代理出産より子宮移植 生殖補助医療の行方(後)

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松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

青山学院大学大学院法務研究科卒業。1985年から2014年まで日刊スポーツ新聞社に勤務。退職後にフリーランスのジャーナリストとして活動を開始。

 特定生殖補助医療法案に関して生殖補助医療の在り方を考える議員連盟の古川俊治副会長(参院自民党)に聞く後編をお届けする。同法案では代理懐胎・代理出産について規定がないことは伝えたが、子宮移植解禁を同時並行で進めるという。がんで摘出するなどで子宮のない女性の子づくりを可能にするシステムが子宮移植で実現する日も、そう遠くはなさそうである。

◾️海外で進む子宮移植による出産

写真はイメージ

 子宮移植は、先天的に子宮がないロキタンスキー症候群の女性や、子宮を摘出した女性が、第三者から子宮を移植し、妊娠ー出産をするというものである。その概要は以下。

(1)夫婦の受精卵を事前に凍結保存

(2)レシピエント(移植される人)にドナーの子宮を移植(卵巣の移植は行わない)

(3)子宮の生着を確認して胚移植

(4)妊娠管理の下、帝王切開で出産

(5)出産後は移植された子宮の摘出も考慮

(以上、日本産婦人科医会・産婦人科医療の近未来(2)子宮移植 概要 VS 倫理的問題点 A:子宮移植の概要と課題(木須伊織)から)

 子宮移植については海外では既に実施され、子供も誕生している。2000年にサウジアラビアで初めて実施されたが移植された子宮がうまく機能せず、2014年にスウェーデンで子宮移植による出産が初めて報告された。2022年10月時点で、海外では98例の手術で52人が生まれている(朝日新聞DIGITAL・子宮移植、海外で広がる 当事者は期待、提供者への負担など課題)。

 米国で子宮移植を行っている3つの施設で2016年2月から2021年9月に子宮移植を受けた女性33名の調査を行ったところ、19人が21人の生児を出産。1年後に移植片が生存していた移植受容者のうち、生児を出産した割合は83%(23人中19人)であった(JAMA Network・The First 5 Years of Uterus Transplant in the US, Liza Johannesson氏ら)。

 こうした中、2021年7月14日に日本医学会の検討委員会が子宮移植を認める報告書をまとめ(日本医学会・子宮移植倫理に関する検討委員会 報告書)、2022年11月24日に慶應義塾大学のチームが子宮移植の計画を倫理委員会に申請している(前述の朝日新聞DIGITALの同記事から)。

◾️子宮移植のリスク

 2003年にタレントの向井亜紀さんが米国で代理出産で2児を得た。向井さんは子宮頸がんで子宮を摘出しており、夫のプロレスラー高田延彦さんとの間の受精卵を米国人女性に託した。これは当時から日本では代理懐胎が認められていないためで、そのような女性・夫婦の救済のために子宮移植が認められる方向と言っていい。

 とはいえ、第三者の子宮に胚移植する代理懐胎・代理出産よりも、子宮を摘出して移植する外科手術を伴う子宮移植はリスクが大きいように思える。特にドナーの女性は健康体から子宮を摘出するわけで、本来、負わなくていいリスクを負う点に疑問を感じる人は少なくないのではないか。その点を含めて古川氏に聞いた。

ーー健康な人から子宮を持ってくるという点が気になります

古川副会長(以下、古川):健康な人だけではありません。死体からも移植することがあります。健康な人から持ってくる場合も、既に使わない子宮です。

ーー個人的には代理懐胎の導入が先なのかと思っていました

古川:子宮移植の方が普通の方法になりつつあります。

ーー健康体から子宮を移植という外科手術のリスクが生じる点をどう考えればいいのでしょうか

古川:子宮を持ってくること自体にそれほどリスクはありません。がんの時に子宮の摘出はよく行われます。全部取るのは簡単で、中を一部取ってくる方が難しいと言えます。

ーーただ、代理懐胎であれば、遺伝的に全く繋がっていない人に胚移植をするリスクがあるとはいえ、子宮移植に比べればリスクは軽度であるように感じます

古川:(代理懐胎が認められないのは)倫理的な問題が大きいでしょう。自分の子どもを得るためのリスクは、自らが負うべきではないかと。そもそも出産というものはリスクがすごくあります。出産までの期間、1年間ずっと拘束されるわけで、それを他人に押し付けるのはどうかという、そういう倫理観です。

ーー子宮移植については、特定生殖補助医療法案と並行してということでしょうか

古川:そこは今、議論しているところです。子宮は人間が生きていくためには必ず必要な臓器ではないので、今の臓器移植法との考えとは若干ズレます。そこは議論しなければいけません。ただ、海外でかなりの数やっていますから、使えるものは使おうということです。

ーー子宮移植が解禁されるとしても、ドナーがなかなか現れないということになりませんか

古川:子宮移植で妊娠したいと思っている人たちが、どの程度いるかということです。統計はとっていませんが、それほど多くないと思います。先天的に臓器を欠いている人、ロキタンスキー症候群の人ですとか、子宮を取ってしまった人とか。ただ、今、若い人にはなるべく子宮の全摘出はしないようにしています。妊孕能(にんようのう=妊娠する能力)を残すようにしていますから。そういう状況ですから、卵子が残っていて、自分で産めないから他人に産んでもらおうという人はそれほど多くないと思います。その状況で閉経後の女性が子宮移植のドナーになってくれればいいと考えています。

