昭和30年代風ニュース映像 醸し出した”カタカタ感”
松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵
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当サイトは16日、YouTube上で2分31秒の動画を公開した。江戸時代にあったとする架空のメディアが昭和30年代風のニュース映像を流すというパロディである。江戸時代の言葉遣いを意識したニュースを、昭和30年代風の映像とともに流すもので、多くの方に楽しんでいただければと願っている。
◾️4秒のために数時間
公開した映像は「江戸幕府の御用メディア発『十四代将軍・徳川家茂死去』」と題するもので、徳川家茂が第二次長州征討のさなか、7月20日に大坂城で死去し、その約1か月後の8月20日に幕府が喪を発した時点で、映像ニュースが流されたという設定とした。
日付はいずれも旧暦で、新暦では7月20日が8月29日、8月20日が9月28日となる。
映像や画像はAIで生成したが、最も手がかかったのが、冒頭の「長州再征のさなか 右府様が薨去」というフリップである。時間にして4秒にすぎないが、音声を含め、完成させるのに数時間を要した。
それだけ時間がかかったのは、この4秒にはかなりのこだわりを持ったからである。そのこだわりは、具体的には以下の点である。
(1)架空メディアの設定を考えた文字と文言
(2)昭和30年代風の汚し方
(3)フィルムのカタカタ音
(4)くぐもったナレーション
(5)カタカタと上下に揺れる動き
以下、順次説明していく。
◾️メディアの設定も考えて用語を決定
まず、(1)のフリップに表示する言葉である。報道日は慶應2年8月20日という設定のため、その時点で用いられていた表現の範囲内に、可能な限り収める必要がある。
最も分かりやすいのが将軍の呼び方である。現在なら「徳川家茂死去」で済むが、江戸時代に第十四代将軍が「徳川家茂」と呼ばれることは、ほとんどなかったと思われる。「家茂」は諱(いみな)であり、通常は直接口にする名ではない。
庶民の間では「上様」「公方様」などの呼称が一般的だったと考えられる。「公方様が逝去」でも意味は通るが、今回は幕府の御用メディアによる報道という設定である。そこで、より公的な表現として官職名を用いることにし、右大臣の唐風の呼称である「右府」に「様」を付け、「右府様」とした。
死を表す言葉にも配慮した。幕府の御用メディアが将軍の死を伝えるのであれば、「死去」よりも貴人の死に用いる「薨去(こうきょ)」がふさわしい。
さらに、「第二次長州征討」は後世に定着した歴史用語であり、慶應2年当時の報道に用いるには不自然である。そのため、当時の呼称である「長州再征討」、「長州再征」を用いた。
こうして「長州再征のさなか 右府様が薨去」という文言が決まった。
次は(2)のフリップの見せ方である。
昭和30年代風ということで、当時の大毎ニュースなどのフリップを参考に、グレー地に白い文字を配し、上下に★を並べて「江戸ニユース」とした。
「ニュース」ではなく「ニユース」としたのにも理由がある。1965年の大毎ニュースに「ニユース」と表記されたものがあり、「ニュ」と拗音にしない表記に昭和らしさを感じたため、それにならった。
フリップ自体はKeynoteを用いて、グレー地に白文字で簡単に作成できる。しかし、背景は均一で文字の輪郭も鮮明なため、視聴者には一目で現代のデジタルツールで作った画像であることが分かってしまう。
そこでAIを使い、フィルムの傷や汚れ、文字のかすれ、濃淡のむらなどを加えた。古いフィルムでは、表面についた傷や埃だけでなく、経年劣化や保存状態による濃淡の変化も画面に現れる。現在の映像制作なら除去する要素であるが、今回は逆に、そうした不完全さを加えることで古いニュース映画の質感に近づけた。
◾️フィルムのカタカタ音
(3)はフィルム映写機のカタカタ音である。ニュース映画は映画館などで上映されていたこともあり、古いフィルム映像を映写機の「カタカタ」という音とともに記憶している人は少なくないであろう。
映画フィルムは、映写機の中を一定速度で滑らかに流れ続けているわけではない。1コマずつ送り、投影位置で瞬間的に停止させる動作を高速で繰り返している。その間欠的な送り機構などが、映写機特有の連続音を生む。
今回は、そのフィルム映写機の音を著作権フリーで提供しているサイトから借り、映像に重ねた。それ自体は小さな効果音である。しかし、画面の傷や揺れと組み合わせることで、映像全体に「フィルムが実際に回っている」ような感覚を与えることができた。
(4)はナレーションである。現在の録音をそのまま使うと音が鮮明すぎるため、Audacityで加工した。最初に行ったのが周波数帯域の制限である。
現在の録音機器は、低音から高音まで幅広い周波数を収録できる。一方、昔の録音・再生機器は扱える帯域が狭く、低音の厚みや高音の明瞭さに乏しい。その結果、人の声の中心となる中音域が前に出た音になりやすい。
そこで実際に筆者が録音した素材から低音域と高音域を削り、中音域を中心に残した。これによって、昔のラジオ放送のようなくぐもった音に近づけた。さらに音声をモノラル化した。ステレオ音声は左右に広がりを持つが、昭和30年代のニュース映画やラジオ放送は基本的にモノラルである。左右の広がりをなくすことで、音が中央に集まったような、古い録音特有の狭い響きにした。
加えて、Distortionを使って意図的に歪みを与えた。ここで調整したのがクリッピング閾値(しきいち)である。クリッピング閾値とは、音声の波形が一定の大きさを超えた際に、その頂点が削られ始める境目である。閾値を下げると、大きな声を出した部分ほど波形の山が削られ、音量の大きい部分が抑えられる。その結果、小さな音と大きな音との差が縮まり、音声全体の強弱が狭くなる。声量が均一になり、昔の放送音声にある、やや平板で圧縮されたような聞こえ方に近づく。
ただし、波形を鋭く切り落とすと、単なる耳障りな音割れになってしまう。そこで「ハードネス」の数値を下げ、波形の頂点をなだらかに潰すように調整した。これによって、デジタル録音のように音が突然バリッと割れるのではなく、音が大きくなるにつれて少しずつ丸みを帯びて潰れていくような歪みにした。真空管や磁気テープに強い音を入れた時に生じる、角の取れた柔らかい音に近づけるためである。
BGMにも同様の加工を施した。ナレーションだけを古い音にしても、BGMが現代のクリアな音質のままでは、音の質感がばらばらになってしまうためである。
◾️最も苦労した上下動
最も苦労したのが、(5)のフリップを小刻みに上下させる処理である。
当時のニュース映像を見ると、画面が完全には静止せず、わずかに上下しているものがある。この細かな揺れと映写機のカタカタ音が重なることで、昭和30年代のニュース映画らしい雰囲気が生まれる。
この上下動は、フィルムのコマ送りに伴う位置のずれによるものと考えてよい。映画フィルムの両端には、映写機がフィルムを送るための穴が開いている。映写機はこの穴を利用してフィルムを1コマずつ送り、投影位置で停止させる。
しかし、フィルムや映写機の機構にはわずかな遊びがあるほか、フィルムの伸びや送り穴の摩耗なども生じる。そのため、各コマが常にまったく同じ位置に収まるとは限らず、その微細なずれが画面の揺れとなって現れる。この動きを人工的に再現しないと、昭和の雰囲気は出ない。
まず原画Aを用意し、それをY軸方向にわずかにずらした原画Bを作る。この2枚を交互に表示すれば、画面が小刻みに上下して見える。
問題は、その切り替え速度である。iMovieでは1枚の画像を0.1秒より短く表示できない。そのため、AとBを0.1秒ずつ交互に並べても、1秒間に表示できるのは10枚である。一般的な映画の1秒間24コマの半分にも満たない。1秒10コマでは切り替えが遅く、実際に作ってみると、細かく震えるというよりも、画面を「上、下、上、下」と意図的に動かしているように見えてしまう。
使用しているツールでは解決できないため諦めようとも思ったが、そこでiMovieの速度調整を利用することを思いついた。すなわち、1秒間10コマで作った映像を2倍速にして出力するのである。1秒の映像を0.5秒に縮めれば、1秒換算では20コマとなる。映画の24コマにはわずかに届かないが、切り替え速度はかなり近づく。これによって1コマごとの移動が目につきにくくなり、画面全体が細かく震えているように見える。
そこに映写機のカタカタ音を重ねると、視覚上の揺れと機械音が結びつき、実際にフィルムが映写機の中を送られているような印象が生まれる。
◾️毛筆のフォントの入手先
こうして音と映像を組み合わせ、昭和30年代の映画館で上映されていたニュース映像のような雰囲気を出した。江戸時代に映像ニュースなど存在しない。それでも、令和の時代の人が見て「古い映像だな」と感じれば、江戸時代に設定されたニュースと言われても、多少の違和感を覚えながら、その世界に入っていけるのではないかと考えた。
本編の最後に「慶應貳年丙寅八月廿日」と縦書きで入れたのは、昭和30年代というより、江戸時代らしさを出すためである。ここは毛筆のフォントにしたが、MacのPCにはイメージに合うものがなかったため、年賀状作成ソフトに収録されている毛筆フォントを使用した。これにフィルムのカタカタ音を重ねると、何となくそれらしい映像に仕上がった。こうして約2分30秒の映像を作るのに、12時間ほどを要した。
現代の映像制作では、傷を消し、画面の揺れを補正し、音声を鮮明にするのが一般的であるが、この種の動画はその逆で、画像を汚し、画面を揺らし、音声をくぐもらせることに時間を費やした。本物に近づけるために劣化させるという作業は、それはそれで楽しさがある。
チャンネルの知名度がないせいもあって視聴回数は少ないと思うが、1人でも多くの方にご覧いただければと思う。その際には冒頭の4秒にも注目していただければ望外の幸せである。
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