気付けよサイボウズ社長 それはテロ誘発ツイート

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松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

青山学院大学大学院法務研究科卒業。1985年から2014年まで日刊スポーツ新聞社に勤務。退職後にフリーランスのジャーナリストとして活動を開始。

 サイボウズ株式会社(本社:東京都中央区)の青野慶久社長のツイートが炎上している。昨年の安倍晋三元総理が凶弾に斃れた事件に関し「自民党が旧統一教会の問題に真摯に向き合っていれば、去年の辛いテロは起きなかった」などと投稿、テロが発生する原因をなくすことを強調した。これに批判が殺到。グループウェアを提供する会社のトップが、テロを誘発する考えであることに気付かないのはお粗末と言うしかない。

■炎上ツイートにリプライ13連投

サイボウズ青野社長(同社HPから)

 青野社長は岸田文雄総理に対するテロと思われる事件があった4月16日夜、テロの原因や動機を解明することは、それによってテロリストは成功体験を広めることになるという趣旨のツイートを引用しつつ、以下のツイートをした。

自民党が旧統一教会の問題に真摯に向き合っていれば、去年の辛いテロは起きなかったし、被害者も減らせたし、北朝鮮にお金が流れることもなかった。どうして日本国民がわざわざ命懸けで犯罪に走るのか。テロが起きる原因からなくしていきましょう。(4月16日午後9時33分投稿

 岸田総理がテロと思われる行為の被害に遭った日に、テロが行われた原因を解明してテロをなくしましょう、安倍元総理が被害に遭ったのは自民党が旧統一教会の問題に真摯に向き合わなかったから、という趣旨のツイートをすれば炎上するのは分かりそうなもので、2日経った今でも批判する声はやまない。

 このツイートにリプライを13連投。いずれも問ー答の形式を用いて、自らの主張を説明する内容となっている。たとえば、以下のようなものがあるので、これに対して筆者の反論も述べておく。

Q. テロをきっかけに原因を解決すると日本がテロ天国になって知人が殺される?→原因がなくなれば現象もなくなります。(同日午後9時59分投稿

⇨松田:その原因がなくなれば、それに対する現象はなくなるかもしれないが、テロリストは新たな原因を作って新たなテロを生み出すことが考えられ、テロ天国になる可能性はある。

Q. 原因をなくせばテロを皆無にできるの?→皆無にできるかどうかはわかりません。どれだけ強固にしても完全なセキュリティを実現できないのと同じです。しかし、減らす努力は大切だし、そのためにも原因を探求し、課題を設定して取り組むことが重要だと考えます。(同日午後11時34分投稿

⇨松田:テロの原因をなくしても、別の新たな原因が出てくるので、皆無にならないどころか増える可能性がある。減らす努力は大切で、テロリストの要求には一切答えず徹底的に検挙して厳罰を与え「テロは割に合わないな」と思わせることが肝要。

Q. 原因探求は容認につながるのでは?→ここが今回のポイントのようですが、なにより一番大切なのは再発防止であると考えます。そのために「テロは駄目だ」と掛け声をかけるだけでは不十分で、原因を探求して再発防止に向けた様々な課題に取り組むべきという考え方です。(4月17日午前1時22分投稿

⇨松田:原因探究は、その原因をなくすことに繋がり、テロリストの要求を満たすことになるから容認と同義となる。テロリストは要求が満たされれば、新たなテロを起こして新たな要求を通そうとするため、再発防止の努力といたちごっこになるだけと考えられる。

■青野ツイートに正当性がない2つの理由

 上記の反論を読んでいただければ、大体、分かっていただけると思うが、筆者(松田隆)は、青野社長の「テロが起きる原因からなくしていきましょう」という発言には正当性がないと考える。それは2つの理由による。

行為として違法:テロは他者を傷つけ、人々を不安にする犯罪である。

手段として誤謬:テロの原因をなくそうと政治が努力することは、結果としてテロを成功させる。

 ①はテロは政治的に対立する相手を抹殺する犯罪であり、犯罪が正当化されることはない。仮に安倍元総理が殺害された原因が、青野氏が言うように自民党が旧統一教会の問題に真摯に向き合っていなかったことにあったとしよう。そうだとしても、それによってテロが正当化されることはない。

