毎日•スポニチ王将戦から撤退 終焉は近い…
松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵
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毎日新聞社とスポーツニッポン新聞社が主催していた将棋の王将戦から撤退することになった。日本将棋連盟とともに7日、1月開幕の第75期から同連盟の単独主催とすることを発表した。これまで三者で主催していたが、毎日とスポニチは今後は特別協力となる。発行部数が大幅に減少している毎日新聞、そのグループの終焉の始まりとも思える。
◾️将棋連盟と同時刻に発表
日本将棋連盟(以下、連盟)は7日午後3時、ホームページ上に王将戦の運営体制に関する変更をお知らせの形でアップした。従来、毎日、スポニチとの三者で主催していたものを、2025年1月開幕の第75期から連盟の単独の主催とし、毎日とスポニチは特別協力となるというもの。1月12日から始まる第74期七番勝負は変更前の体制での主催となる(日本将棋連盟・ALSOK杯第75期王将戦の運営体制変更について)。
同時刻に毎日新聞も電子版でほぼ同内容の記事を公開。第75期からは「特別協力の立場となり、報道に専念する。」とした上で、決定の理由について「将棋連盟から毎日・スポニチ両社に対し、王将戦をより一層発展させるため主体的に運営したいと申し出があり、合意した。」と説明している(毎日新聞電子版・王将戦75期から日本将棋連盟の単独主催に 毎日新聞は特別協力)。同様の記事が同時刻にスポニチの電子版でも公開された(Sponichi Annex・王将戦、将棋連盟の単独主催に 第75期から スポニチ・毎日は特別協力)。
両社の記事によると、連盟から毎日とスポニチに主催から降りてほしいという申し出があり、それを両社が了承したという形となっているが、連盟の発表は「王将戦の運営体制を三者協議の上、下記の通り変更することとなりましたので、お知らせいたします。」(上記の連盟発表から)となっており、微妙にニュアンスは異なる。
まるで外交交渉のような玉虫色の決着。常識的に考えて、賞金や対局料の出資者でもある毎日、スポニチが主催から離脱することに連盟には何のメリットはなく、別のスポンサーが見つからない状況で連盟の側から「主体的に運営したい」と毎日・スポニチ側に申し出て、両社を追い出すことなどあり得ない。実態は毎日・スポニチ側がおそらく資金難から「主催から降りたい」と言い出し、連盟が慰留したにも関わらず単独主催を余儀なくされたものと思われる。「報道に専念する」は「1円も出しません」と同義であろう。
とはいえ、新聞社の看板である将棋のタイトル戦の主催から撤退することは自らの経営状態が危機的状況にあることを示すため、それは避けたい。そのために「連盟から…主体的に運営したいと申し出があり、合意した」という記事になったと思われる。三者が協議を繰り返し、その最終局面で諦めた連盟が「それでは第75期からは連盟だけで運営します」と言い渡し、それに対して両社が「分かりました」と答える経緯であれば、「将棋連盟から毎日・スポニチ両社に対し、王将戦をより一層発展させるため主体的に運営したいと申し出があり、合意した。」という記事も虚偽にはならない。連盟と記事との微妙な違いについては、その程度の事情であったものと推察される。
◾️1000万円が出せない?
