10位帝京大の衝撃 箱根駅伝30年の高速化
松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵
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第101回箱根駅伝は3日に復路が行われ、青山学院大学が10時間41分19秒の総合タイム新記録で8度目の優勝を果たした。箱根の高速化は年々進んでおり、10時間40分切りも遠くない将来、達成が見込める。高速化を如実に示した今大会、優勝校もさることながら、10位の帝京大学のタイムが、ある意味、最大の衝撃となった。
◾️11時間を大きく切る10位帝京大
今年の箱根駅伝はシード権(10位以内)争いが熾烈で、10区で8位から11位までが一団となって進む展開となった。4校のうち1校はシード権獲得がならないという状況の中、順天堂大学が10位の帝京大学に7秒及ばず11位。来年は予選会から本選出場を目指すこととなった。
10位でぎりぎりシード権を得た帝京大学のタイムは10時間54分58秒、優勝した青学大から13分39秒遅れてのゴールとなった。翌年度の出場資格が与えられるシード権は2003年から10位以内となり(それ以前は9位以内)、10位のチームがシード権のボトムラインとなる。高速化が進む箱根ではこのシード権のボトムラインも右肩上がりに上昇しており、今大会の帝京大の10時間54分58秒はボトムラインとしては史上最速となった。
表(1)は箱根駅伝優勝タイムとシード権獲得タイムの今年までの30年の推移を示している。青線の優勝タイムも、緑線のシード権獲得ボトムラインのタイムも年により振幅はあるものの、全体として右肩上がりなのが分かる。特に最近10年の上昇は顕著。30年の中で若干のコース変更はあったが、高速化が進んでいるのはこの表からも明らかである。
今年の帝京大のタイムが、過去の優勝タイムと比較したらどうなるかを見てみよう。表(1)に帝京大のタイムを赤いラインで示すと、2011年優勝の早稲田大学(10時間59分51秒)から前は全て今回の帝京大のタイムに及ばない。2012年以後でも4校の優勝タイムが帝京大より遅くなっている。
机上の計算では今年10位の帝京大が2011年の大会に出場していたら、優勝した早大の4分53秒前を走っていることになる。2011年の早大といえば、1区に当時1年生だった大迫傑選手(後に東京五輪男子マラソン6位)が出場し、1時間2分22秒で区間賞を獲得している。その大迫選手の記録も、現在の1区の区間記録(2022年に中央大・吉居大和選手)の1時間0分40秒には遠く及ばない。
順大の方には申し訳ないが、過去30年で最も優勝タイムが遅かった2001年の順大(11時間14分5秒)が相手であれば今年の帝京大は19分7秒ほど前を走っていることになる。距離にしておよそ6.7km、今年の帝京大がゴールした時に、2001年優勝の順大は泉岳寺付近を走っている計算。逆に2001年の順大がもし、今大会に出場していたら、最下位の日本大学からさらに2分15秒遅れての断然の最下位というのであるから、高速化もここまでというほどの進化である。
◾️始まりは2011年早稲田大
優勝タイムから見た箱根の高速化は、2011年の早大から始まったと言っていい。この年、早大は1994年の山梨学院大学の10時間59分13秒以来、17年ぶり2度目の11時間切りをマークした。2012年には柏原竜二選手を5区に配した東洋大学が10時間51分36秒で優勝するなど、2011年以後今年に至る15年で11時間を切る優勝が13回と、「サブイレブン」の時代に入った。
優勝タイムとシンクロナイズし、シード権獲得のボトムラインも上昇していった。これは出場校全体のレベルがアップしていることを意味していると考えていい。もっとも、優勝校とぎりぎりでシード権を獲得した大学との差にも時系列で辿っていくと変化が見られる。
表(2)は優勝校と、ぎりぎりでシード権を獲得した大学(2002年までは9位、2003年以後は10位)とのタイム差の30年間の推移を示したもの。全体として、高ー低ー高ー低という波を描いているのが分かる。
1996年から2000年まで(便宜的に1期とする)は約20分差だったものが、2001年から2011年まで(2期)は、ほぼ15分以下となった。2012年から2016年まで(3期)は再び20分を超えるようになり、2017年以後(4期)はまた15分以下が多くなっている。
1期は9位までがシード権獲得という時代であるが、1区間あたりの優勝校から離されていくタイムが2分以内であればシードが取れたということであろう。それがシード権が10位までとなった(2003年以後の)2期になると、逆に優勝校との差は縮小していった。優勝タイムにはそれほど上昇が見られない時期にこのような現象が出ているということは、トップチーム以外のチームが底上げを図ってきたことにほかならない。
原晋監督が青学大の監督に就任したのは2004年で、同学はその時から強化を進め、2009年に33年ぶりの本選出場を果たした。今大会6位の城西大学は2004年に初出場、同10位の帝京大は1998年初出場と、2000年初頭から新たに強化を始めたチームが台頭してきたことが、旧勢力(駒大、東洋大、順大、早大など)との差を詰めてきた結果と言えるのではないか。
◾️2015年青学大初Vの影響
3期は前出のサブイレブンの時代の開始期と重なる。東洋大と青学大が10時間50分台前半から10時間50分切りの優勝タイムを叩き出し始めた時期。特に青学大の高速化に他校はついていけず、シード権獲得ボトムタイムは再び優勝から20分遅れとなる。
しかし、2017年以後の4期には再びタイム差は15分前後へと戻っていく。2015年に青学大が初優勝を遂げ、メディアでも大きく扱われたこともあり、他の大学でもさらなる強化を図ってきた影響があるように思う。
この時期、2010年代には顕著な活躍が見られなかった国学院大学(2011年初出場、今大会3位)、創価大学(2015年初出場、同7位)、東京国際大学(2016年初出場、同8位)、立教大学(2023年に55年ぶり出場、同13位)などが力をつけてきて、上位争いをするようになった。これに旧勢力が加わってシード権の10枠を埋めるようになり、シード権獲得のボトムラインを押し上げる結果になっているように思う。
こうした箱根の高速化について、青学大の原監督は「昔の箱根駅伝の映像を見るとですね、学生、選手の体型が明らかに違うなと。手足の長さであったり、体つきですよね、そういった日本人の身体能力がグッと上がっている。箱根駅伝を目指そうという、身体能力の高いアスリートがサッカーや野球だけではなくて、長距離の方に来てくれている。そういった絶対能力の高いアスリートが高校から成長し、その成長した学生がまた、大学に来て成長していると。そういう構造があるのかなと思っています」と話している(日テレスポーツ・【箱根駅伝連覇へ自信】青山学院大 原晋監督 「今年のチームは “Sランク選手”が多い」|第101回箱根駅伝)。
競技の宣伝効果を知る関東の私学が強化を続け、テレビを見て箱根に憧れる選手が増えて競技の裾野が広がっており、ハイレベルの選手の供給が可能になっていることが、昨今の高速化の主要因と思われる。今回の帝京大のシード権獲得のタイムの尋常ではない速さの秘密はそのあたりにあるのではないか。