”スシロー少年”6700万円請求 ゲンコツで済まない

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松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

青山学院大学大学院法務研究科卒業。1985年から2014年まで日刊スポーツ新聞社に勤務。退職後にフリーランスのジャーナリストとして活動を開始。

 回転ずしのスシローで醤油差しを舐めたり、レーンを流れる寿司につばをつけたりするなどした少年が約6700万円の損害賠償を求められていることが8日、分かった。読売新聞オンラインが同日、報じたもの。様子を収めた動画が拡散され、ネット上で炎上したこの事件は子供の悪ふざけでは終わらない深刻な事態となっている。

◼️大阪地裁 提訴は3月22日付け

スシローの店内(撮影・松田隆)

 スシローの運営会社「あきんどスシロー」(本社・大阪府吹田市)は3月22日付けで大阪地裁に提訴。訴状によると、今年1月29日、岐阜市のスシロー岐阜正木店で少年が醤油差しを舐めるなどの行為を行っている動画が拡散され、全国の店舗で来客数が減少。2日後の同31日には株価が5%近く下洛し、1日で160億円以上の経済的な価値が失われたという。迷惑行為を防ぐための対策も進めており、請求額は増える可能性があるとしている。

 これに対して、少年側は請求棄却を求め、「客の減少は同業他店との競合も考えられる」と反論して、争う姿勢を示した(以上、読売新聞オンライン・スシロー迷惑動画、しょうゆ差しなめた少年を提訴…6700万円損賠請求)。

 スシローサイドにすれば少年の行為で損害が発生したから、その分を賠償しろと求めているのであり、ごく当たり前のことである。行為によって生じた損害の賠償を求めるのは、未成年だから、悪気はないから、で済む話ではない。

 この事件の後、同種の事案が頻発したことを思えば、スシロー側がなあなあで済ませた場合、その被害は同業者はもちろん、消費者にも及ぶ。それを考えれば淡々と法的措置をとり再発を防止、新たな不法行為の発生を抑止することは企業としての果たすべき責務、今風に言えばCSR(corporate social responsibility=企業の社会的責任)の一種ということか。

 少年側が請求棄却を求めているのは、客の減少も株価の下落も、行為との因果関係が認められないという主張なのであろう。行為そのものは認めていると報じられており、行為による影響がスシローサイドのいうようなものではない、少なくとも因果関係が明瞭ではないという主張をしているものと思われる。

 そこをどう判断するか、後は司法に任せるだけである。

◼️スシローの対応に拍手

 今回のスシローの対応には拍手を送りたい。1月31日には警察に被害を届けを出している。その前日には「早急に警察と相談させていただきながら 刑事⺠事の両面から厳正に対処してまいります。」という声明を発表している(株式会社あきんどスシローHP・SNSで拡散されたスシロー店舗での迷惑行為について)。

 日本社会が未成年の違法な行為に対する許容度が高い傾向にあるのは残念なことで、公益を害する行為に対して、被害を受けた者は厳しい態度で臨むべき。そのことで行為者に(犯罪や不法行為は割に合わない)と思わせることが大切で、それが抑止力に繋がる。

 これまでこうした行為が気軽に行われていた、模倣する者が頻出したのは日本の民事訴訟で懲罰的損害賠償は認められていないこともさることながら、多くの被害者が「相手は子供だから」とか、「いちいち、訴訟を提起するのは面倒」などと考えていた点にあるのではないか。その結果が、やっていいことといけないことの区別がつかない高校生を生んだと言っていい。