 自民党の政策が間違っていたら、選挙で国民が審判を下して下野させればいいだけの話で、政策の間違いによって元総裁が命をもって償わなければならない理由などない。

 これは子供でも分かる話。サイボウズのサービスを利用している消費者が、そのサービスが気に入らなければ、利用しない、あるいは他社のサービスを利用すればいい。それをサイボウズのサービスが気に入らないとして社屋に爆弾を仕掛け、多数の社員が死傷した時に青野社長は「消費者に真摯に向き合っていれば、テロは起きなかった。テロが起きる原因からなくしていきましょう。」と言うのか?

 そんなことは絶対に口にしないはず。なぜなら、サイボウズがどんなサービスを提供し、どんなに人に迷惑をかけたとしても、それによって会社や社員に対する暴力が正当化されることなどないからである。それぐらいのことは青野社長でも理解できるであろう。

 ならば、なぜ、安倍元総理に対するテロに対して、自民党と旧統一教会がどうこうという犯人の主張に沿った内容の話をして、あたかも安倍元総理にも原因があったかの如く言うのか。多くの人は、まず、その点に違和感を覚えたのは言うまでもない。

■テロの持つ性質を考えてみよう

 ②について考えるには、まず、テロがどのような性質を持つ行為であるかを明確にする必要がある。民主国家においては政党が政策を競い、国民が選挙によって政権を選択する。もし、選挙によって誕生した政権が国民に支持されなければ、次の選挙で下野させられる。

 国民がある政策の実行を願った場合、それを主張する政党に投票して国民の意思を伝えることで実現する場合がある。それが民主主義のルールである。実際に日本では自民党が選挙で大敗し、1993年に日本新党や新生党を中心とした政権が誕生し、また、2009年には民主党政権が誕生している。

 それではテロはどうか。自分が気に入らない政策を主張する政治家を殺害して、その政策を実行させないようにするための手段と言っていい。選挙では政策を実現することができない少数派が、反対する政策を実現しようとする政治家を殺害することでその政策をやめさせるのが目的とされることがほとんどである。

 この点を宮台真司氏は端的にこう語っている。「山上容疑者が何をどこまで想像していたのかっていうことは横に置くとして、機運としてはね、いいですか、機運としてはですね、世直しとして機能していますよね。」(映画REVOLUTION+1上映後のトークイベント)。

 つまり、テロによって自らが望む政策が実現の方向へ動き出したと言っているのである。テロの原因を探究し「テロが起きる原因からなくしていきましょう」ということは、テロリストの目的を明らかにしてテロに走らないように、その政策を実現しましょう、そうすればテロはなくせるかもしれないと言っているに等しい。

■1度テロが成功したら味をしめて…

身柄を確保された木村隆二容疑者(ANN News画面から)

 もし、日本社会がテロリストに対して上記のような態度で臨んだらどうなるか。選挙で多数派を形成するよりも、対立する政治家にテロを仕掛けることの方が簡単だと判断する人間は出てくる。テロを仕掛けて総理大臣を殺害すれば、その原因を皆が探究し、テロの原因をなくすように努力してくれるのであるから、テロを実行することによって得られる政治的効果は絶大である。

 そうやってテロリストとその仲間たちが政治的な思惑を達成することができたら、選挙では勝てないからテロをやって自分たちの政治的目的を通そうとするのは火を見るよりも明らか。1度テロが成功すれば別の目的、また別の目的と次から次へと異なる目的でテロを行う。だからこそ、ニュージーランドの首相はテロリストに何も与えるなと厳しい言葉を投げかけたものと思われる。

 そうするとテロの原因を探究し、「テロが起きる原因からなくしていきましょう」と主張して実行することの論理的帰結として、次のテロを誘発することになる。このような簡単な理屈を、サイボウズの社長はなぜ分からないのか。

 グループウェアを提供する会社の創業者が、このような論理性のない話をするようであれば、この会社の行く末も見えてくるというものであろう。

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