免職教師の叫び(21)現在進行形の報道被害

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松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

青山学院大学大学院法務研究科卒業。1985年から2014年まで日刊スポーツ新聞社に勤務。退職後にフリーランスのジャーナリストとして活動を開始。

 写真家の石田郁子氏が中学・高校時代に教師だった鈴木浩氏(仮名)に性的暴力を受けていたとされた事件は、報じるメディアの偏向ぶりも大きな問題である。これまでの報道は石田氏が被害を受けたとするものが多い。鈴木氏は一方的な報道には抗議してきたが、ほとんどが木で鼻を括るような回答が返ってくるのみ。中でも特に報道被害と言えるレベルだったのが、TBS記者による自宅周辺の徘徊と、加害者と決めつけての取材申し込みである。

■ホームページでは一方の主張のみを紹介

豊平川の川面を眺める鈴木浩氏(本人提供)

 オウム真理教の信者による松本サリン事件(1994年)では、被害者の1人が犯人であるかのような扱いを受け、「報道被害」という言葉が一般的になった。鈴木氏はその意味では報道被害を受けた1人である。石田氏が不法行為に基づく損害賠償請求を提起(2019年2月8日)した後、各メディアはこの問題を取り扱ってきた。

 そのほとんどが石田氏の主張に沿い、鈴木氏は30年近く前に生徒に対してわいせつな行為をした教員という扱いである。鈴木氏は弁護士ともにメディアに抗議を続けてきた。

(1)2019年4月:TBS記者が鈴木氏の自宅周辺を徘徊し、手紙を投函して取材を迫ったことに抗議。

(2)2019年8月:NHK「ほっとニュース北海道」が石田氏の主張があたかも事実・真実であるかのように報じたため、抗議。

(3)2020年3月:HBC(北海道放送)が「今日ドキッ」の中の「教師からの性暴力?ある女性の訴え」という特集で、一審東京地裁で訴えが棄却されているにもかかわらず、加害者扱いされたとして抗議

(4)2021年1月:NHKの「クローズアップ現代・学校での “教員からの性暴力”なくすために」(2020年12月15日放送)で石田氏の主張が事実・真実であることを前提とする偏向した内容であったとして抗議

 こうした抗議に対し、挑発しているかのような回答を寄せてくるメディアもあった。(4)の事案では、鈴木氏が「抗議・回答要請書」で抗議し回答を求めたのに、NHK報道局社会番組部のチーフ・プロデューサーからの書面は「お問合せについて」と記されていた。抗議に対して「お問合せについて」と回答する無礼さは一体何なのか。

 その内容も「石田氏に関わるコメントについては、石田氏が提訴した理由や主張として伝えたものです。なお、判決については、一審に続き二審でも訴えは退けられたことを伝えています。また、貴殿の主張についても伝えております。」というものであった。

 もっとも、同番組の内容を掲載しているNHKのホームページには、石田氏の訴えが退けられたことも、鈴木氏の主張も一切触れられていない。ホームページを見た人は鈴木氏が中学生に対し、わいせつな行為をした卑劣な教師という印象を持つのは間違いない。

▼学校での “教員からの性暴力”なくすために オンライン・ディスカッション/前編【vol.108】

▼学校での “教員からの性暴力”なくすために オンライン・ディスカッション/後編【vol.109】

 この扱いを見れば、放送された内容も想像がつく。

■実名で反撃できない弱み

 石田氏の提訴後、一連の報道が始まった時に鈴木氏はメディアに対して持っていたイメージが大きく崩れたという。「それまでメディアは中立・公正で両方の話を聞いて、正しい報道をすると思っていました。ところが、受けた取材は『石田さんが言ってることは正しいが、あなたはどう思う?』という聞き方です。『それは間違っています』と丁寧に説明しても『ふ~ん』という感じで聞く耳をもたず、放送では石田の言い分をそのまま流していました。『マスコミは公平でも中立でもないんだ』ということを身をもって知りました」と当時を振り返る。

 これに対し、自身も会見をして真実を語っていけばいいではないかという声も出るだろう。しかし、鈴木氏にすれば、こうした訴えを起こされている事実を表に出すことで、人物が特定される、生徒にわいせつな行為をして訴えられた教員というレッテルを貼られてしまうという大きなリスクを負わなければならない。

