ガザ紛争で分かる偏向メディアとテロの高度化

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石井 孝明🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

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経済・環境ジャーナリスト。慶應義塾大学経済学部卒、時事通信社記者、経済誌フィナンシャルジャパン副編集長、アゴラ研究所の運営するエネルギー問題のサイトGEPRの編集担当を経て、ジャーナリストとエネルギー・経済問題を中心に執筆活動を行う。著書に「京都議定書は実現できるのかーC O2規制社会のゆくえ」(平凡社)、「気分のエコでは救えない」(日刊工業新聞社)など。
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 パレスチナ自治区のガザから同地区を実効支配するテロ組織ハマスが、イスラエルを攻撃している。5月10日から始まり1週間が経過した。紛争の早期解決を望むが、私は日本の反響を見て、2点おかしさを感じた。一つは「パレスチナへの肩入れ」、もう一つは「軍事技術の変化への無関心」だ。

 日本のメディアが言及しないので、ここで問題点を指摘して教訓を2つ引き出し、私たちの日常に役立てたいと思う。イスラエル・パレスチナ紛争の悲劇と歴史の集積は、多くの碩学たちが語っているので、それを参照いただきたい。

◆過剰なイスラエル批判、テロ組織を支援するのか?

イスラエル国防軍ツイッターから

 第一の問題は、紛争の解釈についてだ。ネットに流れる日本語情報と、英語情報を読み比べてみよう。日本に流れる情報はイスラエルへの批判が多過ぎる。

 この紛争は、テロ組織ハマスが、10日から16日時点まで、約2000発の迫撃砲などの通常砲弾、数十機のドローンによる爆破攻撃、100発前後の小型ミサイルを使ってガザ地区からイスラエルの都市を攻撃したことから始まった。これは主権国家イスラエルに対するテロ組織による攻撃だ。その構図を無視し、日本のメディアと一部知識人は、「イスラエルがパレスチナを攻撃した。イスラエルが悪い」と強調している。

 確かにイスラエルの現在のネタニヤフ首相は対外強硬策を採用しがちだし、パレスチナ紛争では、イスラエル側にも多くの問題がある。しかし一方的に同国を批判するのは公平性を欠くし、主張する人の社会常識を疑う。この事件は世界が今行っている「テロとの戦い」の文脈で語られるべきものだ。

 米紙ニューヨーク・タイムスを例にしてみよう。国際ニュースサイトの見出しを見るだけで、イスラエルとパレスチナ双方から情報をとり、中立な報道姿勢であることが分かる。

 一方、日本の新聞のサイトは、この紛争をめぐる情報量も少ないが、反イスラエルのニュースが並んでいる。例として、朝日新聞国際部サイトを見ると、「ガザ空爆に強まる非難」「ガザ空爆死者120人超、どうして1歳の息子まで」との、イスラエル非難の記事の見出しが並ぶ。テレビもこんな調子だ。

 中山泰秀防衛副大臣は12日、「私たちの心はイスラエルと共にある」と応援するツイートを出した。すると、一斉にこれに反発する声があがった。ジャーナリストの江川紹子さんは、以下のように批判した。

 日本政府の立場と明らかに違う。イスラエルの外交官からお礼のツイートも発せられており、日本の立場を誤解させた責任は大きい。更迭すべき →防衛副大臣「私たちの心はイスラエルと共に」とツイート…パレスチナ空爆 : 政治 : ニュース : 読売新聞オンライン2021年5月13日14:15投稿

 この書き込みで「日本政府の立場と明らかに違う」というのは、江川さんの間違いだ。日本政府はハマスをテロ組織と認識している。(公安調査庁サイト:国際テロリズム要覧

 中山副大臣の発言に問題はない。江川さんの言説は、欧米では「テロの容認」、イスラエルを過剰に敵視する「反ユダヤ」の差別発言と警戒されかねないだろう。

◆弱者を隠れ蓑に、テロ組織が活動

  思想界で「世界のガラパゴス」とも言える日本は、1970年代の影響が色濃く残っている。この時代、民族解放運動と世界の左派運動が結びついた。極左の日本赤軍はパレスチナ紛争に参加し、テロを行った。欧米ではユダヤ人が居住して社会的存在感が強く、また第二次世界大戦中のナチスのホロコーストの反省から、根拠のない反ユダヤは人種差別とみなされる。メディアは、中東問題で情報の両論併記を原則とする。しかし日本では70年代から現代に至るまで、親パレスチナ、反イスラエルの風潮が強く、情報が偏向している。

