早田ひな選手”特攻資料館”発言の波紋
松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵
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パリ五輪で2つのメダルを獲得した早田ひな選手(24)の”特攻資料館に行きたい”発言が波紋を投げかけている。13日の帰国後の会見で語ったもので、意外な場所に行きたいとしたことが話題となっている。同館は平和を願って設立された施設とはいえ、同選手の発言はある種、勇気ある発言であるのは事実で、今後の日本社会、とりわけ若い世代のために我々は冷静に受け止めるべきと考える。
◾️卓球を当たり前にできること
早田選手は卓球女子団体で銀、女子単で銅を獲得した。13日に帰国し、都内で会見。その際に(行きたい場所は?)という問いに以下のように答えた。
行きたい所としては1つはアンパンマンミュージアム、ポーチを作りに行きたいなと思っているのと、あとは鹿児島の特攻資料館に行って、生きていることを、そして、自分は卓球をこうやって当たり前にできているってことは当たり前じゃないっていうのを感じたいなと思って行ってみたいなと思っています。
(テレ東卓球チャンネル・【インタビュー】早田ひな 五輪後に行きたい場所は鹿児島の特攻資料館「卓球ができているのは当たり前じゃないということを感じたい」)
この特攻資料館は南九州市の「知覧特攻平和会館」を指しているものと思われる。同館の川崎弘一郎館長は早田選手の話を受け、「本当にありがたいと感じています。…これをきっかけに若い方にも多く来てもらい、特攻隊員の遺書などの展示物に接して、特攻の歴史を知ってもらい、命の尊さを考えるきっかけにしてほしい」と語っている(NHK・卓球代表帰国 早田ひな選手「鹿児島の特攻資料館に行きたい」)。
また、作家の門田隆将氏は「…命を散らした若者の真実。ぜひ触れてほしい」(2024年8月14日15:25投稿)と、X上で訪問を歓迎するポストを投稿した。
◾️中国のSNSで反発強まる
一方、早田選手が利用する中国のSNS(微博=weibo)には、中国語での批判が殺到している。
「你为什么要说你想去神风队纪念馆[泪]本来看到你给莎莎弄头发,拥抱一下子对你上头了。但是抱歉,国家永远第一,我不能也不会再喜欢你了[泪] (どうして神風特攻隊の記念館に行きたいなんて言うの?[涙] 本当は、あなたがサシャ(孫穎莎選手)の髪を整えて、ちょっと抱きしめたとき、すごく好きになってしまった。でも、ごめんなさい、国が何よりも大切だから、もうあなたを好きになれないし、好きになることもないでしょう[涙])」
「注销微博吧,这到底是我们的地方,不骂你,因为你确实是拜的自己的神。但民族之间的恩怨是解不开的,有些人确实会来骂你,注销了吧,做个正确的决定 (Weiboを削除しなさい。ここは私たちの場所だから、あなたを非難はしません。なぜなら、あなたは確かに自分の信じる神を拝んでいるだけだからです。でも、民族間の恨みは簡単に解けるものではありません。確かに、あなたを非難する人も出てくるでしょう。だから、Weiboを削除して、正しい決断をしましょう。)」
「鬼子就是鬼子 (鬼子(日本人)は所詮鬼子だ。)」
また、男子単で金メダルを獲得した樊振東選手と女子単で銀メダルの孫穎莎選手はともに早田選手のフォローを外したと伝えられている(サンスポ電子版・中国卓球のパリ五輪メダリスト2人、早田ひなの微博のフォロー外したか)。
◾️女子マラソン鈴木優花選手も
女子マラソンで6位入賞を果たした鈴木優花選手(24)も、今年2月に知覧特攻平和会館を訪れたことをX上で明らかにしている。
「今日、知覧の記念館へ行きました。この時代に生きているということだけでありがとう、と思った。結構、涙堪えてた。帰りたくても帰れない 会いたくてももう会えない わかっていてそれでも飛んで行った人たちが沢山いる。」(2024年2月22日21:56投稿)