 当該事件では元フジテレビアナウンサーの長谷川豊氏のツイッターでの投稿が炎上した。少年の行為について、長谷川氏は以下のようにツイートしている。

もー ゲンコツ3発と皿磨き1週間くらいで許してあげなよー

めんどくさい世の中だなー 相手、子供だろ

(2023年2月1日午後7時7分投稿

被害なんて一つも受けていない匿名の変な人たちがピーピー言ってますけど、こんなもんは悪ふざけのガキがいたずらしただけの話 第3者はほっとけばいいです

(2023年2月2日午前10時58分投稿

 この後、長谷川氏のツイートは炎上。縷々言い訳を重ねたが、長谷川氏自身がスシローが受けた被害の大きさ、消費者が危機に晒されるという状況に全く想像力が働かなかったと言っていい。

◼️悪ふざけで済む話か

スシローに拍手(撮影・松田隆)

 長谷川氏は「こんなもんは悪ふざけのガキがいたずらしただけの話」としているが、スシローはそのようには考えていなかったのは、今回の請求額を見れば一目瞭然。

 この事件の後、同種の事件が頻発したが、この訴訟がよい薬になればと思う。何かあればすぐに訴訟という風潮を「ギスギスした社会」と感じる人がいるかもしれないが、日々、ルールを守り、社会の安寧を願う大多数の国民にとっては、これまでなぜ、やらなかったのかという思いではないか。

 真面目な人が負うべきではないリスクを負うような社会であってはならない。犯罪や不法行為に寛容な社会とは一線を引く、21世紀の日本が大人の社会になることを願っている。

"”スシロー少年”6700万円請求 ゲンコツで済まない"に3件のコメントがあります

  1. 立石たつや より:

    根本的に長谷川はネット社会と言う言葉を知らないのだろうか。一昔前まではネット動画拡散ということがなかった頃はここまで大問題にはならなかっただろう。
    スシローは公共で事業しているわけではない従業員も生活の為、自身の為に売上貢献の為に頑張っている中、時代は変化することを知らない人間が悪ガキを擁護する長谷川みたいな私的な持論を週刊紙に上げさせる事態危険人物だ

  2. 和歌山 より:

    少年が舐めた一つの醤油瓶が、即座にスシローの企業価値やイメージを毀損することなど考えられず、そこにはどう考えてもSNSが拡散しマスメディアが報じたことが作用しているはずだ。
    「与えた被害を弁済せよ」、それは確かに一つ全うな応報観念だろう。しかしではその被害額を、市民の怒りの感情を、ここまで無為に増幅したSNS参加者である我々やマスメディアの責任は問われないのだろうか? それでも我々はまだ、罪の無い者として投げられる石を手に持っているのだろうか?

  3. 野崎 より:

    罪とは何か?ということでしょうね。

    以前、大衆の狂気という書籍をコメントと会わせ引用紹介しました。
    著者は米国人男性同性愛者で翻訳書籍です。

    読売書評より抜粋引用。
    >ポリティカル・コレクトネスが最も進んでいる国のある種の狂気だ。

    SNS等で増幅拡大し社会にエートスを形成するある種の価値観、それにより他を断罪するその危険性を指摘しています。
    以下は私の認識。
    このメカニズムを戦術戦略として駆使する集団、組織の存在、その価値観の問題と二重規範。

    ●今般はマキャベリズム(罰則による統治)でよろしい!が私の考えです。
    それが情報システムにより増幅されたあまりある怒り故であってもです。

    ●ヨハネによる福音書 8章1~11節
    汝らの内、罪なき者、まず石をなげうて

    イエス、キリストの言葉ですが
    同じく
    ●ルカによる福音書 16:10-12
    小事に忠実な人は、大事にも忠実である。 そして、小事に不忠実な人は大事にも不忠実である。

    罪とは何か?
    今般の事は単純に評価できる犯罪です。
    長谷川何某のいうガキのいたずらと見るのは読みが浅い、この種の事をする者は他の反社会的な事をもする、それが重大な事になる可能性もあると深読みできます。
    そしてこの種の人間は変わらない。
    厳罰により封じ込める必要がある。

    この様な事を行わない者は投げる石(主張、批判)を手に持ち当然であり必要です。
    そして投げなければならない。

    ご返信は不要です。

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