坂本龍一氏の死を政治利用する勢力

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石井 孝明🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

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経済・環境ジャーナリスト。慶應義塾大学経済学部卒、時事通信社記者、経済誌フィナンシャルジャパン副編集長、アゴラ研究所の運営するエネルギー問題のサイトGEPRの編集担当を経て、ジャーナリストとエネルギー・経済問題を中心に執筆活動を行う。著書に「京都議定書は実現できるのかーC O2規制社会のゆくえ」(平凡社)、「気分のエコでは救えない」(日刊工業新聞社)など。
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 音楽家の坂本龍一氏が亡くなった。ご冥福を祈る。音楽の素人である私も、彼の楽曲には感銘を受けてきた。ただし、その死を政治利用する人が多いのにはうんざりする。(元記事はwith ENERGY坂本龍一氏と放射能騒動

◆ジャパニーズ・ガラパゴス・リベラルの特徴

神宮外苑の銀杏並木(撮影・石井孝明)

 興味深いのだが、一般論として、保守の人、そして常識のある人は、死者を哀悼し批判を避ける。いいところを政治的な立場に関わらず褒める。

 一方で左、リベラル、特に「ジャパニーズ・ガラパゴス・リベラル」という日本独特の左翼は、人の死を政治に絡めたがる。自己愛が強い人が多く、他人の死などに感情を動かされない人が多いのだろう。

 昨年7月の安倍晋三元首相のの暗殺を喜ぶような行動をした人がいたのは怒りを覚えた。坂本氏の死でも、その死を利用しようとする人が散見される。ただし坂本氏は頓珍漢な政治的発言を続けたので、その故人の意思にもこうした政治的な利用は合致するのかもしれない。

 特に目立ったのは坂本氏が東京都の神宮外苑の再開発に反対したこと、反原発を主張していたことで、その同調者が大騒ぎをしていた。

◆神宮外苑の再開発 合理的な計画に反対

 私は東京人として、神宮外苑の雰囲気が好きだ。しかし歩くと不便さ、奇妙さに気づく。美しい銀杏並木が、一番奥にある明治神宮絵画館とつながらず、間に変な軟式野球場が二面あるのだ。さらに神宮には、大正時代に建てられた神宮球場、第2球場もある。

 この無駄な空間は戦後、米軍が占領期に外苑広場を接収し野球場を作った名残りだ。神宮球場は戦災で破損ししばらく使われなかった。

 ここの土地に権利を持つ、宗教法人明治神宮、独立行政法人日本スポーツ振興センター、伊藤忠商事、三井不動産が合意し再開発計画を出した。すると「木が切られる」などと日本共産党と東京新聞が騒いでいる。これは計画書を見ると、嘘である(東京都都市整備局・神宮外苑地区 よくある質問と回答)。

神宮球場(撮影・松田隆)

 計画では私が望むように、並木道と絵画館が一体になり広場でつながる。戦前の形に戻る。そしてごちゃごちゃした建物が整理されて、空間が増える。木も892本切られるが、植樹で1000本以上植えられ総量は増える。当然、都民に愛される通りの並木道のイチョウは伐採されない。

 ニューヨーク在住だった坂本氏は、よく知らずに、この公園の騒ぎに飛びついたらしい。変な人たちの騒ぎの象徴に祭り上げられている。

◆六ヶ所村は放射能で汚染されていない

 私が詳しいエネルギー・原子力関係でも、坂本氏の行動は変だった。彼は反原発運動をしていた。中にはデマめいたものもあった。彼はSTOP ROKKASHOというと六ヶ所村に作られる日本原燃の核燃料サイクル、また低レベル、高レベル放射性廃棄物の貯蔵施設の反対運動を2006年ごろしていた。

 「ロッカショー2万4000年後の地球へのメッセージ」(講談社)というトンデモ本を2007年に出した。その本や発言で「六ヶ所は放射能で汚染される」「地球は放射性廃棄物により壊れる」と繰り返し述べ、被曝の危険を訴えていた。

 その後2011年に東日本大震災で、東京電力の福島第一原発事故が発生した。確かに怒るのは当然だが、彼はそこでも騒いだ。2012年に反原発集会で「たかが電気」と発言し、批判を受けた。

 2023年3月に私は六ヶ所村を取材で訪問した。15年前騒いだ坂本氏など芸術家たちの反対運動は、今は全くなくなっているそうだ。飽きたのだろう。責任なファッションで行ったようだ。粛々と日本原燃の人は働き、六ヶ所村の人は生活を送っている。

 それらの人たちも、私も、当然放射能被曝などしていない。施設は安全に運営されている。あの無駄な騒ぎは何だったのだろう。坂本氏だけではなく、一緒に騒いだ人たち、芸術家たちに、一言、騒ぎの責任について説明してほしい。風評被害、六ヶ所村に生きる人たちの人権侵害をしていたのだ。

◆誰が言ったかではなく事実を確認して判断しよう

明治神宮外苑聖徳記念絵画館(撮影・石井孝明)

 坂本龍一氏は、ガンで亡くなった。放射線治療を行なっていたという。

 かつて放射線治療は核物質コバルト60を使い、そのガンマ線を当てた。今は別の核物質やリニアックという特殊な機械を使う。ただし強い放射線量が必要な場合、まだコバルト60を使うという。コバルト60は自然界には存在しない、原子炉や特殊設備で、コバルト59に中性子を当てて作る。

 こうした放射性物質は、原子力発電の発展と共に、医療利用が開発された。坂本氏は、自分が恐怖を煽った原子力から恩恵を受けていた。その行動は矛盾している。

 これ以上の批判は避けよう。亡くなったばかりでご冥福を祈るからだ。そして彼の作った音楽は、長く残るものだ。今私は名曲「戦場のメリークリスマス」を聴きながら、この原稿を書いている。

 しかし、坂本氏の政治的な発言、行動は、社会に迷惑を与えたことが多かった。彼の言葉と行動を見て思う。情報は誰が言ったかで判断してはいけない。事実を検証して判断するべきだ。左の坂本龍一氏が言おうと、右の安倍晋三氏が言おうと、動かない事実はある。それを直視し、私たちは判断したい。変な話は変な話として扱いたい。

※元記事は石井孝明氏のサイト「with ENERGY」で公開された「坂本龍一氏と放射能騒動」 タイトルをはじめ、一部表現を改めた部分があります。

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