免職教師の叫び(35)押し込まれる”被害者”

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松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

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青山学院大学大学院法務研究科卒業。1985年から2014年まで日刊スポーツ新聞社に勤務。退職後にフリーランスのジャーナリストとして活動を開始。
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 28年前の事件を理由に元教師の鈴木浩氏(仮名)が免職された事件で、被害者と称する写真家の石田郁子氏(44)が、証人として証言台に立つ可能性が出てきた。札幌市の人事委員会で懲戒免職処分に係る審査が行われており、札幌市教委サイドから証人としての参加の要請が出される可能性がある。証言をすることになれば、当サイトが明らかにしてきた写真の偽造や、虚偽証言について鈴木氏サイドから追及されるのは必至。自称被害者は苦しい立場に追い込まれつつあるように見える。

■市教委が証人尋問の出席要請へ

札幌市教委が入るSTV2条ビル(提供写真)

 石田氏を支援するツイッターのアカウント「SCHOOL ME TOO 学校での性暴力にNO!」は、3月末から情報発信が増えている。前回の連載で明らかにした第三者による検証報告書(平成28年当時の札幌市教育委員会における対応についての検証報告書)が3月25日にメディアに公開されたのがきっかけになっており、検証報告書の内容への不満と、それに対する市教委の反応への不満が次々に投稿された。

 当該アカウントは石田氏が1人で運営しているのではないかと言われており、実際に石田氏自身が名乗っている投稿も存在する。

 その中で石田氏が札幌市教委に4月4日に提出した要望書に対するメールでの返答が公開されている。紹介されている部分をそのまま示す。

また、現在、人事委員会にて懲戒免職処分に係る審査請求事案が審理中でありますことから、今後は、石田様との面会はもとより、いただいたご意見やご要望等につきましても、個別にお答えすることは差し控えさせていただきたいと存じます。

なお、今後の審理において、証人尋問の出席要請をさせていただく場合は、審査請求に関し市教委が選任した代理人弁護士から、別途、ご連絡いたします。

札幌市教育委員会教職員課長

(2022年4月12日午後4時46分投稿

 問題は後半部分。鈴木氏が免職処分の取り消しを求めて人事委員会に審査請求を求めており、その相手である市教委が石田氏を証人として出席要請をするかもしれない、というのである。

■法律により宣誓した証人

 この審査請求は「札幌市職員の不利益処分についての審査請求に関する規則」(以下、規則)に基づくものとみられ、証人に関する規定は37条から41条に置かれている。証人は宣誓しなければならず(39条1項)、正当な理由なく尋問に応じない場合又は虚偽の証言をした場合の法律上の制裁を説明しなければならない(同4項)とされている。

 当サイトがこれまで指摘してきた、石田氏の証言は虚偽が含まれ(連載(12)CAN YOU CELEBRATE? ほか)、証拠として出された写真は合成されたものである(連載(19)影なき闇の不在証明)ことについて、石田氏が虚偽の証言をすれば制裁が科される。具体的には偽証罪(刑法169条)の「法律により宣誓した証人」に該当し、同条が適用されると思われ、もし、そうであれば、3月以上10年以下の懲役となる。

 石田氏が証人として証言した場合、規則により宣誓した証人ではあるが「『法律により』とは宣誓について法律に根拠があることを意味する。法律が直接規定している場合のほか、法律の委任に基づく政令・省令等に根拠を有する場合も含まれる。」(条解刑法 第4版 編集代表 前田雅英 弘文堂 p497)と説明されるため、これに該当すると考えていい。

 たとえば、石田氏は交際期間について鈴木氏の主張より1年早く終わったとしており(1997年に終了)、鈴木氏と、その共通の友人の証言(1998年に終了)と食い違っている(連載(12)CAN YOU CELEBRATE?)。この点を突かれた場合、あくまでも自説にこだわれば、その時点で理論的には偽証罪成立となる。そう考えると、2016年に市教委に提出した証拠はほとんど証拠能力を失ってしまうか、偽証罪覚悟で虚偽の事実を言い続けるか、黙秘するかの選択を迫られることになる。

■手続上の瑕疵の治癒

 市教委は今でも処分は正しかったという姿勢を貫いているが、上記のように処分が取り消されるかもしれないリスクを負ってまで石田氏の証人尋問の出席要請を行うとしているのか。

 これは、1つは当サイトが指摘した石田氏が市教委に申し出た事実に数多くの虚偽が含まれている事実を、鈴木氏サイドも書面審理の中で指摘したと思われること、もう1つは、検証報告書で市教委の担当者が石田氏の供述に虚偽が含まれること等を想定しておらず、その供述の信用性を検討する意識自体が希薄であったとされていると挙げられたことに求められる。

