スポーツ新聞廃刊ラッシュ 2025年から?

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松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

青山学院大学大学院法務研究科卒業。1985年から2014年まで日刊スポーツ新聞社に勤務。退職後にフリーランスのジャーナリストとして活動を開始。

 スポーツ新聞全体の発行部数が200万部を切っていることが26日までに明らかになった。日本新聞協会サイトの調査結果が公表されたもので、今年10月の時点で191万部余。コロナ禍が過ぎて回復基調にあるかと思われたが、前年同期比で10.9%を超える大幅減で、2001年以降最大の減少率となった。巷間囁かれる2025年問題の直撃を受け、スポーツ新聞の廃刊ラッシュが始まることも考えられる。

◾️減少率10.9%止まらない紙離れ

表1

 2023年のABC部数は衝撃的な数値であった。10月時点のスポーツ新聞の発行部数は191万6357部で、初めて200万部を切り、前年の215万1716部から23万5359部の減少で、対前年比10.9%の減少という2001年以降で最大の減少率を記録した(日本新聞協会・新聞の発行部数と世帯数の推移)。

 表(1)は2014年以後のスポーツ新聞の発行部数を一覧表にしたものであるが、前年からの減少率を見ると、新型コロナウイルス禍による大幅な減少があった2020年を上回っている。

 既にコロナ禍もひと段落した2023年は減少率も抑えられるという観測もあったかと思うが、終わってみれば2001年以後、最大の減少率である。

 2013年の発行部数を100とすると、49.5と10年で半分以下になり、2000年を100とすると30.4とおよそ7割減となる。そしてコロナ前と比較すると、2019年を100とすると65.3であり、わずか5年で市場は3分の2以下となった計算。

 2019年までは1年の減少率は一桁、2018年の-8.5%は別として、他の年は多くても-5%程度であった。それがコロナ禍があってからはほぼ-10%で推移している。部数減はコロナのせい、と言えたのも昨年まで。コロナ後と言っていい2023年に-10.9%という数値は、部数減を一概にコロナのせいにはできないことを示している。

◾️鍵は団塊の世代

 その原因とは何か。詳細なデータがないために仮説に過ぎないが、日本の人口構成に基づく事情があると思われる。

 日本の出生数の推移を見た時に、団塊の世代と呼ばれる1947年(昭和22)から1949年(昭和24)生まれの人々の日本の総人口に対する比率が高いことはよく知られている。戦争が終わり、戦地から多くの兵士が帰還して子作りに励んだ結果、1947年の1年で267万8792人の新生児が生まれた。1948年が268万1624人、1949年が269万6638人と、3年間で出生数805万7054人を記録している(e-Stat 政府統計の総合窓口 人口動態調査 人口動態統計 確定数 出生 から)。

 昨年2022年の出生数は77万747人(厚労省・令和4年(2022)人口動態統計月報年計(概数)の概況)で、団塊の世代の1年の3分の1以下である。この数値を見れば、団塊の世代の数の大きさが分かる。

 当然、この世代が日本の経済に与える影響は大きく、今、問題となっているのは団塊の世代が全員75歳以上の後期高齢者になる2025年に社会保険費の負担増、働き手不足などの問題が生じる、いわゆる「2025年問題」である(例として朝日新聞デジタル・2025年問題とは|与える影響や対策を社労士がわかりやすく解説)。

 古い予測データではあるが、厚労省が2006年に公表した資料では、世帯主が65歳以上の高齢者の世帯数は2005年の1340万世帯程度から2025年には約1840万世帯となり、その約7割を一人暮らし・高齢夫婦のみ世帯が占めると見込まれると予想していた(厚労省・介護施設等の在り方委員会の資料 今後の高齢化の進展~2025年の超高齢社会像~)。

◾️スポーツ新聞と2025年問題

 スポーツ新聞のメインの読者層は高齢男性であることはよく知られている。インターネットへのアクセスが不十分な高齢者が紙媒体に依存するのはある種当然であるが、そうした高齢男性も徐々にその数が減少している。2025年には団塊の世代が全員75歳を超えるため、スポーツ新聞の読者の絶対数が加速度的に減少していくのは間違いない。

 2001年以降の発行部数の対前年比の推移(表2)を見ると、興味深い事実に気が付く。2010年、すなわち団塊の世代が全員、定年退職の年齢である60歳を超えた2010年は5.9%減と過去最大の減少率を記録していることである。

 その次に大きな減少率を記録したのが2018年で、ここは団塊の世代の年長者(1947年生まれ)が70歳を超えた年である。そして団塊の世代が全員70歳を超えた2020年はコロナ禍が重なり、そこから今年2023年に至る4年は10.1%、10.1%、9.2%、10.9%という凄まじい減少が続いている。団塊の世代の高齢化とどれだけの因果関係があるのかは分からないが、無縁とは言えないのも事実であろう。

 こうして、我々はほぼ1年後には2025年問題に直面することになる。その時にスポーツ新聞に何が起きるかは容易に想像がつく。2022年には西日本スポーツが、2023年には道新スポーツがそれぞれネットに特化して「紙」を廃止している。両者はともに地方紙が親会社であり、西日本新聞社、北海道新聞社では、スポーツ新聞を支えきれないのであろう。そのような状況を考えれば、スポーツ新聞は消滅への新たなステージに入ったと考えていい。

◾️新聞販売店の厳しい現実

表2

 昨年2022年、当サイトでは同種の問題を取り上げた(日刊スポーツ東京は25万部? 気になる行く末)。その時に過去に新聞販売店を経営していたという方から、以下のような書き込みがあった。

