牝馬レガレイラ東京優駿へ視界良好

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松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

青山学院大学大学院法務研究科卒業。1985年から2014年まで日刊スポーツ新聞社に勤務。退職後にフリーランスのジャーナリストとして活動を開始。

 G1東京優駿(芝2400m)が26日、東京競馬場で行われる。皐月賞馬ジャスティンミラノが断然のムードではあるが、あまり人気を背負うと足元をすくわれかねない。ただ1頭の牝馬レガレイラが最も逆転の可能性を秘めているように思う。

◾️ジャスティンミラノの死角

舞台は東京競馬場(撮影・松田隆)

 3戦3勝のジャスティンミラノの力が抜けているように思われる、実際、金曜日発売の段階で単勝2.4倍の1番人気に推されている。G3共同通信杯が前半1000mを62秒7のスローペースを上がり3f32秒6の末脚で差し切り、G1皐月賞は一転前半1000mを57秒5の破滅的なハイペースの中を4、5番手で差し切った。スローでもハイペースでも前で折り合って勝つのだから、他の陣営はお手上げ。

 負けるとすれば道悪か、内枠を引いて発馬で後手を踏み、初めてのモマれる競馬で直線で前が壁になって惜敗、あるいは嫌気がさして大敗というパターンを考えていたが、土日は晴れの予報で本番は良馬場が見込まれ、枠は7枠15番でモマれる心配もない。そうなると負ける要素はあまりないように思える。

 あえて不安材料を探せば距離と人気。母のマーゴットディドはG1ナンソープS(芝5f)の勝ち馬で現役時代の経験距離は6fまでという完全なスプリンター。その父エクシードアンドエクセルもG1ドバイレーシングクラブC(芝1400m)が唯一のG1勝ちのスプリンターであった。母の父サクラバクシンオーのキタサンブラックが菊花賞と春の天皇賞を勝つぐらいなので母系はあまり意識しなくてもいいのかもしれないが、少なくとも距離が延びてプラスということはない。

 そして今回、デビュー以来初めて単勝1番人気となるのは確実な情勢。東京優駿という最高の舞台で初めて背負う1番人気が鞍上の戸崎騎手の手綱捌きに微妙な影響を与えかねない。外枠からポジションを取りに行かざるを得ず、そこで多少の脚を使うことになる。メイショウタバルが出てくれば、皐月賞ほどではないにしても結構なハイペースを作り出してくれそうであったが、それが不在となればシュガークンあたりにスイスイ行かれそうで、後ろでそれを見ているジョッキーとしては気持ちの悪いものがある。

 (誰か行かないと豊さんにやられるぞ)と声をかけても、ジャスティンミラノより先に動いて武豊騎手とともに消えることを選ぶ奇特なジョッキーなどいない。そうなると戸崎騎手が自分で交わしに行くしかない。こうして発馬から早め早めの競馬を余儀なくされ、猫の首に鈴をつけに行くジャスティンミラノが気楽に乗れる2番人気以下に差されて2、3着というパターンは現実味のある話ではある。

 3戦3勝、負けたことのない馬だけに過去のレースを見れば強さばかりが目立つ。そのため無敗の馬は実力以上に評価が高くなりがちで、それを覆すだけのスーパーパワーがジャスティンミラノにあるのかという点は冷静になって考えるべきところであろう。僕は馬券を買わないが、買うとしたら今年の皐月賞馬は2番手の評価とする。

◾️逆転可能なレガレイラ

 ジャスティンミラノの覇権を崩せるのは、ただ1頭の牝馬レガレイラと思う。皐月賞は主戦のC.ルメール騎手が落馬負傷の影響で乗れず北村宏司騎手が手綱を取ったが、お粗末な騎乗であった。出遅れて後方からの競馬、勝負所でも前が詰まって動けず、直線で大外に持ち出して6着まで追い込んだ。二桁着順でもおかしくない内容で、逆にあの騎乗で6着に入ったのは相当な実力を思わせる。

 何よりルメール騎手が3戦3勝、G2スプリングSを制したシックスペンスを捨てて牝馬を選んでいる事実がレガレイラの高い実力を示している。

 前週のG1優駿牝馬で同騎手は桜花賞13着のチェルヴィニアを選択して見事に優勝した。桜花賞馬ステレンボッシュに乗ろうと思えば乗れたはずで、それを振ってチェルヴィニアを選んだ相馬眼は素晴らしいの一言。思えば昨年の東京優駿でも皐月賞を1番人気で3着のファントムシーフを捨ててG2青葉賞を制したスキルヴィングをチョイスした。結果、スキルヴィングは急性心不全を発症して死亡する悲劇となったが、勝てる馬を冷静に選ぶのがルメール騎手である。