 そしてテロリスト側は、弱者を隠れ蓑に、政治活動をしている。世界最優秀の練度と装備を持つイスラエル軍とテロ集団ハマスでは、力の差が大き過ぎる。報復や軍事施設の破壊で死者は不均衡になる。今回の紛争も、ガザ地区で一般民間人に死者が出ている。16日時点では、イスラエルの市民の死者は7人、パレスチナ自治政府などの発表では約120人の死者が出ている。痛ましいが、その結果は予想できたことだ。これを政治利用し、一般市民の死をテロリスト側は強調している。理解しているのか、理解しないでいるのかは分からないが、ハマスを日本で擁護する人たちは、そうしたテロリスト側の作戦に絡め取られているのだろう。

 そもそも、今の中東の注目される軍事問題はイランの核開発と、それを阻止するイスラエルの攻防である。最新式の武器をテロリスト側が使っているが、これはイランの支援で搬入された可能性が高い。イランはイスラエルの政情を不安定にしようとしているのだろう。またイランと北朝鮮は、外交上の関係が深い。もしかしたら、ここで使われた軍事上のデータを北朝鮮が手に入れ、その軍事力の活用に使うかもしれない

 一部の日本人が、こうした問題の構図を理解せず、一方的にイスラエルを批判するのは、明らかにおかしい。そして、ハマスと同じようにテロ集団が、別組織を隠れ蓑にして、政治工作をすることは頻繁にあることだ。日本で不気味な国内外の組織がいくつも活動していることは、読者もご存知だろう。それに対して、「人権」などの名目のために、手が出せない。

 私たちは、中東の政治状況の構図を理解して、「テロとの戦い」で間違った対応をしてはならない。そして自分たちの対テロ対策の参考にしなければならない。これが第一の教訓だ。

◆技術の発展でテロ攻撃が容易に 効果的な飽和攻撃

対戦車ミサイルで殺害された21歳のイスラエル軍兵士(イスラエル国防軍ツイッターから)

 第二の問題は、テロ攻撃の高度化である。

 今回、特定地域への大量の攻撃をする戦術が取られているようだ。軍事用語では「飽和攻撃」と呼ばれるものだ。通常の迫撃砲(短距離射程である小型砲。人の殺傷用の着弾時に破裂する榴弾を発射する)に加え、ドローン、小型誘導ミサイルが使われている。イスラエルに隣接するガザからの攻撃だが、イスラエル国内から潜入工作員による人口密集地域の通報や、誘導などの攻撃支援があるようだ。

 イスラエルは外国からのミサイル防衛システムで全国をカバーしている。ところが、そうした対ミサイル用ミサイルは高価であり、大量に発射できないし、近接地域から発射する小型武器に対応できない。また「飽和攻撃」は、防御側に撃ち漏らしが必ず出てくる。

 戦争では、古い状況が新しい武器で再現されることがある。第二次世界大戦末期の日本陸海軍航空部隊による航空機による自爆攻撃(特攻)は、こうした「飽和攻撃」戦術の先駆けになった。日本軍の特攻は無計画で突撃させたわけではない。この攻撃手法により沖縄戦では米軍の参加艦艇の15%が損傷してしまった。また自爆テロをイスラム過激派は行なってきた。こうした「飽和攻撃」を、ここ数年急速に進歩したドローンを活用することで、より高度で、効果的に、そして攻撃側の人命を無闇に使わないで行うことが可能になった。

 2019年にイエメンのフーシ派がイラン製ドローンを使い、紛争中のサウジアラビアのインフラを攻撃し、同国の石油インフラ、そして空港などが破壊され、産業や交通が一時麻痺した。2020年のナゴルノ=カラバフ紛争では、西側の支援を受けたアゼルバイジャン軍が、ロシアの支援を受けたアルメニア軍を圧倒。その背景に、ドローンの活用とそれによる突入攻撃があったとされる。

 ドローンは民生用も軍事目的に転用できる。ある企業の高級民生品カタログの21年版を見ると、5キロの貨物を持ち、30分ほどの飛行、距離4キロほどの遠隔操作も可能で、値段は8万円前後という。これは自爆攻撃の代わりに使えるだろう。ドローンを使えば、爆弾だけではなく、病原菌などの散布も可能だ。

