神奈川新聞”活動家記者”がはびこる理由

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松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

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青山学院大学大学院法務研究科卒業。1985年から2014年まで日刊スポーツ新聞社に勤務。退職後にフリーランスのジャーナリストとして活動を開始。
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 武蔵野市議会が反対多数で否決した住民投票条例案をめぐって、いわゆる”活動家記者”と呼ばれる存在が問題になっている。取材活動をする中で、一定の政治目的のための行動をする記者のことである。自民党の和田政宗参院議員は自身のYouTubeチャンネルの中で、神奈川新聞の石橋学記者(編集委員)を実名を挙げて批判。こうした”活動家記者”の存在はメディアの存在価値を著しく傷つけるもので、その存在そのものを危うくうする可能性がある。

■ジャーナリズムではなく過激派の手法

石橋記者の妨害について話す和田政宗氏(和田政宗の本音でGO! 画面から)

 和田議員はYouTubeチャンネル「和田政宗の本音でGO!」の中で、神奈川新聞の石橋学記者を厳しく批判している。その中で、同議員が住民投票条例案の立会演説を行なった際(12月5日)に、「私に演説をさせないよう、ヤジやスピーカーで音を被せてくる人たちの妨害に遭ったわけです。」、「こうした妨害の中に声も入っていますが、神奈川新聞の石橋学編集委員が『表現の自由だ』という声で、この妨害行為を擁護しました。」と話した。

 実際の演説の際の動画も公開されており、演説者の目前(目測で2mほどの距離)で大声をあげて声を聞こえないようにしている妨害者に混じり、石橋記者の「表現の自由だよ、表現の自由」という声が聞こえてくる。

 和田氏は「我々は自民党の武蔵野市議団とともに、政党活動、政治活動ということで行なっているわけでありまして、これを力ずくで阻止しようとするのはですね、まさに過激派が取るような手法であるわけでありまして、これを擁護するということは、もう力ずくでこういう政治活動を潰していいということをですね、この石橋学という編集委員は言っているわけでありまして、神奈川新聞の編集委員ですから神奈川新聞はこれをどう考えるのか、しっかりと説明をしてもらいたいと思います。こんなものはジャーナリズムではなく、過激派がとる手法と同じことをしていると言っても過言ではないというふうに私は思います。」と石橋記者と、それを雇用している神奈川新聞を厳しく批判している(以上、実質的外国人参政権?武蔵野市住民投票条例案!撤回を求める演説に新聞記者の妨害 から)。

 なお、スピーカーを用いた演説の妨害の様子もYouTubeで公開されている(【4K/拡散希望】12/5 和田政宗 演説中に野間易通が妨害 「武蔵野市 住民投票条例案の撤回を求める」街頭演説会)。これを見ていただければ分かるが、和田議員の声がスピーカーからの罵声で時折聞こえなくなっており、周囲ではかなりの混乱が生じている。

神奈川新聞の石橋学記者(右)

 普通の記者であれば、条例案に反対する国会議員が武蔵野市で演説をし、それに対して反対派が大きな音声を出してそれを妨害している、という光景を記事にするだけである。その中で、和田議員の主張の正当性に疑問を呈するのもいいし、また、反対派の行動が適法性を欠くものであることを指摘するのもいい。それが客観的な報道である。

 しかし、石橋記者は「表現の自由だよ、表現の自由」と反対派の正当性を現場で訴えている。こうした行為は取材に必要ではない。客観的な立場で取材をする中で一方に賛同する主張が記者個人の考えとして盛り込まれるのであればまだしも、取材現場で一方の主張の正当性を叫び、反対派の抗議の声を封殺するような行為は新聞記者の仕事の範疇にはない。

 また、憲法のごく初歩でも学んでいたら、大声で他者の演説を妨害する行為が、憲法21条1項が保障する表現の自由として保護されないことは容易に理解できる。石橋記者の言動は、様々な面で勉強不足、認識不足と言って差し支えない。

 なお、和田議員は12月20日、事務所に差出人が書かれていない神奈川新聞社の封筒で、演説会の内容が書かれた記事が掲載されている新聞が郵送されてきたことをツイッターの投稿で明らかにした。23日、それは石橋記者が郵送したものであることが判明したという記事を投稿している。

■TBS成田事件に見る活動家記者の源流

 こうした記者の仕事の範疇にない活動をする記者の存在は今に始まったことではない。”活動家記者”の有名な例として、いわゆるTBS成田事件と呼ばれる事件がある。1968年3月、成田空港建設反対運動の取材をするTBSが調達したマイクロバスに反対派の学生や農民、凶器となりうるプラカードを乗せたというもの。