 以前、雑誌numberの取材で横山典弘騎手にインタビューしたことがあるが、その時に同騎手はこんなことを言っていた。

 「同じレースで2頭乗れる馬がいた時に、結果、着順が悪い方の馬を選んだジョッキーは『あの乗り役は見る目がない』と言われる。着順がいい方に乗ったら乗ったで『あいつは抜け目のないヤツ』と言われるけどな(笑)」

 2頭のチョイスになった時に負ける馬を選んだジョッキーはそれだけで厩舎村の評価が下がる。乗り役の戦いは騎乗馬を選ぶ段階から始まっていると言っていい。

 今回、1枠2番に入ったことで中団につけ、ジャスティンミラノを射程圏に捉えながらの競馬をするのではないか。ホープフルS、皐月賞と2戦連続で発馬で外の馬に寄られて後手を踏んでいるが、今回すぐ外のジューンテイクはここ2戦発馬はまともに出ていることから、その可能性は低そう。チャンスは十分にあると思う。

◾️モレイラ騎手の選択ダノンエアズロック

 レガレイラージャスティンミラノの次に来る馬はダノンエアズロック。ここもジョッキーズチョイスが鍵になる。J.モレイラ騎手は皐月賞2着のコスモキュランダ、G1NHKマイルC4着のゴンバデカーブースなどに乗れたと思う。それが”ダービー裏街道”というより”ダービーけもの道”と呼びたくなるプリンシパルS勝ちの馬に乗るのは異様な姿に映る。

 とはいえ、実際に乗る人がその馬の実力を一番分かっている。モレイラ騎手がダノンエアズロックを選択したのは、おそらくアイビーSの内容を評価しているからであろう。この時はレガレイラ(3着)を抑えての優勝で、レースとしては前半1000m63秒1の超スローペースで直線用意ドンの競馬となった。上がり3fはレガレイラと同じ32秒7で、レガレイラとの関係で言えば4角での位置取りの差がそのまま着順に現れたと言っていい。

 モレイラ騎手は(切れ味勝負ならレガレイラと互角)、(レガレイラが皐月賞1番人気で実際に強い競馬をしているから、ダノンエアズロックも引けを取らないはず)という計算はしていると思う。

◾️無欲のシュガークンが怖い

 その次となると、順番にシュガークン、シンエンペラー、ダノンデサイルといったところ。どれも足りないとは思うが、展開や馬場が向けば分からない部分はある。

 シュガークンは主に血統面からくる人気先行とはいえ、少なくとも武豊騎手がデビューの段階で「ダービーに出られるレベルにある」と素質を評価していたのは忘れるべきではない。ダービー出走のためには3連勝が条件というほとんど絶望的な状況の中、それをクリアして出走馬に名を連ねるのは高い実力の証明でもある。

東京競馬場入口(撮影・松田隆)

 「兄が偉大すぎるので」と武豊騎手は控えめな評価をするが、確かにキタサンブラックと比べると落ちるのは仕方のないところで、同騎手らしい的確な表現と思う。ただし、人気がない分(金曜日売りで単勝8番人気19.1倍)、思い切った競馬ができる。ジャスティンミラノのところでも触れたが、もしかしたら大寒桜賞の時のように逃げるかもしれない。この時は直線で2段ロケット、3段ロケットのように二の脚、三の脚を使って快勝しており、その再現を大一番で狙ってくる可能性はある。

 道悪なら一気に勝ち負けまでありそうで、天気予報が外れることを武豊騎手は願っているのではないか。

 シンエンペラーはデビューから2連勝の後は、あと一歩足りないレースが続いているが、逆に強敵相手に常に善戦しており、トップクラスとそれほど差のないことが証明されている。他の有力馬2、3頭が自滅した時には上位に食い込んでくることは考えられる。

 ダノンデサイルはG3京成杯で後の皐月賞4着馬アーバンシックを負かしている。この時、4角で外に膨れているが、原因は手前を替える(右から左)のが早かったことで、左回りにかわるのはプラス材料となる。ただ、皐月賞を競走除外になった影響がどうなのかが分からない。4か月ぶりの実戦がどうでるか。「万全なら」の条件付きで、万全ではないことが多いのが競馬である。

 最後に有力馬の順番を示しておく。

  1. レガレイラ
  2. ジャスティンミラノ
  3. ダノンエアズロック
  4. シュガークン
  5. シンエンペラー
  6. ダノンデサイル

    "牝馬レガレイラ東京優駿へ視界良好"に4件のコメントがあります

    1. nanashi より:

