「異常事態」民泊の上限緩和に元世田谷区長候補

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松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

青山学院大学大学院法務研究科卒業。1985年から2014年まで日刊スポーツ新聞社に勤務。退職後にフリーランスのジャーナリストとして活動を開始。

 世田谷区が民泊の営業日数の上限を緩和する条例改正の素案を区議会に示している問題で、来年2027年の区長選挙への出馬が見込まれる内藤勇耶氏(32)が反対の意向を示した。素案は、住居専用地域で現在、実質年間120日程度としている営業日数の上限を、家主居住型など一定の要件を満たし、適正な運営が確認できる事業者については住宅宿泊事業法(民泊新法)が定めた上限である180日まで緩和するというもの。民泊に関しては周辺住民の生活への影響が大きく、制限を求める声も出ている中、元区長候補の発言は条例案の成立に影響を及ぼす可能性がある。

■内藤氏「明確に反対」

世田谷区の民泊の営業日数の規制緩和に反対する内藤勇耶氏(撮影・松田隆)

 世田谷区は現在、「世田谷区旅館業法施行条例」と「世田谷区住宅宿泊事業の適正な運営に関する条例」の改正素案について、10月6日までパブリックコメントを募集している。これに対し、2023年の区長選挙で15万票近くを得ながら落選した内藤氏は「明確に反対です」と話し、「今、私の事務所にも毎日のように『民泊が隣にできて困ってる』とか、『スーツケースをがらがらと音を立ててやって来る』とか、『ピンポン(呼び鈴)を夜中押されてしまう』とか、話が来ています。そもそも民泊を作ること自体、私は反対してかなければいけないというふうに思ってます。(区が住民に負担がかかっている)現状をちゃんと理解してるかというところも(含め)、世田谷の条例、疑問に思ってます」と続けた。

 9月27日に区内で実施したミニ集会「内藤ゆうやと世田谷の未来を語る会」でも、参加者から民泊への不安の声が上がった。内藤氏が配布した資料には、住宅街に広がる宿泊施設と、住民の生活への影響が示されている。

 同資料では、苦情件数は2022年の5件から2023年17件、2024年49件、2025年107件へと増加し、約21倍になったとされる(内藤氏の集会用資料から、出典・世田谷区「外国人・民泊 困りごと調査」)。民泊547件の76%が家主不在型で、旅館業364件の95%はフロントが無人という。民泊は上位11棟に204室が集まり、全届出の37%を占めるとし、一棟の建物に宿泊施設が集中する状況も示している。

 資料は、ごみや騒音、路上喫煙に加え、宿泊客が家を間違えて訪れることや、子どもを無断で撮影することへの懸念も挙げている。住民の投稿には、自宅の玄関のすぐ前に民泊客が居続け、子どもが怖い思いをしたという内容もある。商店街関係者からは、施設の運営者が分からず、緊急時に連絡がつかないことへの不安が寄せられている。

■世田谷区は規制強化と主張

 区も、宿泊施設の増加に伴い、ごみや騒音などの相談・苦情が急増したことは認めている。今年5月には有識者、地域団体、事業者らによる協議会を設け、旅館業と住宅宿泊事業に共通する課題への対応を検討してきた。今回の改正で掲げられているのは、区民の安全・安心と静穏な住環境の確保である。9月9日、14日、24日付でホームページ内に掲げた資料などで考え方を説明し、規制緩和ではないかとの指摘に対しては「むしろ規制は強化されます」と強調している(世田谷区・旅館業法及び住宅宿泊事業法に関する条例改正(素案)に対しての 区の考えについて)。

 具体的には、開業前の周辺住民への書面等による周知や、求めに応じた説明会の開催、緊急時に現地へ駆けつける体制、事業系ごみの適正処理を求める。苦情や問い合わせには迅速に対応し、その内容と対応を記録して3年間保存することも義務化する方針である。行政処分を受けた事業者名の公表や、避難・緊急時対応の観点から旗竿地などで民泊を制限することも検討している。

 営業日数の見直しは、住居専用地域の民泊が対象である。現行制度では原則として平日の営業を制限する一方、事業者の申し出を受け、運営状況などを確認して制限を解除する仕組みがある。ただし、解除後も行政指導によって年間120日程度にとどめるよう求めている。

 改正では平日の営業制限を原則として維持し、家主居住型など一定の要件を満たす事業者に限って年間180日まで認める。制限解除の要件を厳しくするとともに、不適正な運営が判明した場合は解除を取り消す規定を新設する考えである。