 テロ組織は、決して主権国家の軍に最終的には勝てない。しかし、こうしたドローンなどの新しい武器と戦術を使うことで、現在ハマスがやっているように、一つの国家に打撃と混乱を与えられる。戦争の状況が少し変わったのだ。

◆脆弱な日本へ、攻撃手段が増える

 こうした軍事上の変化を、日本は参考にすべきであろう。日本は中国、北朝鮮、ロシアと対立関係にある。韓国との関係も怪しい。そして日本の位置する東アジアは、台湾、南シナ海、尖閣諸島などで、軍事衝突が起きかねない。

 これらの軍事大国は核武装国でもあるが、いきなり核を日本に使用することは、国際世論の配慮からないだろう。日本がこれらの国と何らかの理由で軍事衝突を起こした場合に、まず通常兵器の戦闘が起こるはずだ。しかし、日本は、今回のコロナウイルスの混乱でわかったように、戦争などの有事への備えが全くない。そして攻撃手段が、今回のガザ紛争の実戦利用でさらに増えている。ドローンや小型武器を使えば、比較的容易に、効果的に他国やその影響下にあるテロ組織が、日本の諸都市や民間人を攻撃できる。

 日本国内のある都市で突如、正体不明の数十機のドローンや小型誘導弾が、政府の主要な機関を攻撃し、打撃を与えることがあるかもしれない。そんなことが日本で起きる可能性は極小だろう。しかし万が一の可能性を頭に入れ、心構えを日常生活でも、仕事でもしてもいい。「ある」と想定することと、想定しないことは、実際に起こった時の対応が違ってくる。これが第二の教訓だ。

 以上の視点は、英語のメディアや翻訳文献から仕入れ、私の持つ知識を多少加え構成したものである。日本では誰も強調しないので指摘することとした。

 英語を読める人は、国際紛争やビジネスの情報が必要になった場合に、平和ボケの日本のメディアや有識者から学ぶのではなく、海外のメディア、有識者、また当事者から情報を仕入れるべきであろう。ネットやS N Sの発達で、日本のオールドメディアや古い知識の専門家は不要になりつつあるのかもしれない。

"ガザ紛争で分かる偏向メディアとテロの高度化"に8件のコメントがあります

  1. 高山椎菜 より:

    おはようございます。
    これについては池田信夫さんが明快かつ冷徹な分析を著書『戦後リベラルの終焉』でされておりますね。いまでもたまに読んでおります。

    それにしても、左翼勢力はなーんにも時代を変えることができなかったんだなとため息も出ません。

    1. 野崎 より:

      失礼します。

      >それにしても、左翼勢力はなーんにも時代を変えることができなかったんだなとため息も出ません。

      そうでしょうか?

      例えば社民党の凋落をその証左とするのは過ちと思っています。

      池田信夫氏は、彼らは少数なのになぜこれほど影響緑があるのか?
      と言っています(アゴラ言論プラットフォーム、伊是名氏問題にて)
      まっ切り口が違いますが(左翼、リベラルの定義、概念が難しい時代です。)

      彼らの戦略戦術はまったく変わり戦場も変わったいう事と思います。

      諸条件は異なりますが米国大統領選に見られた現象は対岸の火事ではないと考えます。

  2. 倉沢良弦 より:

    石井さん、いつも的確なご指摘と分析、大変参考になります。
    中東問題に首を突っ込みたくない日本のメディアと政治家の論調はいつも同じで、「まあまあ、互いにい喧嘩しあうのはやめて、仲良くしましょう、経済協力はしますから」と、ぬるま湯発言と、真相を闇に隠し続ける報道ばかり。
    今回のイスラエルの堪忍袋の緒を切ったハマスの蛮行と、いずれ国連安保理介入、見せかけの和平、イスラエルの譲歩と辿る道は今回も同じだろうと暗澹たる気持ちにさえなります。
    イスラエルは、一見、国際世論を無視しているように見えますが、もはや何を言っても「弱い者に見える方に加担するメディア」の力によって、何も理解されないと分かっているから、やる時はぺんぺん草も残さないほど徹底的にやってますね。
    私は両論併記の原則の上にたち、今回は圧倒的にイスラエルを支持します。

  3. ぷんぷん丸 より:

