玉城デニー知事暴走 辺野古”代執行訴訟”の経緯

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松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

青山学院大学大学院法務研究科卒業。1985年から2014年まで日刊スポーツ新聞社に勤務。退職後にフリーランスのジャーナリストとして活動を開始。

 米軍普天間基地の辺野古移設に関して国が沖縄県の玉城デニー知事に地盤改良工事の設計変更を承認するよう求めた裁判で、福岡高裁那覇支部は12月20日、請求を認容する判決を出した。玉城知事が承認しない場合、国が代執行をして工事が始まることになる。一般には分かりにくい、ここに至る経緯を説明し、同知事の政治家とは思えない暴走ぶりを明らかにする。

◾️軟弱地盤が見つかったことが発端

代執行訴訟の経緯

 今回の判決に至るまでの経緯を図で示したので見ていただきたい。始まりは、辺野古の公有水面の埋め立て予定地に軟弱地盤が見つかったために、地盤改良工事が必要となり、沖縄防衛局が2020年4月21日に設計の変更を申請したことにある(1)。ところが、玉城デニー知事は、これを不承認とした(2)。その理由としては、環境保全や災害防止に十分配慮した検討が行われたとは言えないなどとしている。

 この決定に対して沖縄防衛局は2021年12月7日、公有水面埋立法を所管する国土交通大臣(斉藤鉄夫氏)に審査請求をした(3)。2022年4月8日、国交大臣は、県知事の判断は「裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したもの」(最高裁判決令和5年12月20日)として、不承認を取り消す旨の裁決をした(4)

 不承認が取り消されたことで、本来なら、沖縄県は新たな処分、すなわち承認の処分をしなければならない。これは審査請求を定めた行政不服審査法に規定がある。

【行政不服審査法52条】

1 裁決は、関係行政庁を拘束する。

2 申請に基づいてした処分が手続の違法若しくは不当を理由として裁決で取り消され…た場合には、処分庁は、裁決の趣旨に従い、改めて申請に対する処分をしなければならない。

…(以下略)

 このように沖縄県は裁決に拘束されるが、玉城知事はこの規定を無視。新たな処分(承認)を行わなかったのである。

◾️法定受託事務とは

 地方公共団体の事務には自治事務と法定受託事務の2種類があり、今回の設計変更の申請の承認は後者の法定受託事務。その内容は地方自治法2条9項に規定されており「国が本来法律又はこれに基づく政令により都道府県、市町村又は特別区が処理することとされる事務のうち、国が本来果たすべき役割に係るものであつて、国においてその適正な処理を特に確保する必要があるものとして法律又はこれに基づく政令に特に定めるもの」(同項1号)とされる。本件は、いわゆる「1号法定受託事務」である。

 本来、国がすべき事務であるが「住民により身近な行政主体である地方公共団体に委ねたほうが良いという政策判断」(行政法第5版 櫻井敬子 橋本博之 弘文堂 p52)という法定受託事務の趣旨に沿って沖縄県が受託した形。国が国土防衛、あるいは普天間基地周辺住民の安全を考えた上で辺野古移設のために辺野古沖の地盤改良が必要と考えており、その点を考慮しない沖縄県の判断に審査請求を受けた国がNOと言うのはある意味当然。辺野古の問題は沖縄県だけの問題ではない。

 法定受託事務の趣旨を理解できない知事というのも信じ難いが、それ以上に行政不服審査法に規定される新たな処分をしないという違法な行為(不作為)を行うのであるから、常軌を逸しているとしか言いようがない。

 国交大臣は裁決の20日後の2022年4月28日、承認をするように「是正の指示」を行った(5)。これは地方自治法245条の7第1項に規定されているもの。これに対して玉城知事は抵抗し、裁決と指示を不服として総務省の国地方係争処理委員会に同年5月に審査の申し出を行った(6)。その結果、同年7月に裁決については申出を却下、同8月に指示については違法でないと認める審査結果が通知された(7)

◾️ようやく可能になる代執行

 ここに至っても玉城知事はまだ諦めず、今度は裁決と指示についての国地方係争処理委員会の判断を不服として、同年8月に取消しを求める訴訟を提起(8)。2023年3月16日、福岡高裁那覇支部は「指示」について請求を棄却(9)、8月24日に「裁決」については最高裁が申し立てを受理しない決定をし、9月4日に最高裁は「指示」について上告を棄却した(10)

 この最高裁判決が確定してもなお、玉城知事は変更申請を承認しなかった。そのため、国交大臣は2023年9月19日付けで地方自治法245条の8第1項に基づき、同27日までに承認するように勧告、さらに同28日付けで同2項に基づき10月4日までに承認するように指示(11)。それでも何らの対応をしないため、10月5日に同法245条の8第3項に基づいて、承認を義務付ける訴えを提起した(12)

 それに対する判決が12月20日にあり、冒頭で示したように国側の請求を認容する判決が出された(13)。これにより、地方自治法245条の8第8項で国側は「代執行」が可能となる(14)

【地方自治法245条の8第8項】

8 各大臣は、都道府県知事が第六項の裁判に従い同項の期限までに、なお、当該事項を行わないときは、当該都道府県知事に代わつて当該事項を行うことができる。…(以下略)

◾️上告は無駄な抵抗

写真はイメージ(沖縄の海辺)

 法令に沿って行政を行うべき知事が、率先して法令に反する行為を続ける異常さ。それが今の沖縄の現実なのであろう。福岡高裁那覇支部が判決で「県知事たる被告が令和5年最高裁判決において法令違反との判断を受けた後もこれを放置していることは、それ自体社会公共の利益を害するものといわざるを得ない。」と厳しく指摘したのは当然であろう。

 なお、沖縄県(玉城知事)が上告する可能性はあるが、もはや無駄な抵抗と言うしかない。地方自治法245条の8第10項は、上告について「…上告は、執行停止の効力を有しない。」としており、仮に上告しても、国は承認の代執行をすることができる。承認されれば工事に入ることは可能であろう。

 身勝手な理屈を振り回して国政を停滞させた玉城知事の行動には一国民として怒りを覚える。次回の選挙での沖縄県民の良識に期待するしかないことに脱力感を覚えるのは、筆者だけではないはずだ。

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