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵 松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵 より:

        法の規制をもっと早くに、というのはその通りだと思います。社会の動きに行政も立法も対応が遅れるのは常とはいえ、名前は個人の一生に関わりますから、慎重かつ迅速な対応が求められると思います。

        山岸舞彩さんもご自身で命名されたものではありませんから、あれこれ言われるのは可哀想ですが、実際に画面で目にする者の中には、眉を顰める人もいることは想像がつきますから、芸名のような形で何とかできなかったのかなという思いはします。

        >>おそらく松田さんがテレビを見て感じられた違和感はこのような事ではないでしょうか?

         そうですね。そんな感じです。昔の名前は漢文の素養のある人が故事にならって命名という教養や知性の高さを示すものだったように思いますが、ただ単に見た目がよく、読みにくい名前がかっこいいみたいな風潮になっているような居心地の悪さを感じます。

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