    テロ組織と主権国家との区別ができない、感情論を撒き散らす輩の
    コメントを掲載し続けるメディア(所謂マスゴミ)には、
    本当に辟易とします。

    まぁ、中東情勢はややこしくて、距離的にも遠いので、
    日本のメディアの力量的には内容はこんなもんでしょう。
    石油が絡むので、こんな体たらくでは困るのですが。
    わざと記事にしないのか、もうその能力が無いのか。

    そういった意味では、今回の記事は、判り易く為になります。
    ドローンの出現は、これまでの戦術を一変させたのはあきらか。
    日本もその対策は急務です。どこまでできているのか。
    一々詳らかにする事は、軍事上不可ですが、きちんとなされている事を
    願うのみです。

    動画で、ミサイル迎撃をしている様子が、すぐに見れちゃうご時勢。
    ここでは、スゲー で見れちゃう訳ですが、その下で普通に生活をしている方がいらっしゃる。コロナでワチャワチャと駄弁っているTV。
    日本は本当、平和ですねー。

  4. 野崎 より:

    単に偏向報道だ、ということではなく、

    何故反イスラエルなのか? とうこといでしょう。

    追求によっては米国大統領選にまで連なり、さらにその際喧伝されたオドロオドロシイ陰謀論、宗教の次元まで至りますが、

    大紀元エポックタイムスによると反キリスト教の闘いであると。
    私も同じ見解です。

    追伸
    日本のメディアのほとんどは反トランプでした。NHKは酷いものでした。

  5. 匿名 より:

    結局のところは、マスメディアや左派の連中は、この戦争自体を人権問題として利用しようって考えだと思います。左派や左派と繋がる各種団体により人権問題を利用し過ぎて、日本の国民からは嫌悪されるワードにまで落ちてしまいました。ですが、目の前で起きている戦争から人権に目を向けるべきだって主張を繰り返せば、今後もパワーワードとして国民を騙すツールとして利用出来るわけですから

  6. 野崎 より:

    ●ガザ紛争で分かる偏向メディアとテロの高度化
    私は日本の反響を見て、2点おかしさを感じた。一つは「パレスチナへの肩入れ」、

    上記、なぜ親パレスチナ、反イスラエルなのか? その解析をお聞きしたいものです。

    コメントにありますが、
    >これについては池田信夫さんが明快かつ冷徹な分析を著書『戦後リベラルの終焉』でされておりますね。いまでもたまに読んでおります。

    いえ、リベラル左翼がなぜパレスチナへ肩入れするのか?について池田氏の説明はありません。
    もう一つのコメントに
    >結局のところは、マスメディアや左派の連中は、この戦争自体を人権問題として利用しようって考えだと思います。

    利用する、その目的は何か?をどうお考えになっているのか? 知りたいところです。

    リベラル左翼、ファシストが何故、反イスラエル、親イスラムなのか?
    私めの考えは単純、簡単に披歴いたしました。

    実に全く偉そうでありますが、
    伊東貫氏のロシア、ウクライナに関する分析は私とほぼ同じであります。
    反ロシアと反イスラエルのよってたつ価値観は同じだ、ということであります。

  7. 野崎 より:

    重信房子、赤軍とハマスは同じ。

    テルアビブ、ロッド空港で無差別テロを慣行した赤軍とハマスは同じである。
    マスコミのハマスのテロには触れない親パレスチナ、すなわちハマス容認。
    事実上のハマス支持、赤軍支持である。
    TBSが重信房子の娘、重信メイを起用したことは脈絡があるのである。
    その脈絡を生む価値観があるのである。

    重信房子等赤軍とハマスは同じの意味。

    テロリストであるという共通点は表面だ。
    重信房子等赤軍は日本国内で追い詰められていた、よって国外へ脱出した。
    北朝鮮へ渡った赤軍派と同じである。
    北朝鮮派がチェチェ思想とまったく関係ない様に重信等赤軍派も日本国内で展開していた彼らの論理と、パレスチナと連帯、とは何の関係もない。

    つまり全ては自己保身の為でありパレスチナと連帯は仮面なのだ。(リベラル左翼の主張はすべて仮面)
    その仮面をかぶりテルアビブ、ロッド空港で無差別テロを行った。

    ハマスのテロがそれにより莫大な蓄財、富を生んでいること、それすなわち反イスラエル、パレスチナ市民を利用していることに他ならない。
    自己の為のテロである、その意味で重信房子等赤軍とハマスは同じである。

    御返信は不要です。

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