「…経費をかけてもスポーツは増紙になりませんでした。2004年まではオリンピック特需があったと思いますが、北京位から即売での特需はあっても宅配購読はほぼありませんでした。…長期にわたる景気の低迷と読者の高齢化で毎月のように微減、微減でボディーブローを打たれてるような感じでした。止め理由はほぼ家計が苦しい、目が見えなくなった、入院、死亡でした。…私が廃業した2018年時でピークから比べると半減していたと思います。それから5年が経ちましたが、コロナや不景気、インフレもあって更に部数は減っていると聞きます。」(元販売店主より氏コメント)

 これが新聞販売の実情なのであろう。かつて筆者が所属した日刊スポーツも相当厳しい状況にあると聞く。2025年に向けスポーツ新聞各社がどのような生き残り策を講じるのか、1人の業界OBとして注目、期待しているが、やってくるのは廃刊ラッシュという厳しい現実だけなのかもしれない。

    "スポーツ新聞廃刊ラッシュ 2025年から?"に9件のコメントがあります

    1. シューツヴァイ より:

      毎日コンビニで大量に売れ残っているところを見ると、スポーツ新聞の発行部数と実売部数はかなり乖離していると思われます。
      そこから考えられるのは、一般紙と同じようにスポーツ紙も大きく部数の水増しをしている可能性が高いということです。
      ずっと気になっていたんですが、コンビニで売れ残ったスポーツ新聞はどういう扱いになっているんでしょうか?
      即売であれば返品できるんでしょうけど、宅配版は返品できないでしょうから、コンビニや新聞販売店が買い上げる形になっているんですかね。
      そうすると、売れ残りの分の損益はコンビニや販売店が被る形になりますから、これもいわゆる「押し紙」ということになるんでしょうか。
      それでも、チラシ収入がないスポーツ紙には販売店にも押し紙をするメリットがないような気がするのですが、どういう仕組みになっているんでしょうか?
      松田さん、詳しく教えていただけると助かります。

      1. 松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵 より:

        僕も販売担当はしたことがなく、間違ったことを伝えてしまうかもしれません。その前提で読んでください。

        チラシ収入がないので販売店にはメリットが少ないというのはその通りで、そのために販売局は販売店を回って店主に拡張をお願いするという大事な仕事がありました。販売店主も(担当が熱心だから、少しはやってやるか)みたいな態度の人が多いというのは聞いたことがあります。

        コンビニの売れ残りは廃棄処分と聞いています。今はほとんどが廃棄されているのではないでしょうか。本当に売れませんからね。

        1. シューツヴァイ より:

          ご返答ありがとうございます。
          コンビニで販売する新聞は宅配版なので、おそらく売れ残り分も新聞社の売上に計上されているのでしょうね。
          近隣のコンビニしか見ていませんが、スポーツ新聞はどこの店舗でも大量に売れ残っていますから、実売部数は発行部数の半分以下ではないでしょうか。

    2. 2030年のメディア より:

      最近のスポーツ紙を見ると、苦しさがよく伝わってきます。
      業界はこのまま縮小を続けて、最終的にはコタツ記事をyahooに向けて大量発射する会社のみになっていそう。
      書籍·雑誌も同様に衰退していることを考えると、衰退の要因は報道姿勢やクオリティの問題ではなく紙という媒体そのものが原因なのでしょう。
      野球やサッカーそのものが衰退しているわけではないので、これからの記者はオウンドメディア内で生きていくことになるのでしょうかね。

      1. シューツヴァイ より:

        たしかに紙媒体そのものが時代遅れであることが衰退の大きな要因ではあるのですが、スポーツ新聞の場合はクオリティの低下も問題であると考えられます。
        スポーツ紙もメディアである以上、本来はスポーツに対して批評する役割があるはずですが、近年の紙面からはそうした精神がまったく感じられず、取材対象に忖度した記事ばかりとなっています。
        こうした記事があふれる現状では、スポーツ紙を読むことで新たな知識が得られたり、深い考察が生まれるということがなくなってしまいました。昔はもっと突っ込んだ記事が掲載されていたと思うのですが。
        当たり障りのない情報ばかりでは、わざわざお金を出して買いたいとは思いません。コンテンツとしての魅力がなくなったことが、今のスポーツ紙の凋落ぶりに拍車をかけているように思います。

    3. シューツヴァイ より:

      文春オンラインで元日刊スポーツ新聞社社長の三浦氏が松本人志の問題についてコメントしていますね。
      内容はスポーツ紙のコタツ記事批判がメインでした。

      1. 松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵 より:

        早速、読んできました。薄い内容ですね。「三浦氏らしい」と言うと悪口になってしまいますが、もっと話せることはあるんじゃないの? というのが正直な感想です。彼も現場を離れて30年は経っていると思いますから、現在の現場の状況は想像で言うしかないでしょう。それゆえの薄さと思います。

        それと記事のタイミングですが、文春は「元社長」という肩書きがほしくて聞いたのはいいとして、三浦氏は4月の市長選挙近くに週刊誌にコメントをするのは、何か意図があるのかなと感じる部分はあります。

        1. シューツヴァイ より:

          たしかにあまり面白みのない内容でしたね。
          三浦氏はまた市長選挙に出馬するんでしょうか?

          1. 松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵 より:

            確か、負けた時にもう出ないというような話はしていたように思います。

            社長は1期2年で解任され、市長は現職有利と言われる2期目に落選して1期4年で去るという状況ですから、さすがにまた出てくるメンタリティーの強さはないのではと思います。

            この時期に文春に出たのは何か意味がありそうですが、支持する人はもう少ないのではと想像しています。

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