 結果的に鈴木氏の免職処分では、処分すべきとした石田氏の証言の反対尋問を含む信憑性のチェックを全くしていないまま免職にする「魔女裁判」であることは指摘済み。そのため市教委では事後的に石田氏の証言を反対尋問(規則40条1項)に晒し、指摘された手続上の瑕疵を治癒する狙いがあるものと思われる。

 つまり、「免職する前に反対尋問を含むチェックをしなかったのは当方のミスだが、事後的に行い、その信憑性が確認できたので処分は取り消されるべきではない」という主張をしたいのであろう。

■追及を免れる方法

鈴木浩氏が描いた石田郁子氏

 鈴木氏サイドとしては、石田氏が証人として出てくれば、これまで東京地裁・高裁でも審理されなかった石田氏の言い分を徹底的に追及できる絶好の機会となる。

 もっとも、石田氏が出てこない場合も考えられる。証人として尋問を受けずに、文書の提出で済ませることが可能だからである(規則41条1項)。

【規則41条1項】

人事委員会は、証人を尋問する場合において、口頭による陳述に代えて、口述書の提出を求めることができる。

 これが認められれば、2016年に石田氏が市教委に申し出た話をそのまま繰り返す結果となりかねない。そのあたりは鈴木氏サイドもケアはしているとは思うが、何があるか分からないのが、この世界の常ではある。

 石田氏が証人として出てくる可能性が出てきたことに鈴木氏は「証拠と証言で真実が明らかになるのは、私としても歓迎です。人事委員会の進捗状況については申し上げることはできませんが、石田氏が市教委からのメールを一部公開しているようなので、証人として出てくる可能性はあると思います」と話した。

 また、規則41条1項の口述書で済ませるのではないかという件は「その条文については認識しています。ただ、細かいことは担当弁護士に任せていますので、私からはノーコメントとさせてください」と話した。

第36回に続く)

第34回に戻る)

第1回に戻る)

"免職教師の叫び(35)押し込まれる”被害者”"に3件のコメントがあります

  1. とある高校教師 より:

    良きタイミングで連載が更新されていましたので、こちらに失礼します。
    とある高校で教職に就いており、鈴木先生の件は報道当初から他人事と思えず、連載も毎回拝見しております。
    先日、職場で学校でのわいせつ事案についての研修(動画の視聴)がありました。
    それは教委がどこかの研究者?に依頼して、これまでに起きた事案の分析等を交え規範意識を高めるよう促すような内容のものだったのですが、その中の事例の一つにこの件が引用されていました。(個人名は出ていませんでしたが、明らかにそれと分かりました。)
    複数ある事例の中でも一番長い時間を取り、告発者(被害を受けた生徒と紹介されていた)のその後まで述べられていて、この連載を読んでいる私としては、研修どころではなく不愉快な気持ちにしかなりませんでした。
    また処分取消を求めて審査請求がなされている事案であるにもかかわらず、被害者に肩入れした一方的な分析しかしていない研究者に研修講義の依頼をし、それをそのまま我々に視聴させた教委にも失望しました。
    通常研修だと事後アンケートがあるのですが、今回は一方的な研修のようでそれもなく、この不条理さをどこへ訴えれば良いのか術がなく、こちらへ書き込ませていただいた次第です。お目汚し、申し訳ありませんでした。
    このような形での波及もあるという一つの例と思っていただければと思います。

    1. 松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵 松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵 より:

       コメントをありがとうございます。

       処分が出たとはいえ、その取り消しをめぐって審査請求が行われている事例を一方的に研修の材料にするとは、教育委員会の人権意識はどうなっているのでしょうか。信じられないようなことが教育現場で行われていることに怒りをおぼえます。

       もし、この件で処分が取り消され、被害者と称した女性の証言の大半が虚偽であったということが判明した場合でも、匿名なので構わないと開き直るのでしょう。教育現場には人権意識も、科学的な論考もないのかと絶望的な思いがします。

      1. とある高校教師 より:

        松田様
        ありがたい返信に、溜飲が下がる思いです。
        おそらく大半の教員は目先のことだけで手一杯で、連日大きく報じられるような事象ならまだしも、よほど興味を持たないとこのような件について調べるようなことはないと思います。
        教育委員会も相当な激務のようなので、研修内容はその研究者の方(女性の大学教授だったように思います)に外注して、中身の推敲までしないのでしょう(よほどまずいような内容が含まれていない限り)。
        私自身は、情報化社会を生きる生徒にメディアリテラシーの教育が非常に重要だと考えています。
        令和電子瓦版は優良な記事が多く、いつか松田様の記事も引用させていただく機会があるかもしれません。
        せめて私が指導した生徒は一人でも多く、正しく物事を見定める広い視野を持てるような教育ができるよう、今後も精進して参りたいと思います。

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