朝日新聞また購読料改定 終わりの始まりか

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松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

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青山学院大学大学院法務研究科卒業。1985年から2014年まで日刊スポーツ新聞社に勤務。退職後にフリーランスのジャーナリストとして活動を開始。
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 朝日新聞が5月1日から購読料を改定、朝夕刊セット4400円を4900円とする。1か月500円の大幅な値上げ。新聞用紙などの高騰や、消費者物価も上がり続ける中、読者に負担をお願いせざるを得ない状況であるとした。過去に例を見ない10%以上の値上げに踏み切った背景には、苦しい台所事情があるのは間違いない。

■月額4400円から4900円に

朝日新聞東京本社(撮影・松田隆)

 朝日新聞は5日付けの1面、及び朝日新聞DIGITALで社告として購読料の改定を伝えた。朝夕刊セットで月額4400円(税込)を4900円の値上げ。朝刊1部売りは160円から180円、夕刊は60円から70円と、いずれも11%台の上昇となる。

 2021年7月1日に4037円から4400円に値上げし、2年も経たないうちに4900円であるから、およそ21%アップしたことになる。5000円にしなかったのは読者の心理的抵抗線のようなものを考慮したのかもしれない。

 この値上げが異常なのは、2021年の前の本体価格の値上げは1993年であること(消費税率の上昇による税込価格上昇はあった)。つまり2021年に28年ぶりに本体価格をアップした後で、その1年10か月後に再度値上げをするという、これまでにないハイペースでの価格改定という点である。

 朝日新聞をやめて、その分5000円札1枚で、家族でファミリーレストランで食事ができる、ガソリンを満タンにできると思えば、これを機に購読をやめる人が出ることは考えられる。そうしたリスクを伴うため、一般に新聞社は価格改定に慎重であるが、それを2年で2度行うということは、そこまで追い込まれているということにほかならない。

 ライバルの読売新聞は今年3月25日の1面で少なくとも1年間は値上げをしないことを宣言している。ということは、5月1日以降、朝日新聞購読者は1か月4900円、読売新聞購読者は同4400円という差異が発生することになる。新聞の中身にこだわりがなければ、1年で6000円安いのなら朝日から読売に代えようという者は出てくるに違いない。500円の値上げによって、朝日新聞の部数減はさらに進むことが予想される。

■前年同期比13.1%減

 日本ABC協会は今年2月に2022年下半期の平均部数(販売部数)をまとめ、発表した。それによると朝日新聞は全国5本社合計で397万4942部、前年同期比で13.1%の減少となった。毎日新聞6.2%減、読売新聞5.8%減と比べ、その減少率は突出している。

 同協会の発表で、前年同期比で10%を超える減少だったのは、朝日新聞のみで、それ以外では日本経済新聞の札幌支社、名古屋支社、西部支社の3支社が10%を超える減少を記録したが、日経全体の減少率は8.6%にとどまっている(以上、文化通信・2022年下半期ABC部数表)。

 朝日新聞の減少した部数はおよそ60万部(59万9964部)。この時期、1か月4400円のため、単純計算で1か月あたり26億4000万円の販売収入が減少したことになる。1年では316億8000万円。販売部数が減少すると広告収入も比例して落ちるため、そのマイナスが企業に与える影響はかなり大きい。規模の小さいスポーツ紙、地方紙なら簡単に倒産してしまうレベル。

 そのような事実を考えると、新聞全体の退潮の状況はあるものの、朝日新聞はトレンドを超える減少率を記録しており、特別な減少には独自の理由があると考えていい。普通に考えれば、ネットで強い批判を浴びているように、その報道姿勢や報道内容に疑問を感じる読者が増えたものと思われる。

 中身で嫌われ、料金で読売に差をつけられるダブルパンチで、今回の価格改定は朝日新聞の将来に決定的な影響を与えかねない。当然、そのような状況になりかねないことは経営陣も予想はしていたと思われる。

 朝日新聞は2022年9月1日から11月30日まで希望退職制度を実施し、多くの人材が社を去った。そのため特別退職金などを特別損失に計上し、2023年3月期中間決算について修正報告が行われている(RTB SQUARE・朝日新聞社、2023年3月期中間決算修正で単体利益は赤字に)。単体では当初3億8400万円の黒字だったものが、1億5500万円の赤字となった。人件費の削減には成功したものの大幅な販売収入の落ち込みから、もはや購読料改定しかない状況に追い込まれたのは想像に難くない。

