阿部岳記者の不勉強 米大使館の”著作権侵害”

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松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

青山学院大学大学院法務研究科卒業。1985年から2014年まで日刊スポーツ新聞社に勤務。退職後にフリーランスのジャーナリストとして活動を開始。

 沖縄タイムスの阿部岳記者が2日、国際法の規定から有り得ない主張をX上で行い、関係者の失笑を買いかねない事態となっている。在日本米国大使館が日本のメディアが報じた記事を英訳して公開していることから、大規模な著作権侵害事件となる可能性を示唆するもの。外交関係に関するウィーン条約の規定から可能性は全くないと言ってよく、報道に携わるものとしてはお粗末な情報発信と言える。

◾️米大使館が著作権侵害と主張

阿部岳Tube 画面から

 阿部記者は2日、自社の1日付けの記事(米大使館が著作権侵害か 無断で日本の報道記事9万点以上を英訳し公開【写真付き】)を引用する形で、以下のポストを投稿した。

在日米国大使館は、明らかに沖縄タイムスの記事、写真、漫画を無許可でダウンロード、英訳、改変、公開している。

他メディアの記事も計9万点以上ある。他メディアからも同様に許可を取っていなければ、巨大な著作権侵害事件に発展する。

(2024年2月2日午後5時56分投稿

 元の記事は、ジョン・ミッチェル特約通信員の署名があり、「在日米国大使館(東京)が日本の報道記事9万点以上を英訳するなどして、誰でも英語で読める形で公開していたことが分かった。」という内容。記事によると合計115媒体の米国に関する記事を10年分、ウェブ上で公開しており、沖縄タイムスの記事も使用されているというもの。

 無断で使用していた場合、著作権の侵害となるという主張はわかるし、また、不法行為の行為地として日本の著作権法が適用される可能性が高いという記事内での弁護士の話もその通りであろう。日本の民事訴訟法の5条9号は、財産権上の訴え等について「不法行為があった地」を管轄する裁判所への提訴ができるとしている。

 こうした点について在日米国大使館は沖縄タイムスの取材に回答せず、昨年末からサイトを外部から見られないようにしているという。

◾️巨大な著作権侵害事件に発展?

 この記事を引用し、阿部記者の上記のポストとなっている。同ポストの最大の問題点は「他メディアからも同様に許可を取っていなければ、巨大な著作権侵害事件に発展する。」という部分。

 実は日米ともに加盟している「外交関係に関するウィーン条約」には以下の条文がある。

【31条】

1 外交官は、接受国の刑事裁判権からの免除を享有する。外交官は、また、次の訴訟の場合を除くほか、民事裁判権及び行政裁判権からの免除を享有する。

 簡単に言えば、外交官は接受国(今回の場合であれば日本)の裁判権からは免除される、裁判権に服さないということである。もちろん例外はあり、それは(a)から(c)の3つの場合である。(a)は接受国の不動産に関する訴訟の場合、(b)は外交官が遺言執行者、遺産管理人、相続人又は受遺者として関係している相続に関する訴訟の場合で、どちらも本件とは無縁である。そして同条1項(c)は以下のように定めている。

(c)外交官が接受国において自己の公の任務の範囲外で行なう職業活動又は商業活動に関する訴訟

 この条文からは、外交官が全くの私的な目的でホームページを作成し、そこで著作権侵害をしていれば裁判権に服することになる。ところが、問題のホームページは在日米国大使館の公式サイトであり、その掲載は「公の任務の範囲」で行われていることは疑いがない。

 仮にホームページの運営を同大使館の事務・技術職員が行っていたとしても、裁判権からの免除は保障されている(同条約37条2項)。

 このように考えれば「巨大な著作権侵害事件に発展する。」というのは有り得ない話である。

◾️「訴えたらいいのでは?」

 このポストに対して、いくつかのコメントがついているが、「訴えたらいいのではないか」という趣旨のものが少なくない。

 仮に沖縄タイムスが在日米国大使館による著作権侵害を主張し、損害賠償を請求する訴えを東京地裁に起こしたとする。その場合は以下のような手続きを踏むことになる。

 「駐日外交施設は、民事訴訟上の訴訟当事者(民事訴訟法224条1項、当時、筆者注・現134条2項)とはなり得ないので、訴訟を審査する裁判長が、その欠缺の補正を原告に命じることになる(同法228条1項、当時、筆者註・現137条1項)。その後、原告が自ら外務省に依頼することにより、派遣国が外交官の裁判権免除を放棄するか否かを確かめる手続きをとらなければならない。」(現代国際法 栗林忠男 慶應義塾大学出版会 p191)

 この時点で、米国連邦政府が「裁判権免除を放棄しません」と言えば、外交官は訴訟当事者とならないため、沖縄タイムスは訴状の欠缺を補正できないことになり、「裁判長は命令で訴状を却下しなければならない」(同法137条2項)。

 つまり、沖縄タイムスがどう騒いでも、著作権侵害による損害賠償を手にすることはできない。それ以前に裁判に持ち込むことができない。「巨大な著作権侵害事件に発展する。」わけがない。そのような説明を記事内にコメントしている弁護士から説明を受けていないのであろうか。阿部記者は故意なのか、それとも不注意なのか、本人の知識不足なのか、その点には全く触れていない。

◾️主義主張以前の問題

阿部記者の報道姿勢

 阿部記者が上記の説明のどこまで認識していたか分からないが、「巨大な著作権侵害事件に発展する。」は明らかに世論をミスリードするものである。

 これまで当サイトでは何度も阿部記者について話題にしてきたが、その多くは法律に関する不勉強さを指摘するものであった(参考・沖縄タイムス阿部岳記者のコラム 不勉強と思い込みに唖然)。

 同記者がどのような政治思想を持っているのかは知らないが、記者を名乗るのであれば正確に事実を把握してから情報発信をすべき。

 自ら中立の立場で報じている気はないと公言しているようであるが、今回を含め、これまでのような情報発信を続けていると、それ以前の問題として記者失格と言われても仕方がない。

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