      1984年に中央競馬にグレード制が導入されて、今年で40年という節目の年になりますが、その過去を簡単に振り返ると以下の通りになります。
      1980年代は正に東高西低で、栗東所属の競走馬による優勝はグレード制導入前の1982年のバンブーアトラスのみでした。
      1985年に栗東トレーニングセンターに坂路コースが設置され、様々な試行錯誤により調教のノウハウが確立すると、1990年代には8勝を挙げています。
      2000年代には9勝、2010年代にも8勝を挙げ、2020年代には既に3勝(2023年現在)を挙げており、競馬界に於ける西高東低の象徴ともなっています。
      競走馬が栗東、騎手が美浦というケースでダービーを制したのは1993年(ウイニングチケット、柴田政人)、2010年(エイシンフラッシュ、内田博幸)、2014年(ワンアンドオンリー、横山典弘)の3回で、逆に競走馬が美浦、騎手が栗東というケースでダービーを制したのは2015年(ドゥラメンテ、ミルコ・デムーロ)、2017年(レイデオロ、クリフトフ・ルメール)の2回で、何れも外国人騎手でのものです。
      これも西高東低の弊害とも言え、美浦所属の騎手が中々台頭出来ない理由でもあり、特に若手や中堅が育たない原因となっています。
      出馬表を見れば分かると思いますが、戸崎圭太騎手と横山親子(典弘騎手、武史騎手)を除けば、菅原明良騎手のみで、しかも騎乗馬は栗東所属というオチもあり、如何に美浦の調教師が外国人騎手や栗東所属の有力騎手に依存しているかが分かると思います。
      因みに友道康夫調教師は、3度ダービーを制していますが、何れも1番人気ではなく、マカヒキ(3番人気)、ワグネリアン(5番人気)、ドウデュース(3番人気)で制しています。
      ルメール効果でレガレイラが1番人気になれば、ジャスティンミラノにもワンチャンスあるかもしれません。
      最後に当たらないと思いますが、私の予想は、1.ジャスティンミラノ、2.シュガークン、3.シンエンペラー、4.サンライズジパング、5.ミスタージーティーですかね。
      見事に栗東所属馬丸かぶりですが、美浦所属馬を挙げるとしたら、アーバンシック(レガレイラの同血のいとこ)とコスモキュランダですかね。

      1. 松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵 松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵 より:

        ジャスティンミラノ本命で、ヒモが抜けたというところでしょうか。なかなか9番人気のダノンデサイルまでは手が回らないのは仕方がないところでしょうか。

        僕が競馬担当の時は最初は東高西低で、1988年頃から目立って西高東低になってきました。藤沢和雄調教師がいなかったら関東勢はボロボロになっていたのではないかという感じでした。

        今は実質外厩制に近い状態になっていて調教師の管理能力、そして海外遠征のノウハウをいかに持っているかが問われる時代で、東西よりも厩舎間で格差が大きくなり、大レースは東西の優秀な調教師の間で回しているというイメージを持ちます。競馬の世界もビジネス的センスが求められるような印象を持っています。

    2. MR.CB より:

      ジャーナリスト松田様

      戸崎圭太、ジャスティンに運があるかは神のみぞ知るですかね(笑)。
      また、馬主と生産者のゴタゴタが気になるところです。
      レガレイラはタフな皐月賞よりもむしろダービーで、と思っていました。初志貫徹でダービーに出る選択は吉となりそうですね。
      馬券下手の小生は、流星がダービーを勝つまで買い続けたいと思っています。シンエンペラーも一週前の追い切りの時点で皐月賞とは違い、素人目にも特に前駆の伸びを感じました。四月生まれの同馬にとって、ここに来ての成長と都合よく考えます。血統の不安(欧州型)も補って余りあると期待します!
      昭和の政人(柴田)さん、ちょっと前の祐一(福永)の様に勝ちたくても、【運】が味方しないとなかなか勝てないダービー。
      無事に感動的なドラマを楽しみにしています。

      1. 松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵 松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵 より:

        シンエンペラー惜しかったですね。後方から進んだ馬では最も先に来ていますし、強い内容だったと思います。坂井瑠星騎手はケンタッキーダービーに続く3着ですか。ケンタッキーダービーは乗り方次第で勝てたかなという感じでしたが、今回は精一杯で3着という感じはしますが。

        ジャスティンミラノの馬主と生産者のゴタゴタ、これが結構大きいような気がしました。馬はそんなことは分からないでしょうが、(そういう馬が勝つかなぁ)という根拠なき不安と申しますか、漠然とした思いがあったのは事実です。それから初めての1番人気も微妙に影響するだろうな、という感じで。ただ、早めに動いて最後に差されるかなと思っていたら、出し抜けを食って追い上げたが届かずは想定していませんでした。

        競馬は難しいですね。ただ、面白いレースでした。

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