 筆者が日刊スポーツ在籍中、販売担当者は価格改定を「ジェット」と呼んでいた。どういう理由かは分からないが、どうしようもなく追い込まれた時に一気に経営状況を好転させるカンフル剤のようなものという意味合いだったのかもしれない。

 しかし、カンフル剤はカンフル剤でしかなく、病気を根治させる性質のものではない。朝日新聞は禁断の薬物に手を出してしまった、そんなイメージを持つ新聞関係者は少なくないと思われる。

■新聞は特殊な媒体へと変容

朝日新聞東京本社(撮影・松田隆)

 筆者は専門学校で教壇に立っているが、一人暮らしの学生で新聞を購読している者に会ったことがない。自宅から通っている学生に話を聞いても「ウチは新聞は取っていません」という者が多い。

 今の専門学校生の親の世代は1971年(昭和46)~1974年(昭和49)のいわゆる団塊ジュニアが多く、50歳前後。その世代で新聞を購読していない家庭が増えているということは、新聞を読む層は50代後半以上のシニア世代が中心と言えるのかもしれない。何とも心細いマーケットの上に成り立っている存在ではないか。

 ちなみに日本新聞協会が発表した2022年の1世帯あたりの部数は0.53部で、大雑把に言って2世帯に1世帯しか新聞を取っていないことになる。

 朝日新聞が1か月5000円近くに価格改定したことは「新聞は一家に一部」という時代は完全に終わり、「紙媒体、活字が好きな人が高いお金を払って情報を入手するための特殊な媒体」が新聞である、という性質の媒体に変容するきっかけとなり得る。

 朝日新聞は「やっぱり情報は新聞から。新聞なら朝日新聞」というコアな読者層(おそらくその多くは高齢者層)を頼りに、この先、生きていくことになるのかもしれない。当然、今のような形で存在し続けることは難しい。

 今回の朝日新聞の価格改定はそれぐらい大きな意味を持っているように思えてならない。端的に申せば、終わりの始まりであると感じる。

"朝日新聞また購読料改定 終わりの始まりか"に4件のコメントがあります

  1. pomme より:

    うちは2社購読しています。
    日経と地方紙。元々は日経だけでしたが、地域の情報を得る為に昨年から地方紙を追加。購読料は負担になりますが、知識を得る為の投資と考えれば安いもの。
    ネットニュースは読む分野が自分の好みに偏りがちになるので、広く浅くで新聞に目を通すのも大事かと。新聞は読むだけではなく、子供の工作とかお掃除にも使えますしね。ちなみにシニアではありませんw

    新聞が消えつつあるとしたら、新聞奨学制度はどうなるんだろう。新聞配達で奨学金を受けながら通学している学生さん達をなんとか守ってあげて欲しいです。

  2. 新聞問題は、門田隆将、高橋洋一両氏に聞くべし! より:

    残念だけど、朝日新聞については門田隆将さん
    新聞業界については、高橋洋一さんが何年も前から分析してるから、そちらの方が詳しいかな…

    朝日新聞は、捏造(慰安婦性奴隷の捏造)&ハンニチ活動(日本の教科書、靖国参拝を問題だと焚き付け、外交カードにした)の結果で自業自得
    支えてきた左翼老人の減少、(特に目)老衰は、朝日新聞だけでなく、新聞赤旗や他の新聞にも言えるw

    新聞より、SNS、YouTube他で直接専門家から情報を取れば良いし、官公庁、国際機関、研究機関のデータ付き公式発表、研究結果を直に取れば良いだけ
    なんで素人記者が出鱈目要約した記事を読むんだ?
    と、新聞崩壊は始まっている
    あと、TVもね

  3. 通りすがり より:

    ご丁寧に夕刊までセットで取ってるところがどれくらいあるんだろう。
    夕刊まで取ってるならそれは朝日の猛烈なファン、いや信者と言ってもいいくらいだと思うw
    それくらい元々セットで取ってる人は少ないだろうし、夕刊の単体の売上など惨憺たるものでしょう。全体的な赤字の割合としては大したものではないかも知れませんが。

    次の朝日新聞壊滅への続報は「夕刊の発行取りやめ」だろうと思う。恐らく近々に。

  4. NaNaSea より:

    もう不動産屋に業態完全にシフトして新聞、出版、放送から手を引いた方が社員も幸せだと思うんだが。

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