鈴木選手の話は早田選手の会見での話と共通する部分があるように思える。両選手の真意は分からないが、昨年12月に公開された現代の女子高生がタイムスリップして特攻隊員と恋に落ちる映画「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」(汐見夏衛原作、成田洋一監督、松竹)に何らかの影響を受けたのかもしれない。
また、この日の会見で早田選手は自らが五輪の試合中に左腕を負傷したことに触れ「怪我をしたことによって自分は誰のために頑張れるのかっていうのを、ある意味、そこで感じることができたので、本当にこれまでも、これからも、たくさんの方に支えられながら、そしてそれに応えることがやっぱり一番好きなんだろうなと思うので、たくさんの方に支えられながら頑張っていきたい…」と話している。
国を代表し、国民の期待を背負って戦っていることや、その意義について思うことがあったのかという推測も成り立ちそうである。もちろん、そういったことは筆者の勝手な思い込みに過ぎない。
◾️平和を願う記念館
五輪に参加した若い選手が、かつて国のために命を投げ出した若者の存在を知り、自らの現在の状況に感謝し、それに基づく考えを表明することは「国家とは何か」「国のために戦うとはどういうことか」「平和とは何か」を考える上では極めて重要である。
そもそも知覧特攻平和会館は、戦争を賛美するのではなく、平和を願う記念館である。同館のホームページには「この地が出撃基地であったことから、特攻戦死された隊員の当時の真の姿、遺品、記録を後世に残し、恒久の平和を祈念することが基地住民の責務であろうと信じ、ここに知覧特攻平和会館を建設した次第であります。」(知覧特攻平和会館・知覧特攻平和会館とは)と記されている。
広島の平和記念式典には反政府を叫び、大声を上げる者が押しかけている。広島市長の平和宣言は、意味が異なる英語に翻訳されて公開されている(参照・平和宣言「核抑止論の破綻」英語では意味変更)。長崎市長は長崎原爆犠牲者慰霊平和祈念式典に駐日イスラエル大使に招請状を送らなかった(参照・イスラエル排除 長崎市長の欺瞞と死者への冒瀆)。総理の靖国神社参拝を攻撃し続けるメディアもある。
平和の尊さを叫ぶ者が慰霊よりも現実の政治目的の達成に血道をあげている状況を苦々しく思っているのは1人や2人ではないと思う。早田選手や鈴木選手は、そうした既存の平和を求める政治勢力とは異なる手段で平和の尊さを考えようとしているように思える。両選手はともに24歳、終戦から半世紀以上経ってから生まれた若者である。
このように戦争とは無縁の若者が特攻資料館に行きたいと言ったことの重みを、すべての国民に感じてほしい。慰霊の日に大声で政治主張をする者には、早田選手の発言の持つ意味を考えることを求めたい。早田選手の発言を賞賛する者は、反戦勢力に対する攻撃材料に利用することを考えずに冷静に受け止めることを願う。発言を政治利用することで、その後、この種の意見を若者が言いにくくなる状況をつくらないことが国民としての責務と考える。
早田選手の微博の返信欄に中国語で以下のようなコメントがあったので紹介する。
「哪有人设翻车的问题…人家本来就是日本人,官方访谈说想参观国内军方相关的博物馆也没多大震惊吧,难不成盖了日本人自己都不能去参观。还是大家觉得她人设应该是亲中」
(キャラクター設定が崩壊するなんて問題があるわけないでしょ…もともと彼女は日本人だし、公式のインタビューで国内の軍事関連の博物館を訪れたいと言っても、そんなに驚くことでもないでしょう。まさか日本人が建てた博物館を日本人自身が見学してはいけないなんてことはないですよね。それとも、みんな彼女のキャラクターが親中だと思っていたんですか?)
おそらく中国人によるものと思われるが、同国の言論状況を考えれば相当踏み込んだ意見と言える。このような冷静な書き込みをする人もいることを日本人である我々は心に留めておきたい。