 「私にも守るべき家庭があります。もし、会見をしたら匿名でも姿が出れば『あそこのお父さんだね』と世間に特定されるでしょう。また、当時はおよそ200人の生徒に教えていました。生徒から『あの先生、昔の女生徒に訴えられたんだ』と言われるのは困りますし、それ以上に、それを聞いてショックを受ける生徒がいることも考えなければなりません。市教委からも実名の会見を控えるように言われていました。様々な事情から会見はできませんでした」。

 このような事情から、メディアは実名・顔出しの石田氏の主張をそのまま流す方向へと流れていったことは容易に想像がつく。

■TBS記者からの投函 

インターホンを押したTBSのK・M記者(提供・鈴木浩氏=仮名)

 鈴木氏に対するアプローチで、特に悪質だったのがTBS。石田氏の提訴後の2019年4月13、14日の2日間に渡って、鈴木氏の当時の自宅周辺を徘徊し、インターホンを鳴らし、さらに取材に応じるように2度、手紙を投函してきたのである。

 その手紙も信じ難い内容で、石田氏の提訴に対して全面的に争う姿勢を示していた鈴木氏を加害者と決めつけ、(記者は加害者に寄り添って取材します)という趣旨であった。一部を示す。

<TBSのK・M記者が投函した手紙の抜粋>

 度重なる投函、失礼いたします。…

 …私は入社9年目の30歳で、これまで事件や事故、災害などの現場を中心に取材してきました。そのなかで、心がけていることがあります。相対する当事者がいる場合は、双方の言い分をしっかりと取材するいうことです。

 私はこれまでの刑事事件の取材では、いわゆる加害者側の声を聞くことにも力を入れてきました。もちろん、刑事事件の現場だと被害者がいるため、被害者側の心情を傷つけないように報道する必要があります。しかし、被害者側の声だけが大きく伝わっただけでは、本質を問うことができないのではないか、とも考えています。

 なぜ事件が起きたのか。誰か加害者を救える人はいなかったのか。事件を”個人の責任”にして解決してしまっていいのかー。正解が無い問いだからこそ、少しでも多くの人に伝え、考えを深めて欲しいという思いで取材をしています。

 先般、私が取材をさせて頂いたのは、「茨城県で強姦殺人を犯して15年以上フィリピンに逃亡していた容疑者の男が出頭を決意した」というものです。事件当時、未成年だった男は事件後、トラウマから精神を病んでいました。しかし、家族の支えもあり、治療をして快方に向かったことから、罪を償うことを決心し、出頭したのです。私は、男が初めて家族に対し罪を告白したところから密着取材をして、その一部始終を放送しました。

 …私は一生をかけてでも、この男と向き合い、そして支えながら、取材をしていくつもりです。

以下略

鈴木氏の当時の自宅周辺をうろつくTBSのK・M記者(提供・鈴木浩氏)

 鈴木氏は「TBSのK・M記者は2日間で、10時間ほど自宅の周囲をウロウロとしていました。 外に出ればすぐに寄ってくる位置にいて、家族はおびえながらも『何でこんな仕打ちを受けないといけないの?』と怒っていました」と当時の様子を説明する。個人の特定をおそれて会見もできない状況を無視し、自宅前に張り付く方法は取材対象に対する配慮が全く感じられない。

 しかも、鈴木氏からすれば、身に覚えのないわいせつ行為をでっち上げられ、わいせつ教師の汚名を着せられ、これから法廷で真実を求めて戦おうという時である。それを「強姦殺人で15年以上国外逃亡していた男に密着取材をした」、「加害者側の声を聞くことにも力を入れてきた」というアピールで、取材に応じるように手紙を投げ込まれたのである。

 「加害者扱いで、しかも強姦殺人犯と同列扱いですから。もう、頭にきましたね」と今でもK・M記者への怒りは収まらない。

■日本のメディアの病巣

 当サイトは石田氏の証言に少なくとも2つの虚偽があり、写真は合成されたものであるということを証拠とともに示してきた(参照:連載(20)影なき闇の不在証明)。石田氏の主張は全くの虚偽とする鈴木氏の主張も、相当程度の信憑性を帯びている現状と言っていい。

 ところが、今度はメディアは一転して沈黙。彼らは真実を伝えることよりも、日々の番組・紙面をつくることで頭がいっぱいなのかもしれない。

 「真実より大事なものがあり、報道の自由には取材対象を傷つける自由も含まれている」ーーそう考えているとしか思えない媒体が存在することが、報道に携わる1人として悲しい。

第22回へ続く)

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"免職教師の叫び(21)現在進行形の報道被害"に10件のコメントがあります

  1. 月の桂 より:

    私には、あの人達が向けるマイクが刃物に見えます。取材対象を傷つけようがお構い無し、言いっぱなし、書きっぱなしで責任は取らない。そうやって他人の人生を狂わせていることに、いい加減、気づいたらどうなんだ!!と思います。

    STAP細胞で一躍、時の人になった小保方晴子氏の著書を読んだことがあります。彼女が受けた報道被害の凄まじさに血が逆流するほどの怒りを覚えました。よく生きていてくれた…と思います。報道に携わる者の使命とは、真実を究明することではなく、他人を叩き潰すことなのだと理解しました。

    鈴木氏の代理人弁護士は、どのような策をお考えなのでしょう。「松田検証」も活かして下さることを願います。
    冤罪被害者を放置するなど、あってはならないことです。窮地にある鈴木氏…私達が出来ることはないのでしょうか。

  2. 山口秀明 より:

    このコメントで福岡殺人教師の「でっちあげ」の本を紹介が有り、福田ますみさんの本を2冊読みました。2つの事件のマスコミは双方の取材をせず、端から加害者ありきの報道姿勢が世論を導き、テレビのワイドショーを賑やかしました。しかし、裁判を重ねるとマスコミは居なくなり、判決の時はマスコミは無視しました。福田ますみさんの長年に渡る双方の取材と中立的な物の見方が冤罪を食い止めたと思いました。裁判に影響したかは分かりませんが、真実を書く人が居る事は冤罪を無くす大事な行動です。松田さんも中立的な立場で、検証していく姿は同じ匂いを感じます。期待しています。

  3. ぷんぷん丸 より:

    このシリーズも、回数重ねましたね。どこまで続くのでしょうか。
    所謂マスゴミのゴミたる所以。
    真のジャーナリストの少ない事に、嘆かざるを得ない。

    それこそ、普段人権に五月蝿い某党に、救済求めてみては如何でしょうか。
    その遣り取りを並行して、このサイトで公開していくと言うのは。

    なっちゃん事件の時に、動画の時事サイトで、結構このサイトを引用していた
    動物さん達にも拡散ご協力頂きたいですね。
    (ね、犬さん、サメさん、レッサーパンダさん?)

  4. 一条寺烈 より:

    この事件は山口敬之と同じでマスコミによる冤罪被害の典型的事例です。
    私も「松本サリン事件」をきっかけにこの問題に関心を持つようになった者の1人です。
    ただ、このシリーズさらに松田様の他の記事も読んでいるのですが読み手に非常に分かりにくいサイトの作りになっています。
    それは引用しているリンクが同じページで開くことです。
    引用の記事もしっかりと読んで、また元記事に戻るのですが引用先の内容と記事を読み比べようとすると非常に読み辛いです。
    このシーズはサラサラッと読んだだけでは理解できない非常に内容の濃い記事です。
    私はパソコンでインターネットしているのですが引用のURLをクリックして新しいページを開きURLをコピー&ペーストして読んでいます。
    読者にこのような手間をかけさせるのは読者に対して「内容を理解しなくてもいいよ」と言っているに等しいです。
    私もウェブサイトを運営しているのですが読者にいかに分かりやく伝えるかを心がけています。
    https://gavandynamic.com

    できているかどうかハナハナ疑わしいですが?
    これはウェブサイトの運営の基本的なことの一つです。
    これ以外にも読み辛い部分はあります。
    それは同シリーズの記事一覧が表示されなことです。
    改めて過去の記事を読もうとした場合、第1回の記事を表示して確認したい記事まで(第○回へ続く)をクリックして読みたい記事を探さなくてはいけないことです。
    このようにシリーズ化している記事は過去の記事を読むことも非常に重要なことです。
    これも読者に不親切に作られていることがわかる事例です。
    それと、このシリーズでは写真の検証をしていますが、まず写真が非常に小さく見ずらいです。
    写真はもっと多きいサイズで掲載していただくようお願いします。
    さらに写真の比較をしている回もあるのですが、比較する写真は並べて表示して頂くようにお願いします。
    比較する写真が別々の場所に掲載されていている現状では非常に分かりにくいです
    現状のままではどれだけ優れた記事を書いても読者に伝わらないと考えます。
    私も正直読み辛さを感じていますので以上の点を改善していただくようお願いします。

    1. 月の桂 より:

      私も同じように感じていました。単発の記事なら気にならないことですが、20回超えで更に延長になりそうなシリーズ記事の場合、過去記事にすぐ飛べない部分は改善が必要かと思います。
      このシリーズは、1回から全て読んでこそ理解出来る内容であり、途中から読んだり、飛び飛びに読むのでは正確な内容を把握出来ない性質の記事です。
      また、科学捜査のごとく松田さんが実験検証されたデータを示された回などは動画を用いた方が、理解がしやすいように感じます。文字(数字)だけではイメージが掴めないこともあります。
      写真の比較データもしかり。全ての写真を一覧にし、講義スタイル動画で検証結果を説明した方が効果的に思います。内容にもよりますが、文字だけで伝えることには限界もあると思うのです。視覚に訴えるスタイルの採用も是非ご検討下さい。

      1. 一条寺烈 より:

        コメントへの返信ありがとうございます。
        このシリーズに関心を持ち同じ問題意識を持たれている方がいることは嬉しい限りです。
        この事件はマスコミによる冤罪事件の典型的な事例なので、現在のようにインターネットがなければ鈴木氏は犯罪者としての汚名を晴らすこともなく、その機会もなかったでしょう。
        記事の内容を読者にわかりやすく伝えるには?
        どれだけ中身の濃い記事を書いてもそれを読んで理解してもらわなければ意味がありません。
        そのためにできる工夫はしていくことが必要と考えます。
        動画という提案がありますが、これも一つの方法だと考えます。

        1. 隆さん応援団 より:

          取材対応以外での要求ばかり。あまり同意できませんね。
          webデザイナーの領分。松田さんにそんな暇あるとお思いで?
          さも持ち上げてるようで、その実は寝る間も無く働け、と
          言ってるようなもので。

          そこは見る側の気合いでどうにかするんです。
          確かに、アーカイブに一工夫は欲しいところですが。

          もう少し思い遣りを持ちましょう。
          重い槍持たせてどないすんねん、て言う。

          おあとが、・・・宜しくない??^_^

        2. 月の桂 より:

          一条寺烈 様
          ご返信有り難うございます。あなた様の「伊藤詩織事件」も「1」からじっくり読ませて頂きます。私も伊藤事件には中立的立場です。性犯罪事件であるはずが、左翼と右翼の対決のごとく感情的に攻撃しあって異様に見えますね。

          〉どれだけ中身の濃い記事を書いてもそれを読んで理解してもらわなければ意味がありません。
          そのためにできる工夫はしていくことが必要と考えます。

          仰る通りです。私は松田さんの記事を多くの方に読んで頂きたい。それが、冤罪被害者である鈴木氏を救う手立ての一つであると考えます。
          松田さんには暇がない云々のコメもありましたが、こちらが趣味範囲のサイトなら別ですが、「ジャーナリスト」として冤罪事件を取り上げた以上、窮地にある鈴木氏に関わった以上、執筆者にはこの記事を広く伝える責任があると思います。私は、一条寺烈様のご意見は無理筋な要求とは思いませんし、建設的なお話ではないでしょうか。

          1. 一条寺烈 より:

            月の桂 様
            返信ありがとうございます。
            私の書いている「伊藤詩織事件」を読んでいただきありがとうございます。
            私はマスコミによる冤罪被害に関心を持っています。
            さらにこの事件に興味を持ち伊藤詩織の「ブラックボックス」を読み同ブログを書いているしだいです。
            このブログの関係で令和瓦版の存在を知り、この「免職教師の叫び」も
            読むようになりました。
            ちなみに私はウェブサイトを自身で運営しているので私の要求は難しいことではないことを知っています。
            このようなウェブサイトの運営の基本的なことも出来ていないことに問題があり、同時にこのシリーズを多くに方に読んでいただいて問題を多くの方に知ってもらいたいのでコメントしたまです。
            あのコメントは的外れなので苦笑するしかないですね!

          2. 通りすがり より:

            えっと・・・
            ページの移動は新しいタブで開けば良いのでは??
            同じく比較画像等も別タブで開けば見やすいですよ。
            どんなブラウザをお使いかわかりませんが、
            リンクを右クリックして「新しいタブで開く」若しくは
            マウスのホイールでクリックされてみては?
            シリーズ記事のカテゴライズについても、
            タグから記事一覧にしやすい工夫がされてますけど?
            逆に、シリーズ記事一覧ページへのリンクのみで
            タグが無いパターンだと、シリーズ以外の関連記事が探しづらい。

            現代のブラウザの基本的な使い方だと思いますし、
            基本的な使い方が出来る方にとっては特段の問題もない。

            とても的外れな要望で苦笑するしかないですね。

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