免職教師の叫び(37)山頂付近で口淫の信憑性
松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵
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28年前から当時中学3年生の女子生徒にわいせつな行為をしていたとして昨年、免職された札幌市の中学校教員の事件の舞台となった札幌市周辺を2日間かけて取材した。登山をした際に山頂付近で口淫を強要されたという塩谷丸山(標高629m)に登ってみると、これまで分からなかった意外な事実が明らかになった。
■被害者の証言はまるで”AV”
札幌市の元教員・鈴木浩氏(仮名)は30代だった1993年3月から、勤務先の中学の3年生だった石田郁子氏(現写真家)にわいせつな行為をしていたとして、昨年1月28日に免職されている。現在、免職処分の取り消しを求めて札幌市に審査請求を申し立てているのは、これまで36回の連載でお伝えした通り。8月19、20日の2日間、筆者は札幌市に飛んで鈴木氏に直接取材をするとともに、関連する場所を実際に訪れた。
塩谷丸山は小樽市にあり、頂上付近からは石狩湾を一望でき、休日には多くの人が登山を楽しむ山として知られている。石田氏は高校1年生だった1994年8月、鈴木氏とともにこの塩谷丸山を登り、頂上付近でわいせつな行為をされたと主張している。
石田氏が鈴木氏と札幌市教委を相手に損害賠償を求めた訴訟では、以下のように記述されている。
「1994年(平成6)年8月2日にも、小樽市にて山登りに誘い、頂上近くの岩場で、被告●●(鈴木氏の本名、筆者註)は原告(石田氏のこと、筆者註)に対し、被告●●自身の性器を口にくわえるように指示し、口腔性交を行った。」
まるで成人向けわいせつビデオを観るかのような行為は、東京地裁では認められなかったものの、東京高裁にそのような事実があったと認定された。鈴木氏が免職された事実はこうした東京高裁の判断が影響しているのは間違いない。
■鈴木氏に当日のアリバイ
この山頂付近での口腔性交を、鈴木氏は明確に否定している。石田氏が事実があったとする1994年8月2日は、札幌市中央区の「さいとうギャラリー」を昼頃に訪れ、展覧会の関係者である友人と話をしており、当該友人の証言も得ている(参考・連載(5)まるでAV元教え子の証言)。
中央区から塩谷丸山の登山道までは自動車と徒歩で2時間程度かかる。さらに登山道を上り下りすれば2時間以上。実際に筆者が登山に要した時間は登山道入口に設置されている入山届けへの記載で11:36ー14:07の2時間31分である。
その日の午後に登山をする者が、昼まで札幌市中央区にいて登山に行くことを噯(おくび)にも出さず、その後、女性と待ち合わせて塩谷丸山に向かい、頂上で口淫をさせるというのであるから、何とも現実味に乏しい。
もっとも、鈴木氏のアリバイは裁判では明らかにされていない。これは石田氏の請求が除斥期間にかかっていることで棄却されており、そもそも請求は認められないことから石田氏の主張する不法行為の立証部分については書面のやり取りだけでごく簡単に済ませられたという事情がある。東京高裁の判決が出た後に鈴木氏から市教委に対して陳述書の形で上記のアリバイが提出され、その点を鈴木氏は後日、当サイトの取材に対して明らかにしている。
■629mの登山のイメージ
標高629mの塩谷丸山への登山と聞いて、多くの人はこんなイメージを抱いているのではないか。
(1)標高629mなんて大したことはない。
(2)整備された、なだらかな登山道を歩いて行けば頂上に着く。
(3)山頂到着時は、それほど疲れていないし、汗もかいていない。
(4)山頂付近の岩場では、口淫をするような場所がある。
このようなイメージを有していれば、山頂で口淫をすることもあるのではないかという思いは持てるかもしれない。しかし、実際に登ってみると、そのような考えはほとんどあり得ないと実感できる。順に見ていこう。
(1)筆者が登山未経験ということで簡単に考えていた。水平方向で600mの移動を考えると100m25秒でジョギングすれば150秒。そういう潜在意識が頭の片隅にでもあれば(いかに坂であっても、たかだか600mぐらい)という考えに至っても不思議はない。
しかし、垂直方法に600mとなると、話は全く違う。スカイツリーは高さ634mで塩谷丸山とほぼ同じ高さ。それを夏の暑い時期に地上から階段を使って上り切ることを想像すれば、歩く人にかかる負荷がいかに大きいかを実感できるであろう。
(2)山頂まで自動車などで行ける山も存在する。札幌市の藻岩山(標高531m)は人気の観光スポットで、山頂までロープウェイや自動車で行ける。藻岩山のような山の存在が塩谷丸山を含む1000mに届かない山に関して「気軽に山頂に行ける」というイメージにつながっているのかもしれない。
一方、塩谷丸山の登山道の入口には小樽山岳連盟が設置した入山届があり、入山者は記入が求められる。入山届は遭難した際に、遭難者の身元を特定するために重要な役割を果たす。塩谷丸山は629mとはいえ遭難のリスクもあり、実際に登山道はかなり険しい。
写真を見ていただきたいが、岩や木の根を足場にして登っていく道も多く、手をついて上がらなければならない場所もある。普通の階段を600m上がる辛さはスカイツリーの例から想像できると思うが、その標高差とほぼ同じで、歩くのが困難な道を含めて登ることは、さらに体力を消耗するのは容易に想像がつく。
塩谷丸山の登山道は整備された、歩きやすい登山道ではない。獣道を踏み固めたようなイメージで、それが高さ629mまで続くのであるから登山者の体力の消耗はかなりもの。少なくとも、藻岩山の頂上に行くのとは全く条件が異なるという事情は認識する必要がある。
■塩谷丸山登山はスポーツの範疇
塩谷丸山に登るためにはかなりの体力が必要で、629mとはいえ、登山というスポーツであると考えていい。そうなると(3)についてはもう明らか。
(3)山頂到着時にはかなり体力を消耗しており、夏場であれば全身に汗をかく状態。要するにスポーツを終えた時に似た状況になっている。
どのようなスポーツでもいい。汗をたくさんかいたスポーツの直後に、性的行為をしようと考えることがどれほどあるか。一般に性欲が旺盛な若い時期に「運動で発散しろ」と言われる話はよく耳にするが、そうした経験則からしても、山頂で口淫を強要というのは考えにくいシチュエーションである。
筆者が山頂に到着した時、着ていたシャツは絞ればしたたり落ちるぐらいの汗を含んでおり、ボトムスは下着はもちろん、ジーンズまで濡れていた。要は汗でずぶ濡れの状態。その状況で下半身から汗まみれの性器を出して口淫を要求する人間も少ないと思われるし、また、女性もいかに相手に好意を抱いていてもそのような行為に強い嫌悪感を覚えるのではないか。
なお、筆者が登った2022年8月20日の小樽の気温は最低19.7度、最高27.8度だったのに対し、石田氏が口淫を強要されたという1994年8月2日は最低24.0度、最高28.9度と最低気温も最高気温も高い(気象庁HP・過去の気象データ検索から)。どちらが体力の消耗が激しかったか、より汗をかいたかは自明である。
■たどり着いた山頂
こうして筆者は登山道を登る段階で激しい体力の消耗があり、途中、2、3度休息を入れながら1時間以上かけてようやく山頂に着いた。
石田氏はこの山頂の周囲で口淫を強要され、実際に行ったとしているのである。しかし、その周辺の環境は、石田氏の主張の信憑性を毀損するものであった。(4)については次回、詳述する。
(第38回に続く)
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