◾️代理懐胎は認められないのか

子宮移植のイメージ(作成・松田隆)

 現在、移植できる臓器は「心臓、肺、肝臓、腎じん臓その他厚生労働省令で定める内臓及び眼球」(臓器の移植に関する法律5条)と限定されており、また、生体臓器移植ではドナーは親族に限定される(日本移植学会倫理指針)。こうした点をクリアしていく必要があり、議論が必要というのが古川副会長の説明と考えていい。

 筆者の個人的な見解を申せば、子宮のない、あるいは子宮を摘出してしまった女性とその夫が子供をほしいと願い、その思いを叶えてあげたいと考える女性がいるのであれば、そこで代理懐胎・代理出産を認めてもいいのではないかという思いは強い。

 向井亜紀さんが代理出産をした時に一部から激しいバッシングを受けたが、自らの遺伝子を伝える子を欲しいと願うのは人間だけでなく生物に共通した種の保存の本能。それを医学の力で実現できるのであれば、実現するのが仁術としての医学と考える。

 今の時代なら、向井亜紀さんは子宮移植を選択したかもしれない。それがない時代には代理懐胎しか方法はなかった。子宮のない女性とその女性を妻とした夫には事実上、自分たちの子を抱く権利はないとする社会の方がよほど不健全であると思う。

 子宮移植が遠くない将来始まるとしても、ドナーがいない女性のためにも代理懐胎を日本で認めてもいいのではないか。2つの制度が存在し、子供を望む女性・夫婦がより良い方法を取りうるように選択肢を提供できる社会であってほしいと、筆者は今の段階では考えている。

◾️海外での代理懐胎「あまり歓迎されない」

 以上のような思いも含め、引き続き代理懐胎への考えを聞いた。

ーー代理懐胎・代理出産は現在、法律で禁止はされていませんね

古川:禁止はしていません。

ーー禁止した場合、法令違憲になる可能性があるでしょうか

古川:どういう意味で(違憲と)言っているのか分かりませんが、日本では制度がなければ普通はやらないと思います。それ(法令で定めた)以外の生殖方法は制度化しないということになっていますから、海外に行ってやる人はいるでしょうが。

ーー海外に行ってやってはいけません、という法令は…

古川:これからの議論ですが、それはしないと思います。海外でやる人は自由ですから。ただ、国としては国際的に批判されます。発展途上国に行って人身売買に近い、若干、そういう傾向のある行為ですから。あまり歓迎されませんし、倫理的には問題のある行為だと思います。それは国内で子宮移植を進めればいいと思っています。

ーー代理懐胎のために海外に行く人が出て、もう100人以上の子が誕生していると言われていますが、出産に日本の産婦人科医が関与できないというのはどうなのかなと感じます

古川:リスクのある話ですし、そこは自己責任の世界ではないでしょうか。

ーーウクライナで代理出産をお願いしたところ、ロシア軍の侵攻で子供を引き取れなくなったという事態も発生しています

古川:そうしたことを含めて自己責任ということです。国としてはそのようなリスクを負わなくて済むように、国内で子宮移植を進めます。今までウクライナに行って代理懐胎・代理出産をした人たちが新たに国内で子宮移植の制度ができた時に、そうするかどうかは分かりません。ただ、子宮移植で夫婦の遺伝子を受け継ぐ子を産む方法があるのに、そうせずに代理出産のために海外に行くということは、目的達成のための手段が国内にあるのに、あえてさまざまな危険のある海外に行くということになることは覚えておくべきでしょう。

ーーつまり、何かあっても自己責任であるということでしょうか

古川:そうですね。アメリカはそういう考えでやっています。

ーー代理懐胎・代理出産は将来的にも国内で認められないのでしょうか

古川:この法案には3年後に見直す条項がついています。必要があって、状況を見て、代理出産が必要だということであれば、そう考えるかもしれません。一番最初はみんなが合意できるところで法律をつくろう、それで状況に応じて変えていくということは考えています。まずは法律を作らないことには制度はできません。確かにここに来るまでに「代理出産もいいんじゃないの」という意見もありましたが、なかなかまとまりませんでした。それなら一番小さく作っていこう、そこから広げていこうということで一致できました。

◾️代理懐胎実現への道のり

古川俊治氏(撮影・松田隆)

 最後に古川副会長の個人的に代理懐胎への賛否、その見解をうかがった。

 「代理懐胎は別にやってもいいんじゃないかなと思っています、1つの方法として。リスクと言っても今までの事例から見てカバーできるリスクだと思っていますから。制度の下でやってもいいのではないかと思っていますけれども、(現段階では)反対意見の方が強いですね。」

 子宮がない、子宮を失った女性はまずは子宮移植からというのが現段階での議連の考えと言っていい。国内での代理懐胎・代理出産の実現までにはまだ時間が必要であるが、子宮移植が子宮のない女性・夫婦にとって大きな一歩になるのは間違いない。

(この項おわり)

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