将棋界には8つのタイトル戦があり、その格付けは賞金と対局料で決定されるという。それに従うと、①竜王戦(読売)、②名人戦(朝日・毎日)、③叡王戦(不二家)、④王位戦(ブロック紙の三社連合)、⑤王座戦(日経)、⑥棋王戦(共同通信)、⑦王将戦、⑧棋聖戦(産経)という序列。
新聞社に限れば、発行部数をメインとした経営規模の順番になっているのは興味深い。竜王戦の優勝賞金は4400万円で将棋界最高額となっている(日刊スポーツ電子版・【竜王戦】将棋界最高の優勝賞金4400万円を掴むのは藤井竜王?タイトル初挑戦の佐々木八段?)。
賞金額が公表されているのは竜王戦のみで、それ以外の7つのタイトルは公には不明。序列7番目の王将戦は2019年で優勝賞金は500万円、対局料は王将300万円、挑戦者100万円という予測もある(みそじんの将棋のある生活・【本当はいくら?】将棋タイトル戦の賞金額・対局料まとめ~竜王、名人、叡王、王位、王座、棋王、王将、棋聖~)。
仮に上記の金額が実態に近ければ、毎日・スポニチは1000万円程度の金額を出せないと言っているに等しい。3番手とはいえ三大紙の一角と、スポーツ紙トップランナーの連合チームとしては考えられない事態で、それだけ毎日新聞グループの経営が厳しいことを示している。
◾️本因坊戦は大幅に事業縮小
毎日新聞は囲碁の世界でも同様の行為を行なっている。伝統ある本因坊戦を(日本棋院と関西棋院との三者で)主催していたが、2023年4月に大幅な縮小を発表した。2024年の第79期から七番勝負もリーグ戦もなくし、優勝賞金はそれまでの2800万円から850万円に減額するもので、この結果、囲碁の七大タイトルの序列が3位から5位に降格となった(朝日新聞DIGITAL・賞金3分の1、囲碁本因坊戦なぜ大幅縮小? 「どう考えても無理が」)。
こうして毎日新聞は本因坊戦でおよそ2000万円、王将戦でおよそ1000万円(スポニチと合わせて)の合計3000万円の支出を免れることになる。毎日新聞社の2024年3月期決算は、最終利益が7億3600万円の赤字で、前年度30億円超の黒字から赤字に転落している(RTB SQUARE・毎日新聞社、24年3月期決算は2期連続の赤字 最終利益も赤字転落)。
発行部数も2024年6月度のABC部数で150万部を切って149万9000部。2021年8月度に200万部を切っており、2年10か月で50万部が減少、3年も経たないうちに発行部数が4分の3になるという凄まじいシュリンクである(RTB SQUARE・毎日新聞、ABC部数で150万部を下回る)。
2021年1月に資本金を41億5000万円から1億円に減資することが臨時株主総会で承認された。これは税制上、中小企業の扱いとすることで、節税できるためと考えられている(日本経済新聞電子版・毎日新聞社、資本金1億円に減資 節税目的)。こうして考えると、たかだか資本金1億円の中小企業が将棋や囲碁のタイトル戦を主催して年間3000万円近い出資をしているのは、そもそも身の丈に合っていなかったと言い得る。
このような経営状態にあって事業費用から3000万円近い金額を削れるのであれば、なりふり構わず削ってくるのは当然の選択と言えよう。
◾️新聞業界から目が離せない2025年
1月末には夕刊フジが事実上の廃刊(電子版も休刊)となり、東京中日スポーツも同じスケジュールで紙媒体を廃止する。
毎日新聞のグループ会社のスポニチはスポーツ紙の中ではトップランナーの1つではあるが、母体の毎日新聞がこの状況では、どうあがいても明るい未来は見出せない。毎日新聞自体が座して死を待つより、一か八か紙媒体から撤退して電子媒体として生きていくことを近日中に決断するとしても不思議はない。
当サイトでは2025年からスポーツ紙の廃刊ラッシュが始まると予想している(当サイト・スポーツ新聞廃刊ラッシュ 2025年から?)。その順番としては東京中日スポーツ、デイリースポーツ関東版、サンケイスポーツの順と考えているが(当サイト・トーチュウの次を占うスポーツ紙消滅ラリー)、サンスポが同グループの夕刊フジが事実上の廃刊となることから、電子版に切り替えという美名の下、紙媒体は休刊という決定を下す可能性は排除できない。
そして、毎日新聞の危機的状況からスポニチがライバル紙に先駆けて毎日新聞とともに…という可能性も考えられなくもない。いずれにせよ新聞業界から目が離せない2025年になりそうである。