県敗訴確定 沖縄タイムス社説の不勉強

The following two tabs change content below.
松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

青山学院大学大学院法務研究科卒業。1985年から2014年まで日刊スポーツ新聞社に勤務。退職後にフリーランスのジャーナリストとして活動を開始。

 沖縄タイムス(本社・沖縄県那覇市、代表取締役社長 武富和彦)が3日、いわゆる代執行訴訟で県敗訴が確定したことについての社説を紙面と電子版に掲載した。一方的な政府批判の偏向した内容はいつものことであるが、その中に明らかに合理性を欠く主張があった。お粗末としか言いようがない社説を掲げるあたりに、沖縄の絶望的な状況が見えてくる。

◾️代執行は自治権の侵害

辺野古での工事を開始した防衛省(撮影・松田隆)

 沖縄県は辺野古の新基地建設で、地盤改良工事を承認するように県に命じた福岡高等裁判所那覇支部の判決(2023年12月20日付)を不服として最高裁に上告受理申立てを行ったが、2月29日付で全面的不受理とする決定がなされた。

 ここに至る詳細な経緯は以前にも紹介した(玉城デニー知事暴走 辺野古”代執行訴訟”の経緯)。高裁判決の時点で上告は執行停止の効力は有せず(地方自治法245条の8第10項)、既に斉藤鉄夫国交相が承認の代執行を行い(2023年12月28日)、年明けの1月10日に改良工事は着工されている(朝日新聞DIGITAL・防衛省、「代執行」による辺野古工事に着手 沖縄知事「乱暴で粗雑」)。

 この最高裁の決定について3日付けの沖縄タイムスの社説(同紙電子版・代執行訴訟 県敗訴確定 国への権限集中を疑え)は「県敗訴が確定したことになるが、最高裁の判断に意外性はない。」と、この事態を十分に予想していたとし、その原因を地方自治法改正(2000年)で地方自治への国の関与のあり方が変更されたことに求める。

 これは法改正により地方公共団体の事務を「自治事務」と「法定受託事務」の2つに分けて国の関与の仕方を定め、特に国が本来、やるべきことを地方に任せた法定受託事務では「国の関与を強化し、国による代執行が認められるようになった。」とするもの。ここまでの説明は概ね正しいが、問題はその次である。

 「改正地方自治法に基づいて代執行が行われるのは辺野古を除き、過去に例がない。代執行は自治権の侵害になるからだ。

 この部分の前段、2000年の地方自治法改正で代執行の制度が導入され、それ以後、今回の代執行まで例がなかったとするのはその通りである。なぜなら、国の仕事を委託された地方公共団体が国が本来やろうとしている方向とは異なる判断で処分を決定すること自体、稀であるから。その上、審査請求でその決定が取り消され、その取り消しの裁決が関係行政庁を拘束すると定める行政不服審査法52条の規定も無視するという、徹底的に法を無視する首長は玉城デニー知事以外にいないから、国が代執行をする機会がなかったのは当たり前である。

 ところが、沖縄タイムスはそうした事情を無視して、辺野古以外で代執行をしなかったのは「自治権の侵害になるからだ。」と断じた。そうではなく、代執行をする機会がなかった、代執行にまで至るような無法を続ける首長がいなかった、これらが原因であるが、いつの間にか理由がすり替えられている。

◾️憲法92条 地方自治の本旨

 その上で後段の代執行を「自治権の侵害」と断じているのも大問題である。どういう意味で使用しているのか真意を測りかねるが、「沖縄県の決定は国の決定に優先する」とでも思っているのかもしれない。

 社説の言う自治権は、通常の理解力であれば憲法92条を指しているものと判断する。

【日本国憲法92条】

地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める。

 「地方自治の本旨」とは、「一般に、国から独立した地方団体が、地方の事務を自ら処理するという『団体自治』と、地域の事務の処理が住民の意思に基づいて行われるという『住民自治』の2つの要素からなるとされている。」(基本講義憲法 市川正人 新世社 p394)と説明される。

 沖縄タイムスは県民が辺野古の基地建設に反対している、それを国が代執行によって工事を進めるのは団体自治と住民自治を無視する、すなわち自治権の侵害と考えているものと思われる。

 地方自治、地方の自治権は国民に認められた重要な権利。しかし、それは国の介入を一切許さない絶対的な権利ではない。国政や国民の権利との衝突場面の中では当然に制約は受けうる。地方自治が国政を凌駕する権威を持てば、政府は外交や防衛、エネルギーなどの問題で大きな制約を受けることになり、結果として多数の国民の基本的な権利が侵害されることに繋がりかねない。

 今回、問題になっている法定受託事務は、本来、国がやるべき事務であるから国が関与するのは当然。地方の事情やわがままで国のやるべき事務が行えなくなれば、国益を害する。沖縄県は「米軍基地はいらない」と希望する一部の人の利益しか考えず、日米安保条約を基軸とする国防政策全体の利益は考慮していないと考えられる。それによって国益を大きく害する可能性がある事態に陥るのを防ぐために代執行の制度が存在し、国は根気良く法的手段を講じて代執行し、着工したのである。これを沖縄タイムスが「自治権の侵害」と断ずるのであれば、それは根拠を示すべき。それができないなら、思い込みを客観的事実であるかのように書くのは控えるのがメディアとしての良識というものである。

 なお、国政や国民全体の権利のために一部の地域の住民が不利益を受けないように、憲法は特別に規定を設けている。

【日本国憲法95条】

一の地方公共団体のみに適用される特別法は、法律の定めるところにより、その地方公共団体の住民の投票においてその過半数の同意を得なければ、国会は、これを制定することができない。

 辺野古の事例はこれとは全く異なることは今更説明するまでもない。

◾️自治権侵害に拘るなら訴訟を

玉城デニー知事(Xの同氏アカウントから)

 沖縄タイムスがあくまでも「代執行は自治権の侵害」と考えるなら、沖縄県に「代執行は憲法92条で保障された地方自治の本旨に反し違憲」の確認を求める、あるいは「代執行は違憲であり、その取り消しを求める」訴えを提起するように奨めてはいかがか。

 玉城デニー知事は県の敗訴が確定した後の会見で、そのような法廷闘争を続けるとは口にしなかった。おそらく知事自身が「代執行は違憲」という主張は無理筋というのを理解できているものと思われる。

 社説を書いた人間はどこまでその点を理解できているのか疑問。理解していれば「代執行は自治権の侵害」などとは書かないであろう。

 沖縄タイムスの編集方針が社会通念から外れ、紙面が偏向した内容であることは多くの人が理解しているため、今更、その考えの誤謬を指摘するのも意味があるとは思えない。ただし、同紙は自らの考えを主張するのであれば、客観的な事実や適切な法解釈が大前提となることは弁えるべき。前提の部分で虚偽を含めることはメディアの質、さらにいえば存在価値に関わる。

 沖縄タイムスというメディアは、もはや現代には必要のない媒体となっていることにそろそろ気付いていただきたい。それを示していると言っていい、今回の社説であったように思う。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です