CBCアナ横領か メディアの労組・元委員長語る
松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵
最新記事 by 松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵 (全て見る)
- スポーツ紙消滅で競馬界のカオス 須田鷹雄氏提言 - 2024年11月20日
- 見えてこない導入の必要性 分娩費用の保険適用化 - 2024年11月18日
- 検討会で弁護士暴論「産科医は医療安全に前のめり」 - 2024年11月16日
TBS系のCBCテレビのアナウンサーだった江田亮氏が組合費約4000万円を横領していたという報道がされた。江田氏は既に退職したという。アナウンサーという花形職が横領の後に退職というのは珍しい。会社は違うがかつて新聞社の労組委員長を務めた筆者が、組合費の横領が簡単にできるものなのか、自らの経験から考える。
■4000万円着服 業務上横領か
ここまでの報道によると、江田亮氏はCBCテレビのアナウンサーとして活躍する傍ら、2018年~2021年に労働組合の財務部長を務めており、その間に組合費およそ4000万円を着服していたという。2022年9月頃に役員改選があり、新しい組合長が組合費を確認するために通帳の提出を求めたところ、江田氏は破棄したと答え、不審に思った新組合長が記録を確認、調査をしたところ、不正が発覚したという。
江田氏は着服した4000万円は投資に使ったと説明し、最終的に4000万円全てを返還。不正発覚が9月、11月には出勤停止となり、12月8日付けで自主的に退職をした(FRIDAY DIGITAL・「4000万円横領」の人気アナウンサーが本誌報道当日に”自主退職”していた理由)。
記事では「横領」となっているが、江田氏は財務部長をしていたというのであるから、単純横領ではなく、業務上横領罪(刑法253条)が成立するのは間違いない。単純横領(同252条1項)は5年以下の懲役であるが、その加重類型である業務上横領罪は懲役10年以下と、かなり重い刑罰が科される。
横領した4000万円は返還したから罪に問われないということはない。(業務上)横領罪には未遂はなく、不法領得の意思が客観化されたときに既遂に達する。つまり、実行の着手と同時に既遂に達する。仮に罪に問われた場合、返金している事情は情状面で考慮されることはあるかもしれないが、本質的に罪の成否には影響を及ぼさない。
また、横領罪は親告罪ではないので、告訴、告発がなくても逮捕・起訴の可能性はある。もっとも、現実には告訴・告発がない場合は検挙は難しい。このまま逃げ切られる可能性は否定できない。
■日刊スポーツ新聞社で2年間労組執行部
詳細は分からないが、僕自身、日刊スポーツ新聞社で2年間、労働組合の執行部に入り、委員長を1年、書記長を1年務めた。
各労組によって事情は異なるとは思うが、自分自身の経験からすれば、組合費の横領は比較的簡単にできる。僕が委員長になったのは1997年のことであるが、はっきり言って経理はユルユルで、ほとんど現金がない状態だった。委員長に就任してすぐ、財務を担当する書記長に組合の経理を開示するように指示した。彼は僕の前任の委員長の時代に確か副委員長を務めており、実際に出納を担当。
僕の記憶では、彼が持ってきた預金通帳の普通預金はほぼゼロで、それ以外に定期預金や債券がいくつかあるという説明であった。そこで、定期預金なども証券や通帳を開示するように求めると、数日後に持ってきた。その部分は帳簿とは合っていた。
問題は普通預金がほとんどない状況だったこと。月に60万円から70万円も入るのに、それを全部費消するというのも信じ難い話。一体、何に使っていたのか帳簿を見ると、その多くが執行部の会合費用であった。領収証が保管されていたので1つ1つ見ると、大部分が銀座の飲食店のものであったように記憶している。
「銀座のクラブで打ち合わせしないといけないのか?」と聞くと、「代々の執行部はそうしてます。退任するときにお金を残さない状態で次の執行部に引き継いでいます」という信じ難い答え。
また、書記長(前年は副委員長)は「団交の前には執行部で合宿をします。その費用がかかります」と言う。熱海か箱根か、そのあたりでやっていたようで、コンパニオンでも呼んで派手にやっていたのであろう。話を聞く限り、代々の執行部は「1年間、組合費を自由に使っていい特権」があるという思いを持っていた、そのような暗黙の了解を皆が持っていたという印象。
執行部が「今日は銀座で団交の打ち合わせをしよう」と言い出せば、それを止める人間などいない。財務を担当する者も同じ社員、通常、委員長の方が先輩社員である上、会社の経理のように監査役の監査など入らないから領収証があれば使い放題。少なくとも僕が委員長を受け継いだ時はそんな状態であった。後から書記長に聞いたのだが、前任の委員長は組合費が足りなくなると自分がカードで支払って、月の組合費が入るとそこから返済してもらっていたという。
そうした代々の執行部経験者が現在、会社の役員や関連会社の社長になっている状況を見ると(本当に日刊スポーツは大丈夫なのか)と他人事ながら心配になってしまう。
■組合員を欺く行為の代償
CBCの労組がどのような体制、運営だったのか分からないが、おそらく大きな違いはないと思う。大手の労組などではそのようなことはないと思うが、小規模な労組ではどこも似たり寄ったりと想像する。
僕の場合は委員長だったが、江田氏は財務部長で実際に金銭を扱う役職であるから、私的流用もやりやすかったのではないか。しかも3年も金庫番をやっていれば、(いずれ返せるから」と流用のハードルもどんどん低くなるように思う。江田氏はそういう状況で泥沼にはまり込んでしまったのかもしれない。個人的には組合がしっかりと告訴して刑事責任を取らせるべきと考える。
最後に僕の委員長時代の話を。僕が委員長職になって最初にやったのは、意味のない会合で組合費を費消するのをやめることであった。もちろん、合宿もやらず、組合の部屋で団交の準備を終わらせた。
その上で、組合費を下げ、組合員の負担を僅かながら軽減させた。また、毎月、組合の普通預金額を組合ニュースで発表。経理の透明化を図った。これには隠れた目的がある。組合の資金が潤沢であれば、ストライキなどの闘争資金に充てられ、経営側にプレッシャーをかけられるというもの。
こうして委員長就任から半年が過ぎた頃のこと。以前からあまり仲がよくなかった「お局様」タイプの女性社員が僕に「松田君、よくやってるね」と言ってくれた。見てくれる人は見てくれているんだ」と嬉しくなったのを覚えている。
江田氏はどんなつもりで組合執行部にいたのか。他人の給料の一部を預かっていること、それを適切に管理しなければならないという意識がどれだけあったか。報道の通りの事実があったとするなら、真実の語り部たるアナウンサーが組合員を欺く行為をすることがいかに高い代償を伴うかを、これから知ることになると思う。
CBCのニュース番組は勿論、名古屋の他局でも全く横領の件を取り上げないのでキー局と同じくメディアは身内に甘いんだなと実感して残念です
会社から横領したのではないため会社が処分していないこと、労組が刑事告訴していない、金銭は返却したなどの事情があるのかもしれません。横領は親告罪ではないので、会社は犯罪を行なったという理由で解雇できるとは思いますが、実際に起訴もされていない状況だと相手が処分を争ってくる可能性もあるなど、様々な状況から退職という形になったのかなと想像します。それで他媒体も迂闊に報道できないというのがあるのかもしれません。
伝えられることが事実なら犯罪であり、組合員だけでなく視聴者の信頼も裏切っているわけですから、とんでもない人間だと思います。