スポーツ紙消滅で競馬界のカオス 須田鷹雄氏提言

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松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

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青山学院大学大学院法務研究科卒業。1985年から2014年まで日刊スポーツ新聞社に勤務。退職後にフリーランスのジャーナリストとして活動を開始。
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 競馬評論家の須田鷹雄氏が競馬の世界の紙媒体(スポーツ紙、競馬専門紙等)の消滅の危機と、その弊害と防止策に関する提言を行った。情報の一次発信者が得られる対価を守ること、主催者はそれに対する対価の支払いで支援すべきこと、状況によっては話し合って最適解を導くことなどが必要としている。解決策としては一定の説得力はあるものの実現は一筋縄ではいかないのは明らかで、逆に紙媒体の消滅が不可避であることを認識させるものとなっている。

◾️須田氏の主張のポイント

写真はイメージ

 須田氏の提言は11月18日発売の週刊競馬ブック(11月24日号)のコラム「一筆啓上」に「『紙』受難の時代と競馬」というタイトルで掲載された。東京中日スポーツの紙の発行の中止、夕刊フジの休刊などを引き合いに出して競馬を取り巻く紙媒体の苦境を紹介。その原因は情報の一次発信者である伝統的な媒体が、取材の末に得た情報をネット媒体に売却したり、無断でネット上に流布されたりで、本来得られるべき対価が十分に得られていない点にあるとする(参照・トーチュウ休刊へ”金欠紙面”断末魔の呻き声さようなら夕刊フジ 来年1月末で休刊)。

 そのような状況で旧媒体が消滅すると、競馬に関する業務エリアはブラックボックス化し、真偽不明の情報のみが残ることになると警告を発している。その上で競馬に関わる紙媒体の消滅を防ぐには、以下の点が重要になるとした。

情報の一次発信者→無料で情報を流さない、違法転載への法的措置も検討

情報の受け手→価値のある情報に対価を支払うという意識を持つ

主催者(JRA=日本中央競馬会など)→情報の流動性を高めるために情報を作った者(主に一次発信者と思われる)への対価を支払い、支援する

 主催者が支援すべきなのは、現在、ネット上に拡散されている一次発信者の著作権等を無視して拡散されている情報も、主催者には売り上げ増に繋がっているという点にあるとする。このあたりは須田氏の主観によるものと思われるが、競馬そのものの興味が広がるという点においては概ねそのとおりであろう。

 詳細は今週発売の週刊競馬ブックをご覧になっていただきたい。筆者のこの記事がネットへの無断転載の類という批判はあるかもしれないが、この問題を少しでも多くの方に知っていただきたいための紹介と理解していただければと思う。

◾️情報の流出防止の困難さ

 須田氏が主張するように、紙媒体の衰退はネットメディアの興隆が直接の要因になっているのは間違いない。ネット上で一次発信者の情報の核心部分を入手できるのであれば、わざわざ対価を支払って情報を入手しようという者などいない。そこで①でメディア側に情報の流出を防ぐことを求め、その価値を守れ、とするのは理に適っている。

この光景もいつまで…

 ただし、それは2つの点から難しい。1つ目は仮に情報を統制したとしても、その情報を対価を支払って得たいと思う人は決して多くないという点である。スポーツ新聞の平日の記事は、たとえば追い切りであれば「動きと調教タイムはこうです、騎手はこうコメントしました、レースでは勝利が予想されます」という定型化されたものがほとんど。

 その程度の情報を得るためにわざわざ200円近い金額を支払う者がいるかと問われれば「存在するとしても、それほど多くない」といったところであろう。

 紙媒体、特にスポーツ新聞の衰退は、情報の伝達手段でネットに凌駕されたからだけではない。伝える情報の質が十年一日で、さまざまな媒体から大量の情報が出回る現代社会において、特に必要とされなくなった情報となっている点は見逃せない。

 人気予想者の予想も、媒体が少ない時代にはそれなりの希少価値があったものの、素人予想がネット上に溢れる時代にはプロ並みの見解を披瀝する者もおり、しかも予想のためのファクター(調教タイムや追い切り情報、出走表など)もネット上に溢れていることから、有料でしか見られない予想者の予想に拘泥する者は多くないと思われる。

 2つ目は情報の統制は現実的には難しい点。収益構造の極端な悪化に苦しむ紙媒体は、自社の得た情報、作成した記事をYahoo!などの大手ネット媒体に売却している。それらの配信をカットすれば、ただでさえ悪化している経営状況が致命的なものになりかねない。貴重な現金収入を得るために、もはや配信は経営上必須のものとなっている。そこでネット上に情報が流出し、それをSNSなどへの転載を止める術はない。

 このように須田氏の主張する①情報の一次発信者→無料で情報を流さない、違法転載への法的措置も検討は、絵に描いた餅と言って差し支えない。

◾️既にJRAなどは実質的な支援実施

 ①が画餅であれば、②は望むべくはない。無料で手に入る情報があれば、同種の情報に対価を支払う者などいない。それはリテラシーではなく、経済の原則の話である。

 ③の主催者が対価を支払うべきというのは、決して目新しい視点ではない。たとえばJRAは以前から大レースの時には1ページの全面広告を出していたし、地方競馬は出走表を掲載したページを記事広告として年間を通じて出していた。そのような形でメディアを支援してきたのである。

 それはおそらく現在も続いていると思われるが、それでも紙媒体の衰退は止まらない。これは支援額を増やせばいいという問題ではない。このような形の支援が続けば、報道姿勢への影響が無視できないほど大きくなることが予想されるからである。

 JRAから実質的な多額の支援を受けている媒体は、JRAに対して批判的な記事は掲載しにくい。仮に厳しい内容の記事を書いて「広告と報道は別物です」と媒体側が説明しても、「出広するかしないかはこちらの判断です」と返されて、出広が停止されれば媒体は致命的な打撃を受けかねない。そうなると報道機関としての報道の独立性、中立性が危うくなる。

 受益者の支援を受けてする報道は記事広告であり、記事広告ばかりの媒体はもはや新聞とは呼べない。

◾️新媒体登場は必然か

写真はイメージ

 このように須田氏の提言は机上の計算では合理性が認められるが、いざ、実行となると解決すべき点が山積されており、実現は困難。

 紙媒体の消滅で取材する人がいなくなる、ニュースがなくなるというのは競馬以外の分野でも問題視されている。その解決法は簡単ではなく、結局、紙媒体がどうやって見合った対価を得られるようなシステムを構築できるか、そこにシフトしていけるかにかかっている。

 それに成功する紙媒体、特にスポーツ新聞と競馬専門紙は決して多くないと思われる。新時代にシフトしていけない旧媒体を、ネットで紙媒体並みの情報を提供できるメディアが駆逐する日は遠くない。需要があれば、それを供給しようとする者が登場するのも経済の原則。10年後にはスポーツ新聞周辺のメディア状況は一変し、新媒体が主役の座に就いていると予想している。今はその転換期にあると考え、時代の流れを止めるのではなく、いかにスムーズに移行させるかを考えるべき時であるように思う。

    "スポーツ紙消滅で競馬界のカオス 須田鷹雄氏提言"に1件のコメントがあります

    1. シューツヴァイ より:

      あくまで私見ですが、スポーツ紙や競馬専門紙に掲載されている情報は本当に競馬予想に必要なのかという疑問があります。
      競馬は調教タイムや関係者コメントを見るだけで予想が的中するという単純なものではないですし、馬という動物が走るのですから、人間の思惑通りにならないということが当然のようにあるわけです。
      そもそも、取材をしている競馬記者自身が予想を的中できないレースのほうが圧倒的に多いのですから、その情報に価値があるとは思えません。
      私は30年来の競馬ファンですが、10数年前から競馬予想においてスポーツ紙、専門紙といった紙媒体を利用していません。JRA₋VANなどの競馬サイトで出馬表と過去レース動画を見るだけで十分な情報が得られるのですから、紙媒体が消滅してもまったく困ることはないでしょう。
      以上のことから、競馬というジャンルにおいてもスポーツ紙の消滅が不可避であるという、松田さんの意見に同意します。

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