花田紀凱氏 優越的地位を濫用してませんか?

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松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

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青山学院大学大学院法務研究科卒業。1985年から2014年まで日刊スポーツ新聞社に勤務。退職後にフリーランスのジャーナリストとして活動を開始。
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 月刊Hanadaに合計2本の原稿を提出するも、最終的に2本とも引き上げた経緯を明らかにした当サイトの記事が注目されている。2024年3月の公開から1年近い年月が経っているが、同誌の編集方針をめぐって議論が発生している時期にXで誘引を図ったことから”季節外れ”のアクセスが集まったと考えられる。当サイトとしては同誌とのトラブルは残念であるし、ある意味、申し訳なかったと思う部分がないわけではない。しかし、問題の根本には花田紀凱氏の遵法精神の欠如があるという事実は指摘しておくべきと考え、その点について記事にまとめ公開することとした。

◾️支払われなかった原稿料

花田紀凱「月刊Hanada」編集長の「週刊誌欠席裁判」画面から

 2024年3月10日に公開した「月刊Hanadaとは『もう関わりたくない』」(以下、当該記事)は、同誌から筆者が原稿を引き上げた経緯を書いたものである。筆者は2021年3月と2022年12月に、同誌からの依頼を受けて原稿を2本提出した。

 最終的にどちらも掲載されず、最後は原稿を引き上げた。どちらの原稿料も支払われていない。筆者は原稿をボツにされた経験は他にはないため、他の出版社はどのような扱いをしているのか分からないが、少なくとも法的にはボツになったとしても原稿料は支払われなければならない。

 出版社からライターへの原稿依頼は一般的に請負契約(民法632条)、もしくは準委任契約(同643条)にあたると考えられる。請負契約であるとすれば、報酬は目的物の引き渡しと同時にされなければならない(同633条)。

 月刊誌であれば通常、書面は交わさずに口頭でのやり取りで契約が成立し、「原稿料は雑誌が発売された翌月末の支払いです」「それで結構です」と報酬後払いの特約で合意する場合がほとんど。基本は請負契約であるから、書き手が原稿の依頼を受けて提出したにもかかわらず、出版社が報酬を支払わないことはあり得ない。一般社会ではごく当たり前のことが、月刊Hanadaではそれが守られていなかったのである。

 当該記事で紹介した同誌の編集担当者が「多くの著者にご迷惑をおかけしております」と言ったのは当然のことで、法的には債務不履行による損害賠償請求の対象となる(民法415条)。花田氏と編集部がそれを理解しているのか疑わしい。

◾️独占禁止法上も問題

 Hanada編集部のやり方は独占禁止法上、違法と評価される可能性がある。同法19条は「事業者は、不公正な取引方法を用いてはならない。」と定めており、不公正な取引方法とされるものに以下がある。

【独占禁止法】2条9項

5 自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に、次のいずれかに該当する行為をすること。

ハ 取引の相手方からの取引に係る商品の受領を拒み、取引の相手方から取引に係る商品を受領した後当該商品を当該取引の相手方に引き取らせ、取引の相手方に対して取引の対価の支払を遅らせ、若しくはその額を減じ、その他取引の相手方に不利益となるように取引の条件を設定し、若しくは変更し、又は取引を実施すること。

 Hanada編集部が筆者に対して行なった取引は、まさに同法の「優越的地位の濫用」にあたると考える。筆者がこうした事実を公取委に報告したり、裁判所に訴えたりしなかったのは、ライターの世界ではここまで露骨にやることはレアケースではあっても、多かれ少なかれ、似たような状況があることや、たかだか原稿2本の報酬の回収に手間暇をかけていられないといった事情がある。

 このようなトラブルになっても、出版社側を訴えるようなライターというレッテルを貼られるよりも、次の仕事をとってきた方が得という計算をするライターがほとんどであろう。そうして多くのライターは泣き寝入りをすることになる。

◾️昨年11月施行”フリーランス法”

 もし、今、この種の問題が発生した場合、2024年11月1日に施行されたフリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)で扱われることになると思われる。同法4条1項では報酬は給付を受領(原稿の受け取り)した日から60日以内に支払うべきこととされている。ボツにする、しないは関係なく原稿料は支払われなければならない。

 また、事業者(出版社サイド)の遵守事項も定められている。

【フリーランス法】5条

 特定業務委託事業者は、特定受託事業者に対し業務委託…をした場合は、次に掲げる行為…をしてはならない。

二 特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、報酬の額を減ずること。

四 特定受託事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い報酬の額を不当に定めること。

 今、月刊Hanadaがどのような形で原稿を集めているのか分からないが、筆者が経験した当時と同じように雑誌のキャパシティの2倍、3倍の原稿を集めていれば、毎号、大量のボツ原稿が出る。それらの著者に対して報酬を支払っていなければフリーランス法4条1項に違反する可能性が高い。

 花田氏が原稿を集められるだけ集め、ボツ原稿には報酬は支払わないことを合法であると思っているとしたら大きな間違いである。編集者としてどうこうではなく、まず一社会人として法に則った取引をすべき。社会にさまざまな警鐘を鳴らしながら、一方の手で違法な行為をしているとしたら、誰も耳を貸すことはないであろう。

◾️現在の論争に一言

 最後に、現在、月刊Hanadaに関する議論について一言だけ言及しておく。筆者は詳しい事情については全く知らず、また、興味もなく、よって感想もない。そのため具体的な名称は出さないこととするが、気になる点が一つだけある。

 それは編集部からの業務を受託した者が同誌に連載コラムを持ちながら、同氏が所属する団体を批判する記事も同時に掲載されていることである。業務受託した者はそれによってコラムを降りる決断をしたと伝えられている。

【フリーランス法】14条

 特定業務委託事業者は、その行う業務委託に係る特定受託業務従事者に対し当該業務委託に関して行われる次の各号に規定する言動により、当該各号に掲げる状況に至ることのないよう、その者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置を講じなければならない。

三 取引上の優越的な関係を背景とした言動であって業務委託に係る業務を遂行する上で必要かつ相当な範囲を超えたものにより特定受託業務従事者の就業環境を害すること。

写真はイメージ

 コラム降板の経緯を踏まえれば、執筆者が『就業環境を害された』と考えた可能性がある。それに対して相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備が求められているのである。

 この点を東京労働局に聞くと、事業者にはハラスメント相談窓口などの設置が求められており、そこに相談すべきとのこと。月刊Hanadaの飛鳥新社は果たしてそのような窓口を設置しているのか分からないが、設置されていなければ当然、行政の指導が入ることになる。また、書き手が就業環境を害されたと思うのであれば、厚労大臣に対して申し出て適当な措置をとるべきことを求められる(同法17条1項)。

 編集方針の自由とライターの権利は両立させるべきものであり、ライター側に一方的な不利益を強いることは許されない。

 花田氏が編集者としてどこまで関連法規を意識しているのか分からないが、少なくとも筆者が経験したこと、現在の状況からは遵法精神があるとは言えないように思える。様々な問題はその点に原因が求められると考えている。

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