 さまざまな事情があったようではあるが、報道機関として検問を通過しやすいという特質を利用し、過激な暴力活動を行う反対派10名を同乗させているという点で極めて悪質な事件であった。これにより、TBSは関係者が処分を受け、その直後に田英夫氏(故人、後に参議院議員)がTBSのJNNニュースコープのキャスターを降板する事態となっている。

当サイトの写真撮影を取材対象との間に入って妨害する石橋記者(右)

 ”活動家記者”は俗称に過ぎず、正確な定義があるわけではないが、(1)報道という現場に関わることができるという立場を利用して、対立する勢力の一方を物理的・精神的に支援するという方法や、(2)「メディアは中立に違いない」という多くの国民の思いを利用し、一方の勢力の主張が客観的に正しいという趣旨の記事を作成して支援する方法を行う記者というのが、この言葉を使う者の一般的な解釈と思われる。

 石橋記者については、和田議員の演説の妨害を擁護したことは、(1)に該当し、その後、和田議員の言葉によると、「私が言っていないことをさも言ったかのように捏造した上、私の発言を『ヘイトスピーチ』とレッテル貼りした」記事を作成したことは(2)に該当すると思われる。

 和田議員の事務所に新聞を送りつけた行為は、自らが取材活動を行うために現場にいたことをアピールする狙いがあったとのかもしれない。

 このように”活動家記者”の系譜は60年代にまで遡ることができ、そうした延長上に神奈川新聞の石橋記者はあると言っていいのかもしれない。ちなみに当サイトも石橋記者に取材妨害を受けている(参照・伊藤詩織氏に質問「虚偽を述べたのか」)。取材活動をする他媒体の記者に取材させないように物理的に妨害することは、上記(1)の行為と言っていい。

■神奈川新聞はどう考えるのか

 ”活動家記者”が公平で中立な立場を捨てて取材のような活動をしていることは、媒体としての信頼性に関わるのは言うまでもない。和田議員が「神奈川新聞はどう考えるのか」と語っていたように、社としての問題である。

 通常の新聞社であれば、”活動家記者”は現場に出さないであろうし、編集から外す判断をする。それにもかかわらず、石橋記者が現場に出続けることは、会社の判断としても信じ難い。神奈川新聞社は、もともとそうした手法をとってまでも、自社が信じる主張に沿った記事を書く記者を編集に置きたいという事情があるのか。

 そのような紙面作りをしていれば、いずれ読者から見放されるのは間違いない。それでも石橋記者を編集委員として起用し続けるのは、業務(販売や広告、総務等)では使いにくいという判断もあると思われるが、極端な主張をする記者を起用することで、固定ファンを留めおく狙いがあるのかもしれない。

 日本ABC協会が発表した神奈川新聞の発行部数の推移を分かる範囲で調べると以下のようになっている。

2016年10月:18万6421部(神奈川新聞HP・新聞広告

2019年10月:16万2972部(神奈川新聞社・会社案内

2021年8月:14万8473部(同年1月~6月の平均、文化通信2021年8月26日公開記事

 ご覧のように、およそ5年で20.4%の減少という凋落ぶり。このペースで落ちれば、2026年には12万部を割り込むことも考えられる。普通の企業なら数年以内に倒産しても不思議はない。

 末期的症状にある新聞社としては、ここでまともな取材方法、紙面での主張に切り替えても読者増はもちろん、部数減少のスピードは落とすことはできないと判断しているように思う。それより、どのような取材方法を使ってでも極端な主張をし続け、少数でも賛同する人は必ず購読を続けてくれるようにするという計算をしているのかもしれない。

 そうであれば、石橋記者の手法を黙認する会社の姿勢も生き残りのための戦略と見ることができる。まともな経営者なら石橋記者を現場から外すであろうが、そうもできない事情があるということなのであろう。

■毎日新聞 東京新聞 沖タイ…

写真はイメージ

 ”活動家記者”は他に毎日新聞、東京新聞、沖縄タイムスなどにもいると認識されており、ネット上では実際にそうした記者が実名で”活動家記者”と呼ばれ、批判されている。

 共通するのは、発行部数の減少が続き、経営状況が厳しいと目される媒体であること。生き延びるために会社の上層部も苦渋の決断をしているのかもしれない。

 新聞を含むメディアに最も大切なのは客観的な報道である。社としての主張があるのは当然としても、取材の段階で公正を害する行為をしたり、取材結果を事実と異なる記事にまとめたりするのは媒体としての自殺行為と言っていい。

 その点を新聞各社の上層部はよく意識すべきと考える。

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