 区は、宿泊事業には地域経済への波及効果や多様な文化に触れる機会を生む面があり、適正に運営する事業者まで不利益を受けるべきではないとする。管理の行き届かない営業への対応を強めながら、家主居住型などへの転換と地域との共生を促すという立場である。

■ルールを守っても残る不安

世田谷区・保坂展人区長(2023年撮影・松田隆)

 内藤氏も、改正素案に規制強化の部分があることは認める。しかし、住宅街で営業できる日数を増やすこと自体を問題視している。

 「規制強化をしている部分もあるのは事実ですが、それでは十分ではないというのと、やっぱり緩和の部分がある時点でそれは緩和策ですね、全体として。」

 近隣住民との摩擦は、世田谷区に限らない。千葉県浦安市の舞浜地区でも、民泊客による騒音などに住民が反発する状況が報じられている(ytv・【ナゼ】「今や、パリピの町」静かな住宅街で民泊客が“どんちゃん騒ぎ” 舞浜では「生活権を侵害」の声も浦安市は“規制できない”そのワケは?)。

 民泊への規制を求める動きは、他区でも広がっている。2026年5月27日、世田谷区と杉並区を除く特別区長会有志21区の区長が連名で作成した「住宅宿泊事業の適正化に関する要望」を、代表の3区長が政権与党である自由民主党に提出した。6月18日には、同じく有志21区長の連名による同日付の要望書を、代表の6区長が国土交通大臣に直接提出し、地域の実情に応じた規制の充実や法改正を求めた(日本経済新聞電子版・東京23区長の有志、自民党に民泊の適正化要望 国内事業者に限定を)。

 内藤氏は、こうした動きの中で世田谷区が営業日数を延ばそうとしていることについて、「23区で、保坂(展人)区長(世田谷区)と岸本区長(杉並区)以外は、国に規制のために陳情に行ってるわけですから、世の中が当然規制をするという中で、緩和を作ってしまっているという時点で、これは異常事態です」と批判する。

 配布資料でも、近隣住民の不安は有人・無人を問わず生じると訴えている。管理者が施設内にいることと、宿泊客による周辺への影響を防げることは、必ずしも同じではないという指摘である。

 「物件がルールを守ってることと関係なく、道に迷って深夜に(隣家の)ピンポン押しちゃったというのは、起きてしまうかもしれないわけです。『隣に民泊できたら嫌だな』と思う区民が多いのにもかかわらず、新規で認めますよというそのもの自体を、私は評価できません。」

 区の資料によると、住居専用地域は区全体の面積の78.5%を占め、届出住宅の31.4%が立地している。年間120日程度から180日への拡大は、営業可能な日数を約1.5倍にする。採算性の改善によって新たな参入を促す可能性もあり、静かな住宅街の暮らしがどう変わるのかという不安につながる。

◾️背景にイデオロギー?

 民泊への規制を求める動きが広がる中、保坂区長が事実上緩和の方向に持っていこうとしているように見える背景には、外国人政策に関するイデオロギー的な側面が影響しているのではないかという考えもある。

 この点について、内藤氏は「私も正直、あるんじゃないかなと思います」と話し、「(21人の区長が民泊の制限を)陳情する先が政府与党だったので、保坂さんは(出身が)社民党ですから、自民党に陳情に行くことが認められなかったんじゃないかと、疑いたくなってしまいます。世田谷区は『事業者の方々の利益もちゃんと考えなきゃいけないよね』ということを言ってるのですが、本来は事業者よりも区民の安心安全を守るのが区長だと思います。事業者の方を考えるっていうのが意見として出てきてしまうのが、私はそもそもクエスチョンです」と続けた。

ミニ集会で民泊の規制緩和のリスクを訴える内藤氏(撮影・松田隆)

 改正案は2027年2月の区議会に提出され、可決されれば同年4月から施行される見通しとなっている。条例案が議会を通過した場合、世田谷区はどうなるのかを聞くと、内藤氏は危機感を隠さなかった。

 「今回の条例案だと、まだ結構抜け道が正直多いので『ルール守ってますよ』と言って、書面上はルール守ってるかもしれないけど実態ルールを伴ってないという民泊は正直できてしまうと。そうであるならば、他の自治体、例えば新宿で追い出されてしまった民泊が世田谷区に新たに作るみたいなことも起こりかねません。そういう意味で、もしかしたら世田谷区で(民泊が)増えてしまうかもしれないという、住民の方々にとっては不安を覚える、そういった世田谷区になりかねないことを危惧しています。」

 10月6日までのパブリックコメントでどのような意見が集まるか、そして予定通り改正案が成立するのか、民泊による影響を受けている世田谷区民には落ち着かない